第26話 唐突な別れ
今回は若干血の色が多いかと思われます。
タイトルが意味深なのは、普段の判り難い物語の区切りが、今回は明確につくことになる、かもしれないからです。
では、どうぞ。
精霊樹から一気に飛び降りて地中からはみ出した巨大な根っこに着地する。空中にいる間に魔王までのルートを探し、風魔法で身体を軽くして着地の衝撃を失わせる。
「スルト、本気で急ぐから制御をお願い」
『心得た。………マスター、久しぶりに本気を出せるな』
魔力による身体強化を追加で掛けていると、スルトがその身体を紅く輝かせた。
「そうね。相手は違うけど、魔王に対する落とし前をつけに行きましょう」
脚に溜め込んでいた魔力を開放し、飛ぶように走り出す。屋根の上を高速で駆け抜けながら、慌てて防衛戦を築き上げるトリアスタの住民たちを後ろ目に見る。
「さ、サハギン族まで攻めてきたぞ⁉︎」
「くそっ、こんな時に攻めてくるとは………‼︎」
「まずはミノタウルスを抑え込む防御壁を造る! 魔法使いは土魔法の準備をしておくんだ‼︎」
道を走って逃げるトリアスタの住民たちはなかなか混乱しているようだ。前方からオークやミノタウルスが追いつこうと迫って来るのが見える。
足の速い《ミノタウルス》を《火弾》という名の熱線で炭に変えつつ魔王の元に向かうと、既に幾人か先客がいた。
アレン、ヴィヴィア、サーシャのいつものメンバーだ。炎の蛇がアレン達の動きを牽制していたのでスルトを翳して吸収させる。
「遅くなったけど、大丈夫?」
「ネアさん‼︎」
「っ、どうして来たんだぴょん⁉︎」
「ネアっ、遅えぞ‼︎」
驚いた顔、怒った顔、そして不敵な笑みを浮かべた顔を三者三様に見せて迎えてくれた。背中合わせの中心に入り込み、水銀を垂らして魔法陣を描く。
「おやおや。この私、ベクトレーメスの毒牙に掛かろうという小娘がもう一人増えようとは………」
新調した金属盾と戦槌を構えるサーシャの正面、頭の角を暗紫色に輝かせた男が気障に髪を掻き上げた。青白い肌に鱗が僅かに浮かんでいるのが見える。角魔族と蜥蜴人との混種なのか? 女魔王も混種だったわけだし流行ってるのかもしれないな。
「ふーん? 魔界では混種が人気の種なのかしら?」
「おお、混種の素晴らしさを知らないとは、愚かな人間達だねぇ」
魔法陣にとある実をすり潰した粉を撒きながら笑顔で挑発する。流石にこの程度では挑発に乗らないどころか、むしろ魔王は褒められたかのように得意気に笑っている。
「そう? なら試してみましょうか」
魔法陣が粉末に反応して輝く中、試しに《火弾》を放つ。が、熱線は魔王の目の前で消えたかと思うと、突如として俺の真後ろの空間から襲い掛かってきた。
「ネアさん!」
サーシャが焦ったように警告してくるが、まさか自分で放った魔法で傷つくわけがない。杖から放った熱線はそのまま杖に吸い込まれていく。
「あの転移魔法が厄介だ。どんなに速く斬りかかってもあれで逃げられて全然当たらない。光魔法や投げナイフも消されちまうしな」
なるほど。やはり周りの魔物達を呼び出したのはこいつか。ならば目の前の魔王を倒せば増援も来ることなく収められると。幸い、レイだった頃にこういう相手とは既に対戦済みなので軽くサーシャとヴィヴィアに指示を出してからアレンにこっそりと耳打ちする。
(アレン、心眼は持ってない? あるととても便利なんだけど)
(心眼? ………よし、取ったけど一体どうするんだ?)
