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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
24/42

第23話 魔炎

今日は少し早めに投稿。


夏は虫の羽音が聞こえただけで警戒してしまいます。最近は伝染病が何かと騒がれていますし。

■精霊の森。


普段は長閑な森に、激しい嘶きが響き渡る。何事かと森の動物達が顔を覗かせるが、その光景を見ると慌てて己の住処へと逃げ帰っていく。


森を駆け抜けていくのは二頭の黒馬と純白の一角馬ユニコーン。そして、


ジジジジジジジジジジジジジジジジ……


無数の蜂が森を覆うかの如く馬達に迫っていた。


逃げる剛竜馬の上でアレンは片手で手綱を握り、もう片方の腕で魔法を放つ。


「くそっ! どこから湧いて出てきやがったんだ。こいつら⁉︎」


山を下りきった直後、突如として山脈側から無数の蜂が襲い掛かってきたのだ。人の頭ほどもある蜂が大量となると、逃げるしか選択肢はなかった。


「《殺人蜂キラービー》がここまで大量発生してるなんて、どうしてこんなことが………?」


「フィアナ、疑問は後にして! 《魔法の矢(マジックアロー)》で追いつきそうな個体を片っ端から叩き落として‼︎ ウィアとサーシャは正面と横から来るやつを仕留めて!」


ネアは剛竜馬の上で矢継ぎ早に指示を出しながら《火弾》を連射する。遠慮なしの超高熱の熱線が、雲のように迫ってくる蜂の大群集に大穴を開ける。が、それもすぐに塞がって距離を詰めてくる。


フィアナの魔法の矢が先頭を削っているためしばらくの間追いつかれる心配はないだろうが、タイムリミットはある。


だんだんとはっきり見えてくる、トリアスタの精霊樹までだ。


「お、多過ぎるぴょん! 何万匹いるんだぴょん⁉︎」


「11万匹だな」


「言わなくていいぴょん!⁉︎」


ヴィヴィアの悲鳴に対してアレンが冷静に返す。その落ち着いた声に笑いがこみ上げそうになるのは辛うじて抑えた。だが、軽口を叩けるアレンでさえ、冷や汗をかきながら魔法を放っている。人の頭並みの大きさの蜂が視界を埋め尽くしているのだ。笑えるほど状況は良くない。


「アレン、私の身体を押さえておいて」


「分かった」


(さて、と。《火弾》は兎も角、森の中でこれは使いたくなかったんだけどね………)


もうそんな事を言っているような余裕はなかった。ある程度の山火事は覚悟する。


剣へと形を変えたスルトを掲げ、その先に有りっ丈の魔力を収束させていく。それだけでは足りなかったので、己の魔力だけでなく精霊の森に流れる霊脈からも魔力を吸い上げ、解き放つ。


「地獄を顕現せよ、半魔の招聘に応えよ、神をも滅ぼす魔人の剣、《神滅の魔剣(スルト)》‼︎!」



ゴオオッ!!



精霊の森の上空に太陽の如き輝きが顕われた。飛んでいた蜂の9割以上が瞬時に蒸発する。瞬時に蒸発することを逃れた蜂達もその身を焦がしながら焼け落ちていく。


(くそっ⁉︎ いくら森に被害が及ばないように出したとはいえ、まだかなり残ってる!)


先程までの絶望的な数でこそないものの、低空で後ろの方を飛んでいた一万近くがボロボロの状態で飛んでいる。魔力が枯渇した以上、ネアに出来ることはほとんどない。


カァッッッ‼︎!


突然、稲妻がネア達の頭上を駆け抜け、蜂の群集を貫いた。前を向くと、トリアスタの方角から次々と雷魔法が飛んできている。この援護射撃はありがたかった。


紫電によって少なくない数の蜂が落とされていくお陰で、幾分余裕の出来たアレンが馬上で向き直ってきた。


「ネア、今度は俺のことを押さえてくれ」


「………ん」


鐙で身体を固定させ、アレンが落ちないようにしっかりと両腕で押さえる。


「俺たちの観光の邪魔しやがって。蜂ども、覚悟は出来ているんだろうな?」


まさか蜂たちもそんな理由で殺されるとは夢にも思うまい。


掲げられた聖剣に魔力が集り、刃となって伸びていく。輝きで刀身が見えなくなった聖剣を横倒しに構え、アレンは笑った。


「薙ぎ払えっ‼︎!」


長大に延びた聖剣の魔力刃による一閃が木々のすぐ上を薙ぎ、残っていた蜂を消滅させた。



■トリアスタ、正門前。


「君たち! 大丈夫か⁉︎」


全力疾走で疲弊していた剛竜馬から降り、徒歩でトリアスタへと向かっていると、鎧を身に付けた集団がこちらに走ってきている。身長が低い代わりに筋肉質な体つきであることからドワーフの兵士たちか。


