第16話 剣闘会の行方
最近サブタイが全く的を射ていないと思うこの頃。
自分で書いておいてカタカナ喋り読みにくい………
《氷矢》と《魔力解放》のコンボでできた爆発煙がようやく晴れる。若干魔力を消費した所為で少しくらりとしたものの、血を流して倒れているエラブリートを見てほっと一息つけた。
「勝者、冒険者のネア‼︎」
様子を見に煙を掻き分けてきた審判員が俺の勝利を宣告した。少し遅れてやってきた高位神官が治癒の魔法をエラブリートに使っている。
完全には水煙が晴れていない所為か観客席はまだざわめいているだけだったので、風を起こして煙を払う。
ーーーオオオォォォオオオーーー
片方は立ち、もう片方は倒れているという判り易い状況に観客席からようやく大歓声が沸き起こった。歓声に手を振り返しながら、意識を取り戻したエラブリートに向き直る。
「《狂化》を使えるなんて、驚いたわ」
「ソレヲ破ッタオ主ノ方ガ上手ダッタヨウダガナ」
精神を激情に身を預け、外敵を討ち滅ぼすまで狂える戦士となる禁術。今回はエラブリートがまだ戦士として未熟だったため容易く対処が出来たが、熟練の戦士が使うと手に負えなくなる代物だ。
もっとも、禁術を扱える時点でかなりの力量を持っているのだがーーー
「そういえば、あなたってエラブさんと何か関係があったりするの?」
「伝説ノ剣匠ヲ知ッテイルノカ。………直接的ナ関係ハ全クナイ。我ガ父ガ彼ヲ尊敬シ、ソノ名ヲ頂イタノダ」
そうだったのか。確かに先人の名前を貰うことは別に珍しい事でもないしな。かくいう俺も経緯は若干違うものの女神の名前から今の名を付けてるしな。
「それじゃ、さようなら。またいつか会いましょう」
「次ハ勝ツ」
闘技場を後にして控え室に向かう。廊下を進んでいると、久しぶりにスルトが話しかけてきた。
『マスター、報告する事がある』
「ん、何かあった?」
『突き当たりの通路に人間がいる。気付いていないようだったから指摘した』
「ーーーへえ?」
思わず素の声を出してしまう。俺から完全に気配を消して待ち伏せする人族とかどこの刺客だ?
僅かに緊張しながら突き当たりまで進む。杖を構え、久々の緊張感に浸りながら通路の角から飛び出した。
「……いない?」
『……………いや、男の方の控え室に逃げて行った。追尾しておくか?』
「………ん、そうだね。戦うかどうかは分からないけど、気に留めるくらいはしておいても良いかも」
俺に気配を感じさせないほどの隠蔽術を持っているなら、それ相応の実力者であるはずだ。男性控え室に入ったのならおそらく剣闘会に出ているのだろう。
(さて、今の俺でどれだけ戦えるんだか………)
これから次々と現れるであろう強者と相対する予感に身が震える。こんな身体になっても強者と戦うことは嬉しいとは夢にも思わなかった。
■
そう思ってた時期もあったけどね。
「………弱い」
思わず控え室のベンチに横になって呟く。精神的に疲れた。まさか初戦で戦ったエラブリートよりも強いやつと出くわさないとは。次でもう準決勝なのに。
『そういうな。マスター。あの男はまだ残っているぞ』
「けど、たった《氷礫》一発で落ちるなんて弱っちいと思わない?」
『上級魔法に格上げされて金剛石クラスの重さの《氷礫》を耐えきる戦士が何人もいたら驚きだがな』
スルトが慰めてくれてはいるが、既にしんとしてしまった控え室では寂しいことこの上ない。
『あれ、あなたもまだ残ってたんだね?」
「あら、マリアールさんも残ってたんだ。良かった」
扉を開けてマリアールが入ってくる。銀色に輝く金属鎧はそのままだが、地面を転がったのか髪が砂埃で汚れてしまっている。
「《浄化の霧》っと」
魔法の霧を発生させて砂埃を落とす。水魔法の初級の魔法であり、覚えるとなかなか便利で簡単な魔法なのだ。旅で装備を外すことができない時などに重宝していたお気に入りの魔法である。
「涼し〜、ありがとね。でも魔力を使っちゃって良かったの?」
「初級魔法くらいなら毛ほども魔力は使ってないから大丈夫ね。それより淑女の髪が傷む方が問題よ」
男だった時からの信条である。勇者とは女の趣味が合わないことは度々あったものの、髪については同好の友だった。
「淑女、ねえ………。私がお淑やかなお嬢様に見える?」
少しだけ不満そうに口を尖らせている。褒めたつもりだったが、あまり嬉しくない言葉だったみたいだ。やはり女は分からない。
「ネアさん。闘技場の整備が終わりましたので準備をお願いします」
呼び出し係の人が顔を覗かせている。この気弱そうな女性職員に呼ばれるのもあと2回とは、残念だ。
「はいはい。じゃ、ちょっくら行ってきますね」
「あなたと決勝で戦えることを楽しみにしてるよ。頑張りなさい」
マリアールが準決勝で相手にするのはアレンだろうから実現するとは思わないが、一応手を振っておいた。
■
足を踏み入れるのはこれであと二回になるな。勿論決勝と表彰台で二回だ。
先の戦いの時よりもさらに熱気の高まった歓声が闘技場を震わせる。女性職員に聞いたが女性冒険者が準決勝、つまり侯都バルクヘルムで行われる本大会の出場権を手にしたのは実に20年ぶりだとか。
しかしそんなことはどうでも良かった。
(………へぇ)
反対側からやってきた対戦相手以外は目に入らなくなった。スルトの言っていたすとーかーは絶対にこいつだ。
『マスター』
「分かってる。………スルト」
杖の形を解き、久々に愛剣の姿へと戻す。装飾は特に凝ったものでもないので、これでレイだとはばれないはずだ。式典用の剣は別にあるし。
会場のざわめきは魔法使いが剣を持ったことによるものか、それとも、
「ぼ、冒険者、ネア! 傭兵、ギード! 両者構え‼︎」
闘技場全体を圧倒するような覇気を放つ男に対してか。
ていうか審判。認識阻害のフードを被るような男がただの傭兵だと思ってるのか! 明らかにおかしいだろ!
