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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
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第36話 先代勇者

おかしい………イベントを開催する度にメンテをしていたスマホゲーが未だにメンテをしないだと………?


石がーーー(´・ω・`)ない。

■人間界、カナエリア王国内の森、タツヤの家。


本棚や人形が綺麗に整頓されたリビングで、私の淹れた紅茶を口に含んだタツヤが唐突に顔を上げた。


「うん? ………ああ、動き出したみたいだな」


「どうかしました?」


彼の正面に座ったアレンという名の金髪少年が、少し強張った表情で確認を取る。彼も異世界人の記憶を持っているという話だし、何かを感じ取ったのかもしれない。


「ああ。シル王国に陣取っていた魔物達が進軍を開始したよ。丁度聖騎士団も現地に到着したみたいだし、今日の夜か明日の朝には戦闘が始まるかもね」


その事が意味する事を理解して、私は納得した。再び人間界に魔界の王が現れたのだと。


それと同時に新たな興味が湧く。転生者でありながら勇者の役目を与えられなかった特異な少年が、どのように動くのか。


「あなた達はどうするのかしら? シル王国には人間界と魔界を繋ぐ境界門がある。レイ……今はネアだっけ? と合流するならあそこが一番確実であり、近道でもあるのだけど」


実はタツヤが製作した転移用の魔法陣が幾つか魔界に置いてあるのだが、レイはその存在を知らない。それに境界門の近くには一つも置いていないので、魔法陣から合流するとなるとむしろ遠回りになりかねない。


「勿論、行きます。ネアがこのタイミングを見逃すとは思えませんから」


何かを確信している表情で頷くアレン。レイに対して十分以上に信頼してくれているみたいで、少し安心した。


………最初はレイが魔王に敗北して女の子になったという話には、永く生きている私でも耳を疑ったのだけれど。


「そう言ってくれると思っていた。既にシル王国の王都付近に転移魔法陣をこっそり設置しておいた。俺とアリシアも同行するからよろしくな」


タツヤは楽しそうにうんうんと頷いているが、外の人に顔を見せないようにしてるのをもう忘れたのかしら………。


「………大丈夫なんですか? 多分沢山の人に見られると思いますけど………?」


頭の痛くなるような能天気な返事に、アレン少年が少し心配そうに尋ねてくれた。ぐっじょぶよ、アレン君。


「まあ多少の変装はするし、今の俺にそこまで派手に戦えるような力はないよ。ほら、もう俺は勇者としての力を返上してるしね。君達は今の勇者君には会ったかい?」


5年前に偶々出掛けた先で出会った、まだ子供の面影を残していた少年勇者を思いだす。少し切羽詰まっていたような印象を受けたが、タツヤの言う通りにこの世界を楽しんでいるだろうか。


「いえ、まだ会ってはいませんけど………。勇者の称号を返上すると、力を失うんですか?」


「結果的にはそうなる。といっても今までの能力を失う訳ではなくて、勇者特有のインフレじみた成長速度と補正を失うだけさ。10年前、魔王を倒した時から俺はほとんど成長してないのさ」


苦笑いを浮かべたタツヤは少し冷めてしまった紅茶を飲み干す。力を失ったといっても、今のタツヤと互角に戦うことが出来るのは若い頃のゼオラントと、レイくらいのものでしょうに。私や他の面々では10秒と保たない筈。


「ま、リリアナやアグリール達も同行しているそうだし、俺の出番はほとんどないと思う。俺は回復魔法に専念しておいて、魔王は君らに任せるよ」


「うん? ………今の勇者に残しておかなくて良いんですか?」


「構わないよ。『呼ばれてから直後に起きた災禍を取り除く』、それが勇者の使命だけれど、別に他の者がその災禍を鎮火させても構わないんだよ。

実際、100年くらい前には小国に現れた魔王を、流れの傭兵が倒したとかトンデモ話もあるにはあるからね。その時の勇者は頭にハテナを浮かべつつ帰ったらしいね」


その傭兵はニホンジンではないかという推測をタツヤが立てていたのを思い出す。その時は勇者として呼ばれなかった転移者がいるかどうか調べることが出来なかったが、目の前にいるアレン君が転生者だという話だ。おそらく正しいのでしょう。


