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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
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第13話 黒樫の森の衝撃

4人パーティーで初めての戦闘回。けれど今回連携とる必要はあるのでしょうか………

■黒樫の森。


「この辺りはまだ明るいね。精霊を呼び出す必要もなさそう」


木々の隙間から差し込む陽光のお陰で、この辺りでは明かりの必要はなさそうだ。人の手が入っていない森を慎重に進んでいく。


「けれど最深部に行くと光が届かなくなるほど木々の間隔が狭まるそうです。私とアレンは武器が木に引っかからないようにしないと」


「深い森では飛び道具も使い辛いぴょん。出来る限り射線の取れる位置取りを心掛ける方が良いぴょん」


前方を偵察していたヴィヴィアが木の上から飛び降りて私達の前に着地する。兎は木の上に登るものだっけ? とは思ったが、別にどうでも良いかと考え直す。


「前方のトチノキ付近にゴブリンの群れがいたぴょん。数は7匹だぴょん」


「7匹か。依頼より多いけど別に問題ないな」


アレンは別段動じた風もなく剣を抜き放つ。そういえば異世界から来る転移者は《マップ探査》なる索敵魔法を持っていたが、異世界の魂を持って生まれてくる転生者も同じようなものを持っているのだろうか?


帰ったら聞いてみることにして、背負っていたスルトを左手に構える。別に杖を使わなくても魔法は使えるのだが、そこは魔法使いの体裁というものがあって………


つまりは格好つけなのだが、いざという時の護身用でもある為無駄ではないはず………だ。


「けど、ちょっとウサ耳で聞こえた範囲にあと5つの群れがあるぴょん。結構離れてるから大丈夫だと思うけどぴょん………」


しかしヴィヴィアが新たな魔物の存在を報告してくる。距離的にはかなり離れてはいるようだが、警戒はしておくべきか?


「………それって正面のゴブリンとの距離の何倍くらい開いてる?」


「んー、正面の敵まではは3脱兎メートルの距離だから………、他の群れで一番近くて15脱兎メートルくらいぴょん」


「脱兎メートル⁉︎」


一応結構離れてはいるんだろうけど、全種族で共通した長さや目盛りの規格が無い為苦労する。猫族とか狐族なら一応覚えてはいるのだが、流石に兎族の規格まで把握しているほど暇がなかった。


なにやらアレンが驚愕しているようだが、理由がわからないので放っておく。


「えっと、兎族の脱兎メートル基準は猫族より長かったよね。なら正面が60、他が300メートルかな」


いくら音が響きにくい黒樫の森とはいえ、場合によっては戦闘の音を聞かれるかもしれない。とっとと倒した方が賢明かーーーいや、


「折角だし、全部殺ってみる?」


「へ?」


サーシャが素っ頓狂な声を上げてこちらに振り返る。何か信じられないことを聞いたような表情だ。


「《炎の恩恵》」


それぞれが手にしている武器に炎の加護を与える。魔法陣を使う防具強化は手間と費用、そして持続時間が釣り合わないため見送ることにした。


「先制で群れの中心に魔法を叩き込むから、その隙に殲滅よろしく。倒したら戦利品の回収は後回しにして西のゴブリン集団を粉砕する。連戦だから出し惜しみせずにどんどんポーション飲むようにね。いくよ!」


「ちょっと⁉︎」


「ぴょん⁉︎」


2人の制止を聞くことなく水魔法《水流弾ウォーターボール》を無詠唱で放つ。得意な炎を使わないのは加減が出来ないからだ。下手したら森を焼き払いかねない。


まだ木々の間隔が十分開いているため《水流弾》は真っ直ぐに飛んでいき、丁度岩陰から現れたゴブリンの群れの先頭に直撃する。ゴブリンの身体が爆発四散したことからして相当な威力だ。水とは思えない。


「行くぞサーシャ、ヴィヴィア‼︎」


突然仲間が爆発したことで混乱しているゴブリン達に向かってアレンが一気に距離を詰める。呆然としていたサーシャとヴィヴィアも遅れて走り出した。


(まあ、ゴブリン程度で連携の練習が出来るとは思わないけどさ)


一撃で三匹のゴブリンを消し飛ばしたアレンを眺める。その間に魔力を周囲に放って辺りの情報を集めていく。


ヴィヴィアの報告通り他にも5つの群れが辺りをうろついている。先ほどの音を聞きつけたのか一番遠い群れを除いてこちらに近づいて来ている。


(まずは左の2つの群れを撃破。その後に東側かな。一番奥のは聞こえなかったのか?)


