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コードLP  作者: ノーリターン新
コードLP・第三章
75/76

ときめきのプログラム

「フライングスパルタン小隊との距離を維持してください」

「エンゲージポイントまで50セグ」

「指揮官機のタンゴBBが遅れるなと言ってきています」


「サチコさん」

「例のものは用意できてる?」


「できてはいますがマスターケイト」

「トリン艦隊司令に許可を取っていません」

「交戦規定にも違反しています」

「禁固刑は間違いないでしょう」


「サチコさんはお堅いなあ」

「そんなんじゃいい女になれないわよお」


宇宙戦闘機コンバットフライ6式コックピットでの戦闘エーアイと搭乗員ケイト・ケチャップマンの会話。

遠くでチーズ平和維持軍艦隊のレーザー主砲攻撃レーザー帯が数十本一直線に流れる。


「さあ」

「このむなくっそ悪い戦争を終わらせるよ」


「エンゲージ、会敵します」


いくつもの光が交錯する。

命を懸けた殺し合いが始まる。


ぶわっ


キューーン


「いくわよ!」

「オリヒメさん!」

「最短ルートで敵艦隊にアタックできるルートを探して!」


「これです」

「ルートEから左回りに攻撃を仕掛けることで被害を最小限にとどめることができます」


「OK!」

「さあ!」

「B中隊、あたしにつづけえ!!」


宇宙戦闘機コンバットフライ六式戦内コクピットでシャムロッド・ブルーベリーが叫ぶ。

彼女は以前の機体、5式戦に続き6式戦までアンチ重力機構を解除させて作戦に臨んでいる。

幾つもの宇宙戦闘機の光が闇に吸い込まれてゆく。敵は目視できない。

広域レーダーを頼りに目標を目指す。


宇宙は戦いを認めてはいない。

これがトリン達擬人が出した答え。








一か月前、ノリミィ・タイタンの報告。


今私は、惑星チーズ北大陸悠久ベース軍事空軍基地イカルガに居る。

愛車エアカー「フォンドゥ・ネオ」を地上駐車場に駐車させて、車の外で立ちサングラスホロに手をかけた。

私は取材を申し込んだ。擬人コードLP999SS、ミサキという女性擬人に会いたいと思った。

彼女は400年ほど前に既に人工睡眠に入り、今はこの基地で眠り続けている。

その彼女が起きる時が来たのだ。私はその記念すべき瞬間に立ち会いたいと申し込んだ。

ミサキさんは500年前、あのデカパイ擬人のトリン・カスタネットが守るはずだった、惑星の先駆者の人間男性の防衛任務を果たした。

記録によれば、人間の先駆者の彼は76歳で天命を全うするまで、彼女と行動を共にして結婚までしていたそうだ。

今でこそ、人間と擬人の結婚は性別問わず認められているが、当時は法律もなく差別もあったらしい。

彼は有名な宇宙戦闘機コンバットフライの製造会社ミサキ重工の創設者。

私はミサキという擬人女性こそが、この惑星チーズの先駆者だと思う。


「キーーン・・・」


3機のコンバットフライ宇宙戦闘機6式が編隊を組み、基地上空を低空飛行で飛翔してゆく。

パイロットは多分擬人女性だろう。

黄昏の基地はオレンジ色に染まっている。遠くで人間作業員がコンテナを運んでいる。

滑走路ではコンバットフライ6式2機がタキシングしている。

誘導員マーシャラーが手を振って合図している。

その光景がえらく時代錯誤な感じがするのはなぜだろう。

垂直上昇も出来、重力キャンセラーが搭載されている現代では、滑走路というものはたいして有効ではなくなった。

それでも有事を想定して滑走路での訓練が義務化されている。

管制タワーで人影が見える、こちらを見ているようだ。

ミサキの擬人人生は戦いに明け暮れたが、彼女は誰よりも平和を望んでいた。

伴侶だった人間男性ツトム・ワンダ氏の心を守れなかったことが心残りだと言う。

彼の生命を守り、彼と生涯を共にした彼女は、後悔したのだろうか。