___その時、アリシアの指に繋がれた不可視の糸から、微細な信号を送られてくる。転移の準備が整ったようね。このままだとタツヤの長話が延々と続いてしまうので、話を止めに入る。


「タツヤ、霊脈が繋がったわ。そろそろ出掛ける準備をしなさい」


「もうかい? 思ったより早かったね。………この話はまた後日話そう。俺も幾つか確かめたいことが………あるからね」


最後に何か言い淀んだ。タツヤが今のように困った表情を浮かべている時は、大抵碌でもない事を企んでいる………不安ね。


「タツヤ、また変な事を考えていないかしら?」


「⁉︎ い、いつも鋭いねアリシア。けどちょっとくらい夫のお茶目は赦すのも妻の裁量だとは思わないかい?」


あからさまに怪しい素振りを見せるタツヤに対してアレンが少し眉を寄せる。協力することになる3人に対して不審な行動は厳禁だというのに………、


「あなたのことだからこういう時は新しい武器か装備の性能検証……、ああ、そういえばレイが少女になっていると言ってたわね。………着せ替え人形にするつもり?」


「っ⁉︎」


図星だったのか、衝撃を受けたかのように大きく仰け反る。全く、一番長く隣にいた私に、あなたのことで分からないことなんてほとんどないのに………。


「ど、どうして分かるんだアリシア⁉︎ ……って誤解だ! 俺はただレイと一緒に語り合ったファッションが、ネアという少女に似合うかどうか確かめたいだけなんだ! アレン君、君だってその少女が巫女服やメイド服、それにバニー服見てみたくないかい⁉︎」


「巫女服………、バニーガール………」


話を振られたアレン君は、タツヤの剣幕に最初こそ戸惑っていたものの、服の種類の羅列に思わず考え込んでしまっている。これだから男というのは………。


「タツヤさん、俺も見てみた___


「「アレン?」」


「___いですけど、今回は遠慮させていただきます」


期待の眼差しで頷こうとしたアレン君たったが、後ろに控えていた少女達の、氷のような視線に晒されて縮こまった。どうやらこの2人には頭が上がらないようね。


(お互い苦労してるのね………)


(そうみたいですね………)


サーシャさんと一緒に思わず深く溜息をついてしまう。常識に囚われないことは、美点でもあり欠点でもある。出来ればもう少しは大人しくしてほしい。


(全く、アイカの好奇心旺盛な性格は、絶対タツヤから受け継がれてるわね………)


聖都の学園に通っている愛娘の姿を思い浮かべ、いそいそと地下室に逃げ込んだタツヤを見て再度溜息を吐いたのだった。




こうしてネアの与り知らぬところで、その身の貞操は守られた? のだった。



■魔界、境界都市・ベルグリーヴと獣都・アムールニルブを結ぶ街道。


「へくちっ」


「風邪ですか? ネアおに……お姉様」


突然鼻がムズムズして我慢する余裕もなくくしゃみをしてしまった。うーん、別に魔車の中は寒いわけでもないのに………。


「きっと私のことを噂してる人がいるのよ。それよりルーディアもこのおいしい砂糖菓子、食べる?」


「是非。アムールニルブで作られたお茶菓子は、魔界では結構人気があるんですよ。城にいた頃はわざわざベオドラに取り寄せに行ってもらっていましたね」


「そうなんだ。昔来た時は魔界の飯はマズかったんだけど、最近は美味しい店が多くなってるのね」


10年前魔界に来た時は、タツヤの《無限格納アイテムボックス》で持ち込んだ食材しか口に出来なかったことを考えれば、かなり進歩したと言えるだろう。おそらく魔界に移り住んだ闇人族が、まともな料理を魔界に広めたのだと思われる。


(毎晩俺と勇者で食べられそうな野草やら魔物の肉を毒味したのは……懐かしい思い出だな。勇者の能力で毒にはあたらなかったが、何度腹を下したことやら………)


魔王城に辿り着く前にくたばりそうな旅路だったと、今でも恐怖を刻み込まれている。魔王を倒した後、その事を他の仲間に伝えたところ、「なら食うなよ」と総ツッコミされたが。


そういうわけで、魔界で美味しい料理を口にする事が出来て感動もひとしおなのだ。特にこの菓子のような嗜好品は人間界よりも美味しいかもしれない。


「嬢ちゃんたち、そろそろ先行していたガランシェール様の軍に追いつくぜ。下車の準備をしてくれ」


御者席で魔獣の手綱を引いていた驢馬族の男が、此方に聞こえるように呼び掛けてきた。


「もう着いたの? 思ってたより近かったのね」


俺とルーディアが魔車の手配をしているうちにさっさと行軍を開始したアムール王直属の黒虎族兵二百は、電光石火の速度でベルグリーヴへと進撃を開始してしまった。


兵糧とか兵站の確保はどうなっているかとツッコミたかったが、すぐさま召集された輜重隊の集団が大急ぎで届けるため、俺たちの乗っている魔車を追い越して行った。馬車の五割り増しで速い魔車を追い抜く人馬族ケンタウロスの輜重隊。まず人間界ではあり得ない行軍速度に、思わず舌を巻いてしまった。