肉体が四散するほどの音が聞こえない程、ここはまだ深い場所というわけでは無いのだが。


「た、倒したぴょん。他のゴブリンも集まって来てる。本当にやるの、ぴょん?」


「そうよ。この殲滅速度なら余裕で東側のゴブリンにも対処できる。いざとなったら私が炎魔法で森ごと吹き飛ばすから安心して」


「どこに安心する要素があるんだ?」


群れの最後のゴブリンにナイフで止めを刺したヴィヴィアが振り返ってくる。それに頷いて腰に手を当てて胸を張る。張る胸はこの少女の身体にも無かったが。


アレンのツッコミも聞き流して西へと駆け出す。すぐさまアレンとヴィヴィアに追い抜かれたのでサーシャと並走する。


「ネアさん。ちょっと良いですか?」


サーシャが少し不安げな表情を浮かべてこちらに顔を向けてきたので、こちらも走る速度を緩めずに聞き返す。


「どうしたの?」


「いえ………、この森、何か嫌な気配を感じるんです。何か巨大なものがいるような………」


漠然とした言葉に思わず足を止めかける。若干速度は落としてしまったがまだアレン達を見失うほどではない。


「それって《天啓》?」


《天啓》とは創造神及び7神に仕える巫女、もしくは適性を持つ神官が得ている特殊な能力だ。神によって未来の事について啓示が降る。いわば予知能力の役割を果たすものだ。


人間が祈祷して答えを貰う《神託》とは異なり、任意に受け取ることは出来無いものの、その者に降りかかる災厄を事前に教えてくれる事もあり、かなり重宝される能力だ。


「かもしれません。けれど、どんな物か全く分からないんです………」


「……………」


再び魔力を放って周辺の状況を探る。東側の森にいたゴブリン達が索敵範囲外になってしまったが、西には特に奇妙なものがあるわけではない。迷宮遺跡と思われる建造物が森の端の方に在るだけだ。


「こっちには無いみたいだけど、………取り敢えずあのゴブリンを倒しましょう。その後にアレンとウィアを交えて話せばいいから」


「………はい」


尚も不安げな表情だったが、ひとまず頷いてくれたので既に戦端を開いたアレン達の場所に魔法を放った。



特に異常もなく10体以上のゴブリンを殲滅した。仲が悪いと思っていたアレンとヴィヴィアも、微妙な表情ではあったがお互いに援護し合っていた。


ゴブリンの死骸から討伐の証拠となる犬歯を抜き取、サーシャの《天啓》について話す。話を聞いた2人はともに驚いた表情を浮かべるが、その次の言動は異なっていた。


「うーん、大きな魔物がいたら足音くらい聞こえそうだぴょん。けど何も聞こえてこないぴょん?」


「………いや、俺も嫌な予感がする。一度この森から出よう」


アレンがどこか切羽詰まったような表情で告げる。転生者の警告はまず外れることはない。それを勇者と戦っていた時に身をもって知っている俺は即決する。


「そうね。依頼も完了してる訳だし、無茶をする理由はないか。言い出しっぺではあるけど、この辺りで切り上げましょう」


3人とも特に不満は無かったようで素直に頷く。ヴィヴィアは他の2人の意見にはつっかかったりするのだが、俺の言うことには特に異論を挟まないのはどうしてだろう?


「じゃあウィア、街道までの斥候を頼んでーーー


ヴィヴィアに偵察を頼もうとした瞬間、想像を絶する悪寒に襲われる。ヴィヴィアを抱えて大木の裏側の茂みに身を隠す。サーシャはアレンに抱えられて別の場所に身を潜めている。


「〜〜〜〜〜〜⁉︎」


(黙っててウィア! 気付かれたら拙い!)


何が起こったのか分からないヴィヴィアがじたばたと暴れるが、その身体の柔らかさを堪能しながら必死に押し留める。だがそれを超える衝撃が俺を襲った。


ROaaaaaaaaaaaa…………


人には理解出来ない呪いの声を上げながら、ボロ布を身に纏った「何か」がすぐ側を通っていく。幸いにもこちらに気付くことは無かった。が、薄い皮から所々はみ出した骨の手で握った大鎌には、東側にいたと思われるゴブリンの血肉が払われることなく引きずられていた。


(《不死の処刑人アンデット・エクスキューショナー》‼︎ 子爵級の魔族がどうしてこんな所に……)


驚愕で身体が震えるのを全力で抑え込む。かつての身体なら兎も角、今の身体でこれに耐えることは出来るだろうか。


身体を震えさせるような衝撃が過ぎ去り、ようやく全身の硬直が解ける。


「ネア、ぴょん」


思わずため息を吐いてしまう。これほどの武者震いは何時ぶりだろうか。魔王と戦った時以来の気がする。


「ネアぴょん」


こんな場所で出会うとは思わなかった。これなら勇者がかつて言っていたーーー


「いい加減ウサ耳を触るのをやめるぴょん。実は全く怖がってないぴょん?」


「そんなことないよ? とっても怖かったー」


フサフサのウサ耳を愛撫していたのだがヴィヴィアに押し退けられる。残念、もう少し至高の感触を堪能していたかったのに………


「嘘だぴょん! 隠れる時胸を触ってたぴょん! 乙女の貞操を奪うなんて酷いぴょん‼︎」


先程の処刑人(身体に触る口実)(笑)に聞こえてしまいそうな大声を出して抗議してくるヴィヴィア。すでに涙目だ。対して()は妖しげな笑みを浮かべてヴィヴィアに迫る。


「ふふふ。同性に弄られてそんなんじゃ、本番で耐えきれないよ? さあ、その時の為にいざ!」


「ぴょん〜〜〜〜〜〜⁉︎」


「ネア、余裕があるなら倒せば良かったんじゃ………」


脱兎のごとく逃げるヴィヴィアを魔力で強化した脚力で追いかける。アレンのツッコミは聞こえなかったことにした。


結局、俺とヴィヴィアの追いかけっこはアレンが介入する昼食時まで続いたのだった。

ネアさんにとってはウサ耳の衝撃に比べればネームドモンスターも大したことないようですね。


………どうしてこうなった。


ちなみに爵位は日本の華族制度と同じです。


脱兎メートルは兎も角、メートル法はちょっとした伏線というか小ネタとして扱うだけなので気にしなくても良いです。


確か正確な1メートルの基準は何か粒子が放出される間隔だったはず………?

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