0-1 干渉
成長系より無双系を書きたくなりました。
どこまでも続く花の楽園。その中央には天まで聳える巨大な塔のようなものが立っていた。誰が見ても美しいというだろうその世界に一人の男が住んでいた。その小さな世界『アヴァロン』から男は人類の歩む歴史を眺めていた。
「いやはや、そんなナレーションはいらないだろう?ここからはボクに任せてもらおうか」
あ、ちょ…ま……。
ふぅ、さて邪魔者はいなくなったことだし、これからはボク視点で進めていくとしよう。ここはボクが閉じ込められた箱庭世界『アヴァロン』だということは先ほど説明をされただろうからもうしなくてもいいよね。
それじゃあ、せっかくだからボクについて軽く説明しておこうか。ボクの名前はマーリン。気軽にマーリンお兄さんとでも呼んでくれると嬉しいね。一応アーサー王に出てきたそれと同一人物という認識で問題ないよ。小さい頃のアーサーは可愛かったよ。マーリンお兄さんマーリンお兄さんって言ってね。…まぁ、こんなことはどうでもよかったね。
「それにしても、何千年もこの場所から世界を見るだけというのは退屈だね。現在、過去、未来全てを見ているけど、あまり面白そうな出来事は訪れなさそうだ。まぁ、誰かから干渉を受けているせいか、未来が少し先の未来しか見えないからなのかもしれないけどね」
ふっと息を吐き、目を閉じる。現在の世界を見るだけなら疲れはしないが、過去や未来も同時に見ようとすると目が疲れて仕方がない。しかし、未来も過去も見ていてあまり面白い出来事はない物だ。今を生きる人間の人生を見るのがとても面白いからなのかもしれないな。
「それにしても、魔術や魔法なんてものが失われているけど、よくもまぁあんなことをできる人がいるものだね。ちょっとボクも実際に行って見てこようかな。こんな光景なかなか見れるようなものじゃないからね」
ボクが見ていたのは2017年のとある学校の教室に、現在では失われ使うことができないはずの空間転移の魔法陣が現れている様子だった。戸惑う様子を見せる彼らにはそもそも興味なんてものはないけど、空間転移なんてものはなかなか見れるものではないからボクも現地に行って様子を見てみようと思った。
「空間転移の魔法を見るために、空間魔法を使うことになるとは思わないよね。見るだけだったらここからでも見れるんだけどさ」
そんなことを言いながらも空間魔法の魔法陣を足元に展開する。ん?なんかいつもと魔法陣が違う気がするね。このまま転移したらどこに行くことになるんだろうね。なんかここに戻ってこれないような気がするからこの『アヴァロン』も一緒に持っていくとしようか。
行先は誰かが強制的に書き換えたせいでわからないけど、それ以外はまだボクの管理下にあるようだし、『アヴァロン』も一緒に持っていくことにしようか。ボクが転移すると同時にこの箱庭も一緒に転移されるように設定を弄って…よし、こんな感じでいいだろう。
「さてさて、一体どのような場所にボクは飛ばされるのかな。彼等の持っていた物は粗方回収していたし…どんな世界であろうが死ぬことはないんだけどね」
その言葉を最後にボクの体は魔法陣に飲まれ、消え去った。同時に、『アヴァロン』はボクの持つ別の空間に移動されたようだった。
光が晴れるとどこか城のような場所の一室に立っていた。ボクが空間転移を観測していた場所にいた人間たちがいるところを見ると、どうやらあの魔法陣に書かれていた場所はこの場所のようだった。
早速目を開き、この世界の現在の様子を観測し始める。人間や獣人、魔人や魔獣のような存在がいるところを見ると、地球とは別の世界に転移したということだけは確信を持つことができた。この世界には魔法というものが存在しているようで、様々な場所で魔力の反応がある。ちょっとこの場所から遠い場所に一際魔力が多い存在があるが…きっとあれがこの世界のラスボスポジションなのだろう。
「オイ、貴様!王の話を聞いていたのか!」
「あぁ、悪いね。キミたちの話に微塵も興味がなかったから聞いていなかったよ」
「なんだと!今ここで断罪してくれるわ!」
血の気の多い兵士がボクに切りかかる。ふむ、兵士の持つ剣は両刃で先ほどこの世界を見ていた時に、結構持っていたことから一般的な武器がこの両刃剣なのだろう。それにしても動きが遅いな。幼いころのアーサーでもこれよりは早かったというのに…がっかりだね。やはり、興味の欠片も湧かないね。
「やめるのじゃ!」
「しかし!!」
「彼らはわし等が呼んだ勇者様方じゃ。多めに見てやるくらいの度量は見せよ」
「王様がそういうのであれば。…命拾いしたな」
命拾いも何もあの程度でボクを殺せると思っている兵士。戦場に出たことがないのだろうかと心配にすらなってしまうね。彼に剣術を教えたのはボクだぜ。しかも彼は結局ボクに勝つこともなく死んでしまった。
まぁ、そんなことは関係ないけど、魔術や魔法も使えて剣術も使えるボクを殺せると思うなんて…本当に甘い奴だぜ。ボクには結局関係のないことだけどさ。
