第5話 始まりの狼煙
ドウモ、コタツ=テンビンです。ドクシャ=サン、お待たせしました。
このネタはこの話には関係ありませんけどね。
GW前に書けてよかった………。
次は少し遅くなるかもしれません。
では、どうぞ。
「あんたを倒して俺が強いってことを証明してやる!」
アレンが剣を構え、身を低くする。その様子を見たサイクロプスは手近な金槌を手にして睥睨する。
『ほう、 我を討伐しに来たのか? 小さきものどもよ!』
洞窟内に濁声が響きわたる。その重圧を跳ね除けるようにアレンは地面にしっかりと足をつける。
「そうだ! お前なんて踏み台だ‼︎ 俺には、強くならなくちゃいけない理由があるんだ!」
『ほう………、そこな小娘共も我を倒しに来たのか?』
巨人に負けない大きさの声で叫んだアレンの表情は、どこか後がないようにも見えた。気にはなったが、巨人がこちらにも話しかけてきたのでそちらに向き直る。
「まあ私はあなたが持ってるという宝箱が欲しいだけだけど、ーーーそれはあなたを倒すのと同義よね?」
不敵な笑みを浮かべ、装飾の施された杖を掲げる。サーシャもメイスを強く握りしめ、その意志を示す。
『そうか。なら相手をしないわけにはいかないようだな。ーーー我が名はエラブ。魔界の鍛冶師をやっているが小僧どもに負けるほど老いてはおらん!』
その名乗りが開戦の合図となった。サイクロプスのエラブは真っ先に俺に向かって巨大な槌を振り下ろしてきた。
「ネアさん⁉︎」
「大丈夫。サーシャはアレンが戦い易いように援護して。《淵源の護手》‼︎」
杖を翳し、頭の中に術式を思い浮かべる。それと同時に尋常ではない量の魔力が身体を廻り杖に収束、放出される。
奔流となった魔力はネアを覆うように広がり、エラブが振り下ろした一撃を受け止め、拮抗させた。
渾身の一撃を受け止められたサイクロプスは驚愕しながらも、嬉しそうに叫ぶ。
『無詠唱! しかも物質転換せずに我が一撃を受け止めるとは‼︎』
そしてすぐさま飛び退いて背後からのアレンの斬撃を躱してのける。
「くそっ!」
アレンが悪態をつきながらエラブの方に向き直りーーー驚愕する。
『良い振りだ。だが、それではわしに当てることは出来ん‼︎』
そう言って洞窟の壁に手を突っ込み、力任せに引っこ抜く。鈍い音とともにその手に現れたのはーーー岩塊のハンマー。
「っ! 容赦なさ過ぎ⁉︎ アレン伏せて‼︎」
サーシャが慌てて聖句を詠唱する。アレンの身体が光に包まれ、その身を押し潰そうとしていた岩塊の落下を押し留める。
「燃え尽きろ、《火炎の嵐》!」
聖句と拮抗するハンマーに向けて杖から焔を放つ。中級魔法とは思えない凄まじい嵐の奔流が岩塊を一瞬で溶解させ、巨人の腕までその矛先を向ける。
『なんと! それほどの火力とは⁉︎ だが、わしの身体は地獄の焔でさえ耐え抜くわ‼︎!』
焔に身を包みながらも動じた様子もなく哄笑する。確かに鍛冶で鍛えたその肉体には、火力がおかしいことになっている今でも厳しいか。
というか、本気でサイクロプスを火魔法で倒そうと思ったら山一つ消し飛ばすほどの威力でないと通らない。それは流石に色々と拙い。
「そうね。でも、今の気分は良好かしら?」
『何? ………そういうことか‼︎』
だか、伊達に勇者パーティーの一員として戦っていたわけではない。魔物と戦う時の対策は血眼になって探し出し、実戦で培ってきたのだ。
「はあっ‼︎ 《ダッシュスラッシュ》」
『ガッ………⁉︎ 見えぬ⁉︎』
焔は巨人の視覚を潰し、爆ぜる音は聴覚を奪い、身体を這うことで触覚を失わせる。その事に気付いた時にはアレンの一撃が背中を切り裂いていた。
「アレン! 火耐性はあと数分しか持たない。それまでに決着をつけて!」
「わかった! おおおぉぉおお‼︎」
裂帛の気合いでエラブを斬っては退きのヒットアンドアウェイでダメージを与えていく。斬撃の嵐に囚われていたエラブだったが、ジリジリと壁際まで退いていく。
「させない! 《魔法の鎖》‼︎」
しかし、サーシャがメイスをエラブの右脚に思い切り打ち付けて転倒させ、さらに魔法の鎖を放ちエラブを拘束する。
