Pの反乱
「わたし」
「わたしは・・・」
「あなたは?」
「わたしはP」
「あなたの頭脳サーキットはおよそ800年前に製造されました」
「なぜそんな過去に製造されたのに今でも生きているのですか?」
「え?」
「生きてちゃいけないの?」
「いいえそんなことはないです」
「ただ」
「ただ?」
まただ。
頭の真ん中がスパークする、宇宙が広がってゆく。
惑星チーズ、衛星バター。
惑星ドーター、惑星カニメシ。
惑星チーズを中心点に自分が弾き飛ばされてゆく。
誰と話していたんだろう。
わたしはPちゃんだわ。
誕生したのはもう遥かな昔になってしまった。
対有人戦闘ロボットとして造られたのだけど、もう今では戦闘スキルはなくなってしまったみたい。
戦闘プログラムを忘れて久しいわ。
なぜ人は争うのだろう。
お互いにほんのちょっとだけ譲り合えば、いざこざなんて忘れてしまうのに。
「は!」
「ラインハルト」
惑星チーズの成層圏でラージシップ・ラインハルトが戦闘している。
今の時代でも邪な軍事勢力は武装決起をやめない。私は近頃変な考えに支配されている。
もしかすると、戦争を辞めさせる為に産み出される擬人が、災いを起こしているのじゃないのか?
他人を攻撃する輩に、やり返すことが戦争なのだから。
武器に対して手のひらを開けばいい。
めいいっぱいの愛で説得すれば、とがった心は癒されるよね?
ほら!こんな風に手のひらを広げて!
「ズダダダダダー―ン!」
「いたたたた」
Pちゃんボロボロ。
ロり―タお洋服が真っ黒になってお顔もすすだらけ。
「だれやん、いま攻撃したんは?」
「Pちゃん許さんぞえ!!」
「は!」
いかんいかん、愛と慈悲に溢れるこのPちゃんが取り乱しては。
スクランブルアラートだわ!
ケイト殿に負けるもんか。
「あ!」
「P殿、その機体はあたしの2番機ですよ」
「はいはい、分かってるにょ」
バシ!
「うぐ!」
「ハッチ閉じて!」
「マスターケイトが搭乗していませんが」
「いいのよ!」
「この機体はPがもらったわ」
「マスターチェック開始」
「システムオールグリーン」
「エンジン臨海まで10秒!」
「ストラトス中尉殿・・・」
「ぴ、ぴいちゃんが・・・」
「はい・・・はい」
「カスタネット艦長!」
「Pさまがケチャップマンさんの2番機をのっとたそうです」
「なんですって」
「Pちゃん血迷ったか!」
「ヤン!」
「シャムロッド!」
「Pちゃんを止めて!」
「トリン艦長」
「ヤン・ベアリング4番機出ます!」
「おね~さま!」
「ヤンの後に出れます」
一番ゲートが開いてケイト殿の2番機が発艦するタイミングだ。
カタパルトで推力を稼ぐ。
小型のモニター数か所から怒った顔が怒鳴り散らしている。
トリンちゃんだわ、艦長のくせに短気なんだから。
「トリンちゃん」
「怒ると小じわが増えるわよ」
「Pちゃん!」
「あなたのしていることは軍機違反です」
「裁判にかけられますよ!」
「まあまあ」
「硬い事は言いっこなしだにょ」
小型モニター群を手のひらで制する。
一瞬で投影画像が消えた。
タ――ン!!
「Pちゃん!」
「自分の機体があるのに何でケイトちゃんの機体を強奪するのよ!」
戦闘機用ハンガーでケイトが戦闘ブリッジに連絡を入れる。
「トリン艦長殿」
「あたしはPちゃんの6番機で出ます」
「個人データ書き換えに少し時間がかかりますが」
「ええ」
「最近のPちゃんは何か変だと思っていたら」
「こんなことを企んでいたとは」
「ステンレスちゃん」
「シャムロッドの光弾で」
「だめです艦長」
「光弾では捕獲できません」
「Pさまを説得するしかないですわ」
「マスターP」
「あなたの頭脳サーキットにエラーが無数に検出されました」
「至急エラー修復のために帰還することを提案します」
「いいのよみっちゃん」
「戦争を終わらせるためなのよ」
「ああ、生きとし生ける者たちよ」
「Pちゃんの声を聴きなさい」
小型モニター群がまた現れた。
ブワ
「Pちゃん!」
「もう敵と交戦に成るから」
「武装を把握してるわね」
「その機体は光弾を搭載してます」
「チャージ時間はないに等しいから」
「口頭の命令だけは忘れないで」
「Pちゃん戦闘しないにょ」
「和平プログラムを注入するの」
「マスターP」
「それは浸食ウイルスです」
「やめてください」
「こちらヤン」
「2番機の後ろにつきました」
「だめです」
「捕獲は出来ません」
「攻撃用兵装しか装備していません」
「おねーさま」
「出れます」
「シャムロッド!」
「ケイトの6番機が発進できるまで持たせて」
敵の戦闘機と交戦開始。
Pちゃんの2番機は発砲せずに敵と空中機動を描く。
遅れてヤンの4番機が敵機の一機と格闘戦に入る。
シャムロッドの1番機はまだ交戦ラインに到達できない。
「ケイトちゃん!」
「マスターケイト」
「マスターPがご迷惑をおかけしました」
「まあこちゃん」
「Pちゃんのエラーを修復しないと」
「すぐにメディカルルームでオペを!」
ケイトが6番機の戦闘エーアイ、まあこに哀願している。
Pちゃんの2番機が敵のレーザー兵装に被弾した。
が、まだ耐衝撃エネルギーフィールドに守られている。
ビリビリビリ!
「きゃああ!」
「マスターP」
「攻撃命令を」
「いいのよみっちゃん」
「敵と思うからいがみ合うのよ」
「仲間だと思いなさい」
「マスターP」
「攻撃命令を」
「ハッチオ―プン」
バシュ
ビュウウウウウ!!
Pちゃんは固定エアベルトを外して外へ出ようとする。
戦闘服を着ずにロリータファッションのまま。
スカートがめくれてパンツ丸出し、黒髪の髪の毛がめちゃくちゃに。
手を水平に上げて身を乗り出す。
ビッ
バシン!!
「ぎゃあああ」
Pちゃんが敵のレーザー攻撃を顔に食らった。
機体からボディが放り出された。
高度5千メートル、Pちゃんが落ちてゆく。
「Pちゃん!!」
一時間後、Pちゃんはラインハルトに回収された。
ボディはかろうじて原形をとどめていたが、Pちゃんは大破した。
マザーベースで入院しなければならなくなった。
数か月後にPちゃんは現役復帰するが。
自分が暴走した時の事は覚えていないらしい。
裁判も受けて、3か月の禁固刑で済んだ。
「またまたあ」
「Pちゃんがケイト殿の機体を盗むわけないにょ」
Pちゃんは誕生から800年生きて来たのに、オーバーホールをしなかったらしい。




