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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
22/42

21話 秘密

七千字越えてないから長くはないんですよ(目逸らし)。

■バルクヘイム城、城外付近。


防砂林の中に隠すように建てられた四阿で、俺、アレン、ヴィヴィア、フィアナの四人が持ち込んだ紅茶を口にしていた。


紺色の帽子を膝に置き、姿勢よく座ったフィアナが俺が昏睡していた間の状況について話す。


「あなたが気を失った後、アグニス将軍があの場をとりなしてくれたお陰であなた以外の怪我人を出さずに済んだんだけどね、若干2人ほど剣呑な態度を崩さなくて一触即発の雰囲気だったの」


目を逸らしたのはアレンだけなのでもう一人はアグリールあたりだろうか。転生者と竜だし気が合わなくてもおかしくはない。


「このままだと城が喧嘩で崩壊しかねないから、将軍の提案で剣闘会で白黒つける事になって、そっちの剣士の子が勝利した」


「アグリールに勝ったの⁉︎ ほんと底無しね……!」


竜人状態のままとはいえ、それでも竜の力を使うアグリールに勝つとなれば相当強くなってるみたいだ。


「それで、その子の要求通りにリリアナとアグリールは侯爵領を去ったわ。といっても去っている途中と言った方が良いかもしれないけど」


騎士団に同行してるから、と補足するフィアナ。リリアナにこの身体のことについて聞きたかったのだが、結局すれ違うことになってしまったか。


「ネア、聞きたいことがあるんだがいいか?」


アレンが紅茶を置いて話しかけてくる。その表情はどことなく真剣なものだ。


「んー、やっぱり私の正体について?」


「………ああ」


まあそうなるか。何しろ勇者パーティーと知り合いであるというのにその仲間に殺されかけたりとか、俺だってどうしてそんな状況になるのか聞きたいくらいだ。


さて、と。どういう風に話せば良いか。皆を騙していたのには違いないといえばそうだが、それを言ってしまえばアレンも転生者のことを隠しているし、おそらくヴィヴィアも何かを隠している。


「そうね。もういっその事、ーーーみんな秘密をバラした方が良いかもな。後でややこしい事になったらどうしようもない」


努めて口調を男のものに戻し、二人を見つめる。どちらも真剣な表情を浮かべている。………努めないと男口調に出来ないんだが。


「ああ。サーシャがいないのはあれだが、隠しているのは俺とネア、それにヴィヴィアだ。俺はこの辺りで情報を公開しても良いと思ってる」


「………どうしてそんな事が判るぴょん?」


アレンの言葉にヴィヴィアがピクリと反応する。アレンの正体を知らなければそうなるだろうな。


「それがまあ、俺の秘密なんだけどな。じゃあまずは俺から正体を告げるよ。俺は、転生者なんだ」


「「なっ⁉︎」」


ヴィヴィアとこの場から去るに去れなくなったフィアナが目を見開く。まあ俺の正体について補足してもらうからいてくれると有難いんだけどな。


「あなたは勇者召喚で呼ばれたのかしら?」


「いや、違うと思う。よく分からない空間でこの世界に魂を飛ばされてきた。その空間でいくつか能力を貰って、サーシャと一緒にいた村で産まれたんだよ。『鑑定』とかでステータスとか所属を見られるのはその恩恵だよ」


