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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
36/42

第35話 燃える導火線

夏休みでした(震え声)。



更新が滞って申し訳ありません。な、何とか勢いが出たので書きました。ふ、不定期更新ですがどうかよろしくお願いいたします。



本編を忘れてしまった人用に簡単なあらすじを書いておきました。邪魔でしたら読み飛ばしてください。



ガナード侯爵は諜報部隊『影月』のトップでもあり、フィアナの直属の上司にあたります。

〜これまでのあらすじ〜


かつて勇者パーティーの戦士として魔王を討ち取った経験を持つ、今作の主人公であるレイ・アグニス。


魔王を討った勇者タツヤが一応引退の形を取り消息を断ったことで、自然と勇者パーティーは解散した。各々が元いた職場に戻ったり隠居生活を送ったりと日常を取り戻していく中、レイも各地を気楽に放浪して平和を満喫していた。


しかし魔王を討伐してから10年後、レイが滞在していたシル王国に突如魔王軍が出現。王族は直系の王女を残して全滅。王国軍及び国民にも多大なる犠牲を出すこととなった。


レイは単独で王女を護衛して国外への脱出を図るが、魔王と対峙、そして王女を逃すと同時に自身は魔王との交戦を開始する。


魔王に少なくないダメージを負わせ、魔王軍の侵攻を留めることに成功したが、自身も重傷を負い、気絶。


その後、勇者パーティーの仲間であり、ガナード侯爵の諜報部隊に所属しているフィアナに回収される。奇跡的に一命を取り留め、目が醒めると、何故か白髪ゴスロリ美少女に性転換していた___。



レイは少女としての名をネアとすることに決め、謎の膨大な魔力保有量を活かす為、魔法使いにジョブチェンジ。近くの森で助けた神官見習いのサーシャ、そして村の剣士見習いとしてその正体を隠していた転生者のアレン(荒神蓮)。さらにシル王国の隣に位置するガナード侯爵領で兎族の盗賊()のヴィヴィアを仲間として新たなパーティーを組むことになる。


それからなんやかんやあって、精霊の都で二人目の魔王と遭遇。これを撃破するが、ネアは突然出現した黒い腕に異空間へと引きずり込まれ、三人とは分断された。



ネアが引きずり込まれた先は魔界。傭兵のガウディ、ネアを()として慕う吸血姫のルーディアと共に人間界へ戻る為、境界都市・ベルグリーヴへと向かった………わけです。長いようで短かった。



それでは本編です。といってもネア視点じゃないんですけどね!





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


■ガナード侯爵領、シル王国国境付近、駐屯地。


「ふむ。王都に魔王軍が集結し始めていると。………勇者は?」


最前線から離れたことによって、ネア達がかつて訪れた駐屯地は幾分か緊張が解かれていた。その陣幕の一つで、ガナード侯爵は直属の諜報部隊である『影月』の隊員から報告を受けていた。


「つい先日皇都を出発したようです。ラスマール皇国内で起きた大量の《生ける屍(リビングデッド)》の対処に追われ、出立が大幅に遅れたそうで」


「騎士団がこちらに来てからとは皇国も運が悪いな。………それを狙った者の仕業かもしれんが。まあ良い、引き続きお前達の部隊は幅広く情報を集め、素早く伝達してくれ」


「はっ。それでは失礼します」


すぐに気配の消えた少女から意識を目の前の書類に移す。そこには、諸王国軍の軍の展開状況と魔王軍の配置状況が克明に記されていた。


「やれやれ。これでようやく魔王軍の活動も下火になるだろう。魔王に手傷を負わせたレイ殿には感謝しなくてはならないな」


ひとまずは仕事が片付き、大きく息を吐いて愛用している革張りの椅子に身を沈める。


わざわざバルクヘイムから持ち出してきた愛用の品の椅子だ。かつてシル王国一と謳われていたエルフ族の家具職人に特注したもので、どんなに座っていても疲労感を覚えない素晴らしい逸品だった。


「魔族や亜人族との融和を推進していたシル王国が、その長である魔王の手によって滅びるとは。皮肉な時代だ」


勿論魔王が攻めてきたからといって、魔族全体が敵であるという簡単な話ではない。噂の範疇ではあるが、2人目の魔王が人間界に現れ、敗死したという話もある。


(今回、魔王は複数いるという聖騎士団団長の見解はおそらくは正しい筈。問題は魔王と呼ばれる存在が何人いて、何人が人間界に興味があるのかだ)


