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コミュ障だったもんで



授業終了のチャイムが鳴り響く。キーンコーンカーンコーンというあの懐かしき音ではない。時計塔より荘厳な鐘の音が響き渡るのである。一度、時計塔の内部に入ってみたいものである。その鐘の音が鳴り終わる前に教室の後ろの扉が開いた。担任の先生が前の扉を開き出た瞬間のことであった。

そこに佇むのは、紅茶色の髪に同色の瞳の可憐な美少女ソフィア様である。

静まり返った教室に臆することなく足を踏み入れ、私の机までお出でくださるとにこやかにおっしゃった。


「ごきげんよう、マリア様」


この言葉のセットに前世で読んだ少女小説の世界が脳内に広がったが、一瞬で消し去り、私は立ち上がり礼を取る。

そんな私ににこやかに微笑むとそっと腕を取り、廊下へと促しながらソフィア様はおっしゃる。


「そんなに畏まらないでちょうだい、私たちの仲ではないの」


どんな仲だ。むしろ昨日初めて会った。しかし、その言葉は静かな教室によく響く。そこへ話しかける勇者が現れた。


「畏れ入ります、ソフィア様」


「あら、サリーにローナ。そういえば、あなたたちもこのクラスだったわね。一緒に参りましょう、リリーの会へ」


ソフィア様の宣言ののち、私たちは教室を後にした。教室を出る間際に振り返るとアンナ様の顔が赤くいつもより目の鋭角が際立っていた。なるほど。定期試験の不正疑惑の話の出所は彼女だったのかもしれない。とはいえ、気持ちを切り替えて、いざ、リリーの会へ参らん。


廊下を歩きながらソフィア様は問う。


「リリーの会については、どの程度ご存知かしら?」


「ユリア様を支援する会という程度のことしか把握しておりません」


「そうでしょうね。でも、それは少し違うわ、ねえ?」


ソフィア様が後ろを振り返り同意を促す。二人はコクコク顔を縦に振り「違います」と同時に述べる。先程からソフィア様は私の腕を取り廊下を闊歩されてるわけである。すれ違う生徒には男女問わず二度見されている。対外的なアピールとしては効果があるだろう。


「そうね。私が説明するよりも二人に任せておいた方がいいわね。サリー、ローナ、マリアさんをよろしくね」


そして、目の前の部屋の扉をノックする。ここがリリーの会総本部である。この学園ではサロンを作ることは認められ、部屋も提供されている。もっとも、サロンを作るのは歴代王女しかいないのだが。前例を壊すというのは難しいことであるし、ましてや王族に対する不敬と捉えられかねないことは誰もしないだろう。


室内から一人の女生徒が迎えに出てきた。

ミーナ・キャロリア。伯爵令嬢。領地は国の南東。代々続く歴史ある伯爵家の長女。母もまた伯爵令嬢であり、側室はいない。子どもはミーナ嬢を含めて三人。ミーナ嬢の兄である長男が後継ぎに決まっており、次男は来年この学園に入学する。マリア・シャルロッテの知識が頭に浮かぶ。

しかし、目の前のミーナ様は、頭の先から爪の先まで余すところなく磨かれている。金髪には天使の輪があり、爪まで綺麗に手入れされている。そういえば、サリー様とローナ様も際立った美人ではないが、きちんと手入れされていることがそこかしこからうかがえる。こ、これが女子力なのか…。前世においてもそんなものとは無縁であったし、今世においても記憶が甦ってからは忙しすぎてそれどころではなかった。右手の中指にはペンダコが出来ている。


「では、どうぞ」


促されて入室すると、そこは華美な装飾であるが居心地のよさそうな部屋であった。白を基調としたインテリアに卓上には見た目からして麗しいお菓子が並んでいる。令嬢たちは、それぞれのテーブルに分かれ、穏やかに語らっている。果たしてこの中にペンダコのある仲間はいるのであろうか。いや、いないだろう。


「こちらへどうぞ」


サリー様とローナ様の後ろに従って部屋の隅のテーブルへと来た。その間も不躾な視線を浴びることはなかった。ソフィア様は、自然な動作で別のテーブルのご令嬢たちの輪の中に入っていく。女子力…驚異の女子力。前世の記憶は役に立たない。「器用そうだよね、対人関係以外は」と言われた私である。がんばれ、今世のマリア・シャルロッテ。あのアンナ様に対応していただろう能力を活かすんだ。

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