「勇者と大体同じなのね。彼の時は白い空間に呼ばれたみたいだけど………」


フィアナが考察に入っているが、勇者との違いを検証するのはまた今度でも良いだろう。


「結局のところ、俺は色々な情報を得る事ができるしスキルとかもたくさん覚えてる。ってことで良いか? ちょっと全部説明するには手間がかかるから」


「それで良いだろ。取り敢えず『大体なんでも出来る』って思えば良いはず。……次はどっちが話す?」


ヴィヴィアの方を向くと、口調の変わった俺に少し驚いたようだが、それとは関係なく沈痛そうな表情を浮かべ、彼女は俯いた。


「わたしはまだ、……話したくないぴょん。拒絶されたら……嫌だぴょん」


垂れたウサ耳の所為で表情は見ることは出来なかったが、そのウサ耳は少しだけ震えていた。そっとその頭に手を置いて、撫でる。


「……?」


「嫌われたくないって思うなら私も嬉しい。私も四人で旅をするのが楽しいから。いつか話せるようになったら、言って」


ヴィヴィアは暫く俯いて黙っていたが、俺にぎゅっと抱きついてドレスに顔を埋めた。


「ありがとう……ぴょん!」


泣いているヴィヴィアの頭を優しく撫で、顔を上げる。目の前にはじっと見つめてくるアレンがいる。


「最後はわーー俺だな。まず最初に言うべき事は、俺が元は男だっていうことか」


俺がそう告げるとヴィヴィアは驚いたように顔を上げたが、アレンはピクリとだけ動いただけで、平静を保った。全く、どれだけ『無表情ポーカーフェイス』に力を注いだんだか。


「今の身体は本物の美少女の身体だが、ちょっと前までは男だった。多分サーシャと出会う一週間くらい前だっけか?」


「あなたが目覚めた日に出会ったならそうなるわ」


フィアナに確認しながらこれまでの事を説明する。オレが転移者である前代勇者の戦士であったこと、たまたま滞在していたシル王国での魔王軍襲来のこと、王女を逃がして自分だけ王都に取り残されたこと、その場で魔王と戦い、相討ち気味に敗退したこと、その際に魔族の固有魔法《性変質》によって今の姿に変えられたことを話した。


「何というか………、そんな状況になってたのか」


「ネアは、あの勇者パーティーの一員だったのかぴょん……」


アレンとヴィヴィアは唖然としたような呆れたような表情をしている。まあ世界を救った勇者パーティーの戦士が、こんな少女になってれば驚くか。


「まあフィアナに助けられた後に小屋の外を歩き回っていたらサーシャに会ったってことだ。俺の事はこれくらいかな」


「ネア………いや、レイって読んだ方が良いか?」


アレンが少し戸惑いながら尋ねてくるが、うーん。


「どっちでも……、出来ればネアと呼んでくれるとありがたいかな。この身体でレイって言われてもピンとこない」


この身体で暫く過ごしてきたが、素の口調も意識して話す時以外は自然と女口調になってしまうし、仕草も女っぽくなってきてしまった気がする。


20年近く生きてきたレイとしての自分より、一ヶ月しか過ごしていないネアとしての自我の方が強いのだ。突然性が変わって起きるであろう違和感も全くない。


「なら私もネアと呼ぶわ。……あなたのその身体、リリアナに調べてもらったのだけれど、いくつかわかった事があるの」


おお、俺が寝ている間に調べてくれていたのか。


「まず固有魔法《性変質》によって変わったその身体は、女として振る舞えるように補助が掛かってるらしいわ」


「ふむふむ」


そこはスルトに教えてもらった事だが、状況の確認のためにも茶化さずに静聴を続ける。


「始めは口調、仕草、そして欲求と次第に女性のものに変わっていき、最後には男としてのーーレイとしてのあなたを失う事になる」


「それってレイとして生きてた時の記憶を全て失うって事?」


「違うみたい。リリアナが言うには今までの記憶が「ただ経験した事」に整理されてまるで他人の記憶を持っているような感覚になるらしいわ。記憶の方は、いくら固有魔法とはいえ最強クラスの魔法抵抗レジストを持つあなたにはほとんど効き目がない筈と言われたわ」


