ケイトの帰郷
「お父さん、お母さん」
「ケイトは親不孝です、許してください」
「・・・・・」
あたしケイト。
今あたしは故郷のヤシャ星系、惑星シュールに居る。
持病の変な宇宙病のせいで家出してから、50年くらい帰れなかった。
トリン艦長と行動を共にしていたから、冷凍冬眠をしたの。
親にはもう会えないと覚悟を決めていたけれど。
「・・・・」
親の墓の前に立つあたし。
お墓を見つめていたら涙がにじんできた。
途中のお花屋さんで買った花を供えて、カトリに火をつける。
ここは雨が降っていて昼間なのに薄暗い天気だ。
灰色の雲が一面の空を覆い隠している。
墓石が雨つゆに濡れている。
すぐ隣に都市があって、さみしさは軽減されているけれど。
あたしの心は寂しい・・・
宇宙戦闘服から私服のお洋服に着替えてきた。
駐車場で五式戦が待っている、戦闘エーアイのみっちゃんも。
「もういくね」
回れ右してからゆっくりと墓の群列の道を歩く。
駐車場では他の車、エアカーの搭乗者が怒鳴っている。
「おい、ねーちゃん!」
「こんな物騒なもんこんなとこに止めてんじゃねーよ」
「どう見ても違法だろうが!」
「料金所壊してんじゃねーよ」
「あ」
「ごめんなさい」
「すぐに居なくなりますから!」
キィィィ
五式戦が駐車場を派手に荒らしている。
離陸体制を整えているようだ、すぐに警察が来るな。
私服のスカート姿で五式戦のコックピットに飛び乗る。
即座にハッチが閉じて戦闘エーアイが話しかけてくる。
「お帰りなさいマスターケイト」
「すぐに離陸できます」
「警察が来るようですが、ラインハルト部隊のコードを使います」
「ええ、全部任せる」
固定エアベルトが張り付いてきた。ブラウスに食い込む。
宇宙ヘルメットだけはつけたほうがいいかな。
まあいっか。
ブワ・・・・
五式戦が駐車場から垂直離陸を開始した。
緑が生い茂る小高い丘の上に構える霊園は、雨に隠されている。
繋がっている公道をエアカーが行き来しているのだけれど。
五式戦だけが流れを邪魔している。
「エアタクシーで行きなさいって艦長殿が言うとおりにすればよかった」
「次の目的地」
「設定完了、10分で目的地に到着します」
「うん、わかった」
舗装された公道を無視して五式戦は低空飛行を続ける。
都市を二つ超えて臨海副都心までの飛行。
五式戦は全方位モニターだから、自分が空を飛んでいる錯覚になるときがある。
「みっちゃんに会うのも恥ずかしいなあ」
「マスターケイト」
「すでに私と会っているのに恥ずかしいのですか?」
「あ」
「ちがうのよ、みっちゃん」
「人間のほうのみっちゃん、ケイトの同級生よ」
「もうおばあちゃんなんだけどね」
「マスターケイト」
「私をみっちゃんと呼称するのは・・・」
「うん、同級生のみっちゃんからつけたの」
ビル群が立ち並ぶ都市についた。
白い巨大な高層ビル群が迫ってくる。
一つのビルからレーザーガイドが放たれる。
50階くらいのビルの横がゲートを開ける。
ここの店は五式戦でも入れる。
VIP扱いなのかな?
いくつか並ぶ飛行艇の横につけて、スカートの私服のまま飛び降りる。
レーザガンとかは持たない。
なるようになれよ。
黒服の店員に案内されてルームへたどり着くと。
入り口で怒鳴り声がする。
「ケーイトお!」
「あ」
「みっちゃん」
みっちゃんだ。おばさんになっても変わらない。
あの日のままのみっちゃんがいるわ。
「あ」
目の錯覚だったわ、しわくちゃのみっちゃんだ。
「ケイト!」
「ほんとに少女のままなのねえ」
抱擁してから、みっちゃんにべたべた体を触られる。
「う、うん」
「まだ20歳よ」
「文句ある?」
「ないない!」
「ほら飲んでケイト」
「うん」
ちびちび
「ねえ」
「カズコは居ないの?」
「ああ」
「女教授のカズコは大学の講義で忙しいのよ」
「今日は来れないんだって」
「お詫びのホログラム届いてるよ」
「まじ?」
「ねえ見せてよ」
「ちょっとまっててよ」
「はい」
ブン
「・・・・・」
アラートアラート!!