取ったって。今取ったのか? ………やはり転生者とか転移者は出鱈目な存在だ。
「準備は出来たかい? なら私めも眷属を呼び出すとしようか。数の不利は身を滅ぼしかねないからね」
そう言うと、魔王の上空に巨大な魔法陣が出現する。そこから這い出すようにして現れたのは、《土竜》。しかも7体ほど連続して這い出てきた。黒竜には遠く及ばないものの、一介の冒険者では太刀打ちすることなど出来ない相手だ。
「どうする? 流石にこいつらを相手しながら魔王と戦うのは厳しいと思うのだけど」
「魔王が余裕ぶっこいてれば楽なんだけどな〜」
アレンと一緒に愚痴ってしまうが、魔王は土竜に戦闘を任せることなく己も戦闘に参加するらしい。全く、ランク4のパーティーにすら容赦ないな。
気炎を上げながら距離を詰めてくる土竜達に警戒していると、サーシャが真剣な表情で口を開いた。
「アレン、ネアさん、ヴィヴィアさん。私が、3体、いえ、4体を足止めしてみせます。その間に他の3体を倒して貰えませんか」
「っ! 本気かぴょん……?」
自殺行為とも取れる頼みに、ナイフを逆手に構えたヴィヴィアも横目でサーシャを盗み見る。が、彼女には悲壮な覚悟は全く見られなかった。むしろこの状況下で己の実力を知りたいとでもいうかのように、慎ましく笑っていた。
「良いの? 私が2体受け持っても構わないけど」
「馬鹿言え、俺に2体やらせろよ。折角鍛えてもらった聖剣の力を試してみたいんだから」
アレンは本物の聖剣と造られた聖剣を両手で構え、腰を落とす。バルクヘイムでフィアナと手合わせしていたからか、二刀流がかなり様になっている。
「2人とも……?」
驚いたように振り返るサーシャ、しかしその隣でもヴィヴィアが呆れたように溜息をついた。
「全く魔王も空気が読めないぴょん。8匹出さなきゃ仲良く分け合いも出来ないぴょん」
「あ、じゃあ魔王はどうする? 流石に傍観してくれるとは思えないんだが」
「ああ、それなら一旦あの人に任せましょう。弟子のためなら、倒さずに時間稼ぎくらいやってくれるはずだしね」
そう言ってそちらの指を指す。魔王のすぐ側にある建物の上に、全身を神々しい黄金鎧で固めた偉丈夫が仁王立ちしていた。
兜の所為で顔を見ることは出来ない。が、ゼオラントはこちらに視線を向け、サーシャに向かって大音声で呼び掛ける。
「サーシャよ。アースドラゴン程度で怯むな‼︎ お前が最初で最後の防壁だと思え! 前にも後ろにも、仲間を守るものはいないと思え! 仲間が敵を倒すのを信じて守りきるのだっ‼︎!」
「はいっ、師匠‼︎」
サーシャが勢い良く返事をして盾を正面に構えると、その動きに触発された土竜達が一斉に襲い掛かってくる。
「《魔法の鎖》!」
サイクロプスのエラブをも拘束した魔力で作られた鎖が7匹の土竜全てを縛り上げる。トリアスタに来るまでは最高で3つ同時にしか出せなかった事を考えると、ゼオラントの教えのもとでかなり成長したみたいだ。
十数秒しか保たない拘束だったが、他の3人にとってはそれで十分だった。
「精霊樹の実を防具に付与したから全属性に耐性がついてる。相手の魔法は気にしないで」
「サンキュー。左は任せろ」
「後ろはわたしがやるぴょん」
お互いの獲物へと駆け出していき、それぞれの武器で土竜を傷つける。
俺は《火炎爆雷》で土竜の外皮を削りつつ、鎖を引きちぎって暴れようとする土竜の頭頂部に火と風の複合魔法を叩きつける。
「《鳳仙火》。自慢の硬い皮膚の内側から身体を焼かれる感覚はどうかしら?」
深くまで埋め込まれた球状の火と風の魔力が、その魔力を開放して一気に爆発を起こす。
『GYAAAAaaaaaaAAAAAA!!!!?』
脳を一瞬で焼かれた土竜は断末魔を上げて斃れ伏した。念の為に死んでいる事を確認して、もう一体の土竜に向かって襲い掛かる。
『GYAAAAaaaAAA!!』
「《淵源の護手》!」
待ち構えていた土竜が振り上げた爪を叩き落としてくるが、それを魔力によるゴリ押しで押し返す。
『GURUU?』
何が起こったのか分からなかったのか、土竜はキョトンとした顔で変な方向に捻じ曲がった腕を見つめている。まさか小さな少女に弾かれたとは全く思っていないようだった。
「さよならっ、とね」
その隙を見逃す事なく《火弾》を口の中へと叩き込み、竜の体内を焦がすことによって絶命させた。
