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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
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第12話 昔語り

矛盾が出てこないかヒヤヒヤしているこの頃。

結局、ミノタウルスの斧はアレンに届くことはなかった。その巨体がが崩れ落ちる様子を誇ることもなく見届けたアレンは、血を払った聖剣を鞘に納めてからこちらに向かって歩いてくる。


「………お疲れ様」


何を言えばいいか悩んだものの、取り敢えずアレンの勝利を労うことにした。普段は見せない《魔法の鞄マジックバッグ》から水筒を取り出してアレンに放り投げる。


「サンキュー、ネア」


嬉しそうに蓋を開けて水を飲み干したアレンは、内心を推し量りかねる苦笑を浮かべた。


「………ネア、君も転生者なのか?」


アレンが転生者なのはこれで間違い無いだろう。俺が転生者というのは誤解なので正すことにする。


「ううん、私はこの世界の人間よ。………人間って言っていいのかは微妙なところだけど」


少し自嘲気味に嗤う。アレンは眉を寄せて口を開こうとしたが、俺の表情に何か思うところがあったのか口をつぐんだ。


「エラブさんの時は実力を隠してたの?」


あの時のことを思い浮かべるが、全力を出して戦っていたように思える。先程の狂化ミノタウルスとの戦いと違ってアレンの表情に余裕はなかった筈なのだが。


「いや、あいつとの戦いで強くなったんだよ。レベルアップしたからな」


ふざけた感じで笑う姿は、かつての相棒ライバルを彷彿とさせる。それに嘘を言っている様には見えなかった。


「そうなの? じゃあどれ位レベルアップしたのかしら?」


「え………、えっと、意味が分かるのか?」


「うーん、意味はあいつに教えてもらったから何となくわかるけど、こっちの世界に元からある言葉じゃないから………」


どこから説明すれば良いか悩むが、取り敢えず転生者の事を知っている理由から話すことにした。



壁際の段差に座り込み、昔の事を思い出して薄暗い天井を見上げる。


「今から10年前に魔王が現れた。その魔王は歴代のどの魔王よりも強くてね、この大陸の全ての国の軍隊が結託しても勝てなかったの。エルフの賢者や虎の王様とか人族の英雄が力を合わせても敵わなかった。そんな最悪の魔王だったの」


エルフやドワーフの国は滅ぼされ、災厄から逃げ延びた者たちで造られた国がシル王国だった。それも今回の魔王によって滅んでしまったが。


「そんな時にね、ラスマール皇国の大神殿で行われた秘儀によって異世界から勇者が呼び出されたの。最後の希望としてね」


詳細は知らないが、あいつ(勇者)は召喚されたその日に脱走したらしい。結局神殿の捜索を逃れて国から脱出したというのだから驚きだ。


「色々端折っちゃうけど、人族とは思えない力を行使できた勇者は仲間と一緒に魔王を倒した」


「いや、かなり端折らなかったか今⁉︎」


流石に勇者召喚から魔王討伐まで全カットは突っ込まれたか。だがその間の話をしていると夜が明けてしまう。


「その辺りは伝記でも読んで。それで、魔王を倒した勇者は自分が転移者である事を仲間に教えてから、1年後に元の世界に帰って行ったの」


「? どうして勇者さんは1年後に帰ったんだ?」


アレンが不思議そうに尋ねてくる。異世界の記憶を持っているとそこら辺が気になるのだろうか。


「『元の生活に戻りたい』って神様に願ったらその願いが通ったそうだよ。その1年で色々な場所に挨拶しに行ったとかなんとか」


この話にはオチが有ったりするのだが、それはかつての勇者パーティーの中だけの秘密という事になっているので言わなくても良いだろう。既に過ぎ去ったことなのだし。


「それでまあ、その1年の間に異世界から来たとかあっちの世界の知識とかを残してたから知ってたというわけね」


「そうだったのか………。ネアってその勇者さんと一緒に冒険してたのか?」


「ん? 何で?」


「そこまでレベルが高いなら勇者と一緒に魔王と戦ったのかなぁって思ってな」


ああ、と納得する。この姿(美少女)になってもレベル自体は変わっていないようだ。


しかし、この世界ではレベルが高いからといって強くなるわけではない。


「残念ながら、こっちの人間は『ステータス』とかレベルを見ることはできないの。一応私は勇者に教えてもらってるけど、どのくらいのレベルになってる?」


9年前に教えてもらった時は確か82だったはず。レベルは9年間の鍛錬の成果の参考にはなるのだ。


「えっと、ネアのレベルは89だよ。何をすれば同い年の俺たちと40も差がつくのかやら」


残念ながら90には至らなかったらしい。少し落胆はしたものの、後ろの言葉に首を傾げる。


「あれ、14歳くらいの少年て大体のレベルは10以下だったと思うのだけど、アレン達のレベルって50くらいあるの?」


それこそどうやったらそこまでレベルが上がることになるのか気になるのだが。


「サイクロプスの爺さんが100くらいだったんだよ。それで一気に30くらい上がったんだ」


まあ、人族とサイクロプスでは生きている歳月の桁が違うからな。レベルが戦闘力の参考にならないわけだ。


「そうなんだ。まあ、勇者とは少しの間だけ関わってたことはあるけど、一緒に旅をしてたわけじゃないよ。勇者はほとんど固定パーティーみたいなものだったしね」


「どんなことをしてた人だったんだ?」


「話が長くなるからまた今度で良い?」


何しろ英雄譚として本も幾つか出ているほどだ。口頭で語るには時間が足りなさ過ぎる。


「わかった。じゃあまた今度な」


アレンも納得して頷いた。立ち上がって埃を払い、聖剣を背負い直した。


(アレンも何かチートな能力持ってるんだろうか?)


