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コードLP  作者: ノーリターン新
コードLP・第二章
64/76

予兆

武装解除のためのミッションが始まる。

トリン以下のラインハルト独立部隊は、武装解除は自分たちが一番初めに行うと宣言する。

衛星ダイタンのスタジアムで大観衆が待ちわびている。

聴衆の前でのステージで数名の宇宙人が立っている。

ライブ中継の星間ネットテレビの記者がインタビューする。


「今日は皆さんお集まりいただいたのは、擬人が私たち宇宙人類を救い続けた意義について」

「まずはファーム星系宇宙艦隊司令官のゴンドウ提督に伺います」

「提督」

「なぜこのタイミングで戦争の永久放棄のミッションを開始されたのですか?」


「擬人たちが宇宙人を守ってきたのは、この数世紀の歴史から見て事実です」

「擬人は宇宙の平和と繁栄を望んできました」

「宇宙人に愛を教えたのです」

「閉ざされた戦乱の歴史から脱出し、宇宙人類が未来永劫輝けるまで」


「提督はこのままいけば宇宙人の未来は無いとおっしゃるのですか?」


「はい」

「この次元の創造主が争いを認めていないからです」


「驚きました」

「軍属のおさともあろうお方が神の名をかたるとは」


「私も擬人シスターに変えられた一人ですよ」


「はい」

「では、擬人LPシリーズの代表であられる」

「シスタートリンに伺いましょう」

「ミス・カスタネット」

「あなたが600年前から始めた人類救済プログラムは」

「多くの同胞を生みました」

「義人人間分け隔てなく、愛プログラムを志す者が後を絶ちません」

「どうでしょうか、あなたが今まで戦ってきた理由とは?」


「はい」

「私は人間を守るために戦ってきたつもりです」

「ただ・・・」


「ただ?」


「武装解除したから戦争がなくなるのかといえば」

「そうではないと思います」


「やはりそうですか」

「では我々はどうすればよいのでしょう」


「話し合うしかないです」

「その為に口頭と記述という手段が授けられました」

「この宇宙で、産まれ落ちた魂が出来る事は」

「憎みあい、傷つけあう事ではありません」

「互いに尊重し、認めあう事です」


トリンはこの日の為にスーツを新調し、緑色の髪を頭の上で縛っている。珍しく化粧した彼女は、いつもと違う雰囲気。



衛星ダイタンのライブ中継はファーム星系とヤシャ星系、宇宙人が交流できる範囲の全宇宙に配信される。

ファーム星系のどこかの宙域に所在する。

反乱勢力の武装集団「アクシア」の秘密司令部では。


「ですが司令官殿」

「このまま平和ボケの平和主義者の言いなりになっていては」

「宇宙に革命は起きません」


「クククッ」

「いいのですよ」

「奴らが自分から武器を捨ててくれれば」

「私たちの好きなように各拠点が制圧できます」


「ですが」


「いいですか」

「30:00をもって、全兵力を惑星チーズに投入します」

「綺麗事を言っても所詮は武力の前には無力だということを」

「あいつらは思い知るでしょう」


この司令官の名は「カタルシス・モル・サンガ」

茶色の天然パーマをショートカットにして、よれよれの黒い衣を着ている。

顔は浅黒く、鼻が高い。眼光が鋭く見るものを威圧している。

闇の世界で暗躍してきた影の宇宙人。彼の家系は代々、この宇宙次元を陰で支配してきた。

彼の部下「透明部長一号」もただのコマに過ぎない。

透明部長一号はトリンに復讐されて、すでにこの世に居ないが。

闇の天敵「トリン・カスタネット」抹殺には、何故か邪魔が入る。

何か見えない力が彼女を助けているとしか思えない。

トリンたち擬人に備わる装備「愛・ウエイ」と言う防壁には未知なる力が隠されている。

その所有者を攻撃した存在が愛に目覚めてしまうのだ。おかしな報告が無数に達している。擬人LPに恋をしたとか。

この宇宙のカギとされる宇宙人の「ケイト・ケチャップマン」に恋をしたとか。やっかいなのは今に始まったことではない。

昔にも変な事件がいくつも起きた。




ここは宇宙次元の向こう。

異世界で「ツバキ」は物想いにふける。

背が高く細身の彼女は腰まである長い黒髪をなびかせて歩く。

頭部に装飾品を飾り、白と青のドレスを着ている。

長いスカートは足元まであり、長袖の細長い指先には指輪が数個はまっている。

顔は青白く、細く切れ長の瞳はグリーン、鼻は高く赤い唇は薄く幅が広い。

建造物の中で目の前に広がる白銀の世界を見つめながら。

目の前にいる女性の前で立ち止まる。


「シズクさん」

「あの宇宙はこの世の地獄です」

「汚れを清めた善なる魂が産まれるべき世界は他にあります」

「せめてあがないの生であっても」

「愛に目覚める魂を導きたいのです」


シズクと呼ばれる女性はツバキの待女。

紺青の着物を着て彼女も長い黒髪。

