表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
39/42

第38話 聖と邪

第1章となる今までの話も、いよいよ大詰めとなって参りました。


何とか次の話を書き終えましたら、暫く過去話を書く予定です。タツヤとレイの出会いとかタツヤ達とゼオラント率いる聖騎士団の戦いとかレイと獣魔王の戦いとか。


………勿論女性陣の描写もしっかりとするつもりです。



余談ですが新しいお話を投稿しています。題名は、


『怠惰な魔本使いの見聞』


となっております。性転換した主人公が異世界でお気楽? に生きるお話を目指しています。こっちのように爪で切り裂かれたり聖剣の代償で苦しんだりはしないと思います。………肉体的には(ボソッ



では、どうぞ。

魔王の側近にしてメイド長であるソフィーナは、死霊の軍団を指揮する合間に戦況の把握に努めていた。


シル王国の廃都の大半を埋め尽くしているのは、魔王メアリーアーチェの使役する無数のアンデットやスケルトン、そして少数の角魔族の邪術師。


また全体から見れば僅かな割合ではあるが、魔王以外の魔族なら一方的に討ち破る実力を持つ聖騎士団が鎧の銀光を煌めかせてその存在を主張しては、いる。


(聖騎士などメアリ様の前には話になりませんが、あの四人は拙いですよ、メアリ様………)


だが全体の一分にも満たない、魔王のいる空間に身を滑り込ませ、対峙しているたった四人の男女は、己では計り知れないほどの強大な威圧感を放っていた。


「くく、くははっ! そうか。聖剣も持たぬ男が私の相手か‼︎ そう言えば前にもこの様な事があったな!」


氷の女魔王、メアリーアーチェはひとしきり笑い声を上げると、表情を一変させ、憤怒の視線を四人ーーータツヤ、アレン、サーシャ、ヴィヴィアに向けた。


「舐められたものだ。先代の魔王が勇者に負けて以来、どのように勇者どもを探し出し、誅殺するか悩んでいたのだが、まさか貴様の方からやって来るとはな。元、勇者のタツヤよ」


すると四人の中で一番年を取ったおっさ……もとい男性が照れたように頭の後ろをポリポリと掻いて前に一歩進む。


「いやー魔界でも有名とか、流石は俺だね。しかし下剋上の盛んな魔界とはいえ、混種で魔王までのし上がるは苦労したんじゃないか? 見たところ角魔族ぐらいしか有力な魔族は付き従ってないみたいだし」


魔界を訪れた経験があるだけに、魔族の事情にも詳しいようだ。魔王メアリーアーチェにとって実に痛い所を突いてくる。



___魔王は最も強い存在がその地位に就く。



それが魔界での不文律であり、どのように計算高い秀才だとしても、腕力が伴わなければ誰も付き従うことはない。その点はメアリーアーチェは十二分に満たしている。


魔王メアリーアーチェと互角に渡り合える存在は、獣魔王であるガランシェールか、それこそ勇者しかいないだろうから。


だが、混種という存在は、思いの外求心力が低かった。


何らかの理由によって魔王が斃れた場合、魔族は以前の種族としての纏まりに戻り、隣の領地にいる他の魔族と鎬を削る日常に戻る。


そして再び魔族の中から突出した存在が現れ、他の種族の長を討ち取る事で魔王として周辺の魔族から認知されることになっているのだ。


しかしメアリーアーチェには混種というハンデにより、纏める種族が存在しなかった。


手始めにメアリーアーチェはオーク王が支配するオーク・ゴブリン連合の領地を戯れで滅ぼした。してしまった。


強者に従うという単純な思考回路しか持たないゴブリンの生き残りは従ったものの、ゴブリンよりは頭の良いオークはメアリーを恐れ、散り散りに逃げ去ってしまった。彼女の癇癪に遭遇しただけで、身体が氷像と化すのだから仕方ないかもしれない。


その次はオーガ、キラービー、ミノタウルス、そして角魔族。一大勢力である角魔族の長を惨殺した事で、漸くその存在を認知されたが、残りの種族がその配下として従うことはなかった。


獣人族や竜人族、ケンタウロス族はメアリーアーチェの差し向けた手勢を尽く返り討ちにして、そのまま己の領地に引き篭もっている。


メアリーアーチェが直接対峙した、魔王と呼ばれる存在は獣魔王だけだ。結局その戦いも中途半端な形で終わり、不満の高まっていたメアリーは力の空白地帯となっていた境界都市・ベルグリーヴに目を付けた。


