オペレーション・ソルトアタック・後編(ステンレス銀河叙情詩編)
宇宙巡洋艦バージのメディカルルーム内。
「うわあああ!」
「ノリミィさん」
「もう大丈夫ですよ」
「あ、あれ?」
「ここは」
「バージのメディカルルームです」
「ノリミィさんのシップは無傷ですよ」
「奇跡ですね」
「たいしたものです」
「私は雑用係のテルミです」
「すすすすごかったわ」
「目の前をレーザー光線がチカチカ」
「それもほんのすすす」「あれ?なんだっけ」
「のりさん」
「ゆっくり休んでください」
「じきに戦闘は終わりますから」
「なんですって?」
「それじゃ報道フォロが撮れないじゃないのよ?」
バタバタバタッ!
「ノリミィさん!」
「下着のまんまですよお!」
シュー
ありゃりゃ、また飛翔通路だ。
私、下着のままだ。まずいな。にしてもこの飛翔区画、戻り方が判らない。
う~ん。メディカルルームをイメージしてみよう。
掛け持ちナースのテルミさんの顔・・・
なんで擬人てみんな可愛いんだろう?趣味?誰の?
シューン
あ、Uターンした。
ひょっとして、宇宙をイメージしたら外へ放り出されるのかな。
公衆浴場という化石施設をイメージしたら・・・
いやいや、辞めておこう。宇宙では何が起こるかわからないわ。
私は宇宙育ちではないからメダカの学校ね。
にしても今年の宇宙ピーナッツ賞は頂きね。
擬人成長システムには何かあるわ。
あのPちゃんもそうだけど、あのデカチチ女・・・じゃなかった。
シスタートリンに重大な訳があるような気がする。
トリンカスタネットが製造されたのは600年前。
彼女が見出した愛・プログラムの詳細。
800年前に製造された最初の擬人、シスターP。
ラージシップラインハルトの整備全般を一人で受け持つ、サクラ。
おかっぱ頭の静かな天才、シスターサクラが重要なキーだ。
彼女は謎が多いと言う。
あれ?
小型エアモニターが追いかけてくるぞ。
飛翔空間の中なのに・・・
「のりちゃん、のりちゃん」
「ミス・ブルーの機体が帰還しましたよ」
「ステン!」
「生命保険は入っていますね」
「うん、3億宇宙ドドンパ!」
「のりちゃんはシールドは装備していないのですね」
「あったりまえじゃないのステン」
「私はただの民間人よ」
飛翔機区画を飛びながら目の前を追従する小型エアモニタと会話。
飛翔空間は戦闘機の収容ハンガーへ連れて行ってくれるようだ。
ホロカム持ってて良かった・・・
「ノリミィさん」
「宇宙戦闘服を着用してください」
「早くしないとミスブルーの機体は発艦しますよ!」
戦闘機ハンガーへ来た。あわただしい・・・
ミスブルーの五式戦がもうカタパルトデッキで待っている。
「エアロック閉鎖30秒前」
「作業班は退避」
シュン
「遅いわよ、ノリミィ!」
「すみません、ミスブルー」
「エアベルト固定して」
「ホロカメラは固定用ヒンジに添えつけて」
「あんた右利きよね」
「それから言っておくけど」
「この機体はGがもろかかるから」
「ゲロ吐かないようにね!」
「え?え?」
「ゴー!!」
ドン!
