第4話 ダンジョンの主は?
炬燵天秤です。
久しぶりにポケモンを始めた。もう訳が分からなくなっていた。フェアリーとはなんぞや。
この話には関係ありませんが。
では、どうぞ。
「ふう、長引きそうかなぁ………」
レイ改めネアは、集会所の待合所の椅子に退屈そうに座った。サーシャの父親に報告したところ、すぐに村の男達を集めて教会で会議を始めてしまった。一応ネアも証人として出席していたのだが、村の話し合いに部外者を入れたくないらしく早々に退出を促されてしまった。
「うーん、状況がいまいちわからないなぁ………」
自分の精神がいろんな意味でまずい状況になっているのは分かるが。ここに来てから間違えて男の口調を使うこともない。もういっそ少女として………いやいやいや。
「あ、えっと、ネア、だよな?」
そんな悪化する事態に頭を抱えていると、ついさっき聞いたばかりの声が掛かる。
顔を上げれば先程の少年、アレンが目の前に立っていた。少し照れた様な表情をしているのが謎だ。
「アレンくん。君って今手持ち無沙汰?」
「お、おう。そうだけど?」
話しかけると途端に動作がぎこちなくなる。よくわからないが暇なら丁度良い。村でも案内してもらおうか。
「よかった。なら付き合ってくれない?」
「へっ、付き合うっ⁉︎」
アレンは飛び上がらんばかりに慌てふためき、危うく転びかける。何故なのか首を傾げかけたが、昔フィアナとの間でこんな誤解があったと思い出した。
「あっ、ごめん。村の案内をしてもらいたいんだけど………、良いかな?」
「え、あ、ああ。おう! 任せとけ!」
誤解だったことに気がついて顔が赤くなっているが、理解した為かこくこくと頷く。そして気恥ずかしさを誤魔化すかのようにそっぽを向いた。
「じゃあよろしく。アレンくん。まずはどこから行くの?」
「うーん、じゃあ宿屋から行くか。………サーシャを助けてくれたんなら教会に泊まれるだろうけどさ」
アレンはぶっきらぼうに言って入り口へと向かう。その様子に苦笑してついていった。
■村の教会、礼拝堂
ネアを退出させて始められた会議は混沌としていた。
「オークの群れが森に現れただと⁉︎ 一体どういうことなんだ‼︎」
「昨日くるはずだった商団も来ない。王都で何かあったに違いない。人を送ってみるべきだ」
だが誰を行かせる? オークがいるならば余程の腕の持ち主でないと厳しいぞ。村の守りの問題もある。そうそう人員を割くわけにはいかない」
大人達のあーでもない、こーでもないという口喧嘩を側で眺めつつ、サーシャは暇そうに欠伸をかみ殺す。流石に神官の娘が欠伸をしていたらはしたない。
(これは結論が決まらないんでしょうね………、お父様達って頭が硬いのよね)
揉めている時間があるならば何か知っているであろうネアから情報を得て、防柵を作るとか対策を取るべきだ。行商人以外の外の人間を信じないのはこの村の悪癖だろう。
「お父様、私はこれでお暇させてもらいますね」
半ば喧嘩となってしまっているためダンクさんが皆を鎮めている内に父親へと話しかける。まだ三十路だというのに白髪の混じり始めた髪が哀愁を漂わせている。
「うむ、ご苦労様だった。今回の様に外は危険だからなるべく出ないようにな?」
「はぁい」
しっかり頭を下げて頷いたのだが、お父様は胃が痛そうな表情をした。全く、可愛い子には旅させよと言うというのに。
(ネアさんとアレンは今どこにいるんだろ? ネアさんの格好なら誰か覚えてるでしょ)
村といってもそこそこ規模は大きい。幾つかの道具は独立して販売されているほどだ。
村の広場まで歩き、手近なところにいた近所のお婆さんに声をかける。
「フーラおば様、この辺りを紫色のドレスの少女が通りませんでしたか?」
「ああ、サーシャちゃんに負けないくらい綺麗な子かい? あの子ならついさっきアレンと一緒に防具屋に入って行ったよ」
「防具屋に………、ありがとうございます。けど流石にあの子ほど可愛くはありませんよー」
「そうかい? サーシャちゃんがお転婆じゃなければ貴族様からお誘いも来るんじゃないかしらねぇ?」
「あはは、まさかぁ」
おば様にお礼を言って防具屋に向かう。防具屋は村の北側に武具屋と並んで建っていて、村のものとしては意外と品揃えと質が良い。
「お邪魔しまーす」
扉を開けて中の様子を伺うと、確かに2人がいた。なにやら着るものを見繕っているのだろうか?