………ふむ。身体と行動は女のそれになって、記憶と覚えている技はそのまま残る。そんなところだろうか。


「つまり、慣れれば問題ないってことね」


実に分かり易い。そう考えると心が楽になった。この姿で過ごしてみるのも悪くはないかもしれない。


勿論あのメイドサキュバスと魔王には落とし前をしっかりつけるつもりだ。殺られたら殺り返さなくては。


「アレン、ウィア。私はネアとして生きるつもり。だから、これからもよろしく」


ヴィヴィアは俺のゴシックドレスに埋めていた顔を上げ、ウサ耳をぴょこぴょこ揺らして頷いた。


「ネアの過去がどうであっても、ネアがネアとして生きるならわたしもネアとして接するぴょん。といっても、いきなり知らない人として扱うこと自体出来ないぴょん」


「ありがと、ウィア」


ヴィヴィアのウサ耳を撫でる。ああ、いつ触ってもこの感触だけは素晴らしい。一日中触っていても飽きないかもしれない。


「俺もネアがそれで良いなら構わない。ヴィヴィアと同じでレイとして接してくれと言われても困る。こんな美少女が元は男だとは全く思えないしな」


「あら、ありがとうね」


やはりこの姿は美少女で合っているようだな。サーシャやヴィヴィアみたいな美少女といるとどうしても気になるところだが、アレンのお墨付きがあれば大丈夫だろう。


「話はついた? 良ければ今後のことについて確認したいのだけど」


場の雰囲気が落ち着いたことを察知したフィアナが、紅茶を一口含んでから尋ねる。


他の『影月』に援軍についての報告を任せたなら手持ち無沙汰になっているだろう。急ぎの用事が無ければ色々と話し合いたいことがたくさんある。


「私は任務を終えたわけだし、ガナード侯に指示を貰いに行くつもりだったけど、その子達との手合わせをもう少しだけしていくつもりよ。むしろあなた達の目的の方がいまいち掴めないだけど?」


目的なんだっけ? ………思い出した。


「えっと直近の目標は精霊の都、トリアスタを見ることね。後はみんなが強くなることかな?」


ヴィヴィアが村の敵討ちを果たす為の力を手に入れることか。勿論己の鍛錬も忘れはしない。


「トリアスタに? 精霊の都で何かするつもりなの?」


「サーシャが一度見に行ってみたいって言ってたの。それにドワーフの大総長にアレンの為に魔法剣を新しく鍛造して貰わないと。アレン、双剣の方が動きが良いって聞いたよ」


練兵場までの道中でヴィヴィアに決勝では双剣を使ってアグリールを撃破したと聞いた。今もアレンの背中に納まっている真紅の長剣(スルト)を貸しているわけにもいかないのだ。


「新しい剣を?」


「そ。ガーブスっていうドワーフの長がトリアスタにいるんだけど、その人が鍛える剣ならその剣並みに質が高いから」


俺が本命の剣のカモフラージュにしていた儀式用の剣もトリアスタで鍛えてもらった。エルフと俺、勇者が共同開発した試作型魔法回路を取り付けている為、装飾がかなり派手になってたりする。


「こいつと同じ位のを作れるのか……」


聖剣をじっと見つめるアレン。まあ、俺たちは人工的に聖剣を作ろうとしてたからな。スペックを近づけようとするのは当然とも言える。


「そうね……、なら私も同行して良いかしら? 魔王の方はリリアナとアグリールがいればなんとかなるだろうし」


「魔王??」


あ。アレンが首を傾げている。


「レ、……ネア。まだ言ってなかったの?」


「そういえば、アレンとサーシャには伝えてなかったかも。アレン達がいた村が所属している国、シル王国の王都は魔王軍に占領されたわ」


「はぁっ⁉︎ 初耳なんだが⁉︎ ……そう言えばさっきも魔王に負けたとか言っていたけど」


ガタッと立ち上がったアレンにテーブル越しに肩を掴まれる。紅茶が零れそうだからやめてほしい。


言ったつもりになっていた。転移者もしか転生者だとしても万能ではないことは(限りなく万能に近いが)よく分かってたはずなんだけどなぁ……。


「じゃあ村のみんなも危ないのか⁉︎」


「大丈夫よ。元々魔王軍の情報を得る為に進軍していたガナード侯爵の偵察兵が保護に向かってたし、あの村の村長とサーシャのお父さんにはそれとなく伝えたしね」


「村長と神官長に、……それなら大丈夫か」


立ち上がっていたアレンはそれを聞き、安心して腰を下ろした。アレンの剣幕に怯えて隠れていたヴィヴィアも俺の背中から顔を出す。全く、リリアナの首筋にナイフを当てた時の気迫は何処に行ったのやら。


