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深い海の底から

作者: 十一屋 翠

なんかシリアスが書きたくなって書いた息抜きの短編です。

以外に長くなった。

 かつて世界は滅んだ。

 最終戦争とか言うのが起きて世界中の国々が戦争を行なった所為だ。

 戦争に次ぐ戦争、生み出され続ける新たな兵器。

 世界は新兵器展覧会の様だったと大人達は語る。

 けど俺には分からない。

 だってこの世界に兵器なんてないから。

 兵器がどんな物か分からないから。

 本当は大人達だって知らない。

 だって戦争が起きたのは何百年も昔の事だからだ。

 大人達も大人の大人達から聞いた話を俺達にしているに過ぎない。

 俺達の大昔の大人達は深い海の底に住み着いた。

 汚染が最も遅い場所、人類の技術で逃げる事の出来る場所へ。

 海底に穴を開け、底に生活可能な空間を作り出した。

 いつか汚染された世界が元に戻る日を信じて。


 ◆


 それは嘘だった。

 深い海の底でいつもの様に食料を探していた。

 いつ壊れるか分からない古い機械で海の底を探る。

 コレが壊れたらとんでもない水圧に押しつぶされてぺしゃんこになるか、空気が無くなるまで動かない機械に閉じ込められるから絶対に粗末に扱うなと大人達に厳しく言われた。

 ギシギシギシギシ、軋む音は年々酷くなって行く。

 昔は広かったらしい機械の中も、直す事の出来る人間がほとんど居なくなってからは程度の低い修理しか出来なくなり、遂には修理に使った部品で内部が埋め尽くされ大人では機械を操縦出来ないほどに狭くなってしまった。 

