女子力改め令嬢力
「さて、ようこそ、リリーの会へ。マリア様」
サリーが柔らかく微笑む。サリーの父は貴族であるが、母親は庶民である。黒髪に緑の瞳に眼鏡をかけている。
同じように柔らかく微笑んでいる赤毛にそばかすのローナは両親ともに貴族であり、子沢山である。
ここまで…ここまで条件が揃っていたら私はどうしてもあの質問がしたい。しかし、額に傷があるかという不躾な質問はできない。しかし、聞きたい。どうすれば…どうすればいいのか。
サリーとローナのそれぞれの自己紹介を聞き流して私の頭はどうやって二人が魔法使いなのかを確認するかを考えることに必死だった。私の自己紹介は口が勝手に動いていたが、二人の反応を見るにそこまで奇妙なことは言ってないはずである。
そして、一通り自己紹介が終わり、場の空気が緩んだ。今だ、と私の中の何かが告げた。
「お二人は大変可愛らしく妖精のようですわね。魔法が使えたりしても不思議じゃありませんわ」
サリーとローナは目を丸くし、その後鈴を転がすような声で笑いだした。
「そんなことあるわけごさいませんわ。面白いお方なのねマリア様は」
いや、前世の知識がどうしてもこれを聞けと言うのです。
「でも、それはリリーの会の目的にも関わっておりますわ」
ローナが微笑む。
やはり、やはり魔法使いなのか。
「リリーの会は、令嬢としての力量を磨くことを目的としておりますの」
なんだ、魔法は関係ないのかと私は一瞬気落ちしたが、そもそもの目的は潜入捜査であり、今は結構大切な話である。真面目に聞いていないとあの悪魔のような主が怖い。
「この会におりますと、いかに見目麗しく礼儀作法を弁え、令嬢として正しい行動をとるのかということを考えさせられますわ」
確かに、そう語るローナには令嬢としての風格が漂っている。
「私の母は庶民の出身ですから、ここにおりますと社交界の情報も入ってくるのでありがたいんですの」
それは確かに有益なことである。私の父は引きこもりであり、王族主催のパーティーには辛うじて出席しているようだが、彼から社交界の情報を得るのは難しい。そうなるとこの会にいることによって、社交界の情報が入ってくることは大変ありがたい。それがひいてはシオン様のためにもなる。王族である以上、彼の元にも情報ならあるだろうが男目線のものと女目線のものでは随分開きがあるだろう。
私がそんなことを考えていると話題はいつのまにか美容へと移っていた。
ローナのそばかすを私はチャーミングだと思うのだが、彼女はとても気にしているらしい。手入れについて熱く語っている。
私のダイエットについての話にもなり、これは久々の女の子との会話であり、なかなか楽しかった。
帰りにはかなり打ち解けることができ、また明日と手を振り別れた時には前世の数少ない友達のことを思い出して少し、しんみりとしてしまった。