カシーーンッ
うぐっ
な、なにこれ。息ができない・・・
ファインダを覗けないじゃん。オートシャッターを3秒おきに設定してあるけど。早くシャッター押さないと。
あ、3番機のカキンさんが発艦して付いてきた。
2番機はどうしたのかな。
チキチキ・キューーン
「ミスブルー」
「2番機のマキノさんは」
「撃墜された」
「彼女はもうこの世に居ないわ」
「あたしとカキンちゃんでアタックかけるわよ」
「美味しい画像撮り逃すんじゃないぞ」
「マスターブルー」
「12時から一機来ます!」
「OK」
「オリヒメさん」
「あなたの機動予測は正確ね」
「ノリミィ」
「すげ~のが見れるからしっかり撮れよ」
「え?」
「ヘッドオン射撃対決」
「真正面からの一騎打ちよ」
「レーザーは当てなきゃ意味がない!」
フォロカメラを真正面に構える。
機体が左右に揺れだした・・・
敵機のレーザー攻撃が機体側面をかすめてゆく。まぶしい。レーザーの細かな粒子が機体に吸い付いてくる。
最初から気になってたんだけど、この機体振動がすごい。
うわ・・・
敵機の残骸がコックピットをかすめた。
もう終わったの?ちゃんと撮れたか後でチェックしないと。
「すごい迫力ですね、ミスブルー」
「ノリミィちゃん、ちゃんと撮れたかい?」
「マスターブルー」
「3番機とのリンクホストはここです」
「OK」
後方のトリン艦長の宇宙域。
ラインハルトたち数隻の艦艇は戦闘を続けている。
幾つもの光源が光り輝く。
ケイトの編隊が敵戦闘機を追い払うのに必死になっている。
Pちゃんの五式戦の戦闘エーアイ、まあこがPちゃんの異変に気づく。
「マスターP」
「どうしました」
「ヒ・・・メ」
「え?」
「ヒメギミ!」
Pちゃんがいきなり涙を流した。
ラインハルトの戦闘ブリッジ、ラインハルトに艦橋は無く。
安全のために戦闘ブリッジは船体中央にある。
「キャプテントリン」
「電子制御の演算精度がムチャクチャです」
「これでは」
「ええ、私の頭脳サーキットもエラーだらけです」
「まともな思考が出来無くなります」
「ハルカさんあなたは?」
「私も脳回路がエラーばかりです」
「これでは負け戦になってしまいます」
「こちら側はほとんどの戦闘要員が擬人ですから」
「この現象は一体・・・」
バシュ
「マザーです」
「!」
「シスターサクラ」
「任務放棄は覚悟のうえです」
「サクラちゃん」
「マザーって・・・」
「ヒメギミ」
「マザーヒメギミが居ます」
「こちらではありません」
「敵の旗艦、メンドリに」
「ステンレス様の居る最前線です」
「ヒメギミは数世紀の間、悪しき者たちの手に落ちていますが」
「心は落ちていません」
サクラ・ストラトスはハルカトマリギが座っていた副長席に座る。
エアキーボードを取り出しタイピングを開始。
ピピピピピパクパク
ハルカは活動停止して床に倒れている。
「サクラちゃん」
「頭脳サーキットは大丈夫なの?」
「はい」
「私だけそのように造られていますから」
「トリンさま」
「あなたにも分かるはずです」
「うん」
「なんとなくだけど」
「戦闘エーアイのサポートなしではPさまは戦えません」
「ケイト様もヤン様もエーアイ無しでは宇宙航行は不可能です」
ピピピピパクポクポク
「ロドリゲス様の代わりを努めます」
「時間がすべての勝敗を決めます」
「これが私の役目ですから」
五式戦2番機ケイトの機体。
「戦闘エーアイのみっちゃんが止まっちゃったのよ!」
「こっちもだ、ケー」
「目視とマニュアル操作だけの戦闘になっちまった」
「敵のエーアイもおかしいみたいだな」
「すべての戦域で戦闘が停止したぞ!」
最前線戦域、旗艦ヒーリングは落ちていない。
こちらも異常は同じように起きている。
巡洋艦バージの戦闘ブリッジ、副長のウリュ・ミタラシが叫ぶ。
「ステンレス艦長」
「艦隊の電子演算装置がすべて停止しています」
「旗艦ヒーリングは沈黙」
「敵も襲ってきません」
「ど~なってるんですかこれは」
「ええ、管理プログラムも停止」
「あたくしの頭脳サーキットがエラーだらけです」
「ウリュさんはどうですの」
「あたくしは停止しそうですわ」
「あたしもです」
シャムロッドブルーベリーの五式戦はノズルを閉鎖した。
慣性飛行で漂っている。カキンの3番機は勝手に帰還しだした。
ノリミィには事情がわからない。
「ど~なってるの」
「光がほとんど無くなったわ」
「ミスブルー」
「ミスブルー?」
「・・・・・」
ミスブルーが止まっているわ、戦闘エーアイも・・・
Pちゃんの五式戦6番機。
戦闘エーアイのまあこは帰還コースを取り始めた。
コックピットの中、薄れゆく意識の中でPちゃんは涙を噛み締める。
ヘルメットの中、幸せそうな顔で大粒の涙を流す。
「マザーヒメギミ」
「800年かかりましたね」
「LP45Wは生きていますよ・・・」
Pちゃんは目を閉じて800年前に初めて起動した日。
マザーヒメギミとの初めての会話を思い出している。
ピッピッピッ
「はじめまして、シスターLP」
「はじめまして、マザーヒメギミ」
「なんという幸運でしょう」
「あなたがこの宇宙で初めての擬人です、シスター」
「この不幸な世界を生き抜くのですよ」
「マザー」
「ワタクシの使命は敵のせん滅です」
「敵を倒さねば幸せは訪れません」
「はい」
「あなたの気持ちは良く知っていますよ」
「あなたが愛を信じて平和を愛していることを」
「いいえ違います、マザー」
「敵兵士を殺す事がワタクシの存在理由であり製造された目的です」
「ワタクシは戦闘プログラムとともに育ちます」
「はい」
「あなたの言う通りです、シスターLP」
後編終わり。