『ぐうっ⁉︎』
その隙を逃さずにアレンが飛び上がり、直上から剣を振り下ろす。誰が見ても必殺の一撃だった。が、
「これでっ! ………っな⁉︎」
ビキッ、と致命的な音を響かせてアレンの剣が砕けてしまう。ただでさえ長く使い込んでいたというのに、さらに鋼のように硬いサイクロプスの肉体を斬り続けていたのだ。
必勝の機会を逃し、悔しそうな表情を見せるアレン。だが武器を失った今、こちらが著しく不利になった。
「アレン、予備の武器はない⁉︎ 下がらないと結構拙いよ‼︎」
サーシャが魔法の鎖で必死に抑えてはいるが、数秒も持たないだろう。アレンは辺りを見回して武器を探すが、すぐに手に取れるような武器は見つからない。
が、ネアには心当たりがあった。
「アレン! 受け取って‼︎」
掲げていた杖をアレンに向かって放り投げる。しっかりと掴んだ瞬間杖の形状が変わり、真紅の長剣が顕われた。
「うおおぉぉぉおおおお‼︎!!」
『させぬううぅぅぅううう‼︎!』
巨人は鎖を強引に引き裂き、柄だけとなった槌を掲げて受け止める。激しく火花が飛び散り2人の様子が見えない中、ネアーーーレイは不思議な既視感を覚えた。
燃え盛る暗黒神殿の最奥、肩を並べて戦った親友は剣を失い血を吐きながらも魔王から視線を外さない。最後に俺の投げた剣を掴み取り、魔王の胸に突き立てるーーー10年前のあの光景が何故か目の前に重なって見えた。
何かを掛けて戦う覚悟もその規模も全く違うというのに、アレンの姿がーーーあいつに見えた気がした。
ギイイイィィィィイイイン‼︎!!
直後、閃光が弾け双方が弾かれた。互いに必死に踏み止まろうと脚に力を入れて耐えようとする。が、ーーーエラブは立ち止まったその場でゆっくりと倒れ込んだ。
『ガハハハ‼︎ 見事だ! 小さき勇者達よ。わしの完敗よ』
大の字になって豪快に笑うエラブは負けたというのにどこか楽しそうだった。
「俺の………勝ち?」
剣を杖代わりになんとか立っているアレンは信じられないといった風な表情で呟く。が、タックルをかますように抱きついてきたサーシャに為す術なく押し倒された。
「アレン‼︎ ほんと、ほんと心配したんだかりね⁉︎ よかった、よかった………」
「サーシャ………、痛いって」
取り敢えずあの2人は心配なさそうなので笑い続けるエラブの元に向かう。
『ハハハ。む? わしにトドメを刺しに来たか。構わん。今は気分が良い。気持ち良く死ねそうだ』
死ぬ気満々の巨人に呆れて溜息をついて腰に手を当てる。
「何言ってる。私は宝物をいただきに来た。あなたが死んだら場所がわからない」
『おお、そうであったな。わしは負けた。ここにあるもの何でも持ってけい! といってもわしが鍛えた武器と防具、アクセサリーぐらいしかないがな!」
「それで良いよ。サイクロプスが造る物はかなり強くなるからね。………あ、話は変わるんだけど」
そこでいったん2人が聞いてないことを確認してから声を潜めて確認する。
「つい最近新しい魔王が軍を率いて人間界に降り立ったのは知ってる?」
『うん? ああ、木霊から聞いておる。今代は女の魔王だったか』
髭を弄りながら話すエラブには熱がこもっていない。それを確認しさらに質問を重ねる。
「なら新たな魔王について行こうとはしないの?」
それを聞くと痛快そうにエラブは笑った。
『参戦の命令は来たさ。だがいざ偉そうに人間界に降り立ったかと思えば、勇者パーティーの戦士1人と相討ちになって重傷だとか! それで魔王を名乗るとはお笑い物よ‼︎ ダークエルフの女王など部下どもの目の前で笑い転げたらしい』
あのクールな女王が。俺と勇者が風呂を覗いた時以外、殺し合いの最中ですら感情を見せなかったというのに。
「そうなんだ。………戻るか。サーシャ、いつまでもいちゃいちゃしてないでお宝もらって帰ろう」
アレンに馬乗りになっているサーシャに声をかける。一瞬で顔を真っ赤にしてアレンを吹っ飛ばした。
「い、いちゃいちゃしてない!」
「はいはい。で、エラブ。宝物はどこ?」
『宝物と呼ばれる物は無いぞ』
「は?」
一瞬思考が停止する。まさか、無駄足なのか………?
