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快気祝い







昨日からなかなか受けられなかった講義をやっと受けて、放課後、私はリリーの会へとやってきた。

サリーとローナには、アムナート様の恋人になることになりそうだという曖昧な説明をした。二人は大喜びして、いつからそのようなことになどと質問を浴びせられたがこれもまた曖昧に濁しておいた。

リリーの会のサロン室の扉を開けると、さすがに令嬢力を高める会である。不躾な視線を浴びることはなかった。そして、今日は部屋の最奥のテーブルに、ユリア様がいた。


「ああ、マリア・シャルロッテ。昨日は倒れたそうだね。大丈夫?」


ユリア様は気さくに問いかけながら立ち上がる。この方もまた情報網が広い。


「これはハイタス帝国の貴族の間で食べられているお菓子だそうだ。お見舞いにあげよう」


この世界は一つの大きな大陸が四つの国で占められている。北東のランダハル王国、北西のムーディーズ帝国、南東のハイタス帝国、南西のカナダルアである。四国は和平同盟を結んでおり、大きな戦争は今のところない。だからこそ、ランダハルが悠長に跡継ぎ問題で揉めていられるのだ。


「身に余る光栄です、ユリア様」


「ああ、チョコレートというお菓子らしい」


私の目が輝いたのは言うまでもない。チョコレートとはあの前世の私の大好物だったチョコレートなのだろうか。そうか、熱帯地方のハイタス帝国ではないとカカオが栽培できないのか。私の目の輝きを見たユリア様は「そうか、食べたことがあったか」と呟いていた。


「それで、もう体調はよろしいの?マリア様」


さりげなくユリア様の横に控えていたソフィア様が問う。


「はい、ソフィア様」


私の返答にソフィア様はにっこりと微笑んだ。天使のようである。


「では、快気祝いにマリア様にお化粧をしてあげてはどうかしら?ユリア」


「それはいいね」


ユリア様が私の手を取り、あれよあれよという間に、部屋の中心の椅子に腰掛けさせられていた。

机の上には誰かが手早く用意したメイクボックス、目の前には微笑むユリア様である。リリーの会は仕事が早い。

ユリア様は私の前髪を上げてクリップで留めると早速、お化粧を施し始めた。


「君がお化粧をしているところは見たことがないのだが、休みの日にもしないのかい?」


「はい。初めてでございます」


「そう。母君の大切な仕事を奪ってしまったな」


「いえ、母は幼少の頃に亡くなっておりますので」


「それはすまないことを言ってしまった」


許しておくれ、と言いながらユリア様は手慣れた様子で刷毛を操る。


「さあ、仕上げだ。唇を閉じて」


色気たっぷりにユリア様が囁く。周りの令嬢たちの中にはちらほらと頬を染めている者がいる。私が唇を閉じるとユリア様は細い刷毛で紅を引く。間近で美しい顔を拝見すると、やはりどことなくシオン様と顔立ちが似ている気がする。髪や瞳の色が違うので気付かなかったが姉弟なだけのことはある。


「完成だ」


鏡を渡されて、自分の顔を見た。これはどこの愛人だ、という感想しか出てこなかった。最近、忙しくて鏡を見ていなかったせいもある。しかし、銀髪に紫紺の瞳、泣き黒子が特徴のこの国においては薄めの顔立ちだったが、寂しそうな顔立ちを最大限に活かした化粧により、完全に前世の世界では愛人である。


「素敵ですわ、マリア様」


ソフィア様が満足そうに微笑んでいる。


「ありがとうございます」


ユリア様が椅子に座る私の前で膝を付き、手を取り、口付けた。


「美しい女の子は好きだよ」


周りの令嬢たちは全員頬を薔薇色に染め、うっとりしている。恐るべし、リリーの会である。私はユリア様がそのままくださった化粧道具と忘れずにチョコレートを確保し、部屋から撤退することにした。

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