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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
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第41話 後日談 戴冠式

お金がないなら、商人よりも先に転生者に借りろ!


きっと転生者が沢山いる世界では、こんな格言が生まれる気がする。



では、どうぞ。

■シル王国、王都陥落の直後。




魔王軍によって蹂躙されたシル王国の王都。降りしきる雨が、戦火によって流された夥しい量の血を洗い流している。


「レイ様! レイ様‼︎ 目を覚まして下さい!」


廃都となった街の一角に、必死に男の名を叫ぶ、夢魔族の少女がいた。メイド服を男の血に染め、必死に魔法と回復薬を振り掛けて止血を試みようとしている。


「回復魔法も薬も回復量が足りないなんて………。もっと魔力を注ぎ込まなくちゃ」


しかし心臓の9割を破壊されてしまえば、再生も不可能だ。むしろこの状態でも片方の肺だけで僅かに呼吸し、血の流れを殆ど止める事で出血死を回避している男は、異常だった。


「村を救ってくれた恩を返せてないんですから、死なないで下さい!」


悲鳴のような声を上げて、少女ーーーソフィーナは必死に回復魔法を掛け続ける。自らが仕える魔王によって斃された、命の恩人を助ける為に。


「あなた、レイの知り合い?」


その為、突然掛けられた声に反応出来ず身体が硬直してしまった。回復魔法も思わず止めてしまったが、男の反対側から差し出された手から、質の高い回復薬と、見た事のない粉末が心臓に垂らされた。


「………ダメ。不死鳥の羽の粉末でも再生しない傷を受けるなんて、一体誰にやられたのよ、レイ」


目の前でソフィーナと同じように座り込んだのは、エルフ族の少女だった。


エルフにしては珍しい黒髪に紺色の帽子を被り、暫く回復薬の効果を確認していたが、首を振って効果が無いことに目を瞑った。


「そんなっ、レイ様っ、死んではダメです! ダメなんですから………!」


半狂乱になって意味のない回復魔法を繰り返す。どうにか延命させようと魔力を注ぎ込んでいると、エルフの少女が少し目を見開いてこちらを見ていた。


「あなた………夢魔族、よね?」


「それがどうしたんです⁉︎ いま関係ありますか⁉︎」


魔族だからこの男を助けてはいけない理由はない。ソフィーナは投げやりに答えたつもりだったが、その次に問われた言葉に思わず魔法を途絶えさせてしまう。


「あなた達の固有魔法、《性変質》を使って」


「《性変質》を、ですか?」


サキュバスの固有魔法、《性変質》。対象の肉体を異性のものに性転換させて、慌てふためく相手の身体を愉しむ為の魔法を、何故、今?


「あの魔法は確か肉体を作り変える魔法だと勇……知り合いから聞いた。それを使えば、多少無茶な理屈でもこの状況を脱することが出来るかもしれない」


「レイ様を、女性に………?」


「死ぬよりは、マシ」


ゴクリと唾を呑み込み、ソフィーナは男を見下ろす。既に呼吸も止まり、溢れ出す血の量も少なくなってきている。時間は、ない。


「分かりました。最後の賭けです。あなたの魔力も借して下さい。私はソフィーナ。あなたのお名前は?」


「フィアナ。魔力を貸す」


「では」


男の血だらけの胸部と、フィアナと名乗った少女の胸に手を当て、意識を集中させる。


フィアナから魔力を吸い取り、男に《性変質》の魔力を注ぎ込んでいく。そして、確かな手応えを感じたところで魔法を発動した_________



■???国、首都・???


