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イザナリアの詩  作者: 細野田津興
4/10

第4話

これは、ファンタジー世界「クナウザス」およびその一人用コンピュータTRPGとして開発された「クナウザスRPG」を題材にした小説です。

公式ホームページ:https://soyucircle.jimdo.com/

クナウザスRPGダウンロード:https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_5667.html

マリンは足に自信がある。戦闘、逃走、あらゆる場面においてそれを駆使してきた。

「遅れないでよ!」

「うん」

ぼうっとしているようで、ルッソもそれについてきていた。小枝や木の根、ぬかるみ、滑る苔を諸共しない。

(なのになんで……)

「待て!」

 そして、ソーンは苦も無くついてきていた。魔法により身体能力を挙げているのもあるが、何より察知能力が二人と段違いだった。森の隅々まで張り巡らされた魔法によって、今やソーンは数十年も暮らした我が家のように森の全てを手に取るように把握しているのだ。

 二人がこう動けば、先に回れるように行き先を変える。さながら、迷路をゆく実験鼠を見下ろす科学者であった。

「っ!」

 ソーンに気を取られすぎて足元を疎かにしたマリンがつんのめり、ルッソに抱き留められた。

「大丈夫?」

「あ、ありがとう……」

「“フィアー”‼」

 動きの止まったルッソに、恐慌をきたすソーンの魔法が直撃した。だが、ルッソには微塵の効果も見られなかった。

「やはりだめか」

 ソーンは舌打ちする、ルッソの古代魔法は防壁の役割も果たしているようだった。魔法は通じない。

「?」

「あんた本当にどうなってんのよ?」

 マリンが呆れた声をあげる。危機的状況にも関わらず、言わねばならないほど奇妙な出来事だった。そしてそれは致命的な失敗である、ソーンに追撃のチャンスをわざわざ与えたのだから。

「“ソニックファング”‼」

 要約すれば、空気の塊である。ただし、村一つの空気を余裕で1年まかなえるほどの量が集まればそれは鋼鉄玉並みの威力を持つ。何よりの利点は、空気の塊であるがゆえに不可視という点であった。

「‼ 何か来るわよ!」

「何も見えないけど」

「あたしにはわかるの、逃げるわよ!」

 だがマリンはスクージーだ、わずかな空気の摩擦を感じ取りルッソを自らに引き寄せた。

 その瞬間、彼らの傍で空気がさく裂した。

「‼」

「わあ」

 解き放たれた空気が地面を裂く、否抉り取った。暴風としか形容しようのない風が、二人に襲い掛かる。

(どうだ?)

 ソーンの狙いは、“ソニックファング”の直撃ではなく、解放された風に乗った石等による攻撃だ。これなら、魔法ではない。

「……」

「きゃ、ど、どこ触ってんのよ⁉」

 咄嗟にルッソはマリンを守るように抱きすくめた。その背中に、砲弾のような枝葉と石が次々に襲い掛かる。だがやはりそれも傷どころか衝撃を与えているようにすら見えなかった。

「……」

 ルッソは、己よりも己の行動に戸惑っていた。自分はマリンを“庇った”、それが何を意味するのか……。

「離して!」

「あ」

 だがそれはそれ以上進むことなく、マリンに頬をひっぱたかれて終わった。爪を出さなかったのはせめてもの慈悲か。

「もう、変態! 変態しかいないんだから!」

 違う、とルッソは言いたかったが、この場合それが逆効果だと知っていたので敢えて黙っていることにした。

(よし、狙うなら娘だ)

 一方ルッソは、狙いをマリンへ変えた。魔法も物理攻撃もルッソには通用しないが、彼自身は動きは平凡である。マリンさえどうにかすれば捕縛はそれほど難しくはない。

「“フレイムアロ―”‼」

 ソーンの掌の魔力が炎に変り、矢を形づくった。そのままマリンに一直線に突っ込んでいく。

「……」

「きゃっ、ま、また」

 再びルッソはマリンを抱きすくめて矢に背を向け己を盾にする。だが、炎の矢はルッソに直撃する直前で分裂し、二人を囲むように焔の壁を作り出した。

「来るんだ、それと俺にそんな趣味はない」

 ソーンが歩みを進める。ルッソはそのまま焔の壁に突き進もうとした。

「ま、待って」

「?」

「あ、あんたはいいけどあたしはあんなところ入ったら真っ黒焦げよ⁉」

「あ」

 ルッソが阿呆のように口を開けた。これは抱きかかえればいいというものではない。

 ソーンはもう間近に迫っている。

「う~ん……あ、そうだ」

「え?」

「よいしょ」

「きゃっ」

 ルッソは、マリンを高く焔の壁を超えるように放り投げた。そのまま本人は悠々と焔の壁を通り抜け脱出を果たした。

「あ」

 今度はソーンが阿呆のように口を開ける番だった。そして己の愚かさに苦笑した。

「大丈夫?」

「先に言いなさいよ! お尻を打っちゃったじゃない!」

 マリンはルッソと合流し愚痴を垂れる。ルッソは相変わらず焦げてもいない。

「さ、逃げるのよ!」

「させない“ストーン”」

 今度は間違えなかった。放った地属性の魔法は、マリンを囲むように巨石を注ぐ。

「きゃっ」

 土煙が晴れると、石に囲まれたマリンの姿があった。

「ん」

 ルッソが力を込めてみるが、びくともしない。

「さあ、終わりだ」

 ソーンが再び二人に歩み寄る、手間はかかったが目的は達成したのだ。

「むう」

 ルッソはマリンを守るように、ソーンとマリンの間に立った。説明はできないが、どうにもソーンは嫌な感じがした。

「来てもらおう、私は―」

 ソーンの言葉は、轟音と咆哮によって掻き消された。

「⁉」

「な、なに? 今度はなに⁉ ボア⁉」

「?」

 “それ”は、木々を薙ぎ払いルッソたちの前に姿を現した。

「―」

 その声は生き物のどれにもにていない、強いて似ているものを挙げるとすれば排水溝に吸い込まれていく水音であろうか。

「―」

 体は比較的人体に近い、二足歩行で二本の腕があり一つの頭部をもっている。

「―」

 だが、その大きさは人の10倍ほどもあった。肌には生気がなく、真っ白で少しの水気も見られない。頭は、まるで蛭のような異様だった。

「……」

 マリンとソーンは、全く同じ反応だった。驚いて固まり、『これ』が何かと必死に理解しようとするために頭を回転させる。一種の防衛本能である。ルッソはと言えば、ただ新たな乱入者が来たというだけでいつも通りだった。

「―」

 そのモンスターが手を振り上げて、ようやく二人は我に返った。このままでは潰される。

「⁉ なに⁉」

 何故かそのモンスターは、ソーンに攻撃した。マリンとルッソには見向きもしない。

「くっ」

 ソーンは一発目を避けたが、2発目は間に合わない。

「“アースシールド”‼」

 魔法で大地を隆起させ、ソーンはその一撃をどうにかしのいだ。だが、精々あと数回防ぐので精一杯だろ。

「―」

「―」

「な、なに⁉」

 同型のモンスターが森をかき分け次々と現れ襲ってきた。マリンも、知識豊富なソーンすら見たことのないモンスターだった。

「くそ!」

 ソーンは魔法で対抗する。幾度か直撃するも、この巨体では倒し切るのは骨だった。

「ルッソ!」

「あ」

 囲みから抜け出たマリンが、ルッソを引っ張り走り出す。この機を逃すことはない、意味は分からないがとにかくチャンスだった。


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