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バーサス校長

クリエイトの続きです。

思ったより長く続いてしまいました。

 思ってたより広い。

 それが初めて入った、校長室の第一印象だ。

 学園の長の為に用意されるらしく、狭く、貫禄のある重厚な造りかと思ったが、現代的なスマートな部屋だ。

 しかし、基本的には、校長室の体裁は保っている。

 接客用のソファと低い机。そして奥には立派な作業机がある。

 そこに校長先生は座っていた。

 金子先生が「失礼します」と軽く頭を下げる。

 巧も、猫実さん一緒にお辞儀をする。

 緊張のせいか、ぎこちないものになってしまった。

 校長先生の座る机の前に、3人揃って並ぶ。

「金子先生、どうしたんですか」

 いかにも落ち着いた校長先生の声で、少し安心する。

 もう少し怖いかと思った。

「お助け部の部費の件で参りました」

 そこからの両先生の会話は早口でよく聞き取れなかった。

 知らないところで話が進んで行く。

 聴こえない会話をBGMにして、校長室を見回す。

 やっぱり俺は耳が悪いんだな。

 いちいちそう思い出す。聴こえないのと聴こえるのが半分。聴こえないたびに思い出す。

 もうそれ自体の辛さはあまり感じない。聴こえないものは仕方がないと割り切れる。

 もっとも辛いのは、耳が聴こえないせいで周りが迷惑することだ。

 そのあとで、「難聴なんです、聴こえてませんでした。」と弁解しても言い訳じみてしまう。

 結局、失礼なことをしてしまっても誤解が解けないままになる。

 外から見えないということも大きなハンディだ。

「浅野」金子先生から声がかかる。

「説明してもらえるか」

 部費を必要とする理由を、だろう。

「はい」

 巧は、校長先生の目を見て話しだした。

「まず僕は耳が悪いんです」

 校長先生の表情にハテナマークがひとつ。

 突然言われたら誰だって困るよなあ、と思うが、ここは理解してもらうしかない。

「耳が悪いんで、映画とか苦手なんですよ。それなのに試写会に招待されてしまって、内容が理解できるか不安なんです。」

「なるほど」

 校長先生が相槌を打つ。ちゃんと話を理解しようとしてくれているようだ。

「だから、映画の理解の手引きとして原作の本をお助け部の部費で買っていただきたいのですが…」

 もうひとつ、校長先生のハテナマークが増える。その気持ちも、痛いほどよく分かる。

「君は、自分でその本を買えばいいのではなないか?映画を見ることは趣味だろう。趣味は自分で金を払うものだ。」

 そういう校長先生にすかさず、

「わたしは、そう思いません」と猫実さんが反論した。

 完全に巧の味方をしてくれる猫実さんであった。申し訳ない気持ちで、また心が痛む。

「部費で買うということは、部活動で役立つと思っているからです。」

 きっぱりとした声が校長室に響く。

「それはどういう風に役に立つんだ?」校長先生は疑いの目で猫実さんを見る。

 猫実さんはそれでも怯えることなく、校長先生と向き合っている。

 しばらく無言の時が続く。身が締まるような沈黙が訪れる。

 猫実さんは絶対に説得できる、と思っているんだろう。

「僕が、小説を書きます。」

 声が震えた。でも言わずにはいられなかった。

「僕は、耳が悪くて、人と関わることが苦手なんです。」

 他の3人が巧の言うことに耳を傾けている。

「でも、声が聞こえないぶん、それを補うために考えたり、想像したりするのは得意です。

 そして、それを文章にすることも好きです。」

 校長先生と目が合う。

 くじけそうになる心を、なんども持ち直す。

 猫実さんがいなかったら、きっとここまで勇気を持って自分の意見を言えただろうか。

 1人で、校長先生と話し合うことができただろうか。

「お助け部として、誰かの役に立つとしたら、小説を書くことが僕に出来ることだと思います。

 映画とか色々な創作物に触れるのは、自分の小説を高めることになる、と思います。

 でも僕は耳が悪くて、映画をちゃんと自分のものにできるか不安なんです。」

 ずっと、校長先生と目を合わせ続けたら、涙が出そうになった。

 深呼吸して、目を拭う。そして、その言葉を言う。

「だから、難聴の自分を助けてください」

 校長先生に頭を下げた。

 今までずっと、言えずにいた言葉だ。





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