「終わったみたいだな。ネア」
「怪我はないぴょん?」
「勿論よ。早くサーシャを助けましょう」
絶命した土竜の上から飛び降りると、アレンとヴィヴィアが声かけながら走り抜けていく。それに追従しながら辺りの状況を把握しておく。
「サーシャ! 大丈夫か⁉︎」
「アレン……ってもう終わったの⁉︎ 早くない⁉︎」
土竜の重い一撃を軽々と受け止めたサーシャが振り返りながら驚いている。戦闘中に余所見した癖して怪我どころか擦り傷すら負っていない。土竜2体を完璧に足止めするとは、本当にここ数日だけで急に強くなったな。
「ネア、援護は任せる! ヴィヴィアは妨害を頼む!」
「任された!」
「ぴょん!」
アレンは土竜の腕を足場に駆け上がり、すれ違いざまに顔面と右肩を斬りつけて後方へ抜けていく。
悲鳴をあげてバランスを崩した土竜の濁った眼に、二本のナイフが突き刺さり盛大に血を撒き散らした。投げナイフで岩よりも硬い瞳の被膜を破るのは、相当技量がなければできない。
「《岩石砲》」
もう片方の土竜の側面から崩れた建物の瓦礫が襲い掛かる。土石流のような勢いのそれは土竜を痛めつけ、眼を潰された土竜の方まで押し流される。
「サーシャ! 今だ‼︎」
「分かってるわ、アレン!」
それを待っていたかのようにサーシャの振り上げたメイスが白く輝いていき、二頭の土竜へと叩き落した。
「これで終わりです! 《破邪の一撃》‼︎」
輝くメイスの一撃によって土竜達の身が灼かれていく。魔王に召喚されたからなのかは分からないが、土竜達は闇属性を兼ね備えていた。
悲鳴とともに土竜の姿が完全に消え去ると、残ったのは俺たちとゼオラント、そして魔王だけだった。
「ほう………。人間族がドラゴン7体を倒すとは中々やるではないか。少しは見直したぞ?」
そう言ってこちらに視線だけを向ける魔王。その偉そうな言動とは対照的に、既にボロボロになってしまっている。ゼオラント翁は全くの無傷だ。相討ちになった俺としてはかなり悔しい。
「偉そうにしてる割には、爺さんにボコボコにされてるじゃねえか。お得意の転移魔法でも使って何か呼び出せば良いんじゃねえのか?」
アレンが挑発的に笑うと、ベクトレーメスは怒りの表情を見せた。まあどんなに強力な魔獣を放ったところでゼオラント翁には大抵の攻撃は効かないからなぁ………。歴史上最悪の10年前の魔王ですら、爺さんを相手する際は毒を使って弱らせて無力化させるのが限界だった。
「おのれぇ!! よくもこの俺をコケにしてくれたな!貴様達など塵芥も残さず殺してやる‼︎」
魔法陣から新たに魔物を呼び出そうとするのを、再び剣に戻したスルトで斬りかかって阻止する。
■
己を転移させて凶刃を逃れたベクトレーメスだったが、間髪入れずに降り注ぐナイフの雨に驚愕する。
「何っ⁉︎ くっ!」
魔法陣を翳して身を守ったベクトレーメスだが、その背後から迫り来る死の予感に背筋が凍る。振り返ることすらせずに転移してその場から逃れた。
「初見で避けるとは、勘の良い魔王だぴょん」
ベクトレーメスのいた場所を、四方八方から貫こうとしていた闇魔法で作った影の腕を霧散させ、ヴィヴィアは血の付いたナイフを引き戻す。そして耳を澄まして僅かに聞こえるであろう魔法陣の発生音を探る。
次に出現した場所はメイスと金属盾を構えた少女の背後。しかし現れた瞬間には双剣の少年によって剣が突き出されていた。間一髪仰け反ることで、左肩を軽く斬り裂かれただけで転移出来たが、想像以上の痛みを覚えて見てみると火傷をしたかのように真っ赤に染まっていた。あの少年の剣は聖剣だったのだ。
(馬鹿な! なぜ私の出てくる場所が察知される⁉︎ 予備動作は極限まで短縮したはずだ‼︎)
幾度となく逃げ込んだ虚空ともいえる暗黒の空間からベクトレーメスは怒りの形相で転移する場所を探る。その際に今まで戦っていた場所に濃密な魔力が撒かれていることに気がつく。
そして己の転移魔法がそれを押しのけるように出現していたことにも。
(なるほど、そういうことか‼︎)
誰かが撒いた魔力に、突然できる綻びを感知して転移場所を判断していたのだ。それさえ分かれば後の対策は容易い。
ベクトレーメスは凶相を浮かべ、魔力を散布している主と魔力の散布が薄い場所を探り、発見した。
(あの小娘かぁ‼︎!)
