第9話 月夜のお話
話が纏まらなかった………。ギャグを入れたからだろうか………?
4人目のパーティーメンバーが決まりましたが、どうしてアレン君のところはいきなりハーレムパーティーになってるんでしょうか?
約1名中身が男のやつがいますけど。
では、どうぞ。
「この子、どうしようかしら?」
「えっと、一応盗賊なんですよね………?」
果物の皮を剥いていたフィアナも顔を上げて困惑した表情を浮かべる。
ネアは今、目の前で目を回しているウサ耳少女、ヴィヴィアの扱いに困っていた。一応ロープで腕と身体を木に縛り付けている。
本来ならそのままアセリアートの詰所にこの少女を突き出せばいい話なのだが、いかんせんまだ冒険者登録をしていない。警備兵に引き渡しても報酬がもらえないのだ。
などと目の前の褒賞金………もとい盗賊をどうするか悩んでいると、ぱちくりとウサ耳少女が目を覚ました。
「おはよう、追い剥ぎさん」
「………おはよう………ぴょん」
手を伸ばせば噛り付いてきそうなほど犬歯を剥き出しにして(兎なのに)、じっとこちらを睨みつけている。今の状況を理解して歯噛みしているようだ。
「それで、私達を襲った理由は何かしら?」
「お前達がカモに見えたからだぴょん。その割には良さそうな装備を身につけてるから金を持っていると考えたんだぴょん」
私の正体がどうとかとは関係ないだろうが、一応念のためだ。意外なことにヴィヴィアはムスッとした表情ながらも答えてくれた。確かにサイクロプスのエラブにもらった装備は派手な装飾こそ無いもののその分見てわかるほど質が良い。ヴィヴィアの言い分も分からなくもない。
(嘘をついているようには見えないし、そんな神経質にならなくてもいいか)
「本当ならあなたをしょっ引いて今日の宿代にしていたいところなんだけど、もう日が沈んじゃったから明日にする。逃げようとは思わないことね」
襲撃によって時間を取られた所為で街の閉門までには間に合いそうにはなかった。なので、少し開けた丘の上で野営をすることに決めていた
「ネア、焚き火用の枝持ってきたぜー」
「ん、お疲れ。よく迷わなかったね」
森の奥から枝を抱えたアレンが現れる。月明かりも届かない森の中でよく迷わなかったものだ。
「そりゃあガキの頃から森の中で生活してきたしな。危険なところとかも分かってるぜ?」
得意気に笑って枝を焚き火の形に組んでいく。その動きも手馴れたもので、瞬く間に並べ終えている。
「ありがと、アレン。じゃ、ほいっと」
パチンと指を鳴らし、それを合図に枝に火を点ける。無詠唱の時は結構調整が効くらしく、枝一本が消し炭になった以外は順調に他の枝に火が回っていく。魔法を無詠唱で放てば上手く元の威力で放てるようだ。
逆に言えば詠唱が必須だと威力を抑えられないということだが。
「無詠唱で魔法を行使するとか、どこが素人なんだぴょん」
「とーしろーなんて一言も言ってないけどね」
ヴィヴィアの恨み言を聞き流し、フィアナが下準備した鍋が煮えるのを果物を食べて待つ。フィアナが臭みを取るために入れた香草の良い香りが鼻腔をくすぐり、空腹感を殊更に刺激する。
それはウサ耳少女も同じだったらしく、ヴィヴィアは切なげな声を上げる。
「ぴ、ぴょん。私にも一杯だけでも恵んでくれぴょん。ここ最近まともな飯は食ってないんだぴょん」
はつじょ、ヴィヴィアの哀願に思わず顔を見合わせる三人。
「どうするんだ?」
「別に良いんじゃない? 食費は身体で支払ってくれそうだし」
「ひっ⁉︎」
何を勘違いしたのか、ヴィヴィアの顔が焚き火の光でも分かるほど青くなる。私はただ単に肉体労働ーーー懲役的な意味で言っていたのに。
