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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
29/42

第28話 吸血姫

気が付いたら月曜日。そんな、前回投稿から4日も経っていないと思っていたのに………。土曜日(黒い砂漠)日曜日(WarThunder)は一体何処へ………?


今回、地の文が多めかもしれません。



それと感想ありがとうございます!


2つとも返信していないのは、返信したくてもネタバレになりそうで返答に困ってしまったためです。申し訳ありません。(●ω●)


7/27 修正しました。

■吸血姫の古城前。


「失礼しまーす。誰かいませんかー?」


鉄柵で出来た門の前に立ち、大声で呼び掛ける。一週間に一度届けに行く定期的な依頼なので警戒されることも無いだろう。


暫く待っていると、城の脇門から頭に二本の角が生えている、背筋の伸びた老執事が現れた。


「お待たせしました。ギルドからの配達ですね? わざわざこの様な僻地までありがとうございます」


「仕事だからね。それにこんな立派なお城を見れてよかったし」


年季の入った尖塔を見上げながら頷く。最近の人間界の城は性能重視のものが多く、この様に壮麗な造りの城は減少傾向にある。


「それは何より。………では城の中まで持ち運んでもらっても構いませんでしょうか? 中でお茶も出しましょう」


「いいの? じゃあお言葉に甘えて」


特に断る理由もないし、城の中を見せてもらえるのはありがたい。魔界なんて滅多に来られないので、この際に景色を記憶に刻みつけなければ。



門を開けてもらい、庭先を眺めながら老執事に連れられて城に入る。芝生の色が真っ赤だったり、中身が空の騎士甲冑が警備をしていたりと人間界と多少の違いはあったものの、城の調度品は綺麗に整えられ、埃一つ落ちていなかった。野蛮な邪神の手先だと魔族を蔑む人族の貴族が見たら、これ、どう思うんだろう?


一階奥にある広い台所に持ってきた荷物を置いた後、客間で老執事に紅茶を淹れて貰い、一息ついた。


「ネア様。少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」


人面草に対してにらめっこを挑んで時間を潰していると、老執事が円形の箱と追加のポッドをワゴンに載せて客間に入ってきた。勿論俺はにらめっこをすぐに止めて澄まし顔でソファーに座っていたが。


「うん。別に良いけど、ちなみに何を?」


首を傾げて尋ねると、老執事は箱をテーブルの上に置いてその蓋を開いた。それはおそらく魔界ではかなり珍しいものだった。


「ショートケーキ! とても珍しい物が……もしかして、あなたが作ったの?」


今更だが、この人狼族の姿でいる時は軽い口調を心掛けている。魔界で丁寧な口調を話す者は滅多にいないので目立ってしょうがない。


俺の疑問に頷いた老執事は穏やかな笑みを浮かべて頷き、ナイフでケーキを切り分けていく。


「ええ。ルーディア様のお世話をしておりますので、紅茶に合う菓子などは幾つか作れるように精進に励んでおります。ですがこのケーキはまだ試作品でして、良ければ味見をして頂ければと」


ケーキ自体は割と昔から存在する物だ。数代前の勇者が大雑把に作り方を教えたのが起源らしく、その後に料理に関してはガチの前勇者が改良して美味しいショートケーキとして今に至る。


隔絶されていた魔界に伝わったのは、おそらく俺たちが撤退した魔王を追って魔界に行き、一度だけダークエルフの集落で振る舞った際だろう。ダークエルフの女王がわざわざ自分の分の一つを王城の料理人に分け与えたとなれば、その本気度が分かるだろう。


つまり一国の女王が必死になるほど魔界では甘い物を調理した料理が貴重であり、いくら一城の主の執事といえどショートケーキの調理法を知っているというのは、かなり貴重な人材であったりするのだ。


皿に分けられたケーキの一つを取り、一掬いして口に運ぶ。甘く柔らかい食感が口に染み渡りーーー


「これとは別の話になるのですが」


突然老執事が話を切り出してきたので、フォークを咥えたまま目を瞬かせる。味見を希望して口に含んだ瞬間に他の話に移るとは妙な事だ。


毒を盛られた可能性も考慮に入れたが、まずないだろう。何よりも老執事から害意や敵意を全く感じないのだ。例えれば、久しぶりに孫に会ったお爺ちゃん。


「我が主はこの地で産まれ、私ほどではないにしろ永く生きてきました。普段城から一歩も出る事がないので退屈しております。傭兵として経験してきた事を我が主に語ってもらえないでしょうか?」


