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コードLP  作者: ノーリターン新
コードLP・第二章
65/76

暴力と呼ぶチカラ

「何機が侵入したのですか」


衛星バターの搬入ドックはあわただしい騒ぎになっている。

ファーム星系艦隊武装解除の前に敵が打って出た。

和平条約協定の一方的破棄。

武装勢力「アクシア」の長「カタルシス」が停戦条約の破棄を打電してきた。

チーズ軍艦隊が居る宇宙域から近くに所在する衛星バターは軍備力は皆無。警備ガードシステムが機能しているだけ。

前回の作戦「オペレーション・ソルトアタック」で参戦した、「ハルカ・トマリギ」と「ウリュ・ミタラシ」が搭乗する艦艇、巡洋艦バージが修理ドックで修繕を受けている最中だった。


ターーン!


「6式戦3機がスクランブル発進しました」


「バージの修理手順を最終工程までカット」

「緊急発進急げ」


「ハルカさん」

「武装解除のために武力は破棄する規定がありんす」

「武装の封印を外してはいけません」


「だけどウリュさん」

「ただヤラれろと言うのですか!」


「チーズ艦隊から打電です」

「二番スクリーンに」


「うん」


ブツブツブツッ・・・


ブン!


「何ですかこの画像は」


「ジャミング、電波妨害です」


ブンブンブン!