「しょ、娼館で働くなんて絶対に嫌だぴょん! それなら死んだほうがマシぴょん‼︎」
「あなた本当に万年発情してるのかしら?」
ここまで思考がピンク色な獣人族は珍しい。ていうか初めて見た。
「ん、これくらいが丁度良いですね。ネアさん、どうぞ」
ヴィヴィアと話している内にスープは出来上がったらしい。湯気の立ち上るスープをお椀に装ってもらい、お礼を言ってから一口啜る。
「ーーー美味しい。この木の実って村の森に生えてたやつ?」
「そうですよ。香草を入れて煮れば臭みが消えてとても良い味を出します。この実を使ったシチューは大好物でした」
「ふふ、郷土料理って一番美味しいものよ。旅から戻ってくればより実感できるから。………じゃ、はい」
予備のお椀によそってスプーンで掬う。溢れないように気を付けてーーーヴィヴィアの口に持っていく。
「ぴょん?」
「はい、どーぞ」
素直に夕餉をくれた事を意外に思ったのかウサ耳を「?」にして首を傾げる。器用な子だな。
「早くしないと冷めるよ?」
「あ、ありがとうぴょん!」
そろそろ腕を維持するのが厳しくなってきたので催促すると慌てたようにかぶりついてくる。そして一気に幸せそうな表情に変わった。
「お、美味しいぴょん! これ程の料理を食べるのは初めてだぴょん! 料理人なのかぴょん⁉︎」
「いえ、村で食事を作る程度ですよ? 美味しいかったのなら良かったです」
警戒していたサーシャも顔を綻ばせて頷いた。料理を褒められるのは女子にとって嬉しい事なのだろう。
「なあ、そいつ盗賊なんだろ? あまり馴れ馴れしくしていいのかよ?」
私とサーシャがヴィヴィアと仲良くしているのを見てアレンが眉を寄せる。………もしかして妬いてるのだろうか?
「アレン、サーシャ。提案があるのだけれど、………この子、パーティーに加えない?」
「「「えっ⁉︎」」」
二人のみならずヴィヴィアも驚いたような声を上げる。まあ、襲ってきた相手を仲間にしようとしてるのだし当たり前といえば当たり前か。
「このヴィヴィアって子、兎族だから耳は良いだろうし、鐵色蜘蛛の糸を使えるってことは実力がある証拠でもある。最小単位でパーティーを組むなら一番良い人材だと思う」
「いやけどさ、そいつは俺たちの命を狙ってきたんだぜ? そんな信頼できないやつを仲間に入れていいのかよ?」
アレンは納得出来ないらしく眉を寄せて腕を組んだ。確かに今まさに襲い掛かられた相手を仲間にするのは抵抗あるのだろうが、そんなんではこの先やっていけないぞ? かつての勇者パーティーだって6人中4人が勇者の命を狙っていたわけだし。そう考えると俺と勇者以外は全員敵だったわけか。
「な、なんで私がお前たちの仲間にならないといけないぴょん」
ヴィヴィアが反抗的な視線を向けてきたのでポシェットからとある小瓶を取り出してスープに振りかける。それを見たヴィヴィアは怯えてウサ耳をへにょらせる。
「………何を入れたぴょん」
「媚薬。このまま木に縛り付けとくから同業者の方に相手してもらったら?」
「お、鬼だぴょん〜〜〜⁉︎」
実際に入れたのは唐辛子を粉末状にしたものだが、ポシェットには、フィアナの所属している隠密が使っていた小屋にあった薬や小道具がしっかり収められている。もちろん媚薬もだが。
私の後ろの方ではサーシャが「それって脅迫では………」と呟いていたりしたが気にしない。
「さあ、仲間になって美味しいスープを毎日食べるか、それとも盗賊にウサギ肉として食べられるか、どっちが良い?」
スープを掬ったスプーン片手に詰め寄る。まあ、ヴィヴィアも選択肢がないことを悟ったのか必死にスプーンから仰け反りながらこくこくと頷いていた。