1人の強大な魔王が、魔界全土を支配して人間界に侵攻してきたのなら、総力戦かつ消耗戦を挑み、勇者が撃破してくれることに期待するしかない。


だが、複数いる魔王の内1人か2人がこちらに来たとしても、英雄を1人くらい使い潰せば(・・・・・)足止めくらいは出来るだろう。


その間に各国の軍隊を召集、包囲すれば如何に魔界の強力な軍隊といえど突破は不可能。


(勇者が魔王を討つと言うのならそれはそれで結構。だが、所詮は勇者など借り物に過ぎん。彼等に何時までも頼っていては、我々はーーー)


「何だ? ………騒がしいな……」


駐屯地にふと沸き起こった喧騒に眉を寄せる。兵士達が乱闘騒ぎを起こしているのかとも考えたが、兵士達の上げる怒声から切迫した雰囲気を感じ取る。


ガナードはその身分に縛られ、普段から死地に飛び込んでいく戦士のようには気配を鋭敏には察することは出来ない。なのでその目で確かめる為に、陣幕から外に顔を覗かせた。


「ガナード様………。 ご報告すべきことが……ぐっ!」


「聖騎士団の者か……? どうしたんだ、その傷は………」


幕を取り払うのと同時に、目の前に立っていた1人の騎士がその場に崩れ落ちる様に唖然とする。周辺各国の中では最強と誉れ高い聖騎士団の騎士が、見るも無惨な姿を晒していたのだ。


砕かれた全身鎧フルプレートの残骸は血に染まり、この時期にはまだ降りることのないはずの霜が全身にこびり付いている。ガナードは想像よりも酷い負傷の騎士を見て、思わず息を呑んだ。


「ガナード様……! 魔王が、魔王が遂に………‼︎」


「何だと………?」


痛みに呻く騎士の言葉に耳を疑う。フィアナの話では、魔王は生死不明になっているレイ・アグニスと痛み分けになった筈ではなかったのか。まさかもう傷が治ったというのか、それとも新たな魔王が………?


「治療師を呼べ! 聖騎士団の被害はどの程度だ⁉︎ 敵の総数は? 進軍している方角は?」


ガナードは半ば取り乱して瀕死の騎士に詰め寄る。情報だ。情報が少なすぎる。聖騎士団が敗走したとなると我々が太刀打ち出来る相手ではない。憎いが……勇者が来るまでの足止めをしなくてはならない。


治療師の魔法によってある程度まで回復した騎士は、それでも疲労の色を隠せないまま戦況を報告する。そのどれもがガナード、さらには諸王国軍にとって悪いものであった。


「魔法陣から次々とゴブリン、オーク、それにアンデッドが無数に湧き出しています………。雑魚だけなら幾らでも対処出来たでしょうが、《不死の処刑人アンデッド・エクスキューショナー》に背後から強襲され、陣形は瓦解。挟撃された直後に魔王の氷結魔法によって甚大な損害を出し、現在は撤退戦をおこなっております」


「聖騎士団が壊滅か………。各国及び各隊に伝達! 魔王軍が攻勢に移った。我が隊は山間部に防衛戦を築く。『濃霧ミスト』を使い山間部に潜伏・奇襲・離脱を繰り返し魔王軍の侵攻を可能な限り遅らせろ! 無理はするな! 時間さえ稼げば、必ず勇者がこの苦境をひっくり返し、魔王の首を討ち取るとも‼︎」


「「「オオオォォオオオーーーッ‼︎!」」」


聖騎士団の悲惨な負け姿に怖気付いていた兵士達を強引に鼓舞する。今必要なのは相手に屈する臆病さでも無闇に特攻する蛮勇でもない。


今を耐え凌ぎ、起死回生の一手を手繰り寄せる忍耐力が最も重要となる戦況なのだ。


(今は勇者に頼るしかないかもしれん。だがいつか、いつか必ず異世界の勇者がいなくても魔王を撃破する力を手に入れてみせる!)


そう自身の望みを胸に描き、決意と共に駐屯地の兵士達に指示を出した。



■魔界、アムールニルブ・アムール城の庭園。


「魔王様。束の間の休息を取らせてもらえたこと、感謝します。ですが、私達はもう行かなくてはいけません」


魔王メアリーアーチェが再び人間界への侵攻を再開したと聞き、俺は釣竿を置いて立ち上がる。その姿を興味深そうに眺める黒虎族ブラックタイガーの魔王ガランシェールは、人族の子供が見たら泣き出しそうな獣面に笑みを浮かべる。


「ほう………、わざわざ魔界を訪れるのだから、人間界を捨てたのだとばかり思っていたが、どうも簡単な話ではないようだな。レイよ」


「ネアだってば………。私は偶然魔界を訪れることになっただけです。それに詳しいことは言えませんが、___あちらにも仲間を待たせていますから」


アレン、サーシャ、ヴィヴィア。それにフィアナやゼオラント、……親父にも迷惑を掛けてしまっているだろう。しっかり平謝りする為にも生きて人間界へ戻らなくてはいけない。


