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アリスとダイヤ



普通に恋愛してやがては結婚し、新しい家族が出来てそれなりの日常が(はぐく)まれる..ほとんどの人達がそういう人生なのだろう、と思う。

私の人生は魔法少女として存在し、一年も無い限られた時間でこの命は終わってしまう。その事をぼんやり考えながらも、その部分に関してはあまり恐怖は無かった。


やがては死ぬんだ、誰でも。それにそれなりの生活を歩んだとして、私はそれなりの人生でしかない、心が震える出逢いも無いまま、その平凡な人生は終えるだろう。これ以上震える出逢いなど、自分が永遠と生きていても有り得るはずがない。そんなの自分が良く知っている。


「何考えてるの?」

「..あ、ごめん。ちょっと色々考えてた。」


魔法少女になった二人は仰向けになり、訓練を終え疲れ切った身体を地面にし、まだ街の人々が動き出す前の静かな朝焼けの蒼い空の下手を繋ぎ仰いでいた。


「どう?後悔してる?」

「ううん、全然。むしろ嬉しい、同じ立場になれた事。」

「..そう。」


魔法少女になって一番感動したのは、綾乃..クリスタル・ダイヤの魔法少女姿を見れた事。想像していた以上に可憐で、美しくて、華やかで、透き通るような瞳で、私を見つめる。


「良かった..本当に良かった。」

「アリスも可愛いよ、とっても。」


魔法少女にならなければ見られなかった姿。私はこれを見たかった。クリスタル・ダイヤの姿。


「ねぇダイヤ。」

「何アリス?」


魔法少女になると一つだけ願い事を叶えてくれるという。叶う範囲の願い事でしかないのだが。


「ダイヤは願い事何をお願いしたの?」

「私は魔法少女になってからまだ願い事をしていない。何を願えば良いのかが分からない。どうせあと少しでこの命も終わっちゃうけど。」

「じゃあダイヤ、私達同じ願い事をしようよ。」

「それは考えてなかったなぁ。うん、良いよ。アリスは何を願うの?」

「私はダイヤの願い事に合わせるよ。ダイヤの願い事を聞きたいから。」

「そう..私ずっと考えてる事があって、魔法少女にさせられてから自分の過去が無くてね、もし生まれる前の記憶があるのなら、知りたいなぁって。」

「それ、良いね。私もそれにする。」


私達が生まれる前の記憶。面白そうな願い事。そんなものあるのかな、二人は小さく笑った。

この朝焼けの空の向こうにあるのは何なのか。何も無いのか、あるとしたら何なのか。


漠然とした願いの先にある世界を二人で祈るように、いつまでもその空を二人で眺めていた。


ーー


奏が魔法少女になってから半年以上、毎日魔法少女としての訓練を重ねる日々が続いた。時には他の魔法少女と、時にはダイヤと。ほとんど眠る時間も無いまま毎日血を流し、たまに大怪我をし、それでは駄目だと先輩の魔法少女に怒られる日々。現実世界に戻ると怪我は全て治っているはずなのに、身体に激痛が走る。こんな生活を隠しながら綾乃は日々の生活を送っていたのかと思うとゾッとした。


「こんな生活をこんな歳まで..」


奏は魔法少女の現実を目の当たりにし、挫けそうになるがダイヤと共に訓練を受ける時はやはり良かったと、心の底から思えた。


魔法少女になって奏と綾乃、アリスとダイヤは二人で決めた事がある。黒いリボンを腕に付けて過ごす。綾乃が昔から好きだった黒いリボン。奏は赤いリボンが好きだったが、綾乃に合わせる事にした。


学校にいる時、魔法少女でいる時、これで前よりも二人で過ごせる時間は大きく増えて行った。ベテランのダイヤは魔法少女の訓練の時違う部隊の訓練へ行く事もありそういう時は寂しいけれど、それでも訓練が終われば一緒に帰れるし、次の日学校でまた会える。

