第7節:最後の一撃は
重い足を引きずりながら。
ずるずると後退したシルバービートは、ベルトの側面にある箱に触れ、黒色のアームドライバーを取り出した。
まだ決着はついていない。
震える指でバックルをスライドさせ、アームドライバーを変更し。
力任せに、バックルを叩き付けた。
『scanning・Meteor ready?』
「……来い!」
シルバービートの鎧に、再度変化が現れる。
スキャンされた情報が衛星に信号を発信。
シルバービートは、衛星から撃ち出された青白い光に包まれた。
白銀に戻った装甲に、新たに透き通った青色の手甲と脚甲が追加される。
翼のような噴射機構はそのままに、シルバービートは変化を終えた。
短距離加速と、手足に追加された装甲【メテオバスター】による近接戦闘形態―――メテオフォーム。
シルバービートの持つドライバーのなかで最も破壊力を発揮する姿だ。
相手も、まだ立っている。
ならば自分が屈する訳にはいかない。
外装がフォームチェンジで修復されようと、生身に溜まったダメージや疲労までは消えない。
それでも。
―――真正面から、叩き潰す!
最早最初の理由など頭から吹き飛んでいた。
かつてない強敵を前に、シルバービートは気力を振り絞って最後の激突へと歩を進めた。
「いくぞォッ!!」
空間を震わせる炸裂音と共に、噴射機構が火を吹いた。
※※※
外殻の自動修復が、間に合わない。
まさかシルバービートがこれほどの存在だとは、伍号は思っていなかった。
「うちに欲しいぜ、ったく」
また姿を変えたシルバービートに対して、伍号は重い腕を持ち上げて構える。
相手は強い。
正直、現状では五分五分だろう。
しかし、負けてやる気は毛頭ない。
相手を完封する手はあるが、それは伍号の好むやり方ではなかった。
「ハッ……来いよ」
向かってくる相手には。
礼儀をもって、正々堂々。
ーーー打ち倒す!
ストリークの影響で、出力解放まで少々時間を稼がなければならない。
伍号は残った力を振り絞って、シルバービートの突撃を受けて立った。
※※※
「デァアアッ!!」
シルバービートの、肩から抉り混むようなタックル。
急加速から繰り出されたその攻撃をまともに受けて、しかし踏みとどまる伍号。
そこにさらに幾度も繰り出される拳。
どれもが気迫に満ちて、宙に銀色の軌跡を残す。
「ぐ、お、お!」
打撃が当たる度に、防御した伍号の腕が軋む。
シルバービートの手甲、メテオバスターは。
単体で小型噴射機構を内蔵することで、背面噴射機構との連携による殺人的加速を可能とし。
内部には、インパクトの瞬間に対象物に対してタキオンエネルギーを衝撃波として変換する機能がある。
打撃とエネルギー、二種類の衝撃のぶつかり合いにより対象を崩壊させるのだ。
極近接戦闘において必要な、速度と破壊力を両立させた籠手型武装。
「ッァア!!」
エネルギーの炸裂音と打撃音が、周囲に響き渡る。
伍号は、防御を固めてジッと耐えていた。
既に気力だけで動いているシルバービートは、現状で完璧な有効打を放つことは出来ない。
さらに伍号は、ただでさえ分厚い外殻の下に人体を守るエネルギーフィールドを形成している。
如何にメテオバスターの攻撃でも、それを貫くのは容易な事ではない。
どこまで、動き続けるのか。
とっくに限界を超えているはずのシルバービートは、伍号の修復能力を超えるマシンガンのような連打によって、少しずつ外殻を削り取っていた。
対する伍号も。
防ぐ腕を削られながも、全て受けきってみせる。
『充填完了』
伍号の、補助頭脳の音声が響くのと同時に。
シルバービートは、一際強く踏み込み。
固い地面が陥没するほどに込められた力から放たれる、まるで滝を昇る龍のようなアッパーカットを撃つ。
それは確実に伍号を捕らえ、その巨体を空高く打ち上げた。
が、手応えがない。
伍号は、シルバービート渾身の一撃に合わせて、自分から跳んだのだ。
「出力解放!」
『命令実行』
それまで不気味なほど静かだった伍号の雷光を秘めた両眼が、輝きを取り戻し。
伍号の右足が、これまで以上のエネルギーを示すように、金色に変化した。
それは、伍号が現状で放ちうる、最大最強の一撃。
「俺の全力だ……受け切って見せろッ!」
相手の目的を察したシルバービートも、切り札を切った。
バックルを展開し再度挿入。バックル上部のボタンに右腕を三度叩き付ける。
『StagBeetle・Meteor・LimitbreakMaximum!』
限界開放の指令を受け、アームドライバーがその全機能を開放。
タキオン・リアクターが地鳴りにも似た重低音を響かせながらタキオンエネルギーを生産、放出する。
「これで決めるーーーッ!」
シルバービートは左脚を引き、拳を引き絞る。
お互いが、一瞬の交差を狙い。
「「おおおおおおおおおーーーッ!!」」
彼らは、剥き出しの闘争本能で己を高めた。
さらに、コアエネルギーとタキオンエネルギーの輝きが増し。
空に跳ねた伍号の身体が。
重力に従いその身体を落下させ始める前に、月面宙返りから足を突き出して、全身のスラスターを、最大加速で起動させた。
「《黄のッ蹴撃》ァアアーーーッ!!」
その身に纏った雷電と共に、螺旋を描きながら。
憤怒の雷神が、空を裂く。
「デェェアァッッ!!」
シルバービートも、跳ねた。
隕石が激突したかのような衝撃が、大地を揺らす。
臨界を越えたタキオンエネルギーを、全噴射機構を一方向に向け爆発させることで。
瞬間的に音をも置き去りにする加速力に変換する。
二人が、激突した。
出力解放のエネルギーと、スラスターによる螺旋の回転、そして雷撃そのものの超高熱。
それらを完全に制御し、破壊エネルギーへと昇華した黒の伍号の蹴りと。
衝撃に加えて膨大な量のタキオンエネルギーを相手に浸透させることにより。
内部と外部の両面に崩壊を発生させる、必殺のメテオ・ストライク。
縦に交錯した二人の力が、空中に衝撃波を走らせる。
しかし完全な衝突の直前、お互いの技が僅かに軌道を逸らした。
そのまま宙を蹴り抜いてーーー伍号は地面に渦を描くクレーターを作り出し。
威力をぶつける相手を失ったメテオストライクの威力が、炸裂音を響かせながら大気を揺らす。
超高温の電熱により溶けて固まった地面が、湯気を上げる真ん中で。
黒の伍号は、かがんだ姿勢からまっすぐに背を伸ばし。
シルバービートは、静かに地面に着地する。
そして同時に膝をつくと、二人の変身が解除された。