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悪魔は微笑んだ

前世の私はどうやら日本の平凡な家庭に生まれ育ち、両親と一つ上の兄に可愛がられのーてんきな大学生だった模様。他人より少々記憶力と要領がよく、実家から通える国内有数の国立大学文学部にて源氏物語の研究に明け暮れていた。らしい。

なぜ死んだのかは思い出せないが、今はマリア・シャルロッテ。男爵令嬢である。中世ヨーロッパのような社会に生まれ変わったわけである。前世でも苦労知らずに生活していた運の良さを誇っていただけのことはあり、今世は貴族階級である。そういえば、両親と兄は大丈夫かなあ。愛情深く私を育ててくれていたので死んでしまって非常に申し訳ない。大切にされているという実感の常にある素晴らしい家庭であった。が、とりあえず頭を切り替えて今世である。

ここは、貴族階級の令息令嬢の集う学校。夕陽が射し込む放課後の教室。小刀を握りしめて固まる私。それを冷めた目で見つめるイケメン。

どうやら運の良さを使い果たしたようである。



「マリア!!あの女の机を傷だらけにしてきてちょうだい!!」


と悪役令嬢アンナ様はおっしゃったわけで、私はへいこらとアンナ様の大嫌いなユーリ様の机に傷をつけていた。ユーリ様はアンナ様が婚約者になりたがっている第二王子シオン様と最近いちゃこらしている私と同じく男爵令嬢である。ちなみにアンナ様は公爵令嬢であるから階級が上であるが残念な悪役令嬢である。見た目もキツそうであるがそこそこ美しいのだし、家の権力で外堀を埋めればいいというのに、ユーリ様にちんけな嫌がらせを繰り返している。残念である。一方、ユーリ様は嫌がらせをされても健気にがんばる私!!というところを的確にシオン様にアピールするしたたかな女性である。女からは嫌われるタイプであるが。そんなわけで、悪役令嬢アンナ様の下っ端である私、マリア・シャルロッテはユーリ様の机に小刀で傷を付けているまさにそこをアンナ様の熱愛する第二王子シオン様にガッツリ目撃されたわけである。そこで前世の記憶がぶわーっと私の脳内に訪れたわけである。

なんという事態。

詰んでいる。


「何をしている…と聞くのも愚かしいな」


シオン様は性格の悪そうな笑顔を浮かべる。

しっかし、性格の悪そうな笑顔も似合うとはイケメンである。黒髪黒目という馴染み深い色であるが彫りの深い綺麗に整った顔をしている。無駄に色気を振り撒くのも止めてほしい。こちとら、悪役令嬢の下っ端Bにふさわしくどっしりした体型に陰険そうな顔をしているのである。眩しいから止めてほしい。

とりあえず、言い訳しても無駄である。現場を抑えられたのだ。お父様ごめんよー。とあまり関わった記憶のない領地にいる父に謝罪しつつ。


「左様でございますわね」


と返す。


シオン様は美しい顔をさらに性格の悪そうに歪め


「開き直るのか?」


と問う。


「無駄なことはしたくありませんので」


とにこやかに応えるが、現在の私は残念な容姿である。にこやかにどころか豚がブヒブヒ言ってるようにしか見えないのではないのだろうか。


「マリア・シャルロッテだな、たしか。アンナの指示か?」


「はい」


シオン様は少し驚いたような顔をする。がこちらも私が覚えられていたことに少々驚く。なにせ下っ端Bですもんで。


「忠誠心はないのか?お前には」


「ええまあ。私は父の位も高くないですし、このような容姿ですので強い者に巻かれなければ生き延びれませんもの。アンナ様は扱いやすいですし、なかなかよい権力でしたけれども、私のことはあっさり見限るでしょう?忠誠を尽くす義理がどこに?」


「なるほど。一理あるな」


後の報復を考えると黙っておいた方がいいだろうが、ユーリ様を溺愛する第二王子に見つかった時点でわが家の没落は免れないだろう。それならば、第二王子に媚びておいた方がまだ可能性はある。


シオン様は綺麗な口元を歪めて笑う。その人間離れした美しさと合わせるといっそ悪魔的である。その悪魔の口から出た次の言葉に私は今度こそ本当に驚いた。




「いいだろう。一年猶予をやる」



……は?猶予?

というか、そもそも溺愛するユーリ様の机に傷をつけてるんですよね、私は。そういえば、最初から彼には怒りの気配がない。



「あの…ユーリ様がお好きなのでは?」



「男爵令嬢と婚約するメリットがどこにある?女避けに決まってるだろうが。あいつなら女に嫌われやすいし、使い捨てても構わない身分だからな」




拝啓、前世の家族の皆様

王子様というのはゲスな生き物だったみたいです。

かつて小説で読んで憧れた自分に目を覚ませと伝えてあげたいです。





「権力が好きなら俺がくれてやる。這い上がってこい」




夕陽の射し込む教室で王子様は悪魔のように微笑んだ。

とりあえず、私は男爵令嬢であるが最早令嬢らしさなど彼は求めていないだろう。よって、賭けさせていただこう。



膝を付き、頭を垂れ、胸に手を当てる。



「御意」



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