そういう魔法少女としての生活が半年と少し過ぎた頃奏と綾乃は二人でいつものように学校の帰り道で語り合う。


「そろそろ終わっちゃうね。」

「何が?」


こういう綾乃が抜けている所が好きだった。


「全部よ全部。私達無くなっちゃうんだよ。」

「あぁ、そうだね、んまぁでも覚悟は昔から出来てたし。」

「綾乃は強いなぁ、私は少し、怖い。」

「でもその日に終わるのが分かってるって、悪い事ばかりじゃないよ。自分は何がしたい、何しとけば良かった〜って後悔はしなくなるから。でも、それすら許されないのが魔法少女だから..」


こんな思いを抱えながら綾乃はずっと生きて来たのだろう、そう思うと平凡な時間があった私の方が遥かにマシに思える、そう思った途端奏は自分が情けなくなるような、苦しいような、何とも言えない思いが込み上げ胸が締め付けられて行く。


「ね、願い事!」

「あぁそうねぇ、いつにしようかなぁ。」


二人の会話はそこに戻る。魔法少女が魔法について語る時、その時間だけが二人の心を満たして行く。魔法少女が願い事を叶えられるのは魔法少女の状態の時のみ、しかし魔法少女の状態の時には願い事を叶える時間が全く無い、二人は考える。


「この地球の最後の日ってされる数日前にね、半日だけ休みがあるの。その半日のみ魔法少女は思い残す事が無いように自由に過ごす事が許されている。その日だけは魔法少女の状態で自由に過ごせる。まぁその時ぐらいかなぁ。」


綾乃はそう言った。


「じゃあその日にしようか。」


奏は答える。込み上げた思いが収まるような感覚を覚え、少しだけ安堵した。


時間があるからこそ分からない事、時間が無いからこそ分かる事、綾乃にとって奏との時間はゆったりとした時間を過ごす貴重な時間だった事を魔法少女になってから知る事になる。今は同じ魔法少女という対等な存在だからこそ綾乃を癒す事は出来ない。それより足を引っ張らないように魔法少女として強くなる事。それだけが求められる。


それでも学校帰りの帰り道は二人ともただの女の子でいられる。中身の無い会話、たわいもない話、そんな事で笑っていられる。二人とも分かっているからこそその時間を大事に、大事にしよう、そう噛み締めながら共に日々を過ごして行った。


ーーー


生まれた事の価値を考える時間が奏にはあって、そんな時間を与えられなかった女の子が綾乃。前にこんな事を奏は綾乃に聞いた。


「ねぇ、綾乃。綾乃には夢ってあるの?」

「夢?夢かぁ、私はずっと魔法少女やっててこの星を守る為だけに存在してるから、そもそも夢って何なのか良く分からないなぁ。」

「あ、ごめんなさい..」

「多分想像だけど、夢って見るとかそういうのじゃなく、叶えたかったけど叶わなかった、手にしたいんだけど手に出来ない、何かこう祈りとか願いみたいな、何かそんな掴めないものっていうイメージが強いって感じがするかな。」


いつしかの綾乃が言ったその言葉、今なら分かる気がする。綾乃はずっとそういう祈りや願いのような叶う可能性のある夢ではない叶わないものを胸に秘めながら生きて来たんだと、魔法少女になってやっと理解した。


選べる人生、選ぶ事の出来ない運命、私は選べる人生を捨てて魔法少女になった。綾乃は選べる事すら知らない人生だった事。羨ましいとずっと思っていたはず。魔法少女になると言った時普通なら怒るはずなのにそれでも綾乃は自分から消えようとしたり哀しい顔をしたり、綾乃も大切な存在が消える事を怖れたからこそあんな態度を取ったのだと理解する。


同じ立場になって分かる事というのは溢れているが、私は魔法少女になって初めて綾乃の気持ちが分かった気がする。魔法少女を選ばず普通の暮らしをしていたら多分分からない人生だったのだろうと思う。だからといって魔法少女になって良かった、とは少し違う。私は綾乃との時間がただ欲しかっただけ、その女の子が魔法少女だったからこそ自分も魔法少女になるしか共に生きて行けない、それが例え短い時間でもそうするしか無かった、私の場合はそういう事なのだと。


「奏ー帰ろー。」

「あっ、待ってよ綾乃!」


こんな時間ももうすぐ終わろうとしていた。私達の青春があるとするならばこれが全てだ。キラキラ輝いた川沿いの道を共に歩く、その繰り返す同じ時間の積み重ねが私達の全ての時間なのだから。









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