かつてシル王国と呼ばれた国の王都があり、魔王軍によって滅ぼされた土地。


魔王が討伐されてから1年経った今、小さいながらも街が出来上がっていた。環状の、区画整理がしっかりなされた街並み。


その中心部に、家と言うには大き過ぎる、しかしこの街の、しいてはこの国の最高執政機関が置いてある建物としては、いささか小さ過ぎる邸宅が建っていた。


そんな金欠を隠しきれていない屋敷の執務室(仮)にネアの悲鳴が響き渡った。


「ああもうっ、どうすれば良いのよ⁉︎ 金が足りなければ人手も足りないし、皇国からはちょっかいを掛けられるわ食事する暇もないなんて、どういう事⁉︎」


「お館様、落ち着いて下さい。紅茶をお持ちしました。それと書類が落ちてしまいましたよ」


目の前に大量に積まれた書類を前に、絶叫して頭を抱える、この国の権力者第2位の少女、ネア。


そんな彼女が落とした書類を全て元通りに重ね直したメイドの少女、ソフィーナは、紅茶を執務机に置くとふと、楽器の演奏が執務室の中にまで届いてくる事に気がついた。


「もうすぐ正午になりますが、メセリー王女の戴冠式には間に合いそうですか? それ」


「間に合う。間に合わせる。間に合わなかったら逃げる」


紅茶を口に含み、そんな軽口を叩く余裕を取り戻した俺は、凄まじい速度で書類のサインと不備を見分けてペンを走らせていく。


ちなみに今俺が使っているインクとペンは、アレンとタツヤとドワーフが共同開発した作品だ。


兎に角金の足りていない今は、タツヤが後見人となって立ち上げた商会がひたすら新商品を開発してその儲けを政務費に充てる、完璧に政治家と商人が癒着している状況となっている。


しかし折角賄賂を貰ってもその賄賂を政務費に充てないといけないのだから、弱小国の政治家とは悲しい存在だ。


仕方ないのだ。金がないから。最終手段は国営の商会として吸収して管理する方法があるのでまだ何とかなる。


(境界門の税収が軌道に乗れば、この状況も多少は解決されるだろ。多少値段は吹っかけたけど、魔界との交易を諦めるほど極悪な通行税でもないしな)


ちなみに、境界門を利用する場合の通行税は、人間界から魔界へは40金貨、魔界から人間界には10金貨の通行税が掛かる。


普通の国境付近の関所が高くて10銀貨程度である事を考えれば、明らかにぼったくりである。


勿論商人からは減税の要求が再三に書類の束となって送られてくるが、書類で苦情を済ませられるなら楽なものだ。


ついでに言えば、魔界から人間界への通行も40金貨にする案は出ていたのだが、魔王軍によって連れ去られた人族ーーー今は闇人族と呼ばれているがーーーの事を考え、暫くの間は彼方からは安く通れるように設定しておいた。


(まあ、こちらにとってもあちらにとっても、たかが50金貨程度払えば、今までの数十倍の利益を生むことくらいすぐに分かるだろうしな。今は我慢だ我慢)


そんな事を考えながらも手を休めずペンを走らせていると、扉をノックする音が聞こえる。


「入りなさい」


「失礼します。執政官殿、付近に出現する魔物の討伐に掛かる、半月の経費の算出が終わりました。サインをお願いします。それと、ギルドや商会の支店の設置についてですが」


扉を開けて入ってきたのは、文官(仮)のレイズルだった。彼は元々聖騎士団の経理を担当していたのだが、魔王討伐に来ていたその聖騎士団が丸ごとこの国に鞍替えした為、財政の擦り合わせと文官(仮)達の取りまとめを行ってもらっている。


おそらく俺の次に忙しい筈だが、文句一つ言わずに仕事をこなしてくれるので非常にありがたい。


「分かった、書類はそこに置いといて。ギルドについてはまだ具体的な都市設計が出来てないからって、もう少し回答を先伸ばしといて。それと商会の支店の設置は原則禁止。出すなら本店を移転しろって言いなさい」