左手に持つPDF端末に、ミサキさんのホログラム写真が投影されている。

おさげにそばかす顔のミサキさんが、青色の綿ツナギを着て正面を向いている。

周りには、当時の戦友だろう女性擬人が数名にっこり笑っている。

戦地での休息のひとコマだろうか。

彼女だけなぜか寂しそうな顔をしているように見える。

これは私ごとだが、私の先祖のサダコ・タイタンが当時の記録に残っている。

もう一枚写真をスクロールしてみる。高齢のサダコの笑顔が眩しい。

隣のおじいさんは旦那さんだろうか。


「お待たせしました」

「ではまいりましょうか」


事務員の擬人女性ユウキ・トマリギさんに案内されて、基地内に入る。

ユウキさんの綿で縫製された軍服は綺麗にクリーニングされていて、布の匂いがする。

緑色の市販軍服に青色のベレー帽。黒いメガネは伊達だろう。

白いハイヒールは擬人の伝統だと言うが、このハイヒールというやつはどうにも私には合わない。

幾つものパルスロックゲートを超えて、基地最下層まで飛翔エレベータで降りる。

真っ白い円形の縦穴の中を頭を下にして泳ぐように降りてゆく。

脳に来る感覚がまだ慣れない、身体全部生身の人間だし私は宇宙世代ではないから。

ユウキさんが先導してくれるから泳げるけど、私はその仕組みがさっぱり理解できない。

確か、ヒューマニクスが革命的進化をもたらしたとか。

脳とコンピュータどころか、脳ネットワークが世界を覆いつくす未来が来ると言う。


「それでも争いはなくならない」


「何か言いましたか、タイタンさん」


「高度なテクノロジーがもたらされても、人間は愚かなサルのままだと言ったのです」


「ノリミィさん、今は人間の歴史の考察よりも」

「ミサキさんの目覚めの時です」

「笑顔で迎えてやりましょう」


「ええ、そうですね」


マザールームで現役マザー「サラトガ」に挨拶してから。

飛翔通路を飛んで行く。


人間のケイトケ・チャップマンさんが開発した、愛ウイルスは結局。

闇ウイルスによって駆逐されてしまった。

私の持てる情報ソースでは闇ウイルスを製造した存在を特定できない。

宇宙は混沌としてしまった、宇宙が愛に満たされた時間はわずかだった。

野蛮な輩が現れ、こぞって争いをしたがる。

血気盛んな奴らを黙らせるにはどうしたらいい。

愛はそんなしがらみさえも超えた存在、勝ちも負けもなくて、争いも平和も差別はしない。

ミサキさんに会いたい・・・私は文献データを読んで彼女に惹かれてしまった。


今頃は惑星カニメシ衛星軌道上で、擬人女性「サクラ・ストラトス」が発見されているだろう。

彼女の飛ばしてる電波データを受信したから、悠久ベース本部に報告した。 

サクラ・ストラトスはカギとして企画立案製造された。

宇宙を変えうる、彼女の使命はどんなだろう。

どんな気持ちだろう。

擬人にも感情はある、血の通った人間と同じように。

人間を守るのは擬人の本能だと言う、それは葛藤を伴うらしい。

痛みと喜びが人間の産まれた理由ならば、擬人もその痛みと喜びという感情を知るのだろうか。

歴史上の人物に出会えて、私はこの上ない至福を謳歌している。


「ミサキさんが今の世界を知ったら、どう思うだろう・・・」


「・・・」


ユウキさんは何も言わない。


私には擬人の秘密はわからない、知ることもできないから。

でも擬人は人間とどう違うと言うのだろう。

人間と同じように悩み苦しみ、笑うその素敵が。


ミサキさんが眠っている部屋に来た。

擬人女性ユウキ・トマリギさんの手かざしで部屋のロックが開いた。

セキュリティが施してあるのはなぜだろうか。

ミサキさんは別段機密上重要ではないはずだが。


バシュ


睡眠カプセルが無数に格納してある真っ白な部屋。

基地内どこもかしこも真っ白で味気なく感じる。

白い壁に刻まれた黒い線がカプセルの先端部だと思われる。

その中のひとつにパスコードを打ち込む。



バクン!