「ぎゃあ」
「なにがあったの」
「ごめんみっちゃん」
「緊急招集なのよ」
「また後でゆっくり語り合おうね」
「あんた本当に正義の味方なの」
「あたしもう行くね」
スカートをはためかせて駐機場まで走る。
途中、黒服にパンツを見られたかもしれないけど。
ええい、気にすんな!
「みっちゃん!」
五式戦がハッチを開けて待っている。
すぐに離陸できるようにエンジンに火が入っている。
この商業ビルにはカタパルトはないけれど滑走離陸はできる。
コクピットに思いきり飛び乗ると即座にハッチが閉じる。
固定エアベルトが張り付いてきた。ブラウスに食い込む。
雨上がりの夕暮れがビル群をオレンジ色に染める。
「マスターケイト」
「緊急警報!」
「宇宙港まで飛ばします」
「何があったの」
「ラインハルトに敵襲です」
「現地のテロリストのようです」
「信じられない」
「こんな時代でも軍事勢力が機能しているなんて」
ブワッ
キーーーーン!!
ラインハルトから通信映像です。
「うん」
ピ
「ケイトちゃん」
「宇宙港が襲撃されているわ」
「ヤンとシャムロッドが迎撃にあがっているけど」
「あなたは敵の増援部隊に向かってください」
「ん?」
「敵?」
「敵って何なのかしら?」
「艦長殿!」
「ナニぼけてんですか!」
みっちゃんが戦術ディスプレイを開いた。
目の前の空間に立体映像のホログラム。
「7分後にエンゲージ」
「光弾の効果を試してください」
「戦術データは前回の戦闘でミスブルーが実証済みです」
宇宙港にたどり着いた。
あちこちで炎が上がっている、ラインハルトも損害を受けている。
駐機ドッグに並ぶ船体が多すぎて消火設備が機能していない。
白い色の宇宙港全体が黒くくすぶっている。
すでに治安維持部隊が敵と交戦中だが、ケイトの五式戦二番機はスルーして通り過ぎる。
上空を通過してエンゲージポイントへ急ぐ。
「ミサイル来ました」
「12時真正面です」
「バレルロール!!」
「了解」
「レーザー兵装1・5秒!」
「了解」
真正面から来た敵戦闘機を撃墜。
「急制動!」
「上空へターン!」
「了解」
「上空に敵戦闘機二機確認」
「光弾チャージ開始」
「完了」
「ファイヤ!」
光の玉が数十個群れを成して放たれる。
五式戦の上空に向かって光弾が飛んでいく。
波のように勢いをつけて敵機にぶつかってゆく。
ズダーーン
「マスターケイト」
「敵勢力の撤退を確認」
「戦闘終了」
「臨戦態勢解除」
「お疲れ様です」
「みっちゃん」
「光弾のチャージ時間て無いに等しいのね」
「マスター」
「時間はあります」
「1秒以内ですが」
「うん」
「ラインハルトへ帰還してください」
ラインハルトでは、トリン艦長が待っていた。
事後処理で大変だから、あたしは自室で引きこもり。
Pちゃんが遊びに来たから、相手をする。
「ケイト殿」
「すごいにゃん!」
「何機撃墜したのにゃあ」
「うん」
「P殿は電子ゲームばかりしてるんだってね」
「そのお洋服はネット通販で買うの?」
「そうにゃのだ!」
「カタログがPC許容量オーバーしたのにゃあ!」
ああ、今日も物騒だ・・・