成程。確かに暇は最大の敵だ。散歩ぐらいしないのか? と思いつつも問題がある訳ではないので頷く。勇者と一緒にやってきた事を名前を伏せて話せば多分楽しいはず。


「もぐもぐ、ーーはい。勿論良いですよ。主って吸血鬼のお姫様の事だよね?」


「ええ、我が主でありこの城の城主、ルーディア・アーデフェルト様でございます。ーーーでは早速主の部屋に向かいましょう」


あ、ちょっとお待ちを。まだケーキ食べ終わってないので。




■吸血姫の古城、城主の部屋。


「ルーディア様。人狼族の傭兵の方をお連れいたしました」


「……ご苦労様。開けて良いわ」


老執事が一際豪奢な扉の前で呼び掛けると、透き通るような美しい声が聞こえてきた。おそらく出会った事のある女性の中で一番美しい声かもしれない。


だが少しだけ険のある声音だったのは何故だろう?


「では、どうぞ」


「ありがと。ーーー失礼します」


音も無く扉を開けた老執事に礼を言い、火精霊によって照らされた室内へと入る。




「ーーーあなたが、傭兵?」




錦糸のような輝きを放つ白髪。少し驚いた風に目を見開いた、燃えるような緋色の瞳。薄く紅い唇から見える真っ白な牙。黒と赤を基調とした瀟洒なドレスにまるで人形のような綺麗な肢体を包んでいる少女。


目の前の、少し目を輝かせている美しい吸血鬼の少女がこの城の主だというのか。


「ねえ、聞いてる?」


あまりの綺麗さに暫く固まってしまったが、ルーディアが訝しげな表情で眉を寄せたため慌てて頷く。


「え、あ、うん。私は傭兵のネアです。よろしく」


「ネアね。私はこの城の城主にして吸血姫、ルーディアと申します。………綺麗な髪。まるで絹みたい」


くすりと微笑んで羨ましそうに頷くルーディア。こういう場合はなんて返せば良いのだろう? 身体が少女に変わったとはいえ、経験や知識まで変わる訳ではないので分からないのだが。


「えっと、ありがとう。ルーディアの瞳も綺麗ですね」


取り敢えず思ったことを言ってみると、彼女はおかしそうに微笑んで首を傾げた。


「それは、あなたが人族であることを見抜いた瞳だから綺麗と言っているのかしら?」


早速人間だとばれてるし。まるで天敵に狙われたかのように身体が硬直してしまうが、精神を落ち着かせて雰囲気に飲まれるのを防ぐ。


「瞳が綺麗というのは本音だよ。ーーーけどどうして私が人族って分かったの?」


しっかりルーディアの緋色の瞳を直視して言葉を投げ返す。丸薬の効果で視覚や触覚だけでなく嗅覚すらも獣人から完全に誤魔化せる筈なのに。


ルーディアは少しだけ考えるような素振りを見せた後、意味有りげに口元を手で隠した。


「血の匂い、かしら」


それはどうしようもないのですが。血が出ているわけでもないのに、身体の中を流れる血の匂いを嗅げるとは一体。


「冗談よ。私は魔力の流れを目で感じ取ることが出来るから。あなたの耳と尻尾には不自然な流れが生じていたの。存在しないものに無理やり魔力を注ぎ込むような何かを」


「魔力の流れですか。………もうちょっと改良しないといけないのかなぁ……」


是非ともその方法で見破れるのがルーディアだけでいて貰いたい。


「それで、あなたの本当の姿を見せてもらえる?」


これを解いても本当の姿にはなれないんだよなぁ………。一応今の(・・)本当の姿ではあるし怒られる覚悟は決めておくか。


狼耳と尻尾に流れていた魔力を途切れさせ、薬の効能を消す。頭を触って耳が側頭部に戻ったのを確認し、幻惑魔法でヘソ出し衣装に変えていた服装を紫のゴシックドレスに戻した。


「似てる………」


ネアとしての本当の姿を見たルーディアは、再び目を見開きそう呟いた。言われて初めて気がついたが、確かに俺と彼女の姿は似ているかもしれない。鏡をほとんど見ていなかった所為でいまいち自分の姿を思い出し難いが、瞳の色が異なるのと彼女に生えている牙を除けば年の近い姉妹と言われてもおかしくはないかもしれない。


「改めまして、私の名前はネア。人間界で冒険者をやっていました」


「冒険者! いえ、でもどうして人狼族になって姿を隠してたの? 魔王軍に捕虜にされてから逃げ出したとか?」


「冒険者」という単語に目を輝かせたルーディアだったが、その事を聞く前に変装の理由を尋ねてきた。流石に魔界に人族がいたら目立つと思うのだが………


「ここに来させられたのはまた別の事情よ。変装していたのは人族だと魔界では目立つからね」


「目立つ? それはどうして?」


だが首を傾げられてしまった。どうしてと言われても………


「魔界には人族がほとんどいないから、珍しいと目立つでしょ?」


「そんなことはないわ。だって闇人族と姿が変わらないのだから、目立つことはないはずよ」


ヤミヒトゾク? 聞いたことのない種族なんですが。


「ルーディア様。お茶をお持ちいたしました」


尋ね返す前に後ろから老執事が扉をノックして入ってくる。人族の姿となった俺を見ても特に驚いた風もなく、ワゴンでティーセットや新しく焼いたと思われるチョコレートケーキを運んできた。チョコとはこの執事さんは分かっているな。チョコケーキこそ至高のケーキだと!


