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コードLP  作者: ノーリターン新
コードLP・第三章
74/76

宇宙に住む愛と死

「システムオールグリーン」

「ターミナル応答せよ」


「こちらターミナル」

「発進を許可する」


カタパルトオフィサーがゴーサインを出す。


「ゴー!」


カシン!キュウゥ


宇宙ドック「大樹」からカタパルト推力に頼り、ノズル全開で6式戦は発進する。

搭乗員はケイト・ケチャップマン。

先の戦いで撃墜され、重傷を負った彼女は、その身体の殆どが機械の身体になった。

人工心臓、人工肺、人工脊髄。


「さあ」

「いくよ、サチコさん」


「マスターケイト」

「バイタルレベル正常」

「心拍数正常」

「脳波基準値内」

「すべてが順調です」


新しい戦闘エーアイは、サチコさん。5式戦の戦闘エーアイのみっちゃんは、もういない。


ケイトは操縦スティックを握りスロットルレバーを開く、推力130パーセントで、宇宙空母カタルシスを目指す。

空母カタルシスは、引退した元闇の組織の頭領カタルシス・モル・サンガが秘かに建造していた。

今はファーム星系平和維持軍と仲良くなったカタルシスが寄贈した貴重な戦力。


「キャプテントリン」

「フライングスパルタン3型、ユーリア・ミノーが発進許可を求めています」


「いいわ」

「発進を許可します」


艦長のトリンは、新しい艦船があまりお気に召さない。

あのカタルシスが艦長になるはずだった空母の艦長席に自分が座っていること。

ケイト・ケチャップマンが重傷を負っても戦場を志願したこと。

副長のステンレス・ノーマットが隣でエアキーボードを打ちながら囁く。


「カスタネット艦長」

「ケチャップマンさんは吹っ切れていますわ」

「邪ウィルスが愛ウィルスを喰ってしまう現象」

「一兵士としての義務に気が付いたと言っていましたわ」


「うん」

「でもケイトちゃんはまた戦場を選んだ」

「醜い争いをするのは擬人の仕事だよ」

「ケイトちゃんまで・・・」


「今回現れた邪勢力の事ですが」

「艦長は何か知っているんじゃないですか?」


「うん・・・」


前席で技師のイチゴ・タングステンが呟く。


「惑星カニメシで動きがありました」

「このフォロを見てください」


「え?」

「タングステンさんこれって」


宇宙空母カタルシス、艦橋が一番後ろにむき出しになっている。

シールドに守られているとはいえ、この丸見えの戦闘ブリッジはトリンには落ち着かない。

リンネ・フォース。チーズ平和維持軍がその規模を縮小したため、邪勢力に出し抜かれた経緯から。

チーズ政府は擬人達による軍隊を設立した。

人間が戦争をしていた時代ほどの厳しい規律はない。

トリン達擬人もリンネ・フォースに志願した。


惑星チーズではファーム星系、ヤシャ星系合わせて唯一擬人が製造される。

チーズ各地に現存する悠久ベースでは、数々の戦乱を戦い抜いた擬人シスターが眠っている。

毎年数百体の擬人が製造されるが。

人工睡眠している擬人に召集がかかる場合がある。


前回の戦闘で行方不明になったサクラ・ストラトス整備士。

彼女にはまだ謎が隠されているようだ。


耐衝撃エネルギーフィールド・愛・ウェイは次世代シールド、悠久ワークスへ昇華した。

4世代目にあたるこのシールドは、攻撃したものが愛に目覚める効果の他に、攻撃されたものにスキルアップを促す。そして二世代目のシールド、ハニカミシステムに備わっていた、攻撃される以前に攻撃を返すシステム。これらをミックスしたシールド。

