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海の音



願いを叶えるその当日、アリスはダイヤに提案する。


「ねぇダイヤ。せっかくだから海見に行こうよ。前に行きたいって言ってたじゃん。」


魔法少女の半日限りの休日。思い思いにそれぞれ魔法少女達は最後の時間を思い残す事無く過ごしている..と想像する。


「あぁそんな事言ってたっけ。うん、そうね、見に行こうか。」


世界中の魔法少女はどんな時間をどう過ごしているのかは分からないが、この世に未練を残さぬようそれぞれの時間を悔いの無いように過ごしているのだろう、と思う。そして私達も同じように思い残す事が無いように、二人の時間を一秒も無駄にする事無く過ごして行く。


魔法少女になればどんな場所へと行こうと思えば行けるが、私達には時間が無い。それに特別行きたい場所も思い付かず、ダイヤの行きたい場所を優先しそこを目指して私達は誰にも干渉されない身軽になった魔法少女の姿でその場所へと向かう。


「懐かしいなぁ。ここ。」


この浜辺から見える海の眺めはダイヤが幼い頃一度来た事のある海だという。蒼く澄んでいて波立ち、波が海に還るその繰り返す眺めをぼんやり眺めながらダイヤは言う。


「私達が守ろうとしているこの惑星はほとんどが海で、その海から生命は誕生したって言われている。私達の原点はここなんだとしたら、とても広い場所で生まれてこうして続いてるんだなぁって思うの。」


珍しくダイヤは語る。誰もいない浜辺に魔法少女が二人、二人で水平線を眺める。


「私には私を自覚する時間や機会が与えられなかったから、こうして誰かとの時間を共有して自分を見つめるなんて感覚は知らなかった。だからこの時間がもっと続いて欲しい、そう願ってしまう感覚を知ってしまって、それを考えると今までの私は何だったのか、とか今までの私お疲れ様..なんて事、考えてしまう。あぁ消えてしまうんだなぁって。」


ダイヤは寂しそうな顔で淡々と語る。アリスはそれに耳を傾ける。


「ダイヤは、魔法少女になっていなかったらどんな人生を送りたかったの?」

「私は..普通の家庭に生まれて、家族がいて、温かい時間がゆっくり流れる、ただその時間しか望まないと思う。」


私は家族を捨てた。私がいなくなれば記憶は書き換えられ私は最初からいなかったものとして世界は動いて行く。それでもダイヤとの時間を望んだ事。ダイヤが望んだ「家族」を捨てて。


「..でも私は後悔してない。」

「何が?」

「家族を捨てて、ダイヤとの時間を選んだ事。私がこうして、ダイヤと海を眺める事が出来た事。この景色は永遠に残って行く。」

「そう..私は最後にこんな話を出来る人と出逢えた事、とても嬉しく思うわ。」


いつにも増して美しい横顔を夕日がダイヤを照らす。美しいものが消える。その犠牲の元この惑星が守られる現実。魔法少女になる前は何もかもが許せなかったが、自分が魔法少女になって初めて、その許せなかったものが許せた気がした。


浜辺で拾った綺麗な貝殻。それをダイヤに手渡し微笑む。


「でも、ダイヤの方が美しいよ。」

「え?どういう事?」

「なんでもなーい。」

「いや、どういう事!?」


二人の魔法少女は浜辺を走る。この蒼い空の下波の音に身を委ねるように。

いつまでも続く笑い声が波の音と共に静かに消えて行く。



fin


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