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戦士の俺が、魔女に転職します  作者: 炬燵天秤
第1章 魔女に転職します
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第10話 アセリアートの酒場

炬燵天秤です。この頃虫が舞うようになったので少し辟易しています。


空に舞うのは魔法少女とロボットだけでいいです。


この話には関係ありま………せんよね?


では、どうぞ。

■ アセリアート、外門前。


「ふむ、隣国からわざわざ冒険者登録の為にやって来たのか?」


「ええ。いま王都に行く道が土砂の所為で埋まっているの。当分は通れそうにないからこの国のギルドに来ました」


街に入る前の入国審査で全員が身分証を持っていなかった為、少し手間取っていた。


一応入国などは昔から何百回と繰り返しているので、勝手が分かる私が交渉していた。


適度に賄賂の宝石を握らせて手続きを円滑に進める傍ら、現在の街の情報を引き出していく。


どうやら5日後の週末に剣闘会の予選が行われるらしく、大会に便乗して商人たちが次々と流入しているそうだ。


だが、今年はネアたちのいる東門から来る商人の数がかなり少ないらしい。普段ならここまで面倒な手続きはしないとのこと。意外なところで魔王襲来の影響を受けてしまった。


「よし。書類もしっかり書けているから通って良しだ。………というか、部隊長の書簡を持ってるなら早く出してくれよな………」


「あら、そのお陰で懐があったかいでしょ? なら良いじゃない。情報料でもあるしね」


部隊長だけでなく侯爵の書簡も持っているが、これは交渉面での最後の切り札にしておくことにした。政争はとんでもなく厄介なことが多いのだ。


ちなみに賄賂はあの小屋にあった換金目的の宝石。諜報部隊の資金として、いざという時の為に相場が変わりにくいものを常に置いているとか。というかあそこはなんでも置いてあるな。


「みんなー、終わったよ〜」


「ネアさん、お疲れ様です」


「「………………」」


詰め所から出て三人のところに戻る。アレンとヴィヴィアの間の空気が少しピリピリしているが、サーシャと私の取りなしで今のところは何とかなっている。よね?


(早くクエスト受けて一緒に戦わないといけないかな………)


取り敢えず早急に信頼関係を築き上げなくてはいけない。アレンとヴィヴィアが上手く連携出来れば、かなり強くなれるはずだ。それだけの素質を三人は持っている、と思う。


(冒険者の教育なんて全部勇者に任せてたからなぁ、少しは手伝ってやらないと、か)


勇者が私費(国費)で創設した冒険者学校に放り込めば手っ取り早い気がしたが、一緒にいるのも何かの縁だ。俺がいる限り滅多なことも起きないだろう。



「すげぇ………、街ってこんなでけぇのか………」


「凄い。あんな大きなお城が………」


「ひ、人が、たくさんいるぴょん」


アレンが驚きのあまり口をぽかんと開けてしまっている。村から初めて出たということらしく、しきりに辺りを見回している。


アセリアートの街はガナード侯爵領第二の都市だけあってかなりの規模だ。外門から一直線に舗装された大通りの側面には、隙間なく並んだ商店や屋台。その奥に並ぶ石造りの建物が空を隠すように聳えている。


他の街のように複雑な通路はなく、規則的に造られた蜘蛛の巣のような道が広がっているようだ。魔物の大襲撃を全く考えずに造られているように見える。というか、何故シル王国に一番近い都市なのにこんな防御力の低そうな構造なのか。


