第39話 魔を司る女
魔王との決戦とその後、を分割したら短くなりました。
次で第1章は完結となります。FGOも無課金でゴールです。いえ、まだ続けてますけど。………200万EPとは、うごご。
では、どうぞ。
「さて、再会の喜びは後で分かち合うとして、ーーー今はこの戦いを再開しましょう?」
出会い頭に抱き締めてきたアレンの背中をポンポンと叩いて抱擁を解いてもらう。
タツヤはこういうスキンシップが苦手だったが、アレンはそうでもないらしい。まあ、むさ苦しい男と可愛い美少女では難易度が違うだろうけど。
「ああ、そうだな。さっさと魔王を倒してパーティーでもするか」
顔を上げた双剣使いの少年は、その顔に不敵な笑みを浮かべて魔王を睨みつける。
………アレンも別れた時と比べれば、精悍な顔つきになったな。何があったのかやら。
「ネア! 寂しかったぴょん! 本当に心配したんだぴょん!」
「ネアさん、お怪我とかしてませんか? すぐに私が治しますからね?」
若干大人びたアレンの顔つきをまじまじと眺めていると、今にも泣きそうな表情でヴィヴィアが飛び込んできた。
続けて嬉しそうな表情を浮かべたサーシャも駆け寄ってきて俺の身体をペタペタと触ってくる。
全く、寂しがり屋な仲間を持ってしまった。なるべく近くにいてやらないと、何をしでかすか分からないな。現に今、いつの間にか魔王と戦ってた訳だし。邪竜と戦ってた俺が言えることでもないけど。
「ただいま、サーシャ、ヴィヴィア。積もる話はまた後にしましょう。大変な状況になってるみたいだし?」
チラリと後方を確認すれば、ボロボロの姿で膝枕しているアリシアと、その膝で心地良さそうに眠る元勇者タツヤの姿が見えた。
………狸寝入りじゃないか、あいつ。
「今のは炎、か? ………まあ、いい。たかが小娘一人増えたところで、貴様達がここで死ぬことに変わりはない」
視線を正面に向け直すと、消し飛ばされた大氷塊の跡を、目を見開いて見上げていた魔王メアリーアーチェが、腐敗した右手で禍々しい凶剣を握り直したところだった。………見覚えのある剣だな。
「あれって、邪剣? これまた懐かしいものを持ち出してきたのね。鈍だから剣としての質は最低なのに」
俺の呟いた言葉にアレンが顔を引き攣らせて振り返る。
「鈍、なのか? さっき聖剣ビームと互角の衝撃波を放ってきたんだが………?」
「ビームって? まあそうね。魔力を収束させて放つ方法なら、あれは聖剣と同じくらいの性能はあるかも。腐っても邪神が拵えた剣だから。………そういえば魔王の腕も腐ってるのね」
俺が使った時は、斬れ味が悪すぎたからムカついてポイ捨てしてしまったが、あれを今代の魔王が拾ってしまうとはな。因果応報というものは恐ろしいな。
「魔王、その右腕は斬り落とした方が良い。じゃなきゃ、腐敗したところから邪気に侵食されて、邪神の僕のような存在に挿げ替えられてしまうわよ?」
肉が爛れ落ちる代わりのように、邪剣から不気味な靄が溢れ、右腕を覆い尽くし始めている。おそらく邪剣を適性のない者が使った代償だろう。
「誰が貴様の言う事など………。私は魔王ダ。この程度ノ侵食ナドデ、私ヲ蝕ムコトナドデキハ! シ、ナ、イ………!」
ダメじゃん。言ってるそばから侵食されてるし。悪魔風の冷血な美女が、体を醜悪な化け物の姿に捻じ曲げられていく光景は、なるべく見たくない。
手早く引導を渡して上げた方が良いな。
「アレン、サーシャ、ウィア。まだ動けるなら手伝ってもらうわ。目標は魔王だったものの排除と、邪剣の破壊。指示はその都度出すから、本気で行きましょう?」
「ああ!」
スルトを杖の形状に変化させ、身体にある有りっ丈の魔力を叩き込んでいく。
「あの邪神もどきの成りかけは、スルトにやらせる。その為にも邪剣の破壊をお願い。こっちの聖剣も使って」
俺は背負っていた人工聖剣をアレンに投げ渡しつつ、魔力で地面に刻み込んだ魔法陣の中に、小瓶に入った赤い液体ーーー俺の血を流し込む。
「サーシャは正面で足止めを、ウィアはアレンと私を邪魔しそうな攻撃の妨害ね」
「はい!」
「分かったぴょん!」
二人が頷くのと同時に、魔法陣が紅い輝きに染まる。
(タツヤ達と違ってあまり強くはなれないかな、と思ってたが、………不思議な三人だ。全く負ける気がしない)
既に魔王だったものの右腕は、邪気を吸って不気味に肥大し、邪剣を握る腕以外からも気味の悪い触手が生えてきている。