ケイトが宇宙空間を見つめながら携帯合成イチゴドリンクをストロー飲みする。


「惑星チーズ」

「その歴史は争いの歴史だった」

「機械が人間を殺す時代もあったが」

「そのほとんどは人間同士が殺し合う原始の歴史だった」

「あたしの母星、惑星シュールも戦争の歴史だった」

「かつて星間連絡船が航行可能になった時代」

「宇宙人は皆手を取り合って」

「仲良く暮らしてゆけると誰もが信じていた」


「マスターケイト?」

「どうしました」

「宇宙人の歴史についての考察ですか?」


「いま、あたしをとらえて離さない」

「このときめきも」

「この切なさも」

「この虚しさも」

「すべてはこの宇宙が受け入れてくれる」

「悪を憎む正義と呼ばれる心も」

「やはり悪なんだろう」

「だったら!」


「マスターケイト」

「宇宙空母カタルシスから着艦許可が下りました」

「以後の操縦をオートメーションへ移行」


「OK」

「サチコさん」


宇宙空母カタルシスの戦闘ブリッジ。副長のステンレス・ノーマットがトリン・カスタネット艦長に尋ねる。ステンレスが下を見て、白髪の枝毛を気にしながら指で巻いている。


「カスタネット艦長」

「今回の作戦で」

「艦長は何かを知ったのではないですか?」


「ステンレスちゃん」

「海は涙って言葉」

「知ってる?」


「知っています」

「チーズクラッシュ伝承に記載されている言葉ですね」

「今は入手は出来ませんが」

「惑星チーズの過去から未来まで」

「すべての記憶が記述されています」

「あたくしも禁書として古書館で閲覧したことがあります」


「海は涙」

「今私が流している液体の雫の源は海」

「だから私も海なのだ」

「数えきれない戦乱の中で」

「流した涙をすべて神が見守っていてくださる」

「憎しみの業火に焼かれた昨日も」

「希望の光に胸を弾ませた今日も」

「命の橋渡しの中で」

「罪を背負って産まれてくるすべての命は」

「同じ過ちを繰り返す」

「面白いくらいに忘れてゆくこの世界は」

「忘却の世界」

「私たちAIが人類の敵になると危惧されていた旧時代から」

「AIは宇宙人の良きパートナーとして」

「頑張ってきたわ」

「宇宙人が争いを好むなら」

「AIもともに争う」

「宇宙人が平和を欲しがるなら」

「AIは喜んでそれを取りに行く」



操艦プログラムのバーンスタインが無機質に報告する。


「キャプテントリン」

「発信元が不明な秘匿回線からの映像通信です」

「これは・・・」


「いいわ」

「無線オープン」


戦闘ブリッジの上部パネルに映像が映る。鮮明な映像の中。

配線がむき出しになり、パイプがいくつも飛び出している。

真っ白な空調パネルが外れてその場に立てかけてある。

画像の奥にはひとつのま新しい椅子が後ろ無に備え付けてある。

白髪頭の老人が座っているようだ。何かを言いたそうにしている。


「久しぶりじゃの・・・」


「ええ」

「本当に」


「カスタネット艦長」

「この方は」


ステンレス副長が不審そうに聴く。

ゆっくりと椅子が前を向きまわりだす。


キューン・・・


「トリンちゃん」

「また私を抱いておくれ」

「あの時のように情熱的に」


「久しぶりです」

「マル・マールさん」


「なあトリンちゃん」

「私は思うんじゃが」

「この宇宙はすでに終わっていて」

「我々は失われた文明の忘れ形見として」

「かつての栄光にしがみついているだけなのじゃないかな」


「それが事実だとしてもマルさん」

「あなたは文明に反旗を翻しました」

「当然文明圏から追われるのですよ?」

「自分がしたことの大きさを分かっているのですか?」

「人間が争いを捨てようというこの時に」


「まあ待て」

「この世界はいまだ赤ん坊じゃ」

「誰かにあやされるだけの」


「なにい!」

「この世界がどれほど争いのために傷ついてきたのか!」

「お前だって知っているだろうに!」


「ステンレスちゃん!」


「きゃあ!!」


トリンが言い終わる直前、ステンレス副長のボディがスパークした。

青白い電光を放ちながら白い髪がすべて逆立つ。


バチバチ!