その際に私ーーーソフィーナはメアリーアーチェと出会った。その時には既に、力ある配下は数人もいなかった。


命の恩人を探す為に人間界に行く方法を探っていた私は、夢魔族としてはそこそこ優秀な力量を買われて側近に取り立てられた。


魔王なら境界門をこじ開けられると考え、思惑通りに人間界へとその足を踏み入れることが出来たまでは良かったのだが____



「貴様、この私を愚弄するか?」


少し離れた場所にいた私にまで届く、身の凍るような殺気によって思考が中断される。


辺りに銀氷ダイヤモンドダストが舞い、力無き存在を物言わぬ氷像に変える魔王の怒り(呪い)が周囲を蝕んでいく。


しかし魔王の怒気を真っ向から受け止め、涼しそうな表情を浮かべる元勇者、タツヤはその飄々とした態度を崩さない。


「まあ、魔王がどんな環境で過ごしてきたか知る由も無いけど、人間界を滅ぼしに来たって言うのなら、優しくお帰り願うのが勇者の仕事だ。というわけでアレン君、後は任せた」


「おい待てコラ」


タツヤはそのまま踵を返そうと後ろを向いて帰ろうとしたが、すんでのところでアレンに肩を掴まれる。元勇者に拮抗する腕力で掴んだアレンは、こめかみに青筋を立てて、タツヤに詰め寄る。


「先代の魔王を倒したんだろ? なんで逃げる必要がある」


「あの時は聖剣と勇者の称号によるブーストがあって、尚且つ仲間と一緒に戦ってやっと勝てた相手だったんだ? いくらあの時の魔王よりは強くないとはいえ、流石に今の俺にはちと厳しいかなぁ」


「回復役には徹すると言ってましたよね?」


「あ………。そ、そうだったね。回復は俺に任せてくれ!」


「魔法攻撃もお願いします。ネアがいませんので」


「お、おう………」


14歳の少年に気圧される二十代後半の元勇者。


「話は終わったか? ならば私の眼前から失せよ」


律儀に待っていたメアリーアーチェは彼らの会話が終わると同時に両腕に氷霧を発生させ、人間界の魔法使いが数十人集まっても再現出来ない巨大な氷霧の竜巻をアレン達に向けて撃ち放つ。


「サーシャ、任せた!」


「うん! 《聖者の光輝(セイントブライト)》‼︎」


アレンの指示に素早く反応した神官戦士の少女、サーシャは二人の前に立ち塞がり、ゼオラント翁から譲り受けた黄金の盾を構えた。


「ほう、小娘が私の《銀氷の嵐(ダイヤモンドダスト)》を防ぐとはな。見た目よりは楽しませてくれるな?」


輝きを増した黄金盾は魔王の放った竜巻と真正面から激突し、僅かな拮抗の後に竜巻を霧散させた。数ヶ月前まではオークに襲われて逃げ惑っていた少女が、今では魔王の一撃を凌ぎきり、恐れることなく仲間を守る一流の神官戦士となっていた。


「師匠の鬼特訓に比べれば、涼風の様なものです」


最堅の守護騎士ゼオラントの特訓、一体何をどうすればそこまで言わせられる様になるのか?


「言うではないか小娘! ではこれはーーー


「今度はこっちの番だぴょん。その身を散らせ、《短剣乱舞(ダンスナイフ)》」


再び氷を腕に纏わせた魔王の背後に忍び寄っていた兎族の少女ヴィヴィアが、無数のナイフをばら撒く様に投擲する。大量に投げられたナイフの中に隠された、本命である聖銀の短剣が7本、人体の急所である眼、頸椎、鳩尾、手首、腎臓、膀胱、太腿を狙って針に糸を通す様な正確さで放たれた。


「ふん、暗殺者如きが!」


魔族にとって天敵である聖銀に、肉体の急所を傷つけられる事を嫌った魔王は、氷の盾を瞬時に展開してナイフと短剣の散雨を防ぎ、死角から穿つ様に突き出された影の槍の一撃を拳で弾き飛ばした。


「ちっ、腐っても魔王みたいだぴょん」


全てを凍てつかせる氷の嵐から距離を取ったヴィヴィアは、悪態を吐きながらその身を影に隠し、アレンの射線上から(・・・・・)その姿を消した。


「『滅べ』魔王。今はお前の存在が酷く邪魔だ」


アレンの持つ聖剣が光を纏い、神々しい光の魔力が束となって聖剣の力を解放する。聖剣から僅かに溢れ出してくる光の粒子の一つ一つに、一流の魔法使いと同等の魔力量が込められているのがソフィーナにも感知出来た。


(拙いですよメアリ様。流石にその一撃を受けてはただでは済みません。というか、戦線が軽く崩壊します………!)


あまりにも馬鹿げた魔力の塊に顔を引き攣らせたソフィーナは、魔王の背後にいる魔物達に退避命令を下す。しかし、知能の低いゴブリンや思考する意思を持たないアンデットは明らかに後退が遅れている。


「勇者ですらない小僧が聖剣を持つか………。しかもそれは先代の魔王に奪われた代物。………ならば此方もそれ相応の武具を使わなくてはな。出でよ、邪剣!」


メアリーアーチェがその名を叫ぶと同時に空間に亀裂が入る。その隙間に手を入れ、メアリーが掴み出したのは、魔族である私が吐き気を催してしまうほど禍々しい黒剣だった。


(何ですか、あれは⁉︎ メアリ様、あなたは一体何に手を出したのですか⁉︎)


禍々しい邪気に触れてしまった事で息も絶え絶えになりながら己が従う魔王を凝視する。


「邪剣、だと? まさかお前……、邪神と契約を交わしたのか⁉︎ 何故だ! 人間族、魔族関係なく滅ぼす存在に、魔王であるお前がどうして手を出した⁉︎」


そして、唯一その存在を理解出来たタツヤが、驚嘆と動揺の入り混じった声を上げた。元勇者が激昂して放った言葉に、ソフィーナは驚愕から目を見開く。


(メアリ様が邪神と契約を………?)