油断なく剣を構えた紫色のゴシックドレスの少女。しかも幾つか存在する魔力散布の薄い空間が、その少女の背後にあったのだ。
念の為に魔法防御と物理無効の補助魔法を使い万全を期す。小娘が持っていた剣は魔剣であることから、斬れ味も高いのだろう。だが魔王の特権である物理無効の前ではその強みも活かせない。気付かれて反撃されたところで対応することなど不可能だ。
(散々コケにしてくれたこと、後悔させてやる!!)
魔法陣を一瞬で描き、少女の背後に魔法陣を固定して飛び込んだ。
左肩の痛みに激昂し、冷静さを欠いたベクトレーメスは気付けなかった。双剣の少年と兎族の少女は魔力の綻びを見つける前に転移魔法を察知していたことを。
そしてそれよりも速く転移魔法を察知していた少女の、あからさまな隙を。
ザスッ
「……………な、ぁ?」
鋭い爪で貫こうと腕を振り上げていたベクトレーメスは、腹部に生じた違和感と鈍い音に思わず動きを止め、違和感の正体を探る。
彼が見たのは、少女の持つ聖剣で己の腹部を貫かれた光景だった。それを理解した瞬間、聖剣が力任せに左肩まで両断した。
「ぎ、ぎゃああアアァァァああああ!‼︎?」
■
「綺麗に引っかかってくれたわね。確かに転移魔法は稀有な魔法だけど、無いわけじゃないから対策は楽な部類に入るわ」
俺の講義など耳に入るはずもなく、のたうち回る魔王。暴れれば暴れる程死期を早めているのにすら気がついていない。
まあ聖剣に身体を半分以上斬られて、まだ動ける生命力は流石魔王といったところだが。逆手に持っていた人工聖剣を順手に持ち替える。
土竜を倒した時には既に交換していた。魔王相手では、如何に神殺しの魔人であるスルトでもどこまで通用するか分からない。なので確実に魔王を仕留められる聖剣を1人で持つのではなく、分散させて致命傷を負わせることが可能な人数を増やした。
この魔王が転移魔法に頼り、剣技を使わないことから考えた即席の作戦だったが、意外と上手くいったようだった。
「色々尋ねたいことはあるけど、あなたの魔法は危険よ。死になさい」
尋問しようにも転移魔法で逃げられるのがオチだ。ならば情報よりも禍根を断つ方が重要だ。
聖剣を振り上げ、躊躇いなく首に振り下ろした。
■
魔王ベクトレーメスの命は聖剣に斬られた時点で既に風前の灯火だった。主要な臓器はズタズタに斬り裂かれ、聖気によって焦がされている。いくら魔王といえどもここから自然に復活することは出来ない。
それこそ奇跡でも起きなければすぐに消えるような命だった。
「色々尋ねたいことはあるけど、あなたの魔法は危険よ。死になさい」
だがベクトレーメスはそれでも生きようと無茶苦茶に身体を動かして逃げようと藻掻く。聖気によって崩壊しかけている精神では転移魔法を扱うことなど出来ない。
尚もピクピクと感覚の遠ざかっていく指を動かしていると、突然明瞭に声が聞こえてきた。
(魔を統べる王よ。聞こえるか)
その声は、今まで恐れるものの無かったベクトレーメスに畏怖を植え付けた。頂点に立つ魔王を声だけでで恐れさせた主は尚も言葉を続ける。
(貴様の、王としての力はその程度ではない。自我を解放し、真の力を解き放て)
その言葉にベクトレーメスは歓喜した。まだ隠された力があったのだと。まだ魔王として君臨することが出来る、いや今度こそ他の邪魔な魔王共すら屈服させられると。
(私は、私はまだ死なないのだぁーーーっ‼︎‼︎)