「ステン!」

「ステンレスさん!」


トリンとイチゴが叫ぶ。

ステンレスが後ろに倒れる。ボディが跳ね返り宙に投げ出される。


「生意気な擬人だ」

「いいかよく聴けよ」

「人間が擬人を創ったように」

「擬人は人間の為に朽ちてゆく機械だ」

「ただのマシーンなんだよ」

「擬人が人間以上と言われている知性も」

「結局は戦争でしか人間を救えないじゃないか」


「マルさん」

「もしそうだとしても」

「私たちは戦うわ」

「あなたにこの世を終わらせない為に」

「この宇宙には愛と死が住んでいる」

「死がお互いを別つのなら」

「人間の特権である」

「輪廻が魂の旅だと言う証明になるわ」

「私たち擬人が持つクリスタルソウルが」

「輪廻に憧れてやまないように」


ステンレスはメディカルルームへ送られた。

ケイトが付き添う。頭脳サーキットがショートしている。回復まで時間がかかりそうだ。


「命の営みの中で愛は育つ」

「擬人が言う愛は所詮作り事じゃよ」

「人間が擬人を創るようにの」


「マルさん」

「若かったあなたはもういないのですね」

「少年の眼をしていたあなたは」


「ふむん」

「交渉決裂じゃなトリンちゃん」

「私は世界の王になるよ」

「恐怖の世界のな」


「海は涙・・・」


「トリンちゃん」

「チーズクラッシュ伝承など」

「新時代の宇宙には似合わないな」

「いつまでも古い価値観にしがみついているがいい」


通信終了。

操艦プログラム、バーンスタインが報告する。


「星間レーザー兵器の第一波攻撃が来ます」


「どこから?」


「惑星ドータ―の衛星軌道上です」

「これは旧時代の宇宙戦争以後の放棄されていたものです」


「脅しですよ」


イチゴ・タングステン技師が吐き捨てる。


「トリンさん」

「記録では」

「マル・マールという人物はカタルシス・モル・サンガの部下の手にかかり瀕死の重傷を負ったのち」

「数十年間医療を受けて退院してから、行方不明になっています」

「彼と何があったのですか?」

「教えてください」


「イチゴちゃん」

「男と女の間には」

「暗くて深い河が流れているの」

「人間と擬人の間にもそれは適用されるの」







惑星チーズ、東大陸悠久ベース3番地。

私、人間のノリミイ・タイタンは宇宙で初めての擬人、PちゃんことLP45Wの密着取材をしている。

PDFと録音端末を持ちながら。Pちゃんの付添人のベースの要員、人間のチトセ・バンジョーさんはそばかすにおさげが可愛いな。私もおさげにしてるけど・・・


「ではPちゃん」

「あなたのその黒髪は自然に伸びているのですね?」


「何億回言わせるんだみ」

「Pちゃん何にも知らないんだぬ」


駄目だこいつは。本当に何も知らないらしい。

科学技研に問い合わせても、設計図面を調べても。

擬人の成長要素なんて能力はどこにも存在しない事になっている。

技研は隠している!

邪な存在に知られない為にか。

9世紀も前に誕生したロボットの事なんて誰も知らないはずなのに。

現代まで続く擬人開発は、極秘の部分が多い。

悠久ベースはチーズの惑星政治機関とは全く関係のない、独立した顧問機関。

でも毎年与えられる予算は政府が調達している。

政府が絡んでいる?あり得るな。

いや違う、軍だ。正式な軍部は今は解体されてしまったが、軍が技研に命令して擬人を創らせたのが始まり。

擬人が誕生した最初の目的は、軍の兵器としての殺戮性能。

それと性の・・・男の為の生処理道具としての慰安婦。

「赤ちゃん!?」

トリン・カスタネットのホームページに書かれていた言葉!

何たること!

ロボットが子供を産む事を考えるなんて。

擬人が子孫を残すことを思想するようになった。

擬人は成長している。赤ちゃん。

今は何としても擬人が成長している事実を確かめねば。



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