そんなことを思いながら迷宮遺跡を後にした。


■アセリアート北地区、北門前


「ネアさん、こっちですよー」


メイスと金属盾を背負ったサーシャが北門の下で手を振っている。それに振り返しながら朝の人混みをすり抜けて行く。サーシャの隣には既にアレンとヴィヴィアも各々の得物を背負って待っていた。


「私が最後みたいね。今回は単なる討伐依頼だから大したことないと思う。きっと誰か一人でもこなせる任務だと思う。けど、隊商の護衛みたいに1人だけが強いだけじゃ達成できない任務もあるから連携の確認も兼ねるわ。基本は斥候がウィア、アレンとサーシャが前衛、そして私が後衛ね。取り敢えずはそれでいくから」


3人とも特に異存はないので素直に頷いた。今更だが私がリーダーの役目を負っているのも不満はないようだし、戦闘指揮も私が取ることにするか。


「じゃあ、行きましょうか。黒樫の森へ!」


「「「おー‼︎」」」


気合いを入れるために手を空に向かって突き出す。皆も真似して手を突き出し、拳を突き合わせた。


幸いと言うべきか、門の周りにいた人たちの、4人に対する生暖かい視線に気付くことはなかった。


■ラスマール皇国、皇都・セルフィア。


守衛に銀で作られた冒険者証を翳してあっさりと皇都に入る。身分を証明するものの無いアグリールも纏めて許可されるのだから高ランクの冒険者証様々である。


私は久しぶりの皇都の景色に目を眇め、興味深そうに辺りを見回している竜人族の姿のアグリールに振り返る。


「まずは魔法街に行ってリリアナに会いに行く。それで良いでしょう?」


「勿論だ。人の街では姫の言うことを聞くさ」


吸い込まれるような漆黒の髪を風に靡かせ、鷹揚に頷くアグリール。その態度に一抹の不安を覚えたものの、魔法街で問題を起こす分には大した問題では無いかと思い直す。魔法街の主の癇癪で容易く街が半壊するのだ。僅かな期間だけ黒竜バカがいたところでなんら影響も無いはず。


皇都の西側、その外縁部に造られた魔法街は、皇都の中でもかなり排外的な街だ。魔法使いの街だけあって魔法使い以外の人間が街に入ることはほとんど認められていない。例外は依頼に訪れる貴族か、皇帝の勅使、大神殿の司祭程度だ。


明らかに警戒しているようだが、私の隣に立つアグリールを本能的に恐れているのか、誰も攻撃してこようとはしない。


好奇と畏怖の視線を向けられながら、昼でも薄暗い通りを進んでいく。しかし街の雰囲気まで暗いわけではない。


通りには屋台が立ち並んでいるし子供も元気に遊びまわっている。


普通の街と違う点は屋台で焼鳥を焼いている男性が火魔法で鳥を焼いていたり、土魔法で砂のお城を造っていたりすることか。この街の人間は子供からお年寄りに至るまで魔法を使えない者は存在しない。使えなければすぐに追い出されるとか。


厳しい掟を作った張本人に会いに行くため、真昼間から開いているバーへと入る。グラスを磨いているちょび髭のマスターの脇を通って奥の扉を開ける。


更になんの変哲もない休憩室の本棚をずらし、隠されていた地下へと続く階段を降りていく。


「あの巨乳娘、やけに用心深いな」


「その名前のつけ方、どうにかならないの? ………世界中の魔法使いの長だしね、用心する必要があるんでしょ」


休憩室の明かりが届かなくなった頃、ようやく階段の終わりが見えた。蝋燭でぼんやりと照らされた最後の扉を、ゆっくりと開ける。


「あら、久しぶりね。フィアナ。いつ以来かしら?」


整理整頓とは程遠い部屋の真ん中に、なんの素材で出来ているのか分からない赤紫の机が鎮座している。水晶やら魔物のホルマリン漬けやらが置かれた机の向こうの椅子に、彼女は座っていた。


美しい金髪を隠し目深に被られた魔女帽。分厚いローブの上からでも分かる双丘。僅かに帽子を上げた拍子に見えた美貌は全ての男性を魅了するであろう艶かしさを醸し出していた。


「ええ、久しぶりね、リリアナ。5年ぶりよ」


勇者パーティーの魔法攻撃・支援担当にして魔法戦士である勇者とレイに辛酸を嘗めさせられてきた苦労人、リリアナ・ワータムその人だった。

ちなみにレイの冒険者証はシル王国の客用の部屋に置き去りです。忘れ物はいけない。


6/11 誤字修正しました。


ホルスタイン漬け→ホルマリン漬け


ホルスタインだと牛を漬けていることに………


指摘ありがとうございます!


6/20 リリアナの描写に金髪であることを追加しました。なにか矛盾があればご指摘お願いします。

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