第1節:銀次と謎の男
山間にある自然との調和を目的とした学園都市、神山市。
総人口は数千人。
そのほとんどがこの町にある日本有数のマンモス校【鴻上学園】に通う学生だ。
神山市は、様々なモデルケースの実験場と言う名目の元、山間の田舎街でありながら地方都市に負けない発展を遂げている。
その学園に通う一生徒である甲山銀次は。
無造作にまとめた銀髪と鋭い目を持つ、校内一の不良と呼ばれている。
着崩した制服姿の彼は、街で見かけた一人の男に話しかけた。
「おい」
「ん? 俺?」
声を掛けられて振り向いたのは、長身の青年だった。
銀次とはまた違う、ワイルド系ホストのような粗野な外見。
軽薄さを感じる雰囲気を纏い、ラフな服装をしている。
彼は商店街をぶらついていたが、銀次の顔なじみの多いこの辺りでは見かけない顔だった。
「お前、何者だ?」
銀次は、世界的企業国家『トリプルクローバー』三巨頭の一角である、YLC会長の孫であり。
この街の人材を選定する役割を持っている。
その調査員の一人から寄せられた情報を元に、彼はこの場に現れた。
不審者は、ヘッドハンティングをしているのではないか。
聞いた情報によって、最初に銀次が思い浮かべたのはそれだった。
しかし。
その不審人物が声を掛けた人間の名前を聞いて、銀次は呆れ返り。
同時に苛立ちを覚えて、少しお灸を据えようと直接声を掛けたのだ。
「このナンパ野郎……人んトコの生徒にちょっかい掛けてんじゃねーよ!」
そう。
その不審人物が声を掛けていたのは。
学園でも美人と名高い、女子生徒ばかりだったのだ。
成績優秀、容姿抜群のボクっ娘、望。
妖怪任侠の一人娘で、銀次の婚約者、御幸。
ロリっ娘報道少女、葉月。
その他諸々。
その全員が、銀次の懇意にしている女子生徒たちだった。
「お、じゃあ君がハーレム色男の銀次くんか。モテてていーね、クタバレ女の敵」
「誰がハーレム野郎だ! そんなモン作った覚えはねぇ!」
「はっ。美人ばっかりはべらせて説得力のカケラもねーな! 『ボクは何も知りませーん、女の子たちが勝手にー』ってか? はたから自分がどう見えてるかちょっと考えろよ女の敵」
「ッ嫌味な野郎だな殺すぞ! 事実無根だ!」
「ひー、不良コエー」
どこか楽しげに、快活に笑う男に、銀次は眉をひくつかせた。
―――何なんだ、コイツ!
軽薄なナンパ野郎だとばかり思っていたが、感じる印象が少し違った。
単に声を掛けていただけでなく、本当に目的がありそうな感じを覚える。
「とにかく、あいつらにちょっかいを出すな。あいつらは……」
「俺の女?」
「違げーっつってんだろーが! お前いい加減に……!」
「分かってるよ」
男は、不意に笑みの種類を変えた。
軽薄なナンパ野郎の笑みから―――酷薄な策士の笑みへと。
「『バース』の……いや、世界的企業YLCの次世代を担う優秀な人材、だろ?」
銀次は。
驚きながらも瞬間的に、脳内のスイッチを切り替えた。
「……分かっていて声を掛けたのか」
「勿論。神山市の実情を知らないバカはモグリだ。俺の目的はお前だよ―――甲山銀次くん?」
―――コイツ、知ってやがる!
銀次は意識の警戒レベルを最大限に引き上げた。
だらしなく出したシャツの下に隠した変身具……『アームギア』を強く意識しながら、不自然でないように手の位置を動かす。
しかし、その仕草は呆気なく読まれた。
「おっと。俺はここでやり合う気はねーよ。お前も困るだろ?」
両手を上げてひらひらさせる男に、しかし銀次は警戒は緩めないまま問い掛ける。
「お前、本当に何者だ?」
「別に大した人間じゃない。俺はジン」
男は、ようやく名前を名乗った。
そして、声を潜めて続ける。
「俺の話を聞いてくれるか? 銀次くん……いや、『バース』の大幹部、シルバービート」