「なるなる! なるぴょん⁉︎」
「良かった。じゃ、改めてよろしくね、ヴィヴィア」
にっこり笑ってスプーンをヴィヴィアの口に差し込む。突然のことに驚いたヴィヴィアは思わず嚥下してしまった。
媚薬を飲んでしまったと思っていたヴィヴィアの顔は青かったが、見る間に真っ赤になった。
「か、辛い〜〜〜〜〜〜辛い!⁉︎ み、水〜〜〜」
思わず「ぴょん」という語尾を忘れるほどの衝撃を受けたらしくもがいている。しばらく楽しんでいたが、流石に可哀想になったので水を飲ませてやる。
「ネアさん、その方を玩具にするつもりなんじゃ………」
失礼な。
■
夜、丘の上には小さな炎の光が灯っている。ネアという魔法使いが呼び出した火精だ。
野営の準備が遅いと思ったら、わたしの襲撃でアセリアートに入ることが出来ないからと急に決めたらしい。それについては自己責任だろうし詫びるつもりもない。襲撃される方が悪い。
本当なら何か金目のものを持って行きたかったが、あのレズっ気が見受けられる少女は悔しいことにかなりの遣り手だ。たとえ不意打ちでも倒せるか怪しい不気味さを秘めている。
(あんな危険な少女といられないぴょん。二人は御愁傷様だぴょん)
兎にも角にもこの場所を去らなくては。己の貞操のためにも。
分けてもらった毛布を慎重に体からどけ、音を立てないように丘を降りる。
丘を降りたところにあった大岩からはみ出す影を見て顔を顰めてしまった。早足で抜けようとしたが、当然呼び止められる。
「行っちゃうの?」
艶のある真っ白な髪と、陽に当たった事がないかのような白い肌を紫色の絹のドレスに包んだ少女、ネア。同性から見ても可憐な姿を直視するとどうしてか顔が赤くなってしまう。
「………………」
「兎族の集落は、魔王軍に襲われたのよね」
「………っ!」
この少女はシル王国の内情まで知っているのか。
わたしのいた兎族の集落は、突然王都から溢れ出してきた魔物どもに滅ぼされた。兎族の数倍の魔物の軍勢に敵うはずもなく、果敢に立ち向かう戦士も逃げ惑う皆もすぐに殺された。
その日偶然山で遊んでいたわたしは辛くも逃れた。
仲の良かった近所のお爺さんを喰い殺す、あの魔獣の眼だけは忘れられない。遥か遠くにいるはずのわたしとその赤黒く光る眼が合った瞬間、わたしは脇目も振らず逃げ出していた。
その後のことはあまり覚えていない。地上で襲い掛かってきた鐵色蜘蛛を倒し、枯れ果てた森で飢えかけ、気がつけば国境を越えていた。
生きる為にどうすれば良いのか分からず金目のものを探そうとした時にこの少女達に会ったのだ。
「復讐の相手はかなり強いよ。その強さで一人じゃ勝てない」
彼女の言う通りだ。今挑んだところであの魔獣に睨まれただけで動けなくなってしまうだろう。
「それでも、………仇は討たなきゃだ、ぴょん」
「なら、私達と一緒に行きましょう。それがあなたの目的を達成するのに一番早いから」
ネアはにこりと笑って手を差し伸べてきた。食事の時の怪しげな笑みとは全く違う、どこか頼もしい笑顔だ。
「私も、あの魔王軍には借りがあるの。あなたが倒したいと思うならーーー手伝う」
ネアの差し出された手を見つめる。少女の小さな手のはずだが、今はとても大きく見えた。
わたしは意を決してその手を握り、頷いた。
「分かったぴょん、………ネア、よろしくぴょん」
「ええ、よろしく。ヴィヴィア」
どうして魔物に襲われた訳でもないのに2話かかって街に入れないのか。
じ、次回こそテンプレの嵐を………っ
感想を頂ければ幸いです。
ヴィヴィア視点の「私」を「わたし」に変更しました。