第4節:変身!
翌日。
ジンが待っていると、彼は時間通りに現れた。
銀次は、彼から見ればまだ若い少年だ。
しかし、ゆったりと歩く今の姿から立ち上る、その風格はどうだろう。
着崩された制服と、無造作に纏めた銀髪が風に揺れる。
歩くたびに足元から舞う粉塵すら、彼の闘志に呼応しているようだ。
今の目つきは、高校生とは思えない程に鋭く真剣で、ジンを正面から射抜いて逸れる事がない。
多くの実戦をくぐり抜けた者特有の、圧するような雰囲気を身に纏っている。
しかし。
その闘志を、決意を。
隠し切れない事が、彼がまだ未熟である事の証左だ。
大き過ぎる戦闘力と、それを律する冷たい理性。
しかしそれに比べて、その魂の幼さと……それを補って余りある、満ちあふれる心の強さ。
「来たな、銀次」
ジンはあえて凶悪に笑みを歪ませ、岩に片膝を立てて腰掛けたまま、彼に語りかける。
銀次は、足を止めた。
「……そっちも一人か」
意外そうに、銀次はそうつぶやいた。
「タイマンだ。そう言っただろ?」
ジンは指を鳴らして、人指し指をおどけるように銀次へと向ける。
そのまま岩を滑るように降り、ジンは彼と対峙した。
※※※
銀次は、ジンを観察した。
相変わらず粗野で、軽そうな雰囲気の男だ。
改めて見ても悔しいぐらいスタイルがよく、ラフな服装がサマになっている。
銀次は、人を脅して来たその男の余裕綽々の態度に相手の力量を察する。
決して油断は出来ない相手だと、彼の経験が警告を発していた。
ジンは今日、銀次自身が腰に巻いているベルト型の変身具……『アームギア』によく似た黄色い宝玉を持つ黒いベルトを身につけている。
銀次は、口を開いた。
「お前に対して、抹殺命令が出た」
「そうか」
ジンの態度は変わらない。
相手の戦力は未知数で、強者の気配がする。
何故あんな姑息な脅しで銀次を呼び出したのか、とそんな疑問を覚えるくらいに。
しかし銀次は、毛頭負ける気はなかった。
相手が強いならそれでも良い。
勝てば、親父……行方不明のゴルドビートの強さに、また一歩近づけるだろう。
銀次は、そう確信していた。
※※※
先に動いたのは、銀次。
彼は、アームドライバーと呼ばれる変身具のパーツを取り出した。
それを『アームギア』のバックルをスライドして現れたソケットに叩き付け、バックルを擦って戻す。
『Scanning StagBeetle!!』
『アームギア』がドライバーを読み込んで応え。
銀次の体は、光に包まれた。
コンマ数秒。
銀次は、西洋の鎧を近未来的なデザインに変えたような、それでいて生命力を感じる有機的な銀色の外殻を纏っていた。
右腕には、前腕部にかけてグリップされた、二本角のクワガタのような形の武器。
巨大な二本の角の意匠が、力強い頭部。
全体的にヒロイックなイメージの外見だ。
だが、関節や肩に取り付けられた棘や角。
何より兜の鋭い目つきが、決して彼が只のヒーローでは無いことをうかがわせる。
甲虫に良く似た姿に変わった、彼の名は。
〝金色に継ぐ者〟ーーー名を、白銀の甲士。
「へぇ、写真は見てたけど、やっぱよく似てるな。……マサトに」
ジンは、自身のよく知る人物の姿を思い浮かべて言い、固く拳を握って両腕を体を前で重ねる。
それは、天を貫くようにそそり立つ、逆十字。
「装殻展開ッ!」
『命令受諾』
ジンの力強い声に応えた生体移植型補助頭脳の宣言で、彼のベルトから滲み出した流動形状記憶媒体が全身を覆う。
現れたのは、胸郭と両肩が分厚く盛り上がった、艶のある黒色の外殻を纏う装殻者。
全身を走る出力供給線と。
頭部にそびえる、先端が二股に別れた一本角。
雷の色を持った双眼を苛烈に輝かせて。
見るだけで強大な力を秘めていると分かる、その装殻者は。
「まさか……《黒の装殻》、だと……!?」
シルバービートが、緊張感を増した声で言う。
「俺が従う者は、黒の一号!」
ジンは、高らかに謳った。
「天を従え! 地を降し! 人を欺く!」
天を差した右手で、そのまま親指を下に向けて、横に手を払い。
「蔓延る邪悪に制裁を!」
最後に、握った拳を真っ直ぐ空へ。
引き締めた左腕を、硬く腰へ。
「俺は〝憤怒の雷神〟―――名を黒の伍号・大甲!」
一条の雷鳴が、轟音と共にジンに突き刺さり、彼の両腕が、雷電を纏う。
シルバービートも、スタッグブレードを展開して、双刃を構えた。
こうして。
世界最強に近い二人ーーー刃の白銀と、雷の漆黒を持つ二匹の甲虫が。
神山市の一角で、激突した。