オ、オオオォォオオオ………
顔は判別出来ない程に醜く歪み、口と角魔族の角の痕跡が残っただけ。怨嗟の声を上げている気もするが、ーーーここまでいくと、どうしようもないな。
「行きます! 《魔法の鎖》!」
魔法陣によって増幅された『不死身の剣士』の恩恵が宿った魔力を纏い、サーシャは化け物の真正面で対峙した。
オオオ、ォォォoooo………
10本に増えた魔力の鎖が、化け物の縛り上げた箇所から神聖魔法の属性によって灼いていく。
苦しみ呻く異形は、サーシャを打ち据えようと苦し紛れに触手を振るうが、黄金盾の守りを崩す事も、鎧に傷一つ付ける事も出来ず影の一閃によって切り裂かれた。
「大人しく地の底に堕ちれば良いよ。それが村の敵の末路には、ちょうどいいから」
口調が冷たいものに変わったヴィヴィアが、逆手に握ったナイフを振るい、化け物の脇を駆け抜けざまに赤黒い触手を切り飛ばしていく。
これ以上身体を削り取られるのを嫌った化け物は、その身から毒々しい煙を噴き出す。……おそらく邪気を伴った有害なガスなのだろうが、ーーー聖剣を持つ存在が目の前にいる今、それは無駄な足掻きだ。
「『滅べ』」
OOOoooo………
聖剣の加護によって護られたアレンが、邪気の中を駆け抜けて光を放つ二本の双剣を振り抜く。
本能で危険を察知したのか、化け物は邪剣を掲げて聖剣の斬撃を防ごうとする。が、アレンはその邪剣ごと肥大化した右腕を叩き切った。
「これで終わりね。スルト、滅ぼすわよ」
『御意に』
砕けた邪剣から溢れ出す邪気も、二つの聖剣から溢れ出す聖気によって灼かれて消滅する。
それを確認した俺は、杖に注ぎ込んだ魔力を解放する。
「地獄の化身よ、契約に従い、我が身を依代に降臨せよ! 邪神を喰らい、女神を蹂躙する凶剣、《神滅の魔人》‼︎!」
解放した魔力は炎を伴った風を起こし、嵐となって周囲に吹き荒んだ。
触れた者を跡形も無く灼き尽くす地獄の劫火は、身体を舐めるようにして包み込み、その肉体に新たな魂を刻み込む為に俺の肢体を蹂躙した。
「ぐっ、熱い………」
身体中を蛇のように這い回る焔が、俺の身体を喰らうかのように牙を突き立て、噛みちぎられたような激痛を与えてくる。
溢れ出す冷や汗も出る前から蒸発してしまい、その機能を十全に果たせていない。
そして気を失いそうな程の激痛が心臓を襲い、復讐心で煮え繰り返っている魂を迎え入れる為、心臓に縛り付けるかのように絡み付いた。
ーーーだがまあ、耐えられないわけじゃない。
そして、ネアの器に二つ目の魂が完全に入り込んだ。
「………くく、くはは‼︎ 久しぶりの神の欠片だ! 邪神ベガードレイクよ! 貴様の血肉はこの我が喰らってやる‼︎」
炎が四散すると同時に、ネアの声で哄笑するスルトが、喜色を浮かべて化け物へと進み出す。
ーーー俺の姿も大きく変化していた。
白髪と翠眼は、見る者を吸い込む深淵のような黒髪に染まり、白い肌は血が通った健康的な肌色に。あと胸が微妙に膨らんでたり。
「魔王メアリーアーチェ。あなたの魂は既に邪神に呑まれてる。だから、救う事は出来ない。ならせめてーーー私が灼いてあげる」
地の底へと堕とされた、古き英雄をその身に宿した俺は、掌から狼を象った焔を放つ。
RAAAaaaAAA‼︎!
炎狼となった魔炎は化け物との距離を詰めると、容赦無くその炎の牙をその醜悪な肉塊に突き立てる。
GYAAAAaaaAAA‼︎
化け物の腐敗した肉体は炎に触れただけで。身体から溢れ出して逃げ出そうとする邪気も、地獄の劫火に容易く追いつかれ、僅かな存在も残さず消し去っていく。
AAAAAAaaaaaaァァァ………
肉塊の最後の一欠片が燃え尽きた瞬間、一際大きな炎柱が上がる。己を叩き落とした天界に対して、この蹂躙を見せつけるかのように。
「………さようなら、メアリーアーチェ。あなたとは、もう一度殴り合いの喧嘩で決めたかったけど」
やがて炎柱も勢いが小さくなっていく。そして炎の勢いが完全に収まると、役目を果たした炎狼もまた身体を散らして消え去っていった。
フィアナ「私の出番、忘れてない………?」
(●ω●)「次の話ででるよ」
フ「良かった………」(安堵)
ゼ「わ、儂は⁉︎」
(●ω●)「盾が出たじゃん」
ネアとスルトの融合合体の際、服は炎によって燃え尽きますが、裸であって裸ではありません。あれです。身体の周りに纏った炎がアレな場所を隠してしまっています。裸ではないです。多分。