エピローグ・ソルトアタック(ステンレス銀河叙情詩編)
全宇宙域ライヴ中継。大勢の観客がスタジアムに集う。歓声の中で数名の人に注目している。
ニュー歴0202、ファーム星系惑星チーズ。
宇宙域星間ネットワークで何兆人ものユーザーがライヴ映像を観ている。
パチパチパチ
「宇宙の皆さん、こんにちは」
「こちらはファーム星系の惑星チーズです」
「今回開戦されたオペレーション・ソルトアタック」
「そこで間違いなく奇跡が起こりました」
「平和的解決がなされたのです」
「代表者である擬人女性たちにお越しいただきました」
ステージ上でトリンやステンレス、シャムロッド達が緊張している。
拍手喝さいのラブコールの中、擬人は産まれて来た喜びの中に居る。
宇宙域に平和が近づいている。
客席の最前列で宇宙ジャーナリスト・ノリミィ・タイタンは感慨にふけっていた。
目の前のステージで聴衆に向かって笑顔で手を振るPちゃんを見ながら、ノリミィは昔を思い出す。
ステンレスと初めて出会った子供時代を・・・
「まったくもう」
「テケテケ(宇宙テクノ)って言っても、人がテケテケを作ってるのに」
海沿いの町、漁業と観光業でにぎわうこのメカン河地帯は。
私、ノリミィの産まれ育った町。
「ノリちゃん」
「今時最終型ケイタイ持ってないのノリちゃんくらいだよ?」
「いいのよアッコちゃん」
「宇宙公衆電話サービスは滅びないのよ」
日が傾いた夕刻の頃、学校帰りにカニ焼きを食べる。海岸線を二人で歩きながら。紺色の女学生服を着たノリミィ。
波しぶきを避けながら歩く。
「今日のカニ焼きはあんこが多いぞ」
「きっと良いことあるよ、アッコ」
「あれなに、のりちゃん」
「身投げかな?」
「身投げ?」
目の前の堤防に女が一人立っている。
白い髪に白い宇宙スーツを着用、宇宙世代だろうか。
海を見てたそがれている姿がはかなげで。
一瞬、綺麗な人だなと思った。
「あ」
こっちを振り向いて猛ダッシュしだした、尋常じゃなく速い走り。
その刹那、女の後方で巨大な水しぶきが上がった。
海から何かが出てくる。
全長4メートル近くある人食いカニだ!
あの巨大なハサミが私の首を狙っている。
「ひぃ!」
「ノリちゃん怖いよう!」
「あたしも怖くて動けないよ」
ガキ!
人食いカニが上陸、もの凄い速さでハサミを振り回し女の体を捕まえる。
私はその時女の人は死んだと思った。ハサミで捕まえながらも私達を食べに来る。真っ黒い光のない目が私を狙っている。
ザザザザザアン!
目の前にまで迫ってくる。私はオシッコ漏らしてその場に座り込んでしまった。
「あなたたち!」
「展望台へ上りなさい!」
なんとその女は素手で凶暴な巨大カニと格闘している。
「はい!」
私と同級生のアッコは近くの展望台へ駆け込む。
係員のおばちゃんに事情を説明して一緒に最上階を目指す。
窓から下を見下ろすと防波堤の上でまだ戦っている。
白い髪が美しくパールに光る細身の女性、この人はヒーローなの?
最後に肘鉄とかかと落としを決めてカニはノックダウン。
最上階で3人で茫然としていると、ややあってあの人が登ってきた。
「カニ鍋でも食べる?」
「生き物は生き物を食うものですわ」
「ヒーロー・・・」
私はつぶやいた。
「いやですわ」
「あたくしはステンレス・ノーマット」
「擬人コードLP8000JJ、ですわ」
「のりちゃん」
「この人擬人さんだよ」
「私漏らしちゃった」
「うん、私も」
警察が来て現場検証とか色々聞かれたけど。
それから一時間、日が沈むまでその擬人と話した。
沈んでゆく夕日を見つめながら。
「いいですかノリミイ」
「人は電気を操って文明を作ります」
「ですが文明を動かす電気が無くなったら」
「代わりに何が文明を動かしますか?」
「う~ん」
「分かんないです」
「人ですわよ」
「人?」
「ものを作り出すのは人です」
「生き物は電気が流れていなくとも動きます」
「電気の代わりに何が流れていますか?」
「血です」
「その通りですわノリちゃん」
「生き物は生きるために他の生き物を食わねばなりません」
「それが血となり肉となり骨となります」
「ノリミィ」
「これは神様が私達に投げかけているヒントではないのですか?」
「あ」
正直、私はショックだった。
人を守るために製造される擬人と呼ばれるロボット。
擬人が人間以上の知性を備えていると言う噂は本当だったのだ。
「・・・」
ステンレスは私のスカートを見て言う。
「ノリちゃん」
「怯え恐れる事は恥ずかしい事ではありませんわ」
「誰から逃げても良い」
「ただひとつ」
「自分自身から逃げ出すな、ですわ」
「はい、ステン」
ステンレス銀河叙情詩編・終