「ハルカさん、トリンです」


「トリンさん!」

「攻撃が・・・」


「今は耐えてハルカさん」

「憎しみが今以上増えないように」

「私たちに装備されている耐衝撃エネルギーフィールド『愛・ウエィ』を信じて」

「これには未知数の力が隠されている」


「ウリュさん」


「ステンレスねえ!」


「擬人は争うべきではなかったんですの」

「これ以上憎しみを増やさないためには」


艦長のハルカは指示を出す。迎撃に上がった六式戦に帰還命令。

ドックを閉鎖してバージの全出力を停止。

敵の艦隊指揮官と交渉するつもりだ。


「攻撃第一波、きます!」




ここは惑星チーズと惑星ドーターの間の人工ステーション群にある軍事拠点。ストール・へクス。

チーズ艦隊司令のゴンドウ提督がトリンを親善大使に任命した。

アクシアとの和平交渉もトリンに任せると言うのだ。

トリンは快諾した。

惑星チーズの衛星バターでハルカ達巡洋艦バージが攻撃を受ける中、ファーム星系宇宙艦隊にアクシアから通達があった。

トリンに和平交渉のテーブルについて欲しい、アクシアの司令官「カタルシス」と一対一で話がしたい。


「おねえさまあ!」

「あたしも連れてってよお」


シャムロッドが言う。


「艦長殿、自分に行かせてください」


とケイト・ケチャップマン。


「ええ、ケイトちゃん」

「護衛はあなたに任せます」

「シャム猫、あなたは出番なしです」

「ステンレスちゃん」

「留守を任せます」


「はい艦長」


「トリンちゃん」

「死ぬんじゃないぞな」


Pちゃんがうるんだ目で見つめる。手を握り締めて。


トリンはセレモニーの時に着ていたスーツを着ていこうかと思ったが、いつもの宇宙戦闘服で行こうと決めた。

警護のケイトもいつもの派手な子供用宇宙戦闘服。かと思いきや、「紺のセーラー服を着ていけ」と、トリンが命令した。


「あーー!」

「それなら艦長殿も婦女子の制服を着ていってくださいよお」


ケイトの猛抗議にあい、トリンもセーラー服を着てゆくことになった。


「艦長!」

「なに隠れてるんですか」


「でもケイトちゃん」

「トリンがお嬢さんの格好をするのはどうかと…」


「いいんですよ!」

「艦長殿はサービスが足りないからその位」


考えてみれば、擬人に装備されている防壁「愛・ウェイ」には攻撃した者を愛に目覚めさせる特性を持つ。

自然と擬人に恋する敵が増えている情報も入ってくる。

ケイトにサービスさせようとしたトリンも乗せられてしまった。


「トリン様」

「どうせならビキニの水着では?」


整備班のサクラ・ストラトスが提案したが却下された。


「カタルシス」が指定した会合場所は惑星チーズの名所。

「カルト・キッス時計台」一大観光地だ。

大きな時計台があり、周りの都市も美しい景観をしている。

トリンは大急ぎでラインハルトをチーズへ向かわせた。


衛星バターでのアクシア勢力の攻撃は、巡洋艦バージ撃沈の知らせが舞い込んだ。ハルカ以下の乗組員の安否は不明。全員死亡との噂もある。トリンの不安が的中した。


「愛は暴力には勝てないの?」

「いえ、勝とうとするから負けるのではなくて?」

「負けたっていいんじゃないの」


トリンは自分を責める。




賑わう都市の離れにある、時計台「カルトキッス」ここにも観光客が来るが、今日は閉鎖されている。和平協定が行われるためだ。

警備の兵は居ない。「人々の良心にかけているから」と言うのはどうやら本気らしい。


ケイトの五式戦で降り立った展望台から、トリンとケイトは歩く。

紺色のセーラー服を着た赤髪と緑髪が自信なさげに歩く。

二人とも武装は一つも持っていない。今というチャンスにかけている。

世界中からライブ中継のための報道局が来ている。

会場は撮影禁止だと言うのに、全宇宙は見たくてしょうがないのだ。

時計台の宮殿まで、二人は歩く。すでにアクシアの「カタルシス」は到着済みだとの情報。

ライブカメラはオレンジ色のレンガの宮殿まで移動するトリンとケイトを映し続ける。


「艦長殿」

「何だか全宇宙の注目を集めてますよお~」


「ケイトちゃん」

「カメラに向かって愛想笑いしなさい」


「は、は~い」

「ケイトちゃんで~す♡」


「ぷぷ!」


オレンジ色の「カルトキッス時計台」の宮殿にまでたどり着いた。

遊歩道を警備の警官が占める。全員重火器は装備しておらず、無線を携帯している。


「トリンちゃんアイドルみたいやねえ」


星間ネットの無料テレビでPちゃんは見つめる。ジュースを飲みながら。

宮殿の内部はカメラは入れない。極秘事項にしたいらしい。

トリンは別に公表されてもかまわないのだが、アクシア側は困るらしい。


キュウ・・・バタン!


パア!


ドアが閉まる。もう夜中だから照明が一斉にともる。

「まぶしい」と人間のケイトが感じる。擬人のトリンは平気でいる。

トリンの目視カメラに男が映る。凛々しく正装した中年の男が。


「ようこそこの絶望の地へ」

「ミス・カスタネット、ミス・ケチャップマン」


「初めまして、ミスター・サンガ」

「あなたの噂は聞いていますよ」

「何でも、一人で擬人部隊を駆逐したとか」


「艦長殿!」


「これはこれは」

「武装解除の申し出をされた割には、ケンカ腰ですな」


「申し訳ありません」

「憎しみの業を乗り越える事が出来ませんので」


「艦長!」


「まあ良いでしょう」

「あなた方が今回提案された、武力の永久放棄」

「我々としてもその意見には賛同します」


「安心しました」

「ミスターサンガ、和平の話を進めましょう」


議題は双方の和平が成立した後での雇用問題にまで進んだ。

白いテーブルをはさんで、三人で話を進める。三人とも立っている。


「では、今回の和平の話、無かったことにしてもらいましょう」


「え?」


「艦長殿!」

「まだ分からないのですか!」

「こいつはさっきからビーコンを発信しています」

「転送してきますよ!」


「ええ?」


ケイトの言った通り、次から次へとアクシアの歩兵が転送されてくる。武装を持った兵が・・・

アンチ転送装置も機能していない宮殿では、トリンとケイトの命は絶望的。


キュンキュン!


武装した兵士らにレーザー攻撃される。

トリンとケイトはただ黙ってレーザーの帯を受け止めるだけだ。

レーザーの熱で真っ黒焦げになりながら、ケイトが言い放つ。


「トリン艦長殿!」

「今はまだ安息の地へは行けません」

「黙って死ぬのを待つのですか?」


「ええ」

「でもケイトちゃん」


トリンはおじけづいている。完全に自信を失ってしまった。

愛・ウェイが放熱して、セーラー服と下着が燃えた。

全裸になってトリンは初めて気が付く。


「こんなの嫌よ!」

「何がこんなことになったの」


「艦長殿!」

「ノーマット副長、転送願います」


「了解しました」

「艦長とケチャップマンさん収容と同時に」

「回避行動に移ります」

「敵襲です!」


「ああああ」

「こんなことって・・・」


「うれしいよ、トリン」

「お前の絶望する顔が観れて」


絶望したのはトリンだった。ラインハルトに転送、回収された二人は新しい衣服を着てから戦闘に参加する。

ライブカメラは都市上空で戦闘が行われている映像を映し始めた。

アクシア勢力の戦闘機が対地攻撃を繰り返している。対空迎撃は無い。

市民はうろたえながら避難している。街は大騒ぎ。

宮殿は炎上している。おびただしい数の警官や市民が犠牲になった。死体があちこちに転がっている。

都市上空を飛行しているシャムロッドとヤンの宇宙戦闘機コンバットフライ5式戦が戦闘行動に移る、

真黒な闇の中、眼下に炎上する都市を目標に、航空機動。

目の前の敵戦闘機をロックオンする。先にミサイルを撃たれる。ミサイルが届かない空域に強制移動しながらこちらは光弾を放つ。一機撃墜。


星空の中、真黒な排煙と真っ赤な炎が上がる大空を5式戦が飛翔する。


「ブリーベリー以下各機に告ぐ」

「戦況はわが勢力が掌握しました」

「速やかに帰投してください」


「了解」

「シャムロッドは帰還します」


事態が収束するまで1時間かかった。


戦闘ブリッジにて。

新たにラインハルトに配属になったイチゴ・ストロベリ技師が言う。


「太古の昔から、人は武器を持った時点で殺しあうのが辞められなくなりましたとさ」


「ストロベリさん、あなたは仙人ではないのですわ」


「は~い」

「解ってますよ、ステンレスさん」


「衛星バターから通達ですが」

「巡洋艦バージは健在」

「ミタラシさんもトマリギさんも無事のようですわ」

「どうやら敵の陽動であったようですわね」


「ええ」

「あとの事は任せるわステンレスちゃん」

「トリンは寝ます」


事態は紛争の再燃と言う形をとる。

まだまだ擬人に退役の時代は来ないようだ。


「トリンの旅は終わらないみたいね」

「望むところよ」


人間を守るために製造される擬人が、暴力のない世界に憧れるのは矛盾する事だろうか。

永い歴史の中で、人は争う事を辞めないのだろう。

それでも世界はいつか滅びの時を迎える。

その時に誰もが後悔するだろう、まるで連帯責任のように・・・


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