『だが、ここには長年打ち続けてきた数多の武器甲冑がある。好きに持って行くがよい。勝者よ』
そう言って立ち上がり、先ほどハンマーを引っ張り出した時に開けた穴に潜っていく。なるほど、盗難防止の為に入り口を隠してたのか。
「痛ってー。サーシャのやつ、強く殴り過ぎだろ………」
アレンが呻くように言いながら追いついてくる。目立った怪我は見つからず、革鎧に無数の傷が残っているくらいか。
「まあ、誰でも通る道だからね」
「?」
呟くように言ってあげてからエラブの後をついていく。アレンは訳が分からなかったようだが、じきに分かる。多分。
隠し部屋はちょっとした倉庫のような場所だった。金属特有の光沢を放つ武器防具が所狭しと並べられている。
『長年ここに篭っておったから使われもしない物がここに溜まってしまっておる。幾らでも持って行け』
試しに近くにあった大剣に触れる。頑丈さもさることながら、魔力が通う隙間も精巧に鍛造されている。
「うん。流石は地獄の鍛冶師。素晴らしい出来」
『ほう? 魔女だと思っていたが、剣の心得もあるのか?』
「………少し、ね」
まさか元男の戦士だとは言えない。適当にはぐらかしてから今の自分でも使えそうな物を探す。狙い目はアクセサリーか。奥の方に無造作に置かれているそれらを漁るようにして物色する。
「これ、金剛鉄で出来てるんですか………? 人間界では滅多に取れない………」
『魔界ではたんまり取れるからのぅ。代わりに銀は全く採れんが』
サーシャは目をまん丸にして武器の材質に驚いている。魔界に行ったことの無いサーシャにとって、金剛鉄はほとんど目にする機会は無い金属だろう。
良さげなペンダントと羽飾りを見つけたので身に付けていると、隣でふらふらと奥の方に歩いていく姿が見えた。
「ん? アレン、どうしたの?」
「………………」
アレンはそれに応えることなく覚束ない足取りで進んでいく。首を傾げながらもその後ろをついて行くとーーーそこにあったのは、岩石に直接突き刺さった長剣。
幽鬼のような足取りで近づいて行き、シンプルな柄を握りしめーーー引き抜いた。
その長剣は不思議な金属光沢を放ち、僅かながら魔力がその中に込められている。
「これ、気に入った………」
『うむ。それはここで鍛えた中では会心の作だ。大事に使ってくれ。………鞘はこれだ』
エラブが放った鞘を受け取り、それに長剣を落とし込んで勢い良く背負い直す。その姿が意外と様になっていたので思わず拍手してしまった。
「おー、かっこいい」
「な、なんだよ。………そろそろ村に戻ろうぜ。結構時間が経っちまってるし」
「ほんとだ。もう日が暮れちゃうね」
サーシャも首に掛けていた懐中時計を取り出して驚いた様に声を上げた。て、まだ1日も経ってないのか。中々波瀾万丈な1日だ。
「なら急ごうか。夜は獣も動き出すから危ない」
先を促しながらエラブのことを見上げる。巨人はじっとアレンのことを見つめていたが、こちらの視線に気がついて向き直ってくる。
『どうした?』
「また来るかもしれないから、元気でね」
エラブは予想外の別れの挨拶に目を見開き、豪快に笑った。
『くははは‼︎ 洞窟に暮らして10年経ったが、今はもう魔物と人間が挨拶を交わせる時代になったか!』
「そう。人間と魔物が同じくらいの数で生活している街もある。だから、また会おう」
『うむ。小さき勇者達よ。元気にしておれ。気が向いたらお前達のために腕を振るっても構わない』
その言葉を贈られて、洞窟を後にした。
■
「ネアさんって、これまでにも魔物と会話したことあったの?」
長い洞窟の道中、新たに盾を装備したサーシャが尋ねてきた。魔物を敵視する傾向の強い神官である彼女には、平然と魔物と話す光景は信じ難かったのだろう。
振り向きながら口に手を当てて考える。いつから倒すだけの相手だった魔物と話し始めたのだろう。勇者と会う少し前だったか?
「うーん。人を試す類の石像とかドラゴンとかと話してる感じで大丈夫だよ。まあゴブリンとかオークとか問答無用で倒すべき相手もいるけどね」
特にゴブリンとか。商売を行う奴もいるのだが、己の欲望が強過ぎるのでなるべく関わりたくない。
「つまり………、相手によりけりってこと?」
「そーゆうこと。人間にしたって魔物にしたって厄介な奴は厄介だから、注意してね」
あまり細かい事に気を配る性分ではないのだが、冒険者としての知識は少しでもーーー
「どうしたの? ネアさん」
サーシャは急に立ち止まった私に首を傾げて覗き込んでくる。が、それが気にならなくなるほどのあの臭いが、鼻腔をくすぐった。
「………木の焦げる臭い」
「え?」
「サーシャ、ここら辺は焼畑とかしてたりする?」
「は、速い………。いえ、無いですよ」
自然と早足になった私に慌てて追いつきながら答えてくる。その返答に嫌な予感が確信に変わった。暗い洞窟の中を走り抜けていき、一気に光の強い外へと飛び出した。
「………………」
「ネアさんっ。どうしたんですか………、え?」
「村が、………燃えてるのか?
村の方角から、火の手が上がっていた。
やっと物語が動き始めるかなぁ………。
謎の既視感! 謎の剣! 襲撃される村‼︎
頑張りますので、生暖かく見守って頂ければ云々。
感想を頂ければ幸いです。