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温室のアムナート様






アムナート様の目的はあっさり本人の口から予想以上に早く聞くことができた。


「大丈夫!私たちが付いてるわ!!」


頼もしいサリーとローナに両脇を固められ、教室に入る。ちなみに朝御飯は食べ損ねた。前世でも朝御飯はきちんと食べていたし、マリア・シャルロッテとしての今世のダイエット中でも量は減らしていたがきちんと食べていたのだ。

教室に入るとクラスメートが一斉に私を見た。今日はこれの繰り返しだろうと諦めたところで、アムナート様がにこやかに話しかけてきた。


「おはよー、マリア」


「おはようございます、アムナート様」


教室中の生徒が聞き耳を立てる。さすがに貴族のご令息やご令嬢だけあって顔をこちらに向けるものは少ないが、気配で分かる。


「ちょっといいかな?」


アムナート様はサリーとローナを見る。二人は首を縦にぶんぶんと振る。

前世の懐かしき童謡ドナドナを脳内再生しながら、私はアムナート様にさりげなく手を引かれ、教室から立ち去った。

廊下を歩きながらチャイムの音を聞く。ああ、今日も講義を受けられない。前世では優等生だった私としては非常に心苦しいところである。階段を上るアムナート様の背中を恨めしく見てしまったのは不可抗力というやつだ。



たどり着いたのは、屋上だった。

一応、鍵がかかっており、立ち入り禁止のその場所であるがアムナート様はポケットから当然のように鍵を出して扉を開けた。

屋上には、温室が設えられていた。室内に入ると暖かい。咲き誇る薔薇たちに囲まれて白い机とソファーが用意されている。机の上にはパンやシチューが並べられていた。


「朝御飯、食べられなかったんでしょー。どーぞ」


その情報はどこから得たんだ。


「ありがとうございます」


しかし、お腹が空いているのは事実であるのでアムナート様に続いてソファーに座る。


「食べながらでいいから聞いてねー」


あまり礼儀作法上、よろしくはないが許可されたのだ。私は柔らかい白パンをちぎり口に運ぶ。


「ほらー、マリアちゃんの生徒会入りの話があるでしょー?」


「はい」


「さすがにさー、男爵令嬢が生徒会入りとなると色々めんどくさいわけ」


主にアンナ様とかー、とアムナート様は私の向かいのソファーに寝そべる。行儀も何もあったもんじゃないな。上位の人間の話を食べながら聞いてる私に言えたことではないが。

確かに、私が生徒会入りとなるとアンナ様は黙っていないだろう。頭は悪いが公爵令嬢である。言うことを聞く人間は山ほどいるだろう。この間まで、私がその立場であったわけであるが故にそれはよく分かる。



「で、俺の恋人ってことにしちゃえば楽だしー」


アムナート様が猫のように伸びをしている。そして、力を抜いたあと私を面白そうに見つめて問う。



「ねえ、それでいい?」



それは、まるで私に是非を述べる権限があるかのような質問である。しかし、私の答えは決まっている。


「承りました」



シオン様の望むように、私は動かねばならないのだ。



「つまんないのー」



アムナート様は立ち上がるとおっしゃった。面白いとかつらまないとかいう問題ではない気がするが、この男もシオン様と幼少の頃より付き合いがあるのである。諦めよう。



「じゃ、好きなだけ食べてから教室戻りなよー」


「ありがとうございます」


「この鍵もあげるー」


屋上の鍵を机の上に置くと、アムナート様は立ち去った。

私は、ひとしきり食べると温室を出て、屋上の鍵をかける。食べ終わった残りをどうしていいのか分からなかったが、アムナート様が何の手配もしていないわけがないだろうとそのままにした。

さて、やっと講義が受けられる。


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