「宜しいので?」


「どうせならもう少し金を払ってもらいたいからね。抜け道を探させるくらいならわざと見つけてもらった方がこちらも楽で良い」


大商会の息の掛かった者が本店を構える光景が容易に浮かんでくるが、その辺りにも僅かばかり税を掛けて、ちょっかいを掛けてもいいかもしれないな。


「分かりました。では」


「ご苦労様」


退出するレイズルを見送ってから、思わず天井を見上げて目の疲労を解す。流石に一週間も寝ないと厳しいものがあるな。しかも戦いではなく書類仕事なのが余計に疲れる。


「ソフィーナ。あとどれくらい時間はある?」


「化粧の準備もありますから……、二刻ほどなら休憩出来ますよ。横になりますか?」


「そうする。化粧の時間も削って良いよ」


「そうはいきませんから。他の国の重鎮達も来ているようですし、何よりメセリー王女様に王冠を授けるのはお館様ではないですか」


「………………」


聞こえないふりをして、執務室の中心に置かれたソファーに寝転がる。


これまたアレン達が改良したものであり、何やら『すぷりんぐ』なるものを使用した物らしく、素材の質も相俟ってとても寝心地が良い。


「はあ……、泥道を進む覚悟はあったとはいえ、脇道に逸れる必要もあったなんてなぁ……。ま、それはそれで楽しいから良いんだけどな」


「後悔はしてないんだぴょん?」


ソファーの背もたれ側から、突然ヴィヴィアが顔を出した。しかし俺が書類仕事をするようになってから、よくこんな感じで現れるので、別に驚くような事でもない。


後悔、か……。


ヴィヴィアの頭を撫でながら少しだけ悩む。国のトップ2として、親友として、この問いにはどう答える?


「さて、どうなのかしらね。流石に今の状況で後悔してしまうような判断は早いかしら。

なにせこの街はまだ出来上がったばかり。人は増えてきたけど食糧自給はまだ厳しい状況だし、あっち(魔界)との兼ね合いもある。

問題なんて解決したそばから新しく現れるしね」


だけど、と一旦話を区切り、テーブルに置かれた紅茶を口にする。ーーー甘い。闇砂糖を入れまくった所為だが。


「だけど、あの場にいたみんなが賛同して付いて来てくれて、私は本当に嬉しかったからね。多少の苦労だけで後悔するつもりは、全くない、から………」


ふとそこで意識が朦朧としてくる。ああ、予想以上に疲れが溜まっていたらしい。まだ幾つかヴィヴィアに話したい事はあったが、この惰眠を貪った後でもいいか_________




「ネア?」


すー、すーと穏やかな寝息を立てて眠ってしまったネアに、ヴィヴィアは首を傾げる。執務室の脇に置かれた棚から毛布を取り出したソフィーナは、その不思議そうな声に当然のように返答する。


「お休みになられてしまったみたいですね。お館様でも流石に週7日、平均睡眠時間一刻では流石に厳しいものがあるのでしょう」


「明らかにおかしいぴょん⁉︎」


ぶらっくだぴょん……、と恐れ慄くヴィヴィアを尻目に、ソフィーナは白髪の少女に優しく毛布を掛ける。


この健やかに眠る少女が、1年前に魔王を討伐し、そこから更に遡った10年前にも魔王を撃破したメンバーの一人だと、だれが信じられるだろうか?


「きっとお館様が、のんびりと過ごす事が出来るようになった時こそ、この国が完成したというべき事なのでしょうね。……もちろん、私はどこまでもお館様に付いて行きますけどね」


「そうだぴょん。またのんびりと、一緒に旅が出来るようになるまで、わたしたちも頑張らないとだぴょん」


目指せ、記念魔界旅行! と拳を掲げたヴィヴィアの姿に笑うソフィーナ。この一年で様々な組織がこの国に集まってきたが、緩やかに敵対していた相手とも随分と打ち解けることが出来るようになっていた。


それはネアの弛まぬ努力のお陰であり、境界門が今までよりも積極的に利用されるようになった恩恵でもある。そして、当事者達の意識の変化も。




(決して滅びない国。酷く、厳しい道のりになるのでしょうね。だけど、そうだとしても、私の望みはーーー)