何よりも目立つのは、街の中央に聳え立つ白亜の城だ。話では建てられてから100年近く経っているというのに汚れがほとんど見られない。


「あれ? みんな街というか自分のいた村から離れたのって初めて?」


確かサーシャは村の外から来たと言っていたような気が。


「クソ親父が出してくれなかったんだよ。商人の護衛すらさせてもらえなかった」


「私も村から特に出る必要が無かったぴょん」


「お父様に連れられてあの村に来たのですが、2歳くらいだったのでほとんど覚えて無いですね」


なるほど、3人ともカモになってしまう危険性が有るのか。取り敢えずは宝石を換金して宿を取るか。腰を落ち着けてから、街で注意するところを教えることにしよう。


「じゃ、換金したら宿を取りに行きましょう。確か『蜂蜜亭』というのがあの部隊長のオススメだったはず」


振り返ると、落ち着きなく辺りを見回す田舎者3人。


「置いてくよ?」


「あ、ちょっと待ってください〜!」


別に都市観光なら宿に荷物を置いてからでも良い気がする。慌てて追いかけてくる皆が少しだけ懐かしい思いにさせてくれた。



「四人分の部屋取れる?」


「いらっしゃいませ。ええ、ご案内させて頂きます!」


わざわざ貴族街の宝石店に行った甲斐があり、年単位の生活費を手に入れて『蜂蜜亭』に入る。中では年の近い少女が店番に出てきた。蒼色の髪が特徴的な可愛らしい子だ。


「皆さんこの街は初めてなんですか?」


「そうよ、後ろの皆が落ち着きなくて申し訳ないけど」


案内をしてくれる少女に興味津々に尋ねられる。少女の名はユリアといい、この宿の主人の一人娘らしい。


年の近い子がこの宿に泊まるのは珍しいらしいそうで色々なことを根掘り葉掘り聞かれた。宿代高かったから中級レベルの冒険者向けかもしれない。あの書簡で割引出来無かったら泊まらなかっただろう。


「じゃ、装備以外の荷物置いたら下の食堂で集合ね。ギルドに行って冒険者登録するから」


驚き過ぎて挙動不審な3人をそれぞれの部屋に押し込んでから自分の部屋に入る。ベッドと椅子、机がそれぞれ一つずつ有る。ベッドが一般的なものより柔らかいのを除けばごく一般的な宿だ。


「ふう、新人教育も一苦労だなぁ」


ベッドに倒れ込み、大きく息を吐いた。おのぼりさんたちをこの宿に誘導するのに2時間近く掛かった。途中で馬車を使わなければさらに時間が掛かっていただろう。


『元の体を取り戻すにしては全く必要の無いことではないか?』


机に立て掛けられたスルトが久しぶりに喋りかけてきた。確かに必要の無いことかもしれないが、


「俺の直感が言ってるんだよ。あいつらについて行けば何かが絶対に起こるって」


『………………』


「多分勇者じゃないとは思うけど、どこか人を惹きつける魅力を持ってる。今はまだ未熟なもんだけど導けるやつがいればいずれ大成するだろうよ」


『確かにな。いくらマスターの支援があったとはいえ、サイクロプスを打倒し、あまつさえ聖剣に選ばれたのだからな』


………………聖剣?


「それは、どういうことだ? あの剣はエラブが鍛えたやつだろ?」


『それは方便だろうな。聖剣の担い手が現れるまであの一目巨人が守護をしていたのだろう。大量の剣を造ってその中に隠しながらな』


木は森に隠せ、か。それにしてもこれで人間界に存在する聖剣は3つ目だな。


「ま、色々と考えるべきことはあるが、ひとまずは新しい勇者を死なないように鍛え上げないとだな」


立ち上がり、腰に手をあてて息を吐く。仲間に勇者がいるならば元勇者パーティーの一員としてあいつを支えなければ。


『マスター』


「ん? なんだよ?」


いつに無く真剣な気配を出してスルトが話し掛けてくる。少し構えながら次の言葉を待ち受ける。


『もっと少女の言葉遣いで話すと良い。その方が私にとって愛で甲斐がある』


「あら、こんな感じで良いのかしら〜?」


『マスター、今の我は実体がない。痛覚など存在せぬし折ったとしても無駄なことだぞ?』


ミシミシと杖を軋ませて折ろうと試みる。全く痛そうな声を出さないのが腹立たしい。くそっ、この幼女趣味ロリコンめっ!