 自分ももう直ぐコレに乗れなくなる。

 そしたら地下で他の大人達の様に何もせずに過ごす事になるんだろうな。

 そう思うと心が折れそうになる。

 皆魚の目になる。

 何も考える事もなく何もしない目に。

 魚の目になる。


 嫌だ。


 そんな時おかしな物を見つけた。

 それは魚じゃなかった。

 朽ちて錆びた機械でもなかった。

 それは白くてツルツルした板だった。

 真ん中にガラス板が嵌められている。

 誰かの機械の部品だろうか? ソレにしてはきれい過ぎる、傷がほとんど付いていない。

 機械のアームを操作して回収した魚の中に紛れ込ませる。

 しばらく真面目に魚を探す振りをして港に帰る。

 機械を浮上させると大人達が近づいてくる。

 自分達の獲った魚を奪うためだ。

 機械に乗れなくなった大人達はこうやって自分達から魚を奪う。

 抵抗した奴等も居た。けど大人達は自分達よりも体が大きく何人も居る。

 だからどうやっても魚を奪われる。

 自分達に出来るのは小さな魚を大人の手の入らない機械の隙間に隠す事だけだ。

 勿論大人達もかつての自分達がやって来た事だから知っている。

 けどそれをやって俺達が死んだら機械を動かす人間が居なくなる。

 だからあえて見逃す。その程度の量が子供に相応しいと思っているからだ。

 だから上手くいった。

 白い板は薄かった。だから大人達の手の届かない狭い場所に隠せた。

 自分は僅かばかりの小さな魚と共に白い板を隠して一目散に隠れ家に逃げ込む。

 残った魚を狙う大人も居るからだ。

 最もそんな大人は大人達の魚の奪い合いにすら負けた負け犬だ。

 狭い場所を潜り抜ける子供の速さと小ささにはかなわない。

 隠れ家に戻った自分は他の子供に見つからない様に自分だけの隠れ家に逃げ込む。

 誰だって自分だけの隠れ家を持っていて、そこにもしもの時の為の大事な保存食として干した魚を隠すからだ。

 自分の隠れ家は誰にも見つけられた事がない。ここでならこの白い板の事も分かるだろう。


 ◆


 手が震えた。

 白い板の正体は直ぐに分かった。

 コレは機械だった。

 遠くの場所と連絡する事ができ、信じられないくらい多くの事を教えてくれる機械の大人だった。

 それよりもなによりも驚いたのは……


 世界が滅んでいなかった事だ。


 その機械が作られたのは東暦1550年。


 けれど、世界が滅んだのは東暦1000年だ。


 俺は機械の大人に聞いた。

 東暦1000年に最終戦争が起きたんじゃなかったのかと。

 機械の大人は答えた。

 東暦1000年に戦争は起きていないと。

 東暦1000年に起きた大きな事件は大規模な棄民のみだと。


 棄民


 それが自分達の正体だった。

 戦争がなくなり数百年。

 医学と技術の進歩で人間は驚くほど繁栄した。

 代わりに住む場所が無くなった。

 人が増えすぎ世界が黒く成る程高層ビルが建てられた。

 人の住む場所を作る為に食料を作るスペースがドンドン減っていった。

 だから食料も無くなっていった。

 人間は焦った。

 このままだと人間に人間が殺される。

 宇宙に逃げる方法も考えた。

 だが技術の問題で出来なかった。

 だから捨てる事にした。

 海の底に捨てる事にした。

 それが最終戦争の真実。


 憤った。


 真実を知った。

 世界は滅びていなかった。

 滅んだのは世界ではなく自分達だったのだ。

 だから逃げる事にした。

 数少ない機械を使って。

 信頼できる仲間にだけ真実を打ち明け、仲間を増やした。自分ひとりでは無理だからだ。

 機械には浮上ボタンがある。

 それはいつか地上に戻る時の為のボタンだ。

 けれどそのボタンはいつしか壊れてしまっていた。

 嘘だ、きっと滅んで無い世界の人間が最初から壊してたんだ。

 だから仲間達と協力して、わずかばかり機械を直せる大人を煽てて騙して脅して直させた。

 本当に直っているのか分からない機械の浮上ボタンを。

 いつ壊れるか分からない機械。

 その本当に直っているのか分からない浮上ボタンを。


 押した。


 ◆


 何日も経った。

 多くの仲間が沈んでいった。

 途中で機械が壊れたからだ。

 それでも上を目指した。

 どうせ戻れないからだ。

 どうせあのままでもいつか機械は壊れた。

 黒い世界が青くなった。

 見たことも無い多くの魚が見えてきた。

 天国という場所だと思った。

 コレだけの魚があれば何年も生きられる。

 世界がドンドン白くなる。上から大きくて信じられないくらい明るいライトの光が見える。

 誰かが居るんだ。

 そこに俺達以外の誰かが居るんだ。


 ◆


 機械が大きく揺れた。

 そして海と空気が半分半分になっている不思議な場所に出た。

 機械の大人に聞いたら海上だといわれた。

 機械の大人は酸素がある場所だと教えてくれた。

 本当だった。機械から出ても息が出来た。

 上のライトは太陽という光を生み出すモノだと教えられた。長時間見ると目が見えなくなると聞いて慌てて目を逸らした。 

 水上に上がれた機械は6機。最初の32機から随分減った。

 少し申し訳ないと思ったがソレよりも好奇心のほうが勝った。

 滅んでない世界を探検したかった。

 飽きるほど見た狭い海底の居住区ではない広い世界。

 残った自分達はお互いのマーカーを確認してからバラバラの方角に向かった。

 海上なら機械が壊れても息が出来る。海に入っても水圧で潰されない。何よりも海の中は食料しかない。

 どこまでも進み続けた。

 時折仲間のマーカーを確認していたが範囲外に出てしまったのかマーカーは途切れた。

 そして不思議な形の建造物を見つけた。

 緑と茶色の不思議な建造物だ。

 機械の大人は陸と教えてくれた。

 自分は機械から降りて陸に足を下ろした。

 少ない食料を持って歩く。

 機械の大人に聞いて町という滅んでいない人間の住む居住区を目指した。

 程なくして町に到達する。

 沢山の建造物の影、あれが町。


 ◆


 そこには誰も居なかった。

 町に人間は居なかった。

 驚いた。

 機械の大人は町に人間が居ると教えてくれたからだ。

 とても万という単位の沢山の人間が居ると。

 けど居なかった。だれも居なかった。

 だから機械の大人に聞いた。

 機械の大人は答えた。

 最終戦争が起こったと。


 起きたのは東暦1551年


 最終戦争で作り出された人間だけを殺す兵器によって人間は全滅した。

 残されたのは人間以外の生き物と人間が作った機械だけだった。

 つまり世界は本当に滅んでいたのだ。


 声を出して笑った。

 嘘が本当になっていたのだ。

 その後も機械の大人は答え続けた。

 人間だけを殺す機械はナノマシンというモノで、役目を終えたら殺してはいけない人間を殺さない為に自分で壊れて自然の一部に戻るらしい。

 つまり自分達は安全と言う事だ。

 その日は家と言う物に入り、ベッドと言う寝る為の道具で寝た。

 海の底には存在しない夢のような道具だった。

 これ程気持ちよく眠ったのは生まれて初めてだ。

 目が覚めた自分は考えた。

 これからどうしようと。

 はじめは滅んでいない世界の人間に会って文句を言おうと思った。

 何を言ってやろうとかんがえていた。

 けれどその相手が居なかった。

 だから歩く事にした。

 どこまでも先のある壁の無い世界、天上の無い世界を行く当ても無く歩く事にした。

 だってこの陸には何でもあるのだから。

 だから自分は歩く。共にいくのは機械の大人だけ。

 いつか歩けなくなるその日まで歩き続ける事にした。

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