第5節:衝突
「デェア!」
「行くぜェ!」
シルバービートは、大地を蹴って伍号に接近した。
伍号も、同時に前進して来る。
自分同様、堅牢で重い印象の外殻を纏いながらも、伍号は印象とは裏腹に素早く、鋭い。
シルバービートは、右手に装着されたクワガタ虫型の手甲、スタッグ・ブレードを突き出した。
クワガタの双顎に当たる二本の爪が、凶悪に陽の光に照り返りながら伍号に迫る。
しかし伍号はまっすぐ突き出したスタッグ・ブレードの腹を、右の拳で弾いた。
さらに、伍号は左足を踏み出して体を瞬転、シルバービートの懐に潜り込んでくる。
「グッ……!?」
密着により、スタッグ・ブレードが自由に振るえなくなる。
伍号は体を捻る勢いを殺さないまま、左のショートフックを見舞って来た。
シルバービートは腹に力を込めて、それを受けた。
※※※
……先手は取った。
しかし。
伍号の拳がめり込む重い衝突音と裏腹に、シルバービートの体はびくともしなかった。
「何!?」
「ふん!」
シルバービートは、逆に肩を押し付けるように足を踏み出したかと思うと、スタッグ・ブレードに頼らず、肘を伍号の胸郭に叩き込んでくる。
が、こちらも有効打にはならない。
伍号の外殻とて伊達ではないのだ。
「硬い……!?」
「へっ。ナメんなよ!」
バチバチと腕に雷撃を走らせる伍号に対し、危機を感じたシルバービートがスウェイバックで上体を反らして下がる。
体が離れる事で出来た隙間を利用して、伍号は右ストレートを放った。
しかしシルバービートは。
即座にスタッグ・ブレードを右手から飛ばして、その雷拳の軌道を塞ぎ、避雷針にした。
素晴らしい状況判断。
拳に触れたスタッグ・ブレードに稲妻が走り、バチバチと、目を射る光が伍号の眼前で弾けた。
※※※
だが。
その雷光を前に、シルバービートは止まらなかった。
光を裂くように一息で、今度は自分から伍号の懐に飛び込む。
「うぉ!?」
「電撃には、慣れている!」
驚きの声を上げる伍号の腹に、左の拳を叩き込んだ。
「貰った!」
今度は十分な威力を乗せた、シルバービートの一撃。
拳が外殻を砕く手応えと、鈍い音が響き渡り……。
同時にシルバービートは、右脇腹に衝撃を感じて吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
横薙ぎに地面に叩き付けられたシルバービートは。
ジャックナイフで、すぐさま跳ね起きる。
見ると、自身の外殻を砕かれた部分を手で押さえながら、伍号がゆっくりと足を降ろすのが目に映った。
※※※
ーーー強い!
二人は同時に思った。
どうやら、カウンターで蹴りを貰ったらしい、と気付き、シルバービートは相手のセンスに舌を巻いた。
あのタイミングで、予想していなかったらしき反応は演技なのか。
それとも瞬間的に反応して見せたのか、シルバービートには判断がつかなかった。
伍号も、相手に対して感心していた。
シルバービートの戦闘能力は『バース』本部の中でもトップクラス。
数々の実戦をこなし、更に身体能力も高いとは聞いていたが。
自分から治まってもいない雷撃に突っ込むなど、並大抵の度胸ではなかった。
伍号が、拳を叩き付けられた部分を見下ろすと、外殻に深々と拳の痕が刻み込まれている。
「やるじゃねぇか!」
伍号は、肩や腰などについた土や埃を落とすように、全身を叩きながら払っているシルバービートに言う。
相手には予想外のカウンターを叩き込んだ筈なのに、彼を鎧う外殻には傷のようなものは一切見られず、本人もダメージを受けていないようだった。
ーーータフだな。
伍号は思い。
「自分の損傷より攻撃か。イカれてるな、お前」
シルバービートが、伍号の損傷を見て言う。
「雷撃も収まらないうちに、突っ込んできたお前が言うな」
伍号も言い返し。
二人は、再び対峙した。