少し様子を伺っていると、ネアがこちらに気がついて手を振ってきた。
「サーシャ。会議は終わったの?」
「ううん。退屈だから途中で抜け出してきちゃった。2人はなにしてるの?」
「ローブを見繕っているところ。この服って結構目立っちゃってたしね」
そう言ってローブを広げて見せてくる。柄が少しだけ入れてあるそれは、いつか商団が仕入れてきた民族が好む模様を刻んでいた。
「へぇー、防具屋ってローブも売ってたんだ」
「おうよ。攻撃を受けるのは戦士だけじゃねぇからな。魔法使いが好む服も売ってんだよ」
カウンターに踏ん反り返っている店主が偉そうに言うが、村に魔法使いはいないのよねぇ………。多分ネアさんが初めて訪れた魔法使いなんじゃ。
「けどよぉ、そんな薄っぺらいローブで防御力なんて有るのかよ? 剣で切られたら軽く破れそうだぜ?」
アレンが胡散臭そうにローブを着たネアを眺める。魔法に疎いアレンは教会での講義を聞いてないからそこら辺も知らないのだろう。ネアが苦笑いをしてアレンに解説してくれた。
「魔法使いは衣服に防御魔力を掛けられるの。魔物の種類によっては完全に防いでくれたりするから覚えておくといいよ」
「それって他の人にも付与できるんだよね?」
「そうそう。だから基本的にパーティーには魔法使いを入れておくといいの。攻撃だけじゃなくて防御の要にもなることが出来るから」
「そーなのか。けど魔法使いは全体数が少ないんだろ? 魔法街と王都を除けば街に一人いれば良いほうなんだろ?」
その辺りは聞いていたのか、アレンが感心したように頷く。確かにアレンの言う通りパーティーに参加する魔法使いの数は決して多くはない。皆自分の研究室に篭って実験に耽っており、滅多に外には出てこないとか。
かの勇者パーティーの魔法使いも、勇者の度重なる勧誘と魔女王の推薦状、終いには強襲からの誘拐でようやく仲間になったという逸話もあるほどだ。
つまりネアのように積極的に会話をする魔法使いは、かなり珍しい部類に入る。当の少女はローブを買いにカウンターに行ってしまっていたが。やはり魔法使いは自由なのだろうか?
「そうだ、………サーシャ、ネアをパーティーに入れようぜ。そしてあの洞窟に行くぞ!」
「あんたねぇ、そんな簡単に仲間になってくれるわけないじゃない。それにあの洞窟は得体の知れない主がいるんだから行くべきじゃないわ」
アレンの提案に呆れ半分で腰に手を当てる。時々この幼馴染みはとんでも無いことを言いだすのだ。
「洞窟の主って、何?」
振り返ると、買い物を終えたネアが目を輝かせて立っていた。………この少女も私達の同朋だったようだ。
「村の外れに洞窟があるんだけどね、そこにいる主が宝箱を護ってるのよ」
「宝箱………! 是非行きましょう‼︎」
「え、良いの?」
表面上では取り繕ってはいたが、内心ではガッツポーズしていた。貴重な魔法使いがパーティーに入ってくれるのだ。これほど嬉しいことはない。
「なら早速準備してくるね! アレン! 装備一式の準備よろしく!」
「え、おいちょっと⁉︎」
アレンの返事も待たずに駆け出す。ネアが乗り気だったから誘ったのだが、一番楽しみにしていたのは私だったらしい。
■ 村の外れ、森の洞窟
ネアはサーシャとアレンに連れられて山の麓にある洞窟の前まで来ていた。入り口は辛うじて馬車が通れるくらいといったところか。
「じゃあ、防御にエンチャントするからちょっと待って」
村の道具屋で売っていた毒消し草と薬草、赤い木の実をを炎で焦がし、小麦粉で描いた魔法陣に撒く。すると魔法陣が仄かに輝き始め、様々な色付きの光を放ち始めた。
このエンチャント、勇者パーティーにいた時に勇者と一緒にリリアナからパクった魔法だ。一度見ただけで完全に模倣してしまった俺と勇者は思いっきり杖で殴られた。二人の魔法戦士としての潜在能力が高すぎため、リリアナはこれまでのエンチャント主体の魔法戦技を変更し、『暴風雪の女王』という不名誉な称号を得てしまったのは懐かしい記憶だ。
「さ、入って」
「お、おう」
初めて見たらしく、アレンは少し慎重に足を伸ばして魔法陣に入る。するとその身に纏っていた革装備が淡い光に包まれた。続いてサーシャも入り、自身もその中に入るとちょうど効果が切れたのか魔法陣は輝きを失った。
「いまどんな効果がついたの?」
サーシャが薄く煌めきを放つ神官服を見渡しながら聞いてくる。ネアは脱いでいたローブを被り直してからそれに答える。
「毒耐性に傷の自然治癒、あと炎耐性に呪詛拒絶だよ」