「そういえば、そのサーシャは何処にいるの? 傷を跡形もなく癒してくれたことでお礼言いたいんだけど」


「街の教会に行ってるぴょん。一月に一度は教会で講習を受けて孤児院の慰問に行くのが見習い神官のお勤めらしいぴょん」


そうなのか。勇者パーティーに神官いなかったから知らなかった。というより教会のことをよく思ってるのが一人もいないというね。よく教会相手に喧嘩売らなかったな俺たち。


トリアスタにはいつ行くかとかその為の足の準備とかはサーシャと合流してから決めるか。


「よし、アレンとフィアナはお昼まだでしょ? サーシャと合流したら城下町でお昼にしましょう」


「まだ食うぴょん⁉︎」


■城下町近郊の牧場。


「あー、じゃあほとんど軍用馬として持ってかれたの?」


「ええ。ですから、ネア様がおっしゃるような条件に合う馬はほとんどおりません。数匹ほど手の付けられない暴れ馬が残っておりますが………」


サーシャと合流して昼食を摂った後、トリアスタに向かう為の足を探すために街の外にある牧場まで足を運んでいた。将軍の紹介状のお陰で牧場主も丁寧に対応している。


しかしタイミングが悪かったようで、俺の希望した頑丈かつ体力のある馬は軍馬として徴収されてしまっていた。魔王が現れたのだから当然といえば当然だが。


(馬車が使えれば最悪ロバでも良かったんだけどね。サーシャがあれじゃね………)


ここまで馬車を使って来たのだがその僅かな道中でもう顔が青くなってしまっては諦めるしかないだろう。


ヴィヴィアに背中をさすってもらっているサーシャを横目に見て、牧場主に向き直る。


「取り敢えずその暴れ馬を見せてくれないかしら? 条件に合っているなら一度見ておきたいから」


「はい。こちらに」


案内された厩舎に入ると中にはほとんど馬がいなかった。疎らに見えるのは雌馬とまだ小さな子馬ぐらいだ。ガナード侯爵は城内で飼っている馬では足りないと思ったらしい。


「こちらの三頭でございます。下手に近づくと攻撃してくるので十分注意してください」


でかい。一番最初に思ったのがそれだった。遠くから見ればただの黒毛の頑強そうな馬だが、近くまで来るとその大きさがよく理解できた。何しろ、この馬の頭頂部までの高さは俺の身長の二倍ほどある。脚だけでも俺の肩ほどと規格外の大きさだ。


「でかいな。サラブレッドなのか?」


アレンも聳え立っているかのような馬を眺めながら感嘆している。「さらぶれっど」は確か、勇者がいた世界の馬の品種だったか?


「さらぶれっど、というのは知りませんが、こちらは『剛竜馬』と呼ばれる混血種です。遥か昔に竜と交わった馬が産んだものが祖とされていまして、竜の血が流れている身体は他の馬の力を凌駕しております」


「竜、の血か………、よし」


アレンはおもむろに虚空に目線を合わせるような仕草をして何かを操作している、のか? 勇者も似たような仕草をしていた気もするが、何をやっているんだろうか。


操作を終えたアレンは、牧場主が止める間もなく柵を乗り越え馬の目の前に降り立った。そしてスタスタと何の警戒もなく巨大な馬に手を伸ばす。


牧場主の息を呑む音が聞こえるが、それは杞憂に終わった。アレンが首を撫でるのを特に抵抗なく受け入れている。


ーーーいや、あれはむしろ馬の方が怯えてないか? 動いたら殺られる。そんな風に思ってるのか微動だにしない。


「そんな……、あの暴れ馬があそこまで大人しくしているとは………」


牧場主は唖然として眺めているが、俺としてはそこまで驚くことでもない。あいつ転生者だし、多少の滅茶苦茶はやってのけたとしても驚いてやらないからな。


「アレン、大丈夫そう?」


「ああ。大人しい良い子たちだよ」


俺も柵を越え馬を撫でてみる。ビクッと僅かに巨体を震わせたが、特に抵抗なく撫でさせてもらえる。うん。この大人しさなら二人乗りでもいけそうだな。


「じゃあこの三頭をお願いしても良いかしら?」


「ネア、私は別に乗り物を用意するから要らないわ」


今まで黙っていたフィアナが口を挟む。フィアナが要らないと言うのなら二頭で良いか。


「そしたら二頭でお願い」


「は、……はい。ではお値段の方は馬具と合わせてーーー



結局アレンが予選と本選で優勝して得た賞金で事足りてしまった。宝石を売って得たお金、何に使うか……。


「それではこちらの準備が出来ましたら使いの者を寄越しますので受け取りに来てください。いまはこのような状況ですが、ご贔屓にお願い致します」


牧場主に見送られて牧場を去る。さて、ーーーそろそろ、トリアスタに向かおうかな

やっと乗り物が手に入った。馬車、一度乗ってみたいなぁ………

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