悪魔に提案(アムナート視点)
マリア・シャルロッテがリリーの会に潜入して、二週間が経とうとしている。その間、ユリア様にマリアがシオンの下僕であることがバレるのを警戒して、直接接触することはない。と、いうことで、ただ今、シオンは絶賛、不機嫌モードである。二週間前はやたら浮かれてたのになんなのお前。女子なの?姉が二人いる俺は、この手の不機嫌には慣れている。しかし、ねえ。不機嫌なのは可愛らしい女の子ではなくて、悪魔である。機嫌をとる気も起きやしない。一方のマリア・シャルロッテが女の子の友達が出来て楽しそうなもんだから、不機嫌さに拍車かけてるよねえ。サリーとローナはそんなに目立つ容姿ではないけどしっかりしたいい子だと他の女の子たちの噂に聞いてる。よっぽどのことがない限り、マリア・シャルロッテに害はないと思うからそれはいいんだけどさあ。それよりも俺はこれから、シオンに爆弾を落とさなきゃなんないわけで。やだなーもう。でもそれがベストだもんなあ。
「シオンさあ、マリアを生徒会に入れるんだって?」
「ああ」
「あのさー、いくら成績優秀だろうとあれ、田舎の男爵令嬢だよ?しかも父親、社交界にも顔を出しやしないし」
ああ、さらに不機嫌になった。めんどくさいなあー。
「何とかできない俺だと思うか?」
「そりゃさー、何とかできるよ。何とかはできるけど、身の安全は保障できないまでがその質問への答えとしては正解じゃないの?」
眉間にシワ寄せちゃってまあ。元々、生徒会に入れたいのはシオンのワガママなんだからさー。
「毎朝、傷だらけにされてるマリアの机を交換してるの誰だと思ってんのさ」
リリーの会に入ってからは沈静化しているけれども。
「少なくともお前ではない」
「そうだけど!そこが問題じゃねえよ!!」
「分かってる…だが手放す気は毛頭ない」
でしょうね。そんなにこっち睨まないでよ。
「この前の不正疑惑もアンナ様でしょ?生徒会入りとか火に油注ぐようなもんじゃん」
「それも承知の上だ。この程度で潰れるような女ではないだろう、あれは」
まあその信頼はともかくとして。でも、不正疑惑の時に心配のあまり苛ついて八つ当たりしまくってたの誰でしたっけ?だから絶対俺が怒られるんだからこの提案はしたくないんだけどさあ。
「シオン、軍の力量を決めるのは優秀な兵士でも兵士たちの平均値でもない。一番弱い兵士だ」
一番弱い兵士が作戦を台無しにしたら元も子もないかんなー。
「だから、俺は提案する」
やばいなー。今日が俺の命日かなあ。
「聞こう」
まあ宰相は王族を諌めるのも仕事のうち。とはいえ、命懸けなんだよなあ。さて、俺は覚悟を決めよう。
「マリア・シャルロッテ、俺の恋人にしていーい?」