「うそ、そんなに⁉︎ 神官の役目は無いの⁉︎」
驚いて服を見直すサーシャに苦笑いする。流石に神官の強みには勝てる訳ではない。
「そこまで万能じゃないよ。毒耐性っていったってそこまで無効化してくれるわけじゃないし、自然治癒は戦闘中に治るほど回復が早いわけじゃないから。気休め程度だよ」
「それでも凄い………、ネアさん、私達のパーティーに入らない?」
「パーティーに?」
思わず首を傾げる。突然の誘いに少し驚いた。
「そう。私とアレンは村の外を見てみたいの。けどどうしても村のみんなは実力を認めてくれなくて。これでも何度かゴブリンは倒してるんだよ?」
オークの時は武器とか持ってなかったんだけどね、と付け足すサーシャ。確かに今装備している武装はメイスと金属鋲あしらった革防具。僅かに対呪の加護を施された神官服とは大違いだ。
「まあ、実力なんて後でつけるものだけど………、世界は思ってるよりも厳しいよ?」
「大丈夫。私もアレンも覚悟はしている」
サーシャは強い意志を瞳に宿して頷く。アレンに視線を向けると、同じように力強く頷いた。
もとより、同じような年に旅に出た己が人のことは言えないだろう。
「わかった。ならまずはこの洞窟で腕試をしないとね」
笑顔を浮かべて洞窟に向き直る。乾いた土の匂いが流れ出している。
「洞窟で戦果を上げて、周りに認めさせるのは基本だから」
「うん!」
サーシャとアレンも笑顔で頷く。先達のアドバイスとしては微妙だったかもしれないが、緊張がほぐれているなら良かった。
「おし、先鋒は俺に任せろ!」
そう言って俄然やる気を出したアレンを先頭に、3人のパーティーは洞窟へと入って行った。
■ 森の洞窟
「……………なにもいねぇな」
「うん。私もちょっと拍子抜けしちゃった」
ダンジョンに入ってから20分。宝箱どころか魔物すら見当たらない。そのため集中力の切れかけているアレンが後ろに話しかけてきた。
(20分も歩かされるダンジョンなんてざらだけど、ここはなんかおかしいなぁ………)
一応魔力の糸を先行させて気配を探っていくが、本当に何もいない。珍しいダンジョンもあったものだと首を傾げる。
「ねえ、ここって誰か来たことがあったりする?」
「うーんと、鍛冶屋のおっちやんがこの前1人で入って這々の態で逃げ帰って以来かなぁ」
………それって結構強いのでは?
そう思わずにはいられなかったが、魔力の糸にようやく反応があったためそっちに意識を集中させる。
「この先に広間がある。何か動いてるやつも」
目視でもランタン以外の明かりが奥に灯っているのが視認できる。恐らくだが、あそこが最奥なのだろう。
「ようやくか。おし、いっちょやってやるか」
「いきなり飛び出さないでね。私が攻撃を引き受けるんだから」
アレンがはりきり、サーシャが諌める。いつものやりとりなのか緊張していた表情も和らいでいる。
「静かに、顔を覗かせて様子を見ましょう」
壁に沿うようにして慎重に進んでいき、明るい中の様子を見る。そこに居たのは予想通りと言うべきか魔物だった。唯一予想外だったのは………
「サイクロプス………、まだこんなところにいたんだ………」
浅黒い肌の、筋骨隆々とした一つ目の巨人が奥の方で金属を精錬していた。
一目巨人。魔界の鍛冶師が人間界の辺境に隠れ住んでいたとは。
「でかい。強いのか?」
ネアの頭の上から覗き込んだアレンが小声で呟く。確かにサイクロプスは鍛治によって鍛え上げられた怪力が強力だ。しかし、
「サイクロプスはあんまり好戦的じゃないんだよね。強いには強いんだけどさ」
10年前の大戦中なら兎も角、先代魔王が敗れ去った今サイクロプスは人間も襲わずに隠れ住んでいる。滅多に見ることが出来ないのだが、
「強ぇーなら良いじゃねえか。俺の強さを証明してやる!」
「あ、ちょっと」
だがアレンはそんなことお構いなしに大広間へと入っていく。当然サイクロプスもそれに気がついて立ち上がったので仕方なしにサーシャとともに岩陰から出る。
『ここに人が来るのは久しぶりだ。何用ぞ、人間』
5メートル強の巨人が目の前に聳え立った。
サイクロプスは鍛冶の神だったり単なる人喰い怪物だったりと、神性を貶められた典型例ですね。
一度信仰されると忘れ去られるのが困難だから貶めるんでしょうけど、RPGではどんな扱いをしたいんでしょうか? 共闘したりレイドのボスだったりはたまた武器を作ってくれたりと。わたし、きにな(ry
感想を頂ければ幸いです。