(ほんと、どうして魔界に人間界が支配されてないのか分からないな……)


白兵戦最強と謳われる黒虎族の強襲隊、それに追いつくだけの速度を誇る人馬族ケンタウロスの輜重隊、今作戦にも参加はしているそうだが姿の見えない山猫族の隠密部隊。


相手が迎撃の準備を整える前に、凶悪な先制攻撃を敢行する超攻撃的な戦闘集団。それが魔界最強と言われる獣魔王ガランシェール率いるアムール軍だった。


「戦争は引退したって言ってたけど……、全然現役でやれてるようね。今は攻城戦かしら」


「境界都市ベルグリーヴは、魔族にとっても重要な霊脈の溜まり場です。歴代の魔王が創り上げた人間界侵攻の為の拠点は、魔王の力を以ってしても易々と破れるようなものではありません。正攻法で攻めてしまえば、……よくて二週間は掛かると思いますよ?」


「そうみたい。10年前見たときよりも、更に補強が施されてる。………あんなゴーレムなんて何処にも置いてなかったしね」


アムール軍が攻める黒鉄の城壁前には、無数の氷で造られたゴーレムが立ちはだかり、もう一つの城壁を築き上げている。10年前には存在しなかった防壁。


………確か魔王メアリーアーチェは氷魔法を使えたな。あれの副産物か。


その後ろから『骸骨弓兵スケルトンアーチャー』や『死霊使い(ネクロマンサー)』の援護が黒虎族の精鋭達に雨嵐と降り注ぐ。だが、


「まあ、あの程度の攻撃が効くわけがないわよねぇ……」


目に見える範囲では遠隔攻撃で倒れ伏した獣人族の姿を見掛けない。当然だろう。元々頑丈だった肉体に更なる身体強化を施している。魔法を行使することを一切考慮せず、魔力を纏った己の拳で戦い抜く。それが黒虎族の生き甲斐だと、かつてガランシェールは語った。


………とはいえ、俺としてはそう時間を掛けてもいられない。幸い黒虎族が魔法を使わないだけであって、他の種族は魔法の使用を許されている。


中々頑丈なゴーレムを一掃するくらい、別に構わないよな?


「ルーディア、私はちょっと上で援護の為の術式を編むのだけれど、一緒に来る?」


「ええ、是非」


予想通りの返答に笑みを浮かべ、魔車の扉を開け放つ。


髪を激しく乱す風に抗って屋根に上る際、下から「………黒の、ランジェリーですね」という囁き声が聞こえ、思わず手を滑らせそうになる。


「ル〜ディア〜?」


屋根の上から片手でフリルのついたスカートを押さえ、もう片方の手でルーディアの手を掴む。口に出して言わないでくれ! 決して履いてみたかったとかそんな事はないのだ。人狼族に変装していた時に買った下着で、「これなら尻尾に違和感を覚えずに履けますよ」と高級服飾店の店員に躍らされて買ってしまっただけなんだ‼︎


「ええ、とてもお姉様にお似合いです。ぱんちら…すればどんな男でもイチコロでしょう。………そんな輩は私が始末しますけれど」


「………………」


………うん。私はなにも聞いてないしルーディアは何も言ってない。それで良いや。


「………炎を司る精霊よ、その身を現世に顕せ《炎帝召喚イフリート》‼︎!」


炎の如き魔力の煌めきを放つ魔法陣から、最も使い慣れた上位精霊が顕現する。逆立つ炎髪に筋骨隆々の肉体と、武神の特徴を備えた炎の皇帝の笑みに、俺もニヤリと笑って頷き返してやる。


「久方ぶりの戦よ。この前とは違って、今回は思う存分戦ってくれていいわよ。___イフリート、契約に従い我が命を果たせ。ーーゴーレムどもを蹴散らしなさい」


『御意に!』


喜色を浮かべた炎帝の全身から、視界を埋め尽くすほどの炎が噴き上がる。そのまま身を震わせ、勢い良く飛び出していった。



……ああ、スルトにお株を奪われて5年くらい出番なかったもんね。今度からはもう少し使ってあげないとな………。

はよ、詫び石はよ(何かがおかしい)



残念だったな、タツヤにアレン。お前らの視点で書くことは………まずない。


タ&ア「何故⁉︎」


何となく(●ω●)


タ&ア「………………」




あ、本編で書くことはない、のであってもしかしたら閑話という形で書くかもしれません(予定すらありませんけど)。

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