「丁度良かったわ。話をしてもらうのに立ち話も悪いから、こちらに座りなさい」


完全に目がケーキに向いている俺を見て苦笑したルーディアは、彼女が座っているベッドの隣を指差して提案してくる。特に断る理由はないので拒絶はしない。何しろこの部屋には家具といえる家具が天蓋付きのベッドとその側にある椅子しか無いのだ。いくら吸血鬼と人間の価値観が違うとはいえ、これは異常だった。


まるで雲に座っているのかと思えるほど柔らかいベッドに腰掛け、温められたティーカップに淹れたハーブティーを口に含む。良い香りが鼻腔をくすぐり、仄かな苦味がほんの数刻前の魔王戦の余韻を解きほぐす。よくよく考えてみればまだ一度も休息を取ってなかった。最近の人生はいつにも増して波瀾万丈だ。


「ーーー美味しい」


「それはなにより。私のお気に入りを出してもらった甲斐があるわ」


すぐ隣で同じようにお茶を飲むルーディアは嬉しそうに笑った。その笑顔は、何時も強張らせていた表情を解きほぐすかのようにすっきりとしたものだ。


「それで、確か闇人族の話だったわよね? どんな事が知りたい?」


「全部」


率直に言うと、彼女は困った風に苦笑する。まあ、そんな言い方をされてもどこから話せば良いのか困ってしまうだろうな。なので、聞きたい事を手早く纏めてその正体だけ教えてもらう事にした。



ルーディアの話によれば、闇人族の源流は人族であり、人間界から魔界へと奴隷として連れ去られた者たちだとか。人族と魔族が交わる内に闇魔法との高い魔法適性を持ち、商売や政務に関する才能を発揮した事で次第に魔界の一種族であると認められるようになったそうだ。


その一例として傭兵稼業を闇人族が作ったギルドが管轄するようになってからは、その仕組みの利便性を築き上げた功績が決め手だったとか。


魔法の素質が多少闇魔法よりか光魔法よりか、くらいしか人族との違いはない為。まず気がつかれる事はないとルーディアのお墨付きをもらえた。


「今度はあなたの番よ。人間界のお話なんて滅多に聞けないから、とても楽しみ」


「うーん、お話は上手じゃないからお手柔らかにね」


顔を鼻先まで寄せて迫るルーディアに仰け反りながらも、取り敢えずアレン達との旅を話す。意外に受けが良く、特に酒場で虎族の男を撃退した話などは目を輝かせて笑っていた。11万もの《殺人蜂キラービー》に襲われた話よりも楽しそうに聞いていたし、冒険者らしい生き方に何か憧れでもあるのかもしれない。




最後の魔王が現れた話だけは顔を顰めたものの、俺の話のほとんどを嬉しそうに聞いていたルーディアは羨ましそうな表情で立ち上がり、窓の外の景色を眺めて呟く。


「ふふ。あなたの話、本当に面白いわ。……私もそんな生活がしてみたかったなぁ………」


「すれば良いじゃない」


年頃の少女のような仕草をしていた彼女はしかし、初めて見せた時の氷の表情で俯いた。


「………出来ないわ。この城から出ることなんて」


こういう訳あり少女は、本心を吐き出させるのが一番手っ取り早い。閉じ込められた少女が逃げ出したいと訴えたのならば、それを手助けするのは俺や勇者にとって当たり前のことだったのだから。


「それはどうして? あなたを縛っているものは何?」


呪いならスルトを使って頑張れば大体吸収出来るだろうし、魔獣や魔物ならそれこそ討伐してしまえば良いーーー


「ドラゴン」


はい?


「私をこの地に縛り付けているのは、竜の谷に住まう邪竜よ。竜に打ち勝つことなんて出来るわけないわ」


………準備が、必要だな。

紅茶の淹れ方などはほとんどうる覚えです。なのでその辺りの描写はほとんどしませんのであしからず。


・次回予告


サーシャ視点です。多少読み難いかもしれません。


………え、次回予告が普通? ソンナコトハあるかもしれませんね。




7/27 ルーディアの髪の色を金髪から白髪に変更しました。


どうして伏線を張ろうとしたものを間違えてしまうのか。

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