■ アセリアート、冒険者ギルド館内。


「では1ランクからの開始となります。依頼をこなしていけばランクが上がっていきますので是非頑張って下さいね?」


白亜の城を中心に円状に造られたアセリアートの街、その南地区の広場の一角に冒険者ギルドは建っている。


一階の酒場も兼ねたギルド館内で冒険者の登録手続きをしていた、のだが………


事務的な口調の受付嬢は淡々と説明しているが、俺は困惑した表情を浮かべてしまう。何しろ冒険者にランクがあるというのが初耳だったからだ。


「冒険者にランクなんてあったかしら? 私が昔登録した時はなかったはずだけど………?」


心の中で血の涙を流しながら少女の口調を心掛ける。何故だろう。魔王に喰らった闇魔法よりも精神が削られていく気がする。


「ええと、確かにランクが導入されたのは7年前だけど………、あなたはいつ冒険者登録をしたの?」


素の口調になってしまっている受付嬢は少し疑わしげに尋ね返してくる。まあまだ10代半ばであろう少女が既に登録していると言ったら一体何歳になるのかという話だしな。


「かなり昔ですけど、年は秘密ですよ? それで、ランク制度はどんな仕組みなんですか?」


魔女の外見と年齢は一致しないことが多い。それを理解したのか受付嬢は冒険者についての説明を始めた。


「はい。もともと『ランキング制度』は勇者様が提案したもので、それを皇都のギルド長が改良を加えた仕組みです。実力のない冒険者が無謀な依頼を受けないようにと、受注可能なクエストをランクごとに制限しているのです」


なるほど、あいつ(勇者)の考えそうなことだ。いつも突飛な発想を出しては周りのやつらを驚かしていたが、ギルドの経営にすら精通しているとか。本当に「日本人」とやらは底が知れない。


「ん、じゃあ1ランクから2ランクには100点のポイントを、2ランクから3ランクには200点のポイントが必要というようにランクが上がるにつれて必要ポイントは増えていきます。

ポイントを手に入れる方法はクエストの達成と魔物の討伐、他の冒険者の救助などです。依頼を達成出来なかったり他の冒険者に救助されるとポイントが減りますのでご注意下さいね」


なるほど、救助だけでランクを上げる不埒者対策はしているのか。おそらくポイントが0の冒険者を救助しても意味が無いようにもしているのだろう。


「ギルドで受けた依頼だけしかそれには反映されない?」


「いえ、ギルドだけでなく商人や村人など一般市民の方のクエストでもポイントは上がります。その場合は結果をギルドに報告してもらい、ギルドで決められた獲得ポイントの4分の1だけポイントを貰えます。ちなみに端数は切り捨てです」


つまりギルドで3点貰える依頼を民間で受けたら0ポイントの扱いになると。


「んー、貰えるポイントの目安って教えてもらえるかしら?」


また精神が削れた。


「はい。1ランクの討伐であれば野生の狼が2ポイント、ゴブリンが3ポイントで、報告すると10ポイントです。

採取はギルドに納めれば5ポイント。

護衛のクエストは無事に送り届ければ25ポイント、失敗すると10〜20ポイントとなります」


「ふぅん? どうして護衛の任務は失敗してもポイントが変動するの?」


失敗なら普通に0ポイントだと思っていたのだが。


「冒険者が絶対に忘れてはいけないのは『死なない事』、です。絶望的な状況になって点数に固執する人が出ないようにする為ですね」


確かに0と25ポイントの差は大きいかもしれない。点数の為に命を簡単に捨てるとは思えないのだが、必要だからそのような事になっているのだろう。


「ありがとう。よくわかったわ。これに名前を書けば良いの?」


「はい、出来れば直筆で書いて頂けるとありがたいですけど、代筆でも特に問題はありませんよ」


渡された黒樫の板で作られた冒険者証に名前を書き込む。アレンとヴィヴィアが文字を書けないのでそれぞれサーシャと俺が代筆する。最後に盗難防止の為に板の上に血を垂らして《所有確定》の契約を結ぶ。