「おぬしらにはこのカードを渡そう」
「これは何ですか?」
この世界に連れて来られただろう人間たちのうちの一人が王様(笑)に質問をする。渡されたカードを深く観察してみると、カード自体に魔力が流れているようで、これも魔力を流すことで自身のステータスか何かを知ることができるのだろう。一体このカードに何が表示されるのか。こういう未知の事象というものに興味は尽きないものだ。
何やら王様と呼ばれた肥満体質がこのカードの説明をするようだ。自分で調べるのもいいが、他人から説明を聞くのも悪くないかもしれないな。
「このカードは『ステータスカード』と呼ばれる魔道具じゃ。この魔道具は自身の潜在能力を示すステータスをそのカードに込められた魔力が判断し、G、F、E、D、C、B、A、S、SSで表示される。Aが一つでもあれば優秀な部類という認識じゃ。さて、お主ら。初めてで魔力も感知出来んじゃろうから、ステータスオープンと念じてみよ。そうすればそのカードにおぬしらのステータスが映ることじゃろう」
「「「「ステータスオープン!」」」」
連れて来られた人間たちは、ステータスオープンと呟きそのカードにステータスを表示させていた。さて、魔力がこの世界のものとボクが持つものが違うものなのかを確認することから始めようか。
ボクの体に溜まる人間たちが未だ科学によって解析できない神秘という名の魔力をほんの少しステータスカードに流す。するとステータスカードにボクのステータスは表示されなかった。
「…この世界の魔力とボクの持つ魔力は違うものなのか。…まずはこの世界の魔力を調べることから始めないといけないのかもしれないね。ステータスオープン」
この世界の魔力がわからない以上、ボクもほかの人間たちと同じようにステータスオープンと呟くしかなかった。カードがバチッと音を立て、何も書かれていなかった面に文字が現れる。裏面には何やら赤い色をした紋章のようなものが描かれていた。表面にはボクの潜在能力…つまりはステータスが書かれていた。
名前:マーリン
通称:マーリンお兄さん
種族:夢魔と人間のハーフ
天職:魔術師兼キング・メーカー
筋力:EX
耐久:EX
敏捷:EX
魔力:EX
幸運:EX
所持品:星の息吹、拒絶の鞘、叛逆の剣、花の箱庭、陽の守護、不滅の剣、裏切の魔剣
保有スキル:鍛冶師A、工房作成EX、銃器精製SS、夢渡りEX、不老不死性SS、王選定EX、研究者気質A、千里眼EX
このカードにはステータスだけじゃ無くて、ボクが今別空間に閉まっている物まで書かれてしまうようだね。しかし、ステータスSSまでしかないと言っておきながら、EXという文字がボクのステータスカードには表示されていた。
SSというものがステータスの最高値であるのであれば、ボクのステータスに書かれているEXというものは測定不能を意味しているのかもしれないね。なら、ボクの潜在能力はこの世界のステータスでは計ることができない何よりの証明だね。これなら、きっと昔の地球のほうがこの世界よりも未知で溢れていたということだろう。
「…ふむ、さすがにこのままというのもまずいかな」
「何か言ったか?勇者様」
「いや、何も言っていないさ。それにしても、その勇者というものの基準とかは何かあるのかな。勇者という称号があるとかないとか」
「ステータスカードに天職という欄があるじゃろう?そこに勇者と書かれているものたちが勇者なのじゃ」
そういうことであれば、ボクは勇者ではないことになる。それにしても魔術師兼キング・メーカーとは…これは天職が二つあるということなのかな。それとも兼任という意味で一つの天職扱いになるのかな。とりあえず、このステータスを見られるとボクも面倒ごとに巻き込まれるかもしれないからね。ステータスカードのほうは隠蔽することにするよ。
種族を人間に、天職を魔術師に、他ステータスをオールFに、所持品をこの杖だけに、保持スキルを研究者気質Cだけに。これくらいに隠蔽をしておけばボクが面倒ごとに巻き込まれるという心配はないだろう。
「オイ、お前。お前のステータス見せろ」
「ん?あぁ、いいとも。代わりにキミのステータスも見せてもらうけどね」
「あぁ、別にかまわないぜ。全員のステータスカードを見せてもらったけど、俺が一番ステータスが高いみたいだからな」
無駄に上から目線で自信あふれる人間にボクの黒色のステータスカードが奪われる。その代り彼のステータスカードを渡されたから何の問題もないけどね。まずは一般的に勇者と呼ばれる優秀(多分)なステータスの確認と、そのうえでボクのステータスがどれほど異常なのかの確認を行うとしよう。
名前:伊藤 海人
通称:無能の傲慢
種族:人間
天職:勇者
筋力:S
耐久:G
敏捷:A
魔力:A
幸運:C
所持品:なし
保有スキル:傲慢S
これが召喚された勇者の中で一番高いステータスなのかと思うと、思わず嘲笑を浮かべてしまうね。たったこの程度で一番強いだなんて…でも、これでボクのステータスがどれほど異常なものなのか把握することも出来たしよしとしようかな。