ネアは、夢の先に現れた金髪の少年に手を伸ばす。一緒について来てくれると、誓ってくれた最愛の友にむけて_________



■???国首都、???、元シル王国第二王女メセリーの戴冠式式場。



良く晴れた青空の下で、街の郊外にに設置された巨大な式場に、司会の大きな声が響き渡る。ちなみに式場はタツヤとアレンが一晩で拵えてくれましたとさ。


「それでは、次に、第一権力者メセリー第二王女様の戴冠式を執り行う‼︎」


ちょび髭を生やした、気難しそうな文官の司会が次の進行について式典の参加者に知らせた。


始めは経験の無い司会を任され、ガチガチに緊張していたが、すでに慣れて、ミスをする事なく堂々と進行を進めている。


「メセリー様、ネア様の前へ!」


この国の重鎮ーーー元聖騎士団団長やら黒虎族の長やら吸血姫やら計十数人が並ぶ前に進み出る。


今回の式に合わせて作られたドレスに身を纏った俺の手には、今回の戴冠式に合わせてラスマール皇国のドワーフの職人と精霊の都トリアスタのエルフ、そしてタツヤによって合作されたもの凄く高そうな王冠が収まっている。


タツヤ曰く、ドワーフとエルフ一緒に悪乗りして、色々な仕掛けを施したら、法外に金が掛かったらしい。そんなお金を返す当てなんて無いのだが……。


左手にこの国の重鎮、右手に今回の戴冠式の来賓、そしてその後ろにこの国の騎士兵士達や街の民衆、という囲まれた状況の中、純白のドレスで着飾った姫さんーーー俺が1年前にシル王国から逃したメセリー王女が、しっかりとした足取りで進み出て来る。全く気負いのないその立ち振る舞いは、少しだけ羨ましい。


この国を造るにあたって、流石に王族とは全く関係のない俺が王座に就くのは問題があった。なので、シル王国の残存兵と共に隠れていたメセリー王女を呼び戻し、シル王国の後継国という形で国を建てることにしたのだ。


始めは形だけの王座に不満が出てこないか心配だったのだが、こうして王としての地位に就くことを了承してくれたことに感謝している。


「では、メセリー王女。あなたをこの国の王として認める為の、王冠を授与する。遍く民を、その威光を以て導いて欲しい」


俺の前に進み出た王女ーーーこれから王になる少女の頭上に王冠を載せる。そのタイミングに合わせて、ラスマール皇国がなんか貸してくれた楽団が勇壮な演奏を始めた。


来賓ーーー知り合いのラスマール皇国の第二皇位継承者や各国各都市の重鎮、果てはダークエルフ族の代表代理などが盛大な拍手を送る目の前にメセリー女王は立ち、演説を始める。


俺はメセリー新女王の滑らかな声に耳を傾けるふりをしながら、頭の中では別の事を考えていた。原稿には俺も目を通しているので、聞いてなくても問題ないのだ。


(しかし、ダークエルフの女王まで使者を送ってくるとはな……。あそこも何か足りない物が有るんだろうか?)


ラスマール皇国とは境界門を挟んだ反対側に存在するダークエルフの集落。閉鎖的な社会を形成し、他国との関わりをほとんど持っていない。


俺と勇者は出禁なので、様子を見に行くことも満足に出来ない。警備に見つかりでもしたら、全て棚上げして全員で雨のように矢を降らせてくるのだ。


そこまで考えてから、ふと今までと違うことに気がついた。


(あれ? 今のネアなら、別に問題ないな……)


そう。今の俺はネアなのだ。つまりダークエルフの女王の裸を覗いても、罪に問われることはない。


(これは一度、アレン達と一緒に訪れてみるのも悪くないな……)


「それでは最後に、皆様にお伝えしたい事があります」


ふと思索の海から現実に戻ると、姫さんの演説も終わりを迎えたところだった。時間もちょうど良く、この後は万雷の喝采を以て式は終わり、仮設のパーティ会場で食事会となる。