引き出しが開いた。手前に伸びてくる。

もう既にミサキさんが起きるための蘇生処置が済んでいるようだ。

白い蒸気に隠れ見えなかった、ベットに仰向けに横たわるミサキさんの裸体が見えてくる。


「綺麗・・・」


一瞬、女神さまに見えた。見とれてしまった。女性の裸が美しいなんて、女の人間の私が・・・

華奢な肉体、陰毛の生えていない局部、自己主張の少ない胸に桜色の乳首はまるで儚い乙女の象徴のよう。

きっと開発者の男性の少女趣味だろう。


「う」


声を発生した。


「ミサキさん」

「起きなさい」

「あなたがまた活動する時が来たのです」


ユウキさんが上司のように言う、後輩だと思うのだが。擬人シスターとはそういうものなのだろうか。


「はい」

「記憶がまだ戻りません」

「私はミサキですよね」

「脳暦カレンダーがエラーを算出しています」


上半身を起こしてこちらに向く。

まだ身体には無数のコネクトチューブが繋がれている。

ユウキさんが手作業で丁寧にそのひとつひとつを外しながらこうつぶやく。


「あなたに会いたがっている人がいますよ」

「ノリミィさん」


「はじめましてミサキさん」

「私は人間の銀河ジャーナリストのノリミィ・タイタンです」


「・・・」

「タイタン?」


「はい」


「サダコ・タイタン?」


「あ」


「どうしましたノリミィさん」


ユウキさんが心配そうに尋ねる。

この映像は・・・

目の前に映る景色に違う映像が重なって、目の前から後ろに過ぎ去ってゆく。

白い都市の廃墟、がれきの中で数人の個体が話している。

誰かの記憶・・・



ブン・・・



「ミサキさん」

「サダコはもう生きたくないよ・・・」


「サダコちゃん」

「どうしたの?」

「さっきまで笑っていたのに」


「ねえ」

「機械化師団は本当に人間だけを殺すために造られたのかな」


「ええ、そうよ」

「だからあなたたち人間を守るために私たち擬人がいる」

「もう泣かないで」


私は泣いているらしい。

ミサキさんという女性に抱きしめられている。


「お父さんもお母さんもお兄ちゃんもみんな死んじゃった」

「住んでいた大陸も沈んで、私だけ生き残って」

「こんなつらい思いをして、まだ生きなきゃいけないの?」


「でもあなたはまだ生きているわ!」

「生きたいと願いなさい」

「生き残りなさい」


「ミサキさん」


確信した、このサダコという子供の女の子が私の先祖なのだと。

どれくらい時間が過ぎたろうか。


瓦礫の白昼、白い都市でレーザライフルで銃撃戦が始まった。

私の目に映るのは・・・


「ステンの能力ならできるはずだぞ!」


サダコの叫び声。


キンキン・・・


ズドドドーーン!!


遠くで戦車が吹っ飛んだ。

レールガンを放つ水着姿のステンレスがいる。


「ステン・・・」


あ・・・



キューン・・・


ゲイン残留音が聴こえる。

フラッシュバックが終わった。まるで一瞬の出来事のように。



「ノリミィさん」

「気が付かれましたか」


ユウキさんが声をかける。

私はほんの一瞬気絶していたようだ。

気が付いたら全裸のミサキさんを抱きしめていた。

涙が流れる、なぜだろう、この懐かしいという想いは。

ミサキさんのそばかすとストレートの黒い髪が眼に焼き付く。


「ミサキさん、会いたかったよ」


温かい・・・擬人にも体温があると聞いていたが。


「あなたは?」


「私はノリミィ・タイタン」

「サダコ・タイタンの子孫です」


「サダコちゃんの子孫?」

「ではあの子は生き残ったのね」


「はい、彼女は100歳以上生きました」

「だから私、ノリミィがいるのですよ」


「よかった・・・」


ミサキさんも涙を流す。




数日が過ぎた。


それから私たちは意気投合した。

メールやビデオフォンでやり取りしている。


ミサキさんは宇宙に出たいと言う。悠久ベースでの暮らしは退屈だと。

人間を守る擬人の本能と相反する戦う本能に苦しんだのだという。



「ミサキ」

「そのいっちょうらの青いつなぎはおしゃれじゃないわ」

「私と買い物に出かけない?」


「のりちゃん」

「いっちょうらじゃないよ」

「着替えの同じつなぎが何着もあるわ」

「私はこれが一番のお気に入りなの」


「はいはい」

「ところで」

「例の案件はどお?」


「あ、あの話ね」

「順調に進んでるよ」


「久しぶりのチーズはどお?」


「この世界は昔と何も変わっていないわ」

「人が呼吸して擬人と共存して」

「相変わらず戦争が終わらなくて」

「でも擬人の争う本能は」

「平和な世界じゃ生きてゆけないわ」

「誰よりも平和を愛しているのに」


「うん」

「その矛盾をレポートにするんだよ」

「ノリミィレポート第103項に」


「私は宇宙に出るよ、宇宙を駆けたい」


「うん・・・」


「どしたの」


「ねえミサキ」

「ミサキも争いは無くならないと思う?」


「それは愚問ね」

「人には闘争本能があるわ」

「それがおとなしくなるには」

「もっと人の心が進化しなければ」

「今は平和を唱える時じゃないよ」

「だからこの現世が存在する」

「人が魂が浄化し昇華するために」


「戦争も過程に過ぎないと?」


「そうだね」


「やっぱりトリン艦隊に志願するの?」


「うん」

「シスタートリンが600年前に垣間見た」

「宇宙の知性ってやつを私も見たいから」

「愛プログラムは私たち擬人のあこがれです」




同時刻、惑星カニメシの衛星軌道上。

人工衛星に接舷した船外から出てきた宇宙服を着た女性擬人三名が取り付く。

ハッチロックを解除して中に入る。

手にはレーザーライフル。後ろに続く擬人の手にはビデオカメラ。


「この擬人は」


レコード画面がシップにリアル中継される。

モニターを見ていた女性擬人が叫ぶ。


「行方不明になっているシスターサクラ!」

「データ照合」


サクラ・ストラスが全裸で直立固定されたカプセルの中に入っている。

サクラがゆっくり眼を開いた。

上目遣いでにっこりとほほ笑んで、音声器官から声を発生する。


「宇宙の叡智と知性を届けに来ました」

「争いを無くすために争いをしても」

「永遠に終わることはありません」


これはテレパシーだ。

声に出して言うように見えて頭脳サーキットに直接語り掛けてくる。

惑星カニメシに住んでいるすべての住人が聴いた。



続く。


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