一方、カイト・イトウという人間はというと、ボクの隠蔽したステータスカードを見て爆笑しているようだった。その爆笑している理由が気になったのか周りにいる人間たちもボクのステータスカードを見ると、同じように爆笑し始めた。
「貴様、マーリンといったか」
「何かな、王様」
「勇者でない貴様に用などない。さっさとこの城から立ち去るがよい」
「お望みのままに。しかし、少しだけ時間をもらうよ」
「あぁ、かまわん」
やはり低いステータスで、勇者でない物はこの城では不必要な存在のようだったね。この世界のラスボス的ポジの魔力を高い奴を討伐するために彼らは呼び出されたようだけど…このままだと彼らは確実に道中に死ぬだろうね。ラスボス的ポジの住む場所に近づけば近づくほど、最低の耐久がSなどに上がっているようだからね。この耐久Sを貫くためにどれくらいの筋力が必要なのかもわからない。
でも、最低でもSは必要なことは間違いないだろうね。…まぁ、そのあたりも後々研究や実験を繰り返せばいいだろうからね。
さて、王様も早くボクが消えないか待ち遠しいようだし、早くこの場所から退散することにしよう。既に行きたい場所の座標も確認してるし、どのあたりにあるのも確認しているから、転移の魔法陣に座標を書き込めばそれだけで行きたい場所に行くことができる。
「貴様、なんだその魔法陣は!」
「ん?キミたちには関係のないことだろう?」
何かを言いたかったのか王様が口を開きそうだった。しかし、その前にボクの足元にある魔法陣は強く光り、ボクの姿はその城から消していた。
光が晴れると、辺り一面木、木、木だらけの場所だった。ここが誰も来ない上に実験の材料になりそうな魔獣たちが豊富にいるこの場所は、研究するには最適な場所だろう。一つ問題があるとすれば、この場所はラスボス的ポジがいる城の前にある森だということくらいだろうか。
濃い魔力がラスボス的ポジからあふれ出しているせいなのか、このあたりの魔獣一体一体が魔力を豊富に持ち、ステータスも勇者になった人間たちよりも高かった。
「さて、さっそく暇つぶしも込めて、この世界のラスボス的ポジを見てくるとしようか。運が良ければ、実験動b…実験動物になってくれるかもしれないからね」
城の前の門に二人の魔人が門番として立っている。最低ステータスですらAだったね。さすがにSSを越えたステータスを持つのはいないようだけど、相手にすると疲れてしまうよ。ボクは基本的に実験やらの研究肌だからね。戦いは苦手なんだ。
だからこそ、無用な争いは避けたいんだよね。
「それじゃあ、ラスボス拝見と行こうじゃないか」
この世界の魔力ではなく、ボク自身が持つ神秘という名の魔力を使い、隠蔽魔法を使う。この世界の魔力ではないから、魔力の感知能力が高い魔人でもきっと気づくことはないと思うよ。
隠蔽魔法を使い、姿を認識できないようにすると門番の横を通り抜ける。魔力感知能力がないのか、それともボクの神秘という名の魔力だからなのかわからないが、気づかれることなく横をすり抜けることができた。
「いやはや、本当に何もないね。何この無駄な広さ」
無駄に幅の広い廊下がざっと1kmほど続いていた。廊下の右側には窓があり、左側には無数の個室のようなものがあった。
約1kmもの長い廊下を歩き端に着くとT字路のような形になっていた。右へ行けば外に出られるようになっていて、左側に行くと二階へと続く階段になっているようだった。巨大な魔力の反応がある左側の二階へと続く階段を音もなく昇る。一分もたつ頃には二階に上がることができた。
「…一階はまともなのに、なんで二階はこう…変なんだろうね」
一階は門を入ってすぐに右、左、正面と道が分かれ、左右は廊下と部屋があり、正面に進むと図書館のようなものがあるようだった。目を通して構造を見る限り、その図書館のような物には地下室に行くための階段があるようだった。
二階はというと、階段を昇ってすぐ目の前に玉座のおかれた巨大な部屋があり、その玉座の後ろに小さな個室が一つぽつんとあった。その小さな部屋には部屋の半分ほどの大きさのベッドが一つあるだけで、そこに魔力の多い二人が何かしらやっているようだった。
「ふむ、今はお楽しみ中のようだし、森にボクの工房を作ってからまた出直すとしようか」
「少し待ちなさい!」
奥の小さな部屋から上半身裸の女が出てくる。…やはりお楽しみの最中だったようだね。ボクは邪魔をしてしまったらしい。上半身裸の女をよそにボクは玉座のある部屋の扉から出ていく。何か言いたそうにしているけど、無視してもいいだろうね。あんな痴女と関わりたいとは思わないよ。
「まさか、あれがラスボス的ポジか。…なんかがっかりしたね」
「少し待ちなさいと言ったでしょ!」
「ん?」
玉座のある部屋から出て扉を閉めようと振り返った時、目に入ったのはボクに到達しそうな距離にある掌に収まりそうなほどに圧縮された高密度の魔力弾だった。