「………………」
無言で黒鉄の長剣を抜いた男は、だらりと腕を下げて半身に構える。あれが男の構えのようだ。
(本気出さないと拙いか………)
愛剣を片手で握り、切っ先を男に向けて中段に構える。重心は剣を持った方の腕の指先に置く。大抵のことはすぐに出来る俺でも重心を四肢の先に乗せられるようになるまで5年近く掛かった。
不安定な平衡状態を微動だにせず維持して相手の動向を探る。といっても前に出てくるかその場で迎撃してくるかの読み合いだけだが。
「始め‼︎」
その言葉が闘技場の端まで届くのを待たずに一気に飛び出す。一歩で至近距離まで到達し、横薙ぎに剣を振るう。
相手に鍔迫り合いへと持ち込まれないようにわざと空振ったけど。
「………!」
剣で受けようとしたギードという男は驚いたように数歩下がり、襲い掛かってくる氷槍を弾き飛ばす。
「はぁっ‼︎」
氷槍を十数本生み出し、その隙間を薙ぐようにして斬撃を放っていく。炎魔法だと威力調整ができなくて殺し合いまで行ってしまうかもしれない。
「………っ!」
フードから僅かに見える口元は厳しそうに歯を食いしばっている。だが、未だに一撃すら相手に入れることは出来ていない。
スルトがこの身体に調整してくれた剣だが、何故か扱いきれていない。髪の毛一本のズレが生じてしまっている。この身体で初めての格闘戦で、完全にはこの身体を扱いきれていないことが痛烈に理解出来た。
(………押されてる⁉︎)
いつの間にか抜いていた2本目の黒鉄の長剣で、氷槍が全て打ち砕かれる。翻ってきた剣を受け流し、斬撃の陰から振るってきた刺突を柄で受け止める。
「なかなか、いい腕だ。このまま鍛錬を続けていたら魔法剣士としてかなりの極致まで辿り着けただろうに。魔女をやっているのが勿体無い」
不利な体勢のまま鍔迫り合いに持ち込まれる。すると初めてギールという傭兵が口を開いた。50代くらいの壮年の男の声だろうか、魔法で声を変えているのか特定し難い。
だが、何処かで聞いたことのあるような声だった。
「………それはどうも。これでも、昔は魔法剣士をやってたんでね!」
力と魔力を振り絞って押し返す。僅かにバランスを崩した相手から距離を取り、今度は氷槍を100本ほど出してやろうかと剣を翳しーーーそれに気付く。
『おやおや、折角面白い戦いでしたのに。止めてしまうのですか?』
空を見上げると、全身が漆黒に染まり、頭には不気味な角が生えた存在が浮かんでいた。
ーーー悪魔。邪神ベカードレイクの尖兵にして人間や亜人、さらには魔族とも全く異なる存在。最悪なことに既に中級魔法の《闇槍》が空を埋め尽くすほど展開されている。
『ーーー止めてしまうのなら待つ必要はありませんね。ベカードレイク様の供物になりなさい』
千を超える《闇槍》が闘技場に向かって降りかかる。唯一の救いは観客席に襲いかかった槍がそれほど多くなかったことか。
『マスター! これは避けられないぞ ⁉︎ すぐに障壁展開を‼︎』
スルトが警告してくるがそんなことは初めから分かっている。被弾覚悟で《淵源の護手》を使おうとしてーーー閃光に攫われた。
「ーーーえ?」
降りかかる槍の豪雨を聖剣の一閃で薙ぎ払い、蹴り飛ばし、殴り飛ばして粉砕した。
あいつ並のデタラメっぷりに思わず呆れながら、その横顔を見上げた。
「大丈夫か、ネア?」
「………助かった。アレン」
俺が無事であることを確認すると、勢い良く悪魔へと向き直った。
悪魔≠魔族。怪物≠魔物≒魔獣。
メモしとかなくちゃ(´・ω・`)£