「そうか。……だが、そうなると魔王の俺とは敵対関係になる___そうは思わないか?」


ザワリ、と辺りの空気が一変する。ただ単に魔王であるガランが、闘気をその身に纏っただけで木々の葉がバラバラと落ちていき、すぐ側に建てられた王宮の支柱にヒビが入る。ほんと、城なんていう狭い場所にいてはいけない男だな。臨戦態勢になっただけでこれとか。癇癪を起こしただけで城が壊れかねんぞ。


「………その必要があるなら」


虚空から魔剣スルトを喚び出し、片手に握る。


ガランも同じように戦斧を喚び出して両手に握りしめ、真正面に据えた。さて、今の俺でどこまでやれるんだか。今の身体で純粋な力比べをすれば負けるのは目に見えている。つまりどのタイミングでこの城から抜け出せるかが脱出の鍵になるだろう。ガウディとルーディアは………まああいつらのことだし、何とかして合流してくれる筈。


むしろ逃走に失敗して連れ戻された場合の方が心配か。この魔王(性欲魔獣)のことだし、1ヶ月はその凶悪的な獣欲に嬲られかねん。


その光景が頭の中に浮かびかけ、慌てて頭を振る。いかん、絶対に逃げ切らないといけない。


「ふんっ‼︎」


そんないかがわしいを考えていると、ガランは豪風を纏った戦斧を叩き付けてきた。あ、これは避けるしかない。高そうな黒灰石の床が砕け散る未来が見えたが仕方ない。戦いに犠牲はつきものだ。


そう思いながら飛び退いて躱す瞬間、大柄な人影が割って入った。その男は得物である大剣を下から振り翳し、圧倒的な質量エネルギーを誇る戦斧を真っ向から受け止めた。………まあ、受け止めた衝撃で男の周辺の床が陥没してしまっていたので、床にとっては避けられない運命だったのだろう。


「って、え?」


「親父。すまないがネアのことは見逃してやってくれ」


「ほう……、少しはやるようになったな。ガウディ」


黒虎族族長の息子であり傭兵でもあるガウディが、魔王の一撃を受け止めていた。いや、確かに邪竜の時も爪の薙ぎ払いを防ぎ切ってはいたが、もしやガウディって相当強いんじゃ………?


「だが、どうしてお前がそこな小娘を庇う? 人間界の事情などお前には関係あるまい」


「それは………」


ガウディは一瞬だけ戸惑ったように眉を寄せた。が、俺の方を一瞥し、内面を押し殺すように呟いた。


「それは、ネアが俺の依頼人クライアントだからだ。傭兵が依頼人を守るのは当然のことだろう?」


「ほう、………ほう? ……くく、クハハハハハハハッ‼︎!」


珍しい。ガランシェールが一瞬だけ惚けたような表情を見せた。そしてガウディが何を言いたいのか理解したのか、思いっきり笑い転げ出したぞ。なんだあいつ。しかも戦斧持ちながらだからかなり危ない。


「わ、笑うことねぇだろ⁉︎」


ガウディも黒い虎顔が真っ赤になっているが、どうしてなのかさっぱり分からん。ほんと黒虎族は訳分からんやつばっかりだなぁ。


「ヒィ、ヒィ、すまんすまん。悪かったな。………そうだな、良いだろう。貴様がネアについて行くことを認めてやる。本当は貴様に王位を継いで貰いたかったんだがなぁ」


笑い過ぎで流した目尻の涙を拭い、ガランは意味あり気にこちらを見てくる。意味が分からんが、地味に初めて俺の事をネアと呼んだな。


「助かる。親父」


「おっと、だが一つ条件がある」


ガランは頭を下げようとしたガウディを止め、意味あり気にニヤリと笑っている。悪戯っ子のような笑みに嫌な予感を感じたが、直後に周囲の気配を感じ取る。


「な、なんだよ………」


ガウディも嫌な予感がしたのか、顔を引き攣らせて父親に向かって尋ね返す。と、ガランは血に餓えた獣のような表情を浮かべ、宣言した。


「この戦い、俺達も参加する。久々の戦場が冷血の魔王。良い、良い。血が滾ってくるな貴様らぁ!!」


オオオオォォォオオオオオッッ‼︎!


いつの間にか集まっていた無数の獣人族達が、王宮の門前で雄叫びを上げた。ああ、ただ人間界に戻るだけの筈だったのに、何故か人間界と魔界を巻き込むでかい戦争に………。



どうしてこうなった。

ガナード侯爵が言及している勇者とは、現勇者のことで、タツヤやアレンの事ではありません。というかじきに出ます。(●ω●)




お空で舞うだけの簡単な双剣しか使ってません。

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