「私は去年までこの地にあった、シル王国の第二王女だと言うことは最初にお話ししました。

私たち王族は境界門が2度と開かないように封印し、市井の人々にその存在が知れ渡らないように努めて参りましたが、隠し続けることは出来ず、滅ぶに至ることになりました」


あの時、人間族に化けていた角魔族により、王族の施した封印が破壊され、すでに準備していた魔王の軍が素早く攻め入ることを許してしまった。


あの時はフードを被っていて分からなかったが、あの角魔族は魔王ベクトレーメスだったのだろう。あいつが転移魔法で人間族に入り込み、魔王メアリーアーチェの準備が整った段階で境界門を解き放った。


「魔族と関わりを持たないようにしても、境界門という繋がりを持たなくてはいけないならば、何れは関わることになる。と判断し、魔界との融和を決意したネア第二位執政官様には畏敬の念を送るとともに、ここに宣言します」


うん? はて、この辺はアドリブだろうか? 俺に渡された原稿には書かれていなかったはずだが。



「私、メセリー・シルは、只今をもって王座を降り、境界門の通行を安全にする為の制御に尽力する事を。

そして、各組織の代表と、もう一つの境界都市・ベルグリーヴの領主ルーディア様の賛同を以て、王位をネア第二位執政官様に譲位することを宣言します!」



オオオォォォオオオオーーー‼︎!



………………………………え"?


王冠を頭から外した姫さんが、呆然と立ち尽くす俺の方に向き直る。そしてその王冠を俺の方へと差し出した。


「いや、ちょっと待って……な⁉︎」


突然身体を自分の意思で動かす事が難しくなった。動揺を抑え、身体を這い回る魔力を解析すると………これは、アリシアの《絡繰人形ドールマスター》⁉︎


(いや、俺に気付かせずに、魔力の糸で全身を絡め取るなんて芸当はアリシアでも無理なはず。なら一体どこで……ってこのドレスか‼︎)


今着ているドレスには魔力の糸も使われているとソフィーナから聞いた。つまり、その中にアリシアの糸を忍び込ませていたのだろう。まさかこんな手法で俺の身体の自由を奪うとは……


「うぐっ、ぁ………」


(っ! これは《沈黙サイレント》か。リリアナまでこれに加担しているとは………)


唯一動いていた口からは、掠れた声しか出なくなってしまった。魔法使いの行動を制限する為の魔法を、ここで使ってくるとは。


ギギギ…、と俺は片膝をつき、今すぐにでも王冠を受け取ってしまう体勢になってしまった俺は、最後の手段に出ることにした。


即ち、スルトを使って魔力による干渉を断ち切る方法を。


(スルト! 今すぐこの糸を断ち切って!)


虚空にいるスルトに対して呼び掛ける。僅かな間を置いて返答が返ってきた。


(すまないマスター。我はもう、買収されているのだ)


(はぁ……⁉︎)


スルトの言葉に耳を疑う。契約者への協力を反故するような対価とは一体……


(アレンとタツヤが手に入れた神の欠片を受け取り、今回の出来レースには手を出さないと約束している。……頑張るんだな、マスター)


はぁ⁉︎ 神の欠片って、どこでそんな代物手に入れたんだよ⁉︎ 俺が10年以上掛けて一つしか見つからなかった物を……


(待て待て待て待て!!?? 何だそれーーー!!)


必死に呼び掛けるが、スルトからは何も応答はない。本気で傍観するつもりらしい。


ギギギ…と、横を向いて今度はこの国の重鎮達の方を向くが、皆一様に歓迎の笑みを浮かべていた。知らなかったのは俺だけらしい。


(全員、あとでブッ飛ばす………!)


心にそう誓った俺の頭の上に、ついに王冠が載せられた。それと一緒に、メセリーの囁きが俺にだけ聞こえた。


「私はあなたに助けてもらい、その恩を返せていません。ですから、これからは私があなたの事を助けさせてくださいね」


………はあ。これはもう、どうしようもないか。既成事実も作られてしまった以上、覆すのも難しい。


(元々、王家の血が流れてないから王にはならない。っていう理由でならなかったわけだけだしな。それをこいつらが気にするわけなかったか)


溜息とともに諦めを吐き出す。結局のところ、王になってもならなくても書類仕事の忙しさは変わらないのだ。


それならばいっその事全てを背負ってしまおう。毒喰らわば皿まで、ともいうし。


(背負えきれない分は周りに丸投げしても、文句は言われないだろうしな?)


