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イザナリアの詩  作者: 細野田津興
9/10

第9話

これは、ファンタジー世界「クナウザス」およびその一人用コンピュータTRPGとして開発された「クナウザスRPG」を題材にした小説です。

公式ホームページ:https://soyucircle.jimdo.com/

クナウザスRPGダウンロード:https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_5667.html

 マリンは、動けなかった。ルッソも同様である、今目の前で起こったことが何なのか見当もつかなかった。

 今目の前で散らばっている肉片は、ほんの少し前までソーンだったものだ。ところどころに灰色の肌と赤い刺青が見て取れる。

「う……」

「マリン?」

「うええ……」

 たまらずマリンは戻していた、無理もない、ルッソですら湧き上がる嘔吐感と格闘することを余儀なくされているのだから。

 その上で、ルッソは必死に考える。一体何が起きたのか? モンスターではない、ならば今までなぜあれをしなかったのだという疑問が残る。ならばそれを操っている黒幕、ひいてはルッソの持ち主だろうか? それが一番近い気がする。大穴で、ソーンの魔法制御の失敗による自爆だが、この線は薄い。

「……」

 ルッソを襲っているのは、既視感であった。この光景は初めてではない、いや、記憶の中では初めてだが、喪われた過去の中の出来事だろうと思われた。

 それも一度や二度ではない、繰り返し見たような感覚だ。ルッソは己の過去に慄然した。

感情は完全に戻っている、あとは過去だけだ。

「ル……ッソ」

「! マリン⁉」

 喘ぎながら言葉を発するマリンにルッソはようやく我に返り、背をさすってやる。

「大丈夫か⁉」

「う、うん」

 マリンのダメージ自体はそれほどでもない、だがどう逃げればいいのだろうか? 入り口は塞がっていて天井には届かない。謎の襲撃者の意図もまだつかめていない。おまけにルッソは完全に足手まといである。

「……」

 ルッソは腹を括る、こうなってはもう逃げることに意味がない。

「おい! ご主人様よ!」

 ルッソが選んだのは、一番可能性の高い確率に賭けることだった。ソーンを手にかけたと思しき自分の持ち主に語りかける。

「奴隷が戻りたがってるぞ!」

 どうにか交渉が出来ればいい、最悪マリンが無事ならば。

「ルッソ?」

「静かにしてろ」

 マリンがルッソに不安げに寄り添った、ルッソの急変に驚いているのである。

 ルッソはそれを見て罪悪感に駆られる、どう考えてもマリンは巻き添えだ。なぜ今の今まで気づかなかったのか、感情が戻っていたなら真っ先に逃がしていたのに。

「ご主人様!」

 もう一度叫ぶ、今やっているのがとんでもない間抜けな行為ではないかという焦りがルッソを襲う、もしそうでないなら、どうすればいいのだろうか?

「ご―」

 叫びを遮ったのは、閃光だった、それは集まりやがて姿を変える。

「な、なに?」

「……」

 人、それも少女の姿だった。豪奢な装飾にたゆやかな髪、まさに王女といった趣である。

だが、この場においてそれはあまりにも異質。性質の悪い冗談にしか思えなかった。

「ルッソ」

「ご主人……様か?」

「埃っぽいところですわね」

 少女は二人を無視し、嫌悪たっぷりに洞窟を見渡した。

「何故私がこんなところに」

「お、おい」

 ルッソは果敢に食いついていく。今状況を打開できる唯一の存在かもしれないのだ。

「……」

 少女の瞳は冷たい、それは内心の気質もあるのだろうが、権力者特有のそれでもある。

(金持ち? 貴族? 王女か?)

 それなりの地位だということは窺い知れる、それに加えてこの魔力、歯向かうのは得策ではない。

「ご、ご主人様?」

「その呼び方は―」

 いいかけて、少女はすっと目を細めた。

「頃合いかしら……」

 諦観と、疲弊のこもった言葉だった。だがそれもすぐに、傲岸の中に消えていく。

「記憶が消えているのですわね?」

「あ、ああ……いや、そうです」

「私のことも? 王国も全てですか」

「あ、はい」

 ルッソは内心驚いていた、まさか王女とは予想していなかったのだ。王国の言葉が正しければまさにそのまま。誇大妄想の気がなければだが。

「探しましたわ」

 淡々と王女は語る。

「どうも」

「ル、ルッソ、これは?」

「その娘は」

「たまたま会った……んです」

「そう」

 王女は手を差し出す。

「戻りますよ」

 はいそうですか、とルッソは手を伸ばし返さない。まずは状況を把握することが先決なの だ。

「あんた……あなたは誰だ?」

 さっと、少女の顔が険しくなった。

「そういうのは好きではありません」

「答えになってないですがね……」

 片足で、ルッソはマリンの前に立った。わが身を盾にということなのだろう、少女の顔が、ますます険しくなる。

「……」

「!」

 手を翳した少女の姿に二人に緊張が走る。

「……」

 少女は、ため息を吐いた。

「ダメですか」

 どこか諦観の含まれた動作だった。

「?」

「見せましょう、真実を」

 ルッソはふいに体が軽くなった。

 そして記憶が一気に流れ込んできた。

「あああああ」

「る、ルッソ!」

 涙があふれる、記憶が脳の容量を超えて一気に叩き込まれた。

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