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扉を開けた世界

教室の隅でその長身を折り畳み、泣きじゃくっていたのはユリア様、その人であった。美しい目元を赤く染めている。怒鳴っていたのはソフィア様、泣かされていたのはどこぞの令嬢ではなくイケメン王女である。


「………は?」


さすがにその一言しか出てこなかった私は悪くないはずである。

後ろからソフィア様が私の肩に手を置く。振り返りたくない。切実に振り返りたくない。鈴の鳴るような可憐な声が甘い毒を含む。


「見られちゃったのはしょうがないわよね。場所を変えましょう」


そしてソフィア様が泣きじゃくるユリア様にあごをくいっくいっと動かすだけで、ユリア様は立ち上がり顔をいつもの麗人仕様に戻す。


「では、私の部屋へ行こう」


教室を出て前を歩く二人についていく。颯爽と歩くユリア様と可憐な空気を漂わせて歩くソフィア様。この二人が前世で言うところの百合とかレズとかそういう関係ではという噂は確かにあった。しかし、その噂自体は王位継承問題に関係がないと私も関心はなかった。しかし、百合とかレズとか以前に表向きの上下関係と逆の上下関係が二人にあるとしたら、それはシオン様に報告すべき案件である。


二人の後ろを歩いてたどり着いたのは寮の最上階、ユリア様の部屋の前である。この部屋で私は一体どのような情報を手に入れるのか。自ずと緊張が高まる。

するとユリア様が突然、先ほど泣きじゃくっていた時の気弱モードに戻って私の両手を握る。


「あの、マリアちゃんがいい子だって分かってるから部屋に入れるんだからね。引かないでね、引かないでね」


青い美しい瞳が必死である。


「はい、いい加減観念してとっとと開けなさい!!」


男気溢れるソフィア様によって扉が開かれた。



そこは、ピンクと白のフリルの世界であった。


「さ、入った、入ったー」


ソフィア様にユリア様共々背中を押され、部屋に入る。部屋の調度品はピンクと白を基調としており、ふんだんにレースとフリルがあしらわれている。the☆姫部屋。そっかー、そうだよねー、ユリア様、王女様だもんね-、姫部屋に住んでても不思議じゃないよねー…と私の思考がどこかへと逃げ始めた時にユリア様が声を出した。


「実は私、女の子の好きなこういうキラキラー、ふわふわなものが大好きなの!!でもほら、この外見でしょ?母がハイタスの王家出身なのは知ってる?」


「存じております」


マリア・シャルロッテが知らぬわけがない。貴族関連の家系譜だけはきっちりかっちり覚えていたのだ。王族なんぞ基礎中の基礎である。


「ハイタスはランダハルよりも平均身長が高いのよ。その血を受け継いで私も長身だから似合わないのは分かってるの!!でも好きなの!!キラキラが!ふわふわが!!」


青い瞳をキラキラさせてユリア様は語る。

そうか。個人の趣味嗜好は自由である。そんなことで私は引いたりしない。

すると、そこで壁際で見守っていたソフィア様が声を出した。


「で、あんたシオンの子飼いでしょ?」


「………は?」


なぜそのような重要機密がバレているのか。


「ユリアのことはほっといてくれていいから。この子、将来はハイタスの男と結婚する気満々だから。王位継承なんざ興味の欠片もないわよ。まあユリアの母親はハイタスの血をランダハルに残したいとか色々動いてるけれども。本人のやる気がこれじゃあね。王も理解しているわ」


「そう!私はハイタスの私より身長が高くてきちんとお姫様扱いしてくれる男の人のお嫁さんになるのー」


「あ…はい、そうですか」


目まぐるしい展開に着いていくのに必死である。


「そういえば!マリアちゃんはシオンとアムナート、どっちが本命なの?」


目をキラキラさせて聞いてくるユリア様。吐き捨てるように遮ったのがソフィア様であった。


「アムナートは止めておきなさいよ。あいつはクズよ」


「あの、何かあったのでしょうか?」


差し出がましいのを承知で尋ねてみる。


「何もないわよ」


可憐な顔を歪ませてソフィア様は言うけれども、それ、何かあったと言ってるようなものです。


結局、その夜はユリア様の部屋に泊まることとなり、明け方までユリア様の理想の男性像について聞かされていた。

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