悪魔と下僕(アムナート視点)
(アムナート視点)
俺の名前はアムナート・ハズート。父親はこの国の宰相なんかやってるお偉いさん。うちには姉が二人いるがそれぞれ嫁いでいるので、よっぽどやらかさない限り、俺が後継ぎなのは確定。代々宰相なんぞやってるもんで堅苦しい家なんだよなあ。
で、嫁いだ姉の片方が第三王子と縁続きらしくて。うちとしては中立を守りたかったらしいのに、残念なことで。で、父親が第一王子につき、俺は幼馴染みのシオンにつくことでバランスとろうってことらしいけど。ちなみに唯一の王女に関しては父親が「あれはない」って言い切って終わった。めっちゃ気になるのに理由教えてくんないし。
で、シオン。あいつ普段は正統派の王子様な顔してるけど、中身は悪魔なんじゃないかと。小さい頃、なんか気に障ることしたどっかの令息に真顔で
「口の中に釘を大量に突っ込んでから殴ってやろうか」
って宣言したかんね。ノリよく従者に「釘の準備してー」って言ったの俺だけど。さすがに令息相手だから本気ではしないとは思うけど、あいつならやっても不思議はない。ああ令息?号泣して嗚咽だけじゃなく色々漏らしてた。美しくない光景だった。シオンは悪魔みたいに笑ってたけど。
で、成長したシオンはまあモテることモテること。そりゃ第二王子であの美貌に色気。文武両道。誰にでも優しいとくれば。
で、悪魔は女の子をてきとーに引っかけて、飽きたらポイする遊びを始めやがった。最初はそう思ってたんだけど、どっちかっていうと、ポイするために引っかけてるらしいことにしばらくして気付いた。ポイした瞬間の絶望に支配された顔がいいらしい。悪魔は無事に立派な悪魔に成長しました。
で、俺は後始末をせざるをえないわけで。元々、女の子好きだしいいんだけどさ。ポイされた女の子を俺に惚れさせればシオンに恨みもいかないし。俺は可愛い女の子にちやほやされてうやむやにして自然消滅なわけで。
で、その悪魔のシオンがある日。
「新しい玩具を見つけた」
またか。どんまいどっかの可愛い女の子って思ってたら、なんとマリア・シャルロッテだと?え、俺あの豚の後始末とか嫌なんだけど。全力で拒否しようと思ったらなんと子飼いにするとか言い出した。は?あの見るからに愚鈍そうな豚を?ほんとお前、どうしたの…
俺はマリア・シャルロッテを知っている。というか、名前は知らなくてもアンナ公爵令嬢の後ろに控えてるデブな方と言えばこの学園なら大抵通じる。俺が名前まで知ってるのはたまたま同じクラスだからである。
そういえば、14歳の夏ごろに一度だけ接触したことがある。俺が階段を上っているとマリア・シャルロッテが巨体を揺らしながら下りてきたわけで。そのままだとただすれ違って終わるだけだが、あいつ、足を踏み外しやがった。
もうそのまま落ちろよと思ったけれど、レディーファースト云々の結果、手を伸ばして支えた。俺の筋肉と反射神経の勝利でマリア・シャルロッテは落ちることはなかった。俺の腕の中にいる豚は目を合わせることなく「申し訳ございません。重かったでしょう。ありがとうございます」とだけ述べるとさっさと去っていった。振り返りもしない。重かったでしょうというくらいなら痩せろ。っていうか、は?俺ですけど?確かにシオンほどではない。でも俺モテるんですけど?普通女の子なら「きゃっ」とか言って頬を染めたりするところじゃないの?そして俺はしばらく考えてから「ああ、シオンのことが好きだからか」という結論で納得した。だからあのワガママ極まりないアンナ様の仕打ちに耐えられるんだな。と思ったわけで。
で、そのシオンの新しい玩具がマリア・シャルロッテ?うっわー。願ってもないチャンスじゃん。よかったな、マリア・シャルロッテ。俺は後始末をしないけれど。せいぜい派手にポイされろ。
そう思っていたら、マリア・シャルロッテはみるみる痩せていき、勉強もがんばってる模様。恋する女は強いねー。ただちょっと俺の好みにしては、痩せすぎだけど。ただ、定期報告にも毎回シオンが出向いてる。や、あんた他の子飼いにはそんなことしないでしょーよ。定期報告の後はやたら機嫌いいし。え?シオンのがメロメロなの?は?と思っていたら、マリア・シャルロッテの方はどう見てもシオンに対しては礼儀を崩さないというか。打ち解けてはいるけども。いや、あれはどう見ても恋愛感情ないよね。忠実なる下僕じゃん。あいつ多分、下僕体質だわ。あー…納得した。あいつ、恋愛的な情緒が育ってないんだわ。俺に抱きしめられたのにきゃっとも言わない理由が、分かってよかった。とりあえず、あの悪魔が恋してるとか面白いわー。しかも相手が無反応。しばらくシオンで遊べるわ。でも、今まで王位に興味なかったシオンがやる気出したから俺の仕事が増えたんだよねー。あー、可愛い女の子に癒されたーい。