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コードLP  作者: ノーリターン新
コードLP・第二章
59/76

エピローグ・ソルトアタック(ステンレス銀河叙情詩編)

全宇宙域ライヴ中継。大勢の観客がスタジアムに集う。歓声の中で数名の人に注目している。

ニュー歴0202、ファーム星系惑星チーズ。

宇宙域星間ネットワークで何兆人ものユーザーがライヴ映像を観ている。


パチパチパチ


「宇宙の皆さん、こんにちは」

「こちらはファーム星系の惑星チーズです」

「今回開戦されたオペレーション・ソルトアタック」

「そこで間違いなく奇跡が起こりました」

「平和的解決がなされたのです」

「代表者である擬人女性たちにお越しいただきました」


ステージ上でトリンやステンレス、シャムロッド達が緊張している。

拍手喝さいのラブコールの中、擬人は産まれて来た喜びの中に居る。

宇宙域に平和が近づいている。

客席の最前列で宇宙ジャーナリスト・ノリミィ・タイタンは感慨にふけっていた。

目の前のステージで聴衆に向かって笑顔で手を振るPちゃんを見ながら、ノリミィは昔を思い出す。

ステンレスと初めて出会った子供時代を・・・



「まったくもう」

「テケテケ(宇宙テクノ)って言っても、人がテケテケを作ってるのに」


海沿いの町、漁業と観光業でにぎわうこのメカン河地帯は。

私、ノリミィの産まれ育った町。


「ノリちゃん」

「今時最終型ケイタイ持ってないのノリちゃんくらいだよ?」


「いいのよアッコちゃん」

「宇宙公衆電話サービスは滅びないのよ」


日が傾いた夕刻の頃、学校帰りにカニ焼きを食べる。海岸線を二人で歩きながら。紺色の女学生服を着たノリミィ。

波しぶきを避けながら歩く。


「今日のカニ焼きはあんこが多いぞ」

「きっと良いことあるよ、アッコ」


「あれなに、のりちゃん」

「身投げかな?」


「身投げ?」


目の前の堤防に女が一人立っている。

白い髪に白い宇宙スーツを着用、宇宙世代だろうか。

海を見てたそがれている姿がはかなげで。

一瞬、綺麗な人だなと思った。


「あ」


こっちを振り向いて猛ダッシュしだした、尋常じゃなく速い走り。

その刹那、女の後方で巨大な水しぶきが上がった。

海から何かが出てくる。

全長4メートル近くある人食いカニだ!

あの巨大なハサミが私の首を狙っている。


「ひぃ!」


「ノリちゃん怖いよう!」


「あたしも怖くて動けないよ」


ガキ!


人食いカニが上陸、もの凄い速さでハサミを振り回し女の体を捕まえる。

私はその時女の人は死んだと思った。ハサミで捕まえながらも私達を食べに来る。真っ黒い光のない目が私を狙っている。


ザザザザザアン!


目の前にまで迫ってくる。私はオシッコ漏らしてその場に座り込んでしまった。


「あなたたち!」

「展望台へ上りなさい!」


なんとその女は素手で凶暴な巨大カニと格闘している。


「はい!」


私と同級生のアッコは近くの展望台へ駆け込む。

係員のおばちゃんに事情を説明して一緒に最上階を目指す。

窓から下を見下ろすと防波堤の上でまだ戦っている。

白い髪が美しくパールに光る細身の女性、この人はヒーローなの?


最後に肘鉄とかかと落としを決めてカニはノックダウン。

最上階で3人で茫然としていると、ややあってあの人が登ってきた。



「カニ鍋でも食べる?」

「生き物は生き物を食うものですわ」


「ヒーロー・・・」


私はつぶやいた。


「いやですわ」

「あたくしはステンレス・ノーマット」

「擬人コードLP8000JJ、ですわ」


「のりちゃん」

「この人擬人さんだよ」

「私漏らしちゃった」


「うん、私も」


警察が来て現場検証とか色々聞かれたけど。

それから一時間、日が沈むまでその擬人と話した。

沈んでゆく夕日を見つめながら。


「いいですかノリミイ」

「人は電気を操って文明を作ります」

「ですが文明を動かす電気が無くなったら」

「代わりに何が文明を動かしますか?」


「う~ん」

「分かんないです」


「人ですわよ」


「人?」


「ものを作り出すのは人です」

「生き物は電気が流れていなくとも動きます」

「電気の代わりに何が流れていますか?」


「血です」


「その通りですわノリちゃん」

「生き物は生きるために他の生き物を食わねばなりません」

「それが血となり肉となり骨となります」

「ノリミィ」

「これは神様が私達に投げかけているヒントではないのですか?」


「あ」


正直、私はショックだった。

人を守るために製造される擬人と呼ばれるロボット。

擬人が人間以上の知性を備えていると言う噂は本当だったのだ。


「・・・」


ステンレスは私のスカートを見て言う。


「ノリちゃん」

「怯え恐れる事は恥ずかしい事ではありませんわ」

「誰から逃げても良い」

「ただひとつ」

「自分自身から逃げ出すな、ですわ」


「はい、ステン」




ステンレス銀河叙情詩編・終


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