第8節:明かされた真実
「いやー、参った参った。もう立てねぇわ」
どこかさばさばとした口調で、満足げに尻餅をつくジンに。
「……お前は一体、何がしたかったんだ?」
銀次は、納得いかない口調で問う。
自分もまた、クレーターのすぐ側に膝をついたまま足が震えて立ち上がれない。
だが、銀次の疑問に対して。
ジンは内心の読めない笑顔を浮かべて、逆に訊いてくる。
「あのまま突っ込んでくりゃお前の勝ちだったろ? なんで逸らした?」
「何となく、だよ」
実際、銀次は最後に跳ぶ瞬間まで本気だったが、ふと思ったのだ。
こいつは何故、俺とタイマンを張っているのだろう、と。
ジンは、手を抜いていた。
最後に打点を逸らした事もそうだが、それ以前に。
ーーー『使うつもりはなかったんだけどな』。
戦闘中に、ジンがそう言っていたのを思い出したのだ。
こいつは本気で俺を殺す気はないんじゃないか、と。
「ブレイク・アップ、とか言ったか? あれを使われていたら、俺は勝てなかった」
銀次の目には追えない速度。
あれは、目くらましやフェイントという言葉では、片付けられない。
本当に、一瞬で目の前から消えた。
そんな風に、銀次には感じられたのだ。
おそらくは、メテオフォームでも捉えきれない、その速度は。
時の流れからすら解き放たれたような加速だった。
ジンが、銀次の言葉にまるで呆れたように頭を振る。
「……同じ努力型かと思ってたのに、違うな、やっぱ。お前のその直観力は、俺よりあの人たちに近い」
「なんの話だ?」
「努力と才能の壁の話だよ。お前は今は未熟かも知れねーけど、いずれあの人たちの場所に辿り着くんだろうな」
まるで憧れるように銀次を見上げるジンに、彼は戸惑う。
あれ程の力を持ちながら、まるで自分が無力であるかのような物言い。
「……いい加減答えろよ。お前は、あんな卑劣な手を使って俺を誘き出さなくても俺を殺せた。何故俺と戦った?」
事実。
手を合わせた今となっては、ジンの、望たちを害する、という言葉は嘘だと銀次は確信できている。
そんな脅しで誘き出さなくても。
ーーージンが本気であれば、俺はとっくに……。
「おっと、勘違いするなよ。俺は手を抜いたわけじゃない。あくまでもフェアに戦っただけだ」
ジンが両手をひらひらと振る。
「アレはどっちかってーと反則技なんだよ。本来は、人間相手に使うべき力じゃない」
人間相手には、使わない。
銀次は、自身のアルティメットブレイクを思い出した。
使わない理由は違うだろうが、銀次もあれを人間相手には使用しない。
「で、お前と戦った理由だが」
ジンの言葉に、銀次は耳を傾ける。
「ただの悪戯」
「は?」
思いがけない言葉にぽかんとする銀次に。
ジンは、ちょっとバツの悪そうな苦笑いを浮かべる。
「いや、本当は適当なとこで種明かしするつもりだったんだけどさ。いや、お前予想外に強いからつい、熱くなっちまったんだよなー」
頭を掻きながら、ジンは目線をそらして言葉を続けた。
「ぶっちゃけ、俺『黒殻』として『バース』と不可侵協定の確認に来てたんだけど。大首領と雑談してたら、お前の話が出てさ。面白そうだからってちょっとからかおうと……」
その準備の為に不自然じゃないようなネタを仕込んでいる最中に銀次が接近して来たのだ、と言われて。
銀次は、開いた口が塞がらなかった。
「あん時は焦ったわー。まさかバトる前に悪戯がおじゃんになるかと思って。あ、この手合わせ、バースの連中見てるから。引き分けだから、賭けは胴元の大首領が一人勝ちだな」
言って、快活に笑うジンに。
銀次は自分の掌を見つめてから、ぎゅっと拳を握り込んだ。
「あ、あいつらぁあああああああッ!!」
銀次の怒りの絶叫は。
採石場に木霊して、虚しく消えた。