10年前の故郷で起きた惨劇を思い出す。邪神の僕である《九首の怪物(ヒュドラ)》によって蹂躙され、勇者一行によって救われた愛しい故郷を。


その大元である邪神と契約した魔王に、仕えていたというのか。


「ちっ、いっけええぇぇぇええ‼︎!」


「邪剣よ。その真髄を見せよ‼︎」


アレンが振り抜いた聖剣から放たれる光の斬撃と、魔王のが振るった邪剣の一閃が激突する。相反する二つの魔力のぶつかり合いは、周囲にあった全てを薙ぎ払い、盛大に爆散した。



「アレン! 大丈夫⁉︎」


「………サーシャか。悪い、少し気を失ってた」


爆発の中心部に倒れていたアレンは、傷だらけの鎧を着たサーシャの回復魔法の光によって目を覚ましていた。まだ土埃が収まってないことから、そう時間も経っていない。


「気を付けるぴょん。まだ魔王は生きてるぴょん」


倒れたアレンの側で見守っていたわたしは、周囲の状況を探り、すぐ側に邪気に侵された存在がいることに気がつく。邪神にその身を売った、魔族の裏切り者。


「タツヤさんは……駄目か。騎士団全員を覆うシールドを張ってたしな」


いざという時の為に後方に控えて貰っていた元勇者は、衝撃波から聖騎士団を守った為か気を失っていた。今はタツヤと一緒にいたアリシアという女性に膝枕されて眠っている。そのアリシアとバルクヘイムで対峙した魔法使いの女も、かなり消耗してまともに立てそうにはない。


「やってくれたな、小僧。今のはかなり堪えたぞ」


暫くすると土埃も晴れ、この状況の一因である魔王が服を血に染めて姿を現した。その顔は苦痛に歪み、邪剣を使った代償か、剣を握る右腕が腐食し掛かっている。


「だが、そちらはもう動けないようだな? 此度の戦は貴様の死をもって終わりとしてやる。死ぬがよい」


左腕で右腕を庇うメアリーアーチェは、頭上に巨大な氷塊を生み出して此方に狙いを定める。拙い、サーシャはアレンの治療に力を注いでいるし、わたしは大質量の氷塊を砕く術は持っていない。あくまで身体の脆い人を殺す術しか持っていなかった。


それでも現状を打開する為、僅かでも氷塊の勢いを消そうとナイフを構えたーーー刹那、竜の咆哮を思わせる轟音と共に、真紅の熱線・・が奔り一瞬で大質量の氷塊を蒸発させた。


「なにっ、誰だ⁉︎」


予想外の攻撃を受けた魔王は、熱線の来た方向を凝視して警戒する。幾ら相性があろうとも、魔王の創り出した氷塊を一瞬で消滅させる事など、容易に出来ることではない。


しかし、わたしやサーシャ、そしてアレンはあの熱線に心当たりがあった。上級魔法並の威力を誇る魔法を放ちながら、《火弾ファイヤーボール》だと言い張る白髪翠眼の少女。


「全く。変な奴を片付けてやっと境界門を渡ったと思ったら、もう始まってるのね。ーーー今から、私も混ぜてもらって良いかしら?」


「………っ!」


起き上がることすら厳しかった筈のアレンが何かに引っ張られているかのように飛び出し、水煙の中からうっすらと見えてきた影に飛び付いた。


「わきゃっ⁉︎」


突然の抱擁に驚いた少女が変な声を上げたが、そんな事はお構い無しにアレンはその少女を抱き締め、その名を呼んだ。


「おかえり、ネア」


「ええ、ただいま。アレン」

この話を続ける場合、第2章の題名は決まっていたり。(書く内容を何も決めていないのに)



何となくノリで書きたくなってしまった次回予告。


ーーー境界門を巡って争ってきた魔王との最終決戦。アレン達と合流を果たしたネアは、リベンジを前にしてその身に隠された秘密を解き放つ(既に邪竜戦で解放済みだけど)。


砕け散る聖剣×2。風呂敷を広げ過ぎてしまった所為で話がカットされた魔人の正体。結局戦う描写の無かったガナード侯爵率いる駐屯兵の勇姿。あとアグリールどこ行ったし。



次回! 予定は未定。となっております。恐らく次回予告と内容が大幅にずれ込むかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