「はい。先程の魔法で山火事が起きているかもしれませんので、確認をお願いしてもらえますか?」


大斧を担いだドワーフの隊長にサーシャが対応する。ちなみに俺は魔力が枯渇してしまったので、アレンの『ストレージ』から取り出した魔力回復薬を咥えている。今ならただの少女程度の力しかないので、襲われたら好き放題されてしまうだろう。


「う、うむ。それで《殺人蜂》はどうなったか分かるか? おそらくだが十万近い大群だった筈だが?」


「心配ありません。こちらのパーティーにいる魔法使いと剣士、それにトリアスタからの援護射撃のお陰で全滅しています。残っているとしてもほんの僅かでしょう」


「そ、そうか! では我々は森の哨戒に向かう。ーーートリアスタの住民は君たちを歓迎する! 精霊樹の母の恩恵が君たちにも届くよう祈る!」


そういうとドワーフの部隊は森へと駆けて行った。うん。今度から交渉とかの場面ではサーシャに任せようかな。相手を威圧することなく話の流れを持っていけるとは羨ましい才能を持っている。


「それにしても、思った以上にものものしい雰囲気ですね………」


「それは、まあ。十万以上の《殺人蜂》が街を襲おうとしていたわけだしね。全兵力を出していてもおかしくはない」


精霊樹で造られた巨大な正門の前には数多の投石機と防御柵、さらに精霊砲まで持ち出されていた。トリアスタに置いていた精霊砲は試作品だった筈だが、それすら持ち出すほど余裕がなかったのか。


正門の前で防衛態勢を整えていたトリアスタの兵士たちだが、その1部隊が何かに気づいたかのようにこちらに向かって走り出した。何事なのか分からずその場で待ち受けていると、フィアナの前で立ち止まり、跪いた。


「フィアナ姫! よくぞ、よくぞご無事で‼︎」


「ーーーファンス⁉︎ どうしてあなたがトリアスタに?」


よく見ればフィアナと同じように耳が長く顔立ちが整っている。部隊の全員がエルフの部隊であり、フィアナと面識があるようだ。何故かサーシャが幸せそうに鼻血を垂らしているが気にしない。サーシャに交渉を任せるという思いつきはなかったことにしておこう。


ファンスと呼ばれた金髪碧眼、イケメンの騎士は感極まったように顔を上げた。


「王国が崩壊し一族が散り散りとなった10年前、姫を探して日夜駆けずり回っておりました。しかし勇者一行の一員として王国の仇を取られたと聞き、疲弊していた我々はそのまま滞在していたこの都に籍を置きました」


つまり行方不明のフィアナが心配だったけど敵討ちが出来るほど成長していたから大丈夫だと安心してここを安住の地に決めたと。なんというか、あれだな。言葉に出来ない微妙な気分だ。


「そう。無事でよかった」


(なあ、フィアナさんてエルフの国のお姫様だったのか?)


(そうよ。けど俺たちの仲間になる前、エルフの王国は魔王軍の侵攻によって滅ぼされたの)


アレンがこっそりと耳打ちしてきたので頷き返す。ドワーフの大首領に続いてエルフの賢者まで敗れたと聞いた時には、かなり驚いたのを覚えている。


「積もる話もありますが、まずはトリアスタの作戦本部に報告をお願いします。連れの方もご案内させて頂きますので」


「……わかったわ」


イケメンエルフは意外なほど丁寧な対応をしている。シル王国でもそうだったが、この10年間でエルフ態度が謙虚なものになった気がする。



■精霊の都・トリアスタ、市街部。


「わあっ‼︎!」


「おー、凄いなこれ……!」


「ね、ネア! 精霊があんなに飛んでる‼︎ こんなの見たことない!」


「ええウィア。はしゃぎ過ぎて、ぴょん付けるの忘れてるよ。………やっぱいつ見てもこの精霊樹は破格ね」


目の前に現れたトリアスタの光景に四人様々な歓声が上がる。


水分を多分に含んだ風が頬を撫でた。絶え間なく吹く風に乗って風精霊が舞い、光精霊が光芒を残して大樹の陰へと消えていく。


視界を埋め尽くす精霊樹のこれまた巨大な根を利用して造られた家屋には、ドワーフやエルフだけでなく、様々な種の獣人や妖精族が盛んに出入りしていた。ちらっとではあるが、山羊頭魔族バフォメットの姿も見えた。