ぼやけていた視界が血の色に染まり、更に暗黒へと転がり落ちていく。そして、
ベクトレーメスの魂は消滅した。
■
「え‼︎ 何っ⁉︎」
魔王の首に聖剣を振り下ろした刹那、ベクトレーメスの身体から漆黒の闇が溢れ出し首を断とうとした聖剣を押し留めた。
直感的に危険を察知し、尚も溢れ出す闇から距離を取ってアレン達のいる場所まで後退する。
「ネア! 何が起こったんだ⁉︎」
「分からないわ。………一体どこからあんな魔力が溢れてきてるの………⁉︎」
膨大な魔力を垂れ流しながら、ベクトレーメスだったものが起き上がる。目は白目を剥き、首は自重を支えることが出来ずに後ろに倒れている。
「魔王というよりはゾンビだぴょん………」
俺もヴィヴィアの意見に全面的に賛同したい。聖剣に灼かれたままなのか、左肩から腹部にかけての裂傷が焼け爛れて骨が見えてるし。
「うっ………、気を付けてください。あの肉体から、凄まじい量の邪気が溢れ出しています」
神官であるサーシャの警告に再び目を向けると、溢れ出した邪気がすぐ側にあった精霊樹の根に触れた途端、その根を急激な勢いで腐敗させていく。俺もあの場所に留まっていたらヤバかったかもしれない。
「多少の被害は止むなしね。………アレン、その聖剣であの魔王だったものを邪気ごと消し飛ばして。起句が使えるのは神造の聖剣だけのはずだから」
「ーーー分かった」
アレンはスルトをサイズも統一していたらしい背中の鞘に収めると、一気に魔力を圧縮して聖剣に溜め込んでいく。眩い光が聖剣を包み込み、刀身が視認し難くなってゆく。
だが、今まで動かなかった魔王の残骸がその光に反応してしまった。
『AAAAAAaaaaaaAAAAAA!!!』
おぞましい叫び声を上げるとともに、周囲の空間に無差別的に魔法陣が現れては消えていく。魔法陣のすぐ近くにあった瓦礫や看板が消えていることからして転移魔法が暴走しているのか。
己がこの場から逃れようと使っているのか、それとも仇を成そうとする敵を飛ばそうとしているのか。答えは後者だった。
「っ! アレン‼︎」
「くそっ⁉︎」
アレンのすぐ側に現れる魔法陣を察知して駆け出す。
アレンも魔法陣が現れるのは勘付いたが、聖剣に溜め込んだ魔力がそのまま溢れたら拙い事になる為、回避行動をとる事が出来なかった。
(間に合えーーーっ‼︎⁉︎)
勢い良くアレンを突き飛ばす。突き飛ばされた本人は驚いた顔をしていたが、バランスを全く崩す事なく全力の聖剣を振るった。
「『滅べ』、魔王ーーーーーーっ!!」
アレンの放った光が残骸を滅ぼすのを見届ける前に、出現した魔法陣を破壊する為に聖剣を振りかぶる。だが、
ガッ‼︎
「えっ?」
魔法陣から突然現れた泥のような黒い腕に聖剣を持った腕が掴まれ、振るう事が出来ない。
(ーーーこのっ‼︎)
次々と虚空から現れては脚や腕を掴み、俺のことを拘束しようとする泥腕を焼き払って聖剣で斬り払うが、それによってほんの僅かにあった脱出する機会を永遠に失った。
視界が暗転し、不気味な感触に五感を蝕まれる。それに耐える為、半ば本能的に聖剣を身体で抱きかかえる。
(アレン、………ごめん)
「ネアーーーーーー!⁉︎」
アレンの叫び声が聞こえたのを最後に、意識は閉ざされた。
ゼオラントお爺様を殴ると逆にこっちがダメージを受けます。殴れば殴るほどドMの道が(ry
そして謎の黒腕は、暫くの間再登場の予定は無いです。ドンマイ(´・ω・`)
黒腕『………………』