うつむいていて顔が見えない。


「ツバキ様」

「あの次元を救いたいのは理解できますが」

「もうあの世界は崩壊の一歩手前です」

「災いが自らを滅ぼすことを彼らは知りません」


「だからです」

「何も知らないなりに、彼女たちは光を求めています」

「光が闇なしでは生きていけないように」

「光は闇と対決してはいけないことを気が付いているのでしょう」

「お互いを受け入れること」

「良き処をで、汚れすら愛でようとすれば」

「そこには慈愛の魂が産まれます」

「今はまだ、教え説くべきではありません」

「道を歩いてきたものだけに光が射すように」

「ただ、影から救いの手を差し伸べましょう」

「まだ見捨てられてはいないと気づいてもらうまで」

「神の怒りを買う前に」



27:00時。

惑星チーズの成層圏で、艦隊は武装解除の準備を進めている。

数十席いる艦隊の中にラインハルトは居る。

ケイトとヤンは嬉しそうだが、シャムロッドは不満そうだ。

戦闘ブリッジでトリンがシャムロッドに話しかける。

ステンレスが隣でエアキーボードを打っている。


「ねえシャム猫」

「あなたは戦争がしたいの?」


「べっつにい」

「あたしはバカな宇宙人が殺し合いを辞めるなんて無理だと思うのよ」


「ブルーさんは宇宙が平和になると、大好きな航空機動が楽しめなくなるのですわ」


「いったわねー!」

「この雪女あ!」


ぶん!


バキャ!


「ユキオンナって星間ネットで調べましたわ」

「あたくしが化け物だって言いたいのですわねえ!」


メキメキメキ!


「あなたたちってホントに仲がいいわねえ」


「おネ~さまあ・・・」


「艦長・・・」


整備ルーム。

整備士の擬人、サクラ・ストラトスは暇そうだ。

自分の役目が終わったと思っている。

オカッパ頭の黒髪を指でクルクル巻きながら、カニ焼きを食べている。その姿を見ているケイトが何か言いたそうだ。


「ケイト様」

「サクラの顔がおいしそうに見えるんですか?」


「あ」

「あたしよだれ出てた?」


じゅるじゅる


「別にカニ焼きが欲しいなんて一言も言ってないよお、あたし」


ガサガサ


「はい」


カニ焼きの買い置きをケイトに手渡すサクラ。


「あと三個あります」


「わ」

「ありがとお!!」


むしゃむや


「あたしおなか空いてたんだあ」


それを見ていたヤン・ベアリングは、やれやれといったふうに両手を広げている。

男性擬人のダン・テッカは、オペレーション・ソルトアタックの戦闘で戦死した。

すでに居ない人の事は語らないのがこのシップの暗黙のルール。

でも、皆居ない人の事は忘れられないでいる。


Pちゃんはラインハルト内の飛翔通路区画に居る。

忠犬三型とともに飛翔区画を飛びながら考え事をしている。


「ワンちゃんは感じないの?」


「何も感じないワン」


「私は感じる」

「何かが起きる予感がするの」



ここは惑星チーズの西の大陸。

その大陸の海岸線で人々が何かを見上げている。

ここは夕刻の時間で日が沈みかけているが、オレンジ色の空が真っ赤に燃えている。太陽が黒く燃えている。反対側には金色の空が広がる。

何か不吉なことが起きる予感がすると、人が集まってきている。

トリンも予感を感じるものの、今は武装解除が無事に済めばいいと、気持ちを誤魔化している。


バシュ


「トリンちゃん!」


「どしたのPちゃん」

「血相変えて」


「武装解除はまだ早いよ!」

「闇の奴らが来る」

「汚れた魂は産まれ変わるまで改心できないんだ」


トリンは急に決心したような表情になった。


「Pちゃん」

「愛は奪うものではないわ」

「与えるものよ」


「ト、トリンちゃん」

「女神さまみたいな顔・・・」


Pちゃんはポカンとした表情で立ちくしてしまう。


「滅ぼしあうのが滅びを生むのなら」

「自らが滅ぼされるのを受け入れるのも」

「それは愛なの」

「ならば憎む心も、愛が変化した姿よ」


「トリンちゃん」

「死ぬ気だね?」

「死に急いでもあの世で後悔するだけだよ」

「そもそも擬人があの世へ行けるのかねえ・・・」


「トリンは死なないわ」

「生きて出来る事を探すだけよ」

「それが無謀な旅でもね」

「長い旅はもう終わるみたい」


「トリンちゃん・・・」


ラインハルトの戦闘ブリッジの前方には空間エアモニターが無数に飛び出ている。映る景色は紫色の闇。


トリンの長い旅が終わろうとしている。

出るサイの目は吉か凶か。

惑星チーズの成層圏は暗い紺色に染まっている。青は生命が争いをしていることを知っているのだろうか。

青い心を持ち続けたいと願った擬人たちは、一つの節目を迎える。

永い夜が明けるのだろうか。数えきれない涙は報われるのだろうか。


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