「これで冒険者登録は終わりです。無くさないようにして下さいね」


いくつかの確認を終えて受付嬢は冒険者証をこちらに渡す。


それを受け取り、少し不敵な笑みを浮かべて受付に身を乗り出す。身体が小さくなった所為で足が床にギリギリしかついてない。泣ける。


「早速だけど、何か依頼を受けられないかしら? 一応パーティーでオークを倒せる人材は揃っているのだけれど」


実を言えばサイクロプスだし、ヴィヴィアの力量を測りきれていないのだがゴブリンとかオーク程度なら別に問題にならないはずだ。


「オークを倒せるんですか? それでしたら………、これなんかはどうでしょう?」


受付嬢が渡してきたのは『一週間以内に黒樫の森でゴブリン5体の討伐』だった。確かに実力のわからない新米冒険者に渡すには適当な選択だろう。


「みんな、このゴブリン5体討伐するやつで良い?」


依頼書を皆に見せて確認を取る。


「ゴブリン5体か。ちょっと物足りないけど全部俺が倒してやるぜ」


「け、怪我したらすぐに言ってください。すぐにヒールを飛ばしますから」


「ゴブリンなのかぴょん。いつも倒してるからそれで良いぴょん」


特に不満もないらしく皆乗り気だ。やる気に満ち溢れてるし慢心している様子もない。普通のパーティーなら1人くらい余裕ぶっこいて油断しているやつがいたりするのだが、………あ。


(………俺か?)


いけない、いけない。気を引き締めないと。


■アセリアート南地区、酒場。


黒樫の森は北門を出たすぐ側にあるので、期限が一週間ならばかなりの猶予があるはずだ。十分に道具を揃える為に丸一日使う事にした。


回復薬ポーション魔力薬マナ・ポーション、軟膏や毒消し、包帯など治療系アイテムを多く買う事にした。怪我などのダメージにはいくらでも気を使うべきものだ。命以上に大切なものは無いのだから。


「軟膏もしっかり必要分だけ買えてるね。ウィアは買い食いする派だと思ってたけど」


「銀貨で買うほどの買い食いなんてしないぴょん。どれだけ慎重なんだぴょん」


袋一杯に詰め込んだポーションを抱えた俺にに呆れ顔のヴィヴィア。ちなみにウィアとはヴィヴィアの愛称だ。本名が呼びにくいからと言う理由で村ではウィアとしか呼ばれなかったらしい。ヴィヴィアの親よ、もう少し頑張れよ。


愛称で呼んでもいいぴょん、と何故か照れながら言われた時には嬉しくて抱きついてしまったよ。可愛すぎて。


ついさっき軟膏の入った袋を背負ったヴィヴィアと合流して、集合場所の酒場へと歩いていた。この身体だと荷物を運ぶのも一苦労だ。勇者が持っていた『収納箱ストレージ』が羨ましい。


「たのもー」


ガンっ!


両手が塞がっているため、酒場の両開きのドアは蹴り開けて中に入る。もし俺が「美少女がドアを蹴り開けて入る」光景を見たらいろんな意味で泣ける気がする。だが、自分がやる分には問題無い。


ザワッ、


「………あら?」


酒場の空気がおかしい。喧々諤々とまるで喧嘩のような騒がしさの筈だったのだが、俺とヴィヴィアが入る前には静寂が訪れていたような雰囲気だ。


「あんっ? なんだてメェは‼︎」


「ネア………!」


辺りを見回すと、奥の席でガラの悪い大男と涙目のサーシャを庇ったアレンが向かい合っていた。当に一触即発の雰囲気。


「あら〜〜〜?」


アレン達め、早速頼んでしまったのか。酒場名物『喧嘩』を。

テンプレの嵐どころか小雨ェ………。


死亡フラグすら建っていない。


小物に絡まれるテンプレが達成できただけ良しとしたい………。


ま、まあ、次回は酒場といえば喧嘩。その後初めてのクエストです! 来週の魔物はゴブリンだけだぞ!(断言)


何か自分の首を絞めているだけの気がしますが………




感想を頂ければ幸いです。


受付嬢の台詞に敬称をつけ忘れていましたので「勇者」を「勇者様」に変更しました。

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