精霊樹の洞からとめどなく溢れ出す清水は綺麗に整備された水路を通り、そのまま水運に利用されていた。



水路を行き交う舟の一つに揺られ精霊樹の根元まで移動した俺たちは、『第2作戦参謀室』と書かれている、精霊樹の幹を削って造られた部屋に通された。


「ルーズフィース将軍、冒険者殿をお連れしました」


「ご苦労。ーーーこの者達が《殺人蜂》の群れを殲滅した冒険者か?」


慌ただしくエルフやドワーフの伝令兵達が行き交う中、40代くらいの壮年のエルフが近づいてきていた。壮年ぐらいの見た目だと確か実年齢は250歳くらいだったか?


「はい。《殺人蜂》およそ10万の群れに襲われ、上級魔法を超える炎魔法で殲滅した者達です」


いやいや、上級魔法を超える魔法なんてまだ開発されてないし。一応《神滅の魔剣》は上級魔法の区分に入っている、世界の理に則った魔法だ。


というか正確には11万だけど、いま聞いてみると本当にヤバい数字だったな………


「ふむ。して、その魔法を放ったのは?」


「私よ」


隠しても仕方ないので名乗り出る。何もかもアレンに丸投げしようかとも考えたが、むしろアレンの方から丸投げしてきそうな予感がしたので大人しくちょこんと手を挙げる。


「君か。………礼を言わせてくれ。私はトリアスタ自治区駐在将軍、ルーズフィース・ティングレイ。この度の《殺人蜂》の大規模襲撃を退けたこと、感謝する」


(うそ、エルフが頭下げた⁉︎)


頭を下げるエルフの将軍に驚いてしまう。まさか、まさかエルフが他種族に頭を下げるとは思わなかった。


「冒険者のネアよ。エルフが頭を下げるほど今回の襲撃は異常だったの?」


「異常だ。頭を下げる下げないは兎も角、多くても1万程度の群れしか作らない《殺人蜂》が10万以上の大軍勢で、尚且つサハギンどもと足並みを揃えて攻めてくるなど前代未聞だ」


「サハギン族が………」


親父が警告していたな。魚人族サハギンがこの時期に不穏な動きを見せたとなると………


「だが、お前達のお陰で《殺人蜂》に回さなくてはいけなかった兵力をサハギンの方へ向けることが出来た。じきに勝利の報告がやってくるだろう。

お前達を歓迎する為に食事会を開きたい。日が暮れる頃になったらここを訪ねてくれ。宿は貴賓室を用意しよう」


至れり尽くせりの待遇だ。最近冒険者として宿に泊まっていたアセリアートが懐かしく感じてくるんだが。



■トリアスタ、居住区。


部屋(貴賓室)割りも決まり、自由行動となった午後。俺はサーシャを連れてとある場所に向かっていた。


「えっと……、フィアナの話だとこっちの鍛冶屋を右に曲がったところだったはず」


フィアナに教えられた道順を頼りに精霊樹の板で造られた吊橋を渡っていく。その後ろを、下を見てしまったらしいサーシャが青ざめた表情で必死について来ている。


「ネアさん、橋を揺らさないで………。それにどこへ行こうとしてるんですか?」


「ん、ついてからのお楽しみ。……あ、ここみたいだね〜」


俺が立ち止まった建物は周りに建っている家屋となんら変わりの無いものだ。強いて違う点を挙げるならば玄関に黒竜を象った紋章が刻み込まれた小楯バックラーが立てかけられていることか。


「失礼しまーす。ゼオラント・ローズガイアさんはいらっしゃいますか〜?」


扉をノックして暫くして、嗄れた、しかし力強い声が聞こえてきた。


「………入れ」


扉を開け、石畳が敷かれた居間に入ると、初老の、彫りの深い人族の男性が安楽椅子に預けていた。


「………ふむ。まだ成人したばかりの娘が2人、年老いた儂のところに何の用じゃ? 哀れな年寄りの家で茶会を開こうというわけでもないのだろう?」


幾ら何でもそれは迷惑な奴だな。


「この子ーーーサーシャを鍛えてもらいに来たのよ。勇者パーティーの壁役タンクにしてラスマール皇国最高位の聖騎士さん?」

これで勇者パーティーのメンバーで顔を出していないのは、勇者とあともう一人だけです。どんな人物かはちらっとだけ出ていますけど。



・次回予告


水着。

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