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ああ、つるぺた





リリーの会に潜入してから三週間が経った。肝心のユリア様はほとんど会には現れない。シオン様に報告できるほどの収穫がなくふがいない限りである。

サリーとローナとは良好な関係を築いている。しっかり者のサリーとおっとりしたローナのコンビは眺めているだけで安らぐ。二人には私と仲良くするとアンナ様に睨まれるのではと言ったところ「リリーの会の結束を何だと思ってらっしゃるの?」と自信満々に言われた。任務のために潜入したにも関わらず、少し、心が温まった気がした。一人のマイペースな行動に慣れていたが、やはりどこかで寂しかったのかもしれないと思う。

そんなことをつらつらと思いながら、授業を受けていた。政治学である。今は政治史について触れている。王制のこの国であるが、官吏などの配置があるわけで、時代と共に変遷している。学年末試験でシオン様を、そして周りを納得させるだけの成績を叩き出さなければならない私は、政治史に関しては暗記科目なので辛い。今までの蓄積がないのである。なぜ勉強しなかった、マリア・シャルロッテよ。過去を振り返ったところで仕方がないし、今ここに前世の私の記憶があるということ自体がイレギュラーなのだが、責めたくなる気持ちも分かってほしい。


「マリア・シャルロッテ」


「はい」


教官に指名されて立ち上がろうとしたその時、ガタンという派手な音を立てて私は倒れた。「あ、意識飛ぶかも」という思考を最後に全ては暗転した。




次に視界に写ったのは、白い天井だった。白いカーテンに囲まれたここは保健室かとぼんやり認識したところで声がした。


「いいご身分だな、マリア・シャルロッテ」


「シオン様、申し訳ございません」


目が覚めたら悪魔がベッドの傍に座っていた。しかもご立腹のようだ。これはあまり良い環境ではない。顔は異常に綺麗なのだが、それが更に彼のかけてくるプレッシャーを増大させている。逃げたいところだが逃げ場はないし、主なのだ。平謝りして許してもらえないだろうか。


「ちょっと!マリア・シャルロッテの目が覚めたら呼びなさいって言ってたでしょ!!」


カーテンをシャッと華麗に引きながら、救世主の登場である。保健室の番人、ポプラ先生である。150セルに満たない身長にロリ顔。そして、巨乳。ああ、巨乳。マリア・シャルロッテ、胸ないもんなあ…と思わず自分のつるぺたな胸を触ってしまう。痩せると同時に消え去ったわけである。さて、前世の記憶を引っ張り出して、どこの萌えキャラだと突っ込んでしまいそうになるポプラ先生であるが、頼りになるいい先生である。前世の記憶が戻るまでは健康診断の度に呼び出されて食生活の改善と適度な運動を嫌というほど勧められ、苦手な人というカテゴリだったが。


「気分はどう?頭痛いとかない?」


「いえ、大丈夫です」


「そう」


テキパキとコップに入った水を勧めながら、脈拍や下まぶたを引っ張り色を確認する。


「落ち着いたら、シオン・ランダハルともどもこっちに来なさい。話があるわ」


そう言うと、先生はカーテンを閉めて去っていった。痛切に、行かないでほしかった。


「お前、持病とかはあるのか?」


シオン様が眉をしかめながら問う。


「いえ、特にはないはずです」


「一応、俺の主治医にも診てもらうか」


この人は、なんと畏れ多いことをさらっと言うのだ。王族の主治医に診てもらうなどと田舎の男爵令嬢として分を弁えてご遠慮したい。


「とりあえず、もう落ち着きましたので、ポプラ先生のところへ行きましょう」


秘技、話を逸らす。いや、秘技でもなんでもないし、そもそもシオン様は一度言い出したら譲らないタイプとしか思えないのだが、ポプラ先生ならうまいこと諌めてくれるかもしれない。御典医の診察は遠慮したい。


「ああ」


シオン様はとても自然な動作で起き上がる私に手を貸し、ベッドから歩く際にはそっと背中に手を添えた。その流れるような動きに「女慣れしてるもんなこの主は」と思ったが、私は女である前に下僕なので何だかむず痒かった。

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