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コードLP  作者: ノーリターン新
コードLP・第二章
66/76

生命体

ヤシャ星系、惑星シュール。

海岸の浜辺のテラス小屋で、夕暮れの海を見つめて老人が独り言をつぶやく。


「私の人生は負ける事がすべてだった」

「勝つ」

「勝つとは何なのだ」

「勝つものが居れば必ず負けるものが居る」

「勝者も敗者も存在しない世界は、ありえないのだろうか」

「戦争と言う争いをこの世の生命体は辞める事が無い」

「文明と戦争の繰り返しを文明人である生命体は繰り返す」

「善なるものも悪しきものも」

「肩を組んで皆仲良く暮らすことは出来ないのか」

「宇宙人は悩み、成長する」

「神が生命に競い合い争う事を宿命付けるのなら、平和を欲するために」

「高度に知覚が進む二足歩行宇宙人は昇華せねばならない」

「骨を砕き、肉を食らう自然界の常識から、譲り合い、かばいあう」

「お互いを尊重できる愛の世界を」


ギイ


足音がする。


「おじいさん」

「ハグドンが釣れたよ」

「今夜はハグドンの刺身だね」


孫のチトセが魚をぶら下げて帰ってきた。

裸足にベースボールキャップによれよれのTシャツ、ボロボロの半ズボンを履いた少女がにかっと笑う。


「チトセ」

「この世界が天国みたいにみんな仲良く暮らせるとは思わないかい?」

「争いも災いも存在するのは、この世界が物質の地獄世界だからだ」

「もしも生き物が自分の心に張るバリヤーを打ち破る事が出来たら・・・」


「おじいさん」

「いきなり何むずかしい事言ってんのよ」

「頭が薄くなるよ?」


「そりゃこまったな」  


この老人は擬人が装備する耐衝撃エネルギーフィールド「愛ウェイ」の開発者。科学者だが引退して隠居生活を送っている。

空はもう日が沈んで暗くなっている。紫色の空を見つめ一番星を指さして老人はつぶやく。波のさざめきが耳にこびりつく。


「おお愛しいタマシイよ」

「悲しみに明け暮れるタマシイに語りかけよう」

「その心も無駄ではないのだと」

「光に向かって花が咲くのは、そこに希望があるからだ」



隣の星系、ファーム星系。第三惑星の惑星チーズ。軍事星間空港駐機ドックでラージシップ・ラインハルトは整備中。その船体の中央部にある戦闘ブリッジ。

擬人LPの艦長トリン・カスタネットと技師のイチゴ・タングステンは会話する。


「イチゴちゃん」

「あなた名前を変更したの?」


「うん」

「さすがにストロベリはちょっとね」


「ピンクの髪の毛が伸びて来たわね」

「トリンが切ってあげようか」


「あ!」

「伸びるんで思い出したけど」

「人間のノリミィさんが」

『擬人は成長する』

「て論文を星間コミュニティ学会に発表しましたよね」


「そうそう、星間ネットが大騒ぎしてシステムダウンしたんですって」

「それで色んな動きがあったのよ」

「技研のほうは隠してた秘密がばれたから最初は叩かれたけど」

「擬人にも宇宙人と同じよ言うに発育と老衰と死を取り入れる可能性が模索されだしたし」

「全ての擬人に与えられてる宇宙権利をさらに優遇するようにチーズの自治政府が動いてるんだって」


ラインハルト戦闘機ハンガー内。アームで運ばれてくる宇宙戦闘機コンバットフライ六式。

六型である六式はすでに実戦投入済みだが、ラインハルトでは5式を使用し続けていた。

新品の六式戦を見上げながら。


「まったく、今度の機体も初めから『重力キャンセラー』が付いてんの?」

「あたしに死ねって言うの?」


擬人LP宇宙パイロット、シャムロッド・ブルーベリーが愚痴る。


「まあまあ」

「大尉殿はそう言いながらも今も生き残ってるじゃないですか」


背中をなでながら人間のケイト・ケチャップマンがなだめる。


「そういうあんたも生還するわね」

「あたしはあんたなんか初陣で戦死すると思ってたのに」


「あ~!!」

「あたしのテクニックは大尉殿に次いで宇宙二番ですよお」


キュウ・・・クウン、チイイ


トリンは愛プログラムに見捨てられたのだが、慈悲の精神は都合よく発動するものではない。

愛に生きるトリンには分かっている。自分も引退する時期が来る時のために。

擬人に体格の成長と死が備われば、幼児体系に悩むシャムロッドにも希望が出来る。

トリンはそれ以上の進化を考える。


「赤ちゃん・・・」


赤ちゃん!?

果たしてロボットがその体内から新しい生命を誕生させることが可能なのか。


「トリンさん!!」

「今イチゴに聴こえたのは?」


「ううん」

「何でもないのよ・・・」


「ステンレスちゃん」

「次回の作戦の予定は?」


「はい」

「五日後ですわ」

「ブルーさんの新機体の改修についてですが」


「却下です」

「艦長を無視して改造に行った経歴がありますから」


「ヤン・ベアリングですが」

「尿検査に異常が出てますわ」

「血糖値が」


「ああ」

「ケイトがお菓子ばっかし食べさせてるからね」


「あ~あ」

「イチゴも男が欲しいな」

「赤ちゃんは産めないけど」


「イチゴちゃん」

「やっぱ聴いてたの?」


「トリンさん」

「がんばって擬人初のロボ母親になってくださいね!」


イチゴ・タングステンが両手でトリンの手をつかむ。


「タングステンさん」

「艦長をからかわないのですわ」



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