ちらっと首謀者達の方に視線を向け、笑みを浮かべてやる。 特にアレンとタツヤ。お前らは徹底的にこき使ってやる。手始めにタツヤに借りた都市制作費、借金全額帳消しという事で。


「二代目の王、ネアが告げる!」


若干ヤケになりながら来賓と、数え切れないほど集まった街の民衆の方に向き直った。


それと同時にサーシャに渡された旗を掲げる。


紅色の分厚い布で縫われた旗には、現在この国に住んでいる全ての種族が剣を中央に掲げた姿が、金糸で刺繍されている。


あの時に酔った勢いで作った物だが、十を超える種族が剣を天に突き出す姿は割と気に入っていたりする。


「この国家の正式名称は、不敗の軍神の名を貰い、ネアスタリアとする。そしてこの街を王都と定め、決して地に伏すことのなかった聖騎士、ゼオラントの名と冠する事を正式に発する!」


不敗の神と不動の騎士。不滅を目指す街の名として、これほど相応しい名前もないだろう。


「我らネアスタリア王国が主張する領土は、旧シル王国に加え、魔界側の境界都市・ベルグリーヴ一帯とし、決して何人にも侵すことの出来ない独立国家であることを宣言する!

いずれ正式な文書として、犯してはならぬ法を発するが、我が国では種族としての対立に血を流す事を禁ずる。

この国では魔族や人間族に優劣が存在しない事を、この私と、ベルグリーヴ領主のルーディアが保証しよう!」


人族至上主義国家のラスマール皇国と、人間界における魔族の一大勢力のダークエルフ族に挟まれた位置取りからして、緩衝地帯は必須だ。


さらには魔界との交易を行う最前線で、種族間の争いが起きればそれだけこの国が損を負う事になる。そんな事態を避けるためにも、この指針は必ず守り通さなくてはいけない。


「集いし民よ! 願うならばこの国を愛し、誇り、新たな故郷として生きて欲しい! それが二代目国王ネアとしての、民への祝福(贈り物)とする!」


ーーーオオオォォォオオオオーーー‼︎!


この場に集まったゼオラントの街の人々が起こす地を揺るがすような万雷の喝采が巻き起こる。ひとまず絶句するような酷い演説にならなくて安心した。集まった人々に手を振りつつ、本当に国を建てたのだという実感を噛み締める。


そして、これからが始まりであることを確信する。まだ表舞台で活動していない種族や組織が、新たな魔王が誕生するまでの空白期間を使って活動を始めるのだろうから。


(……ま、最初にやることは決まってるんだけどな)


ちらりと背後に並ぶ重臣達に視線を送れば、ニカッ、と皆が笑顔で応えてくれた。ああ、流石はネアスタリア王国の新たな家臣よ_________




_________盛大に執り行われた建国祭の夜、ネア新国王の臨時宮廷が爆発、半壊する事件が発生した。


その日出勤していた文官によると、新国王のものと思われる絶叫とともに、最近ネアスタリア王国で頭角を現し始めたヤマト商会の筆頭二人他が吹き飛んだとか。


怪我人もいなかった事を鑑みて、王宮爆発事件は詳しい調査もされずに闇に葬られたとさ。

ゼ「うおおぉぉぉおおおお‼︎!」


(●ω●)「どした?」


ゼ「これで、場面転換の際に地名として名が出てくる可能性が増えたぞ!!」


(●ω●)「(まあ、過去編で活躍させる予定だったけど……)第2章がもしあるとするなら、舞台はラスマール皇国かダークエルフの集落か、それとも天界だぞ?」


ゼ「うわあぁぁあああ‼︎?」



第2章に進めるかどうかは未定、です。


過去編は数話ほど、タツヤとレイの活躍を描きたいと思います。『怠惰な魔本使いの見聞』とご一緒にお読みいただければ幸いです。

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