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イザナリアの詩  作者: 細野田津興
5/10

第5話

これは、ファンタジー世界「クナウザス」およびその一人用コンピュータTRPGとして開発された「クナウザスRPG」を題材にした小説です。

公式ホームページ:https://soyucircle.jimdo.com/

クナウザスRPGダウンロード:https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_5667.html

 木々に紛れて、すぐにモンスターは見えなくなった。マリンとルッソは、ひたすら走る。逃走でなく、ただただ遠ざかるため一心だ。

「何よあいつ!」

「モンスターじゃない?」

「そんなのわかってるわよ! どういうモンスターなのか聞いてるの!」

「わからないよ、マリンは?」

「知ってたら……じゃあ……ああ! もういいわ逃げるのよ!」

 後方で木の倒れる音がした。ソーンにご執心なはずのそれらだたが、どうやら二人にも気づいてしまったらしい。木々の間を縫って、不気味な白い肌が垣間見える。

「き、きたの⁉」

「えっと……」

「ばか! 立ち止まるんじゃないの!」

 止まりかけたルッソを、マリンが慌てて引っ張る。ルッソには不思議な力があるが、それでもあのモンスターと相対するのは避けたかった。

「―」

 今度はより近くに地響きが起こる、動作自体は緩慢でも、一歩一歩が二人の比ではない。鼠と像の駆けっこだ。

「この!」

 苦し紛れにマリンは巨大な足に石を投げつける。当たりはしたが、そよ風程度の感触すら与えられたか疑わしい。

 そもそも生き物なのだろうか? モンスターには生気というものが全く感じられない、絵に描かれたもののような彫刻のような、そんな無生物感が全身を漂っていた。

「―」

 巨大な手がマリン、否ルッソに向かう。二人には気付くべくもないが、ソーンとは違い緩やかな動作だ。さながら、柔らかな花を手で愛でようかという有様である。

「ルッソ!」

 ともあれ、されるほうにしてみればたまったものではない。辛うじてそれを躱すルッソだが、代償にその手によって木々と土が大きく抉れた。指の間から降り注ぐ土塊を浴びて、ルッソはせき込む。

「うわあ、店長に怒られちゃうよ」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ⁉」

「汚いと風呂代がもったいないって、あ、薬草忘れないようにしないと」

「ああもう!」


「なんなんだこいつらは!」

 それよりも悲惨なのはソーンの方だった。

「―」

「―」

 ルッソとは違う、モンスターはソーンを明らかに敵視し攻撃を加えてきた。それも数体による集中攻撃である。すでに地形はあらかた変わっている、元の森に戻るにはどれほどの時間がかかるだろうか。

「くっ!」

 自身の持ちえる最大防護魔法“アースシールド”を破られて、ソーンは逃げの一手を打つしかなくなる。

「“ソニックファング”‼」

 攻撃魔法を直撃させてもびくともしない。ルッソのように魔法で守られている訳ではない、モンスターの単純に頑強な肉体がそれを通さないのだった。かといって精神操作や病魔系の魔法も通じない、ルッソの優れた観察眼は同大の物体による質量攻撃が唯一撃退の可能性があると思っていたが、彼にはそれを行使する技術がない。

「―」

「うわっ⁉」

 巨石のように握り固められた拳が、ソーンのすぐそばに振り下ろされる。当たれば最後、虫のように容易く圧し潰されてしまうだろう。

 気配を消してもダメだった。モンスターは構わず襲ってくる。何かしらずぬけた感知能力を有しているらしかった。

「―」

「くう!」

 ソーンは絶体絶命だった。何もかも意味がわからない。

(一体どうなってる⁉)

 謎の古代魔法と少年、未知のモンスター。関連立てて考えるよりも今はどうにか生き残る方が先だった。


 一方二人も追い詰められていた。

「はあはあ」

「大丈夫?」

 身体能力に秀でているスクージーだが、限界はある。それに加えて矢継ぎ早に続く異常事態に冷静ではいられない。マリンは息が切れ、足元もおぼつかなくなってきていた。

「舐めないでよ……あたしは」

「―」

 マリンの周囲がさっと暗くなる、巨大な手が降りかかってきたのだ。ルッソよりも、そのそばの鬱陶しい蠅を払おうという魂胆らしかった。

「!」

 マリンには躱せるだけの体力が残っていなかった。色濃くなる影に、苦し紛れの回避行動しかとれない。

「……」

 そこにルッソは飛び込んだ、腕は当たる寸前で急停止し、風圧が二人を吹き飛ばさんばかりに降り注いだ。

「やっぱり僕には攻撃しない」

 ルッソはそうつぶやくと、マリンを抱き走り出す。

「あ、ありがとう」

 今度はマリンも抵抗しなかった、というよりできる体力が残っていなかった。

「隠れないとだめだね」

「そ、そうね……」

 ルッソはマリンを抱いたまま周囲を探る。モンスターはそれほど待ってはくれない。今度は一本指でマリンだけを弾き飛ばそうと狙ってきた。

「きゃあ!」

「離れないでよ」

 ルッソはひたすらに走った。辛うじて指弾きを躱し、この時初めて彼は自分の肉体に感謝する。

「! あった!」

 それが幸いしたのか、ルッソは洞窟を発見した。やや小さいが、とにかく身は隠せる。

「あそこにいくよ」

「わ、わかったわ!」

「―」

 間一髪、ルッソとマリンは洞窟に滑り込んだ。

「―」

「きゃっ、も、もっと奥に!」

「うん」

 体の入らないモンスターは、手を無理に洞窟の入り口にねじ込んで二人を捕まえようとする。そのせいで入り口は崩れ、もはや原型を保っていなかった。

「わ」

 あおりを食らって、二人は洞窟の奥へ押し出された。ルッソは身を盾にしてマリンを守り転がっていく。入り口では、どうにか入り込もうとモンスターが癇癪のように唸っていた。


 ようやく二人が止まったのは、光も届かない最奥へ辿り着いた時だった。

「大丈夫?」

「あ、あんたこそ」

 マリンはルッソの体を探る、あれだけの衝撃にも関わらず傷一つついていない。

「……全くあんたは」

「?」

「はあ、なんかもういいわよ」

 マリンが緊張の糸が切れたようにぐでっと横になる。侵入は防げているが洞窟にも逃げ場はない、いずれどうにかしなければならなかった。

 遠くからモンスターの咆哮が響く、どうや集結しているらしくそれは次第に重なり合っていくようであった。

「あんたは何なのよ」

「なんなんだろうね」

 相も変わらずルッソは淡々としている。


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