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interlude1

 1997年5月24日午後1時30分ごろ、神戸市須磨区で一人の

就学児童が行方不明になった。児童はJさんの二男でHくん。祖父の家

に行ってくると言って、一人で出かけ唐突に姿を消した。同日9時3

0分、両親が失踪届を警察に提出。大がかりな捜索隊が結成され、警

察を中心に地域住民も一緒になって付近を重点的に捜索した。

 Hくんの行方は杳として知れず、Hくんの両親は不安に駆られる一方

だった。翌日、翌々日の25日、26日も大規模な捜索が行われたが、

Hくんと見られる姿はどこにもなかった。捜索隊の誰もが諦めかけたと

き、Hくんは発見された。最も残忍な状態で。

 Hくんは、自由が丘中学校の正門の前の道路に忽然と姿を現した。H

くんは首から上だけが切断遺体として発見された。両のまぶたは十字

に傷つけられ、髪がびっしょりと濡れそぼり、頬は赤く染まっていた。

口には紙片がくわえさせられていた。

 その残酷な遺体の状態は、平和なこの国を震撼させた。誰がいった

いこんな酷いことをするのか。その疑問はメディアをはじめ、巷間を

席巻した。


 ここでは、犯行声明の一部を引用し、改めて犯人の残虐性及び非現

実性を感じていただこう。


 ―― さあ、ゲームの始まりです

    愚鈍な警察諸君

    ボクを止めてみたまえ

    ボクは殺しが愉快でたまらない

    人の死が見たくて見たくてしょうがない

    汚い野菜どもには死の制裁を

    積年の大怨に流血の裁きを


          SHOOLL KILLER

          学校殺死の八酒鬼薔薇



 ――       神戸新聞社へ


    この前ボクが出ているときにたまたまテレビがついており、

    それを見ていたところ、報道陣がボクの名前を読み違えて

    「鬼薔薇」と言っているのを聞いた。人の名前を読み違え

    るなど、この上なく愚弄な行為である。表の紙に書いた文字

    は、暗号でも謎かけでも当て字でもない。嘘偽りのないボク

    の本命である。ボクが存在した瞬間からその名がついており、

    やりたいこともちゃんと決まっていた。しかし悲しいことに

    ぼくには国籍がない。今までに自分の名で人から呼ばれたこ

    ともない。もしボクが生まれたときからボクのままであれば、

    わざわざ切断した頭部を中学校の正門に放置するという行為

    はとらないであろう。やろうと思えば誰にも気づかれずにひ

    っそりと殺人を楽しむ事もできたのである。ボクがわざわざ

    世間の注目を集めたのは、今までも、そしてこれからも透明

    な存在であり続けるボクを、せめてあなた達の空想の中でだ

    けでも、実在の人間として認めて頂きたいのである。それと

    同時に、透明な存在であるボクを造り出した義務教育と、義

    務教育を生み出した社会への復讐も忘れていない。(中略)し

    かし今となっても、何故ボクが殺しが好きなのかは分からな

    い。持って生まれた自然の性としか言いようがないのである。

    殺しをしているときだけは、日頃の憎悪から解放され、安ら

    ぎを得ることができる。人の痛みがボクの痛みを和らげるこ

    とができるのである。



 さて、この引用文を見ると、奇怪な感じを受ける読者が多いだろう。

一部の専門家は、国籍や「透明なボク」という表記から、明確な国籍

を持たない外国人だと推測するものもいた。また、日本語にはない語

感や漢字表記から、犯人は中国や台湾の殺し屋であるという専門家も

いた。

 私は、学校への復讐、義務教育への復讐と言いながら、まったく関

係のない子どもを殺すというところに大きな疑問を感じる。そうであ

れば、文部省の役人を狙うなど攻撃対象が変わってくるだろう。復讐

だ何だと言いながら、極めて冷静な筆致にも非常に気になる点がある。

ここまで冷静な自己分析ができる人物であれば、衝動的な殺人は犯さ

ないだろう。犯行声明文まですべて計画済みの犯行である印象を与え

る。

 「野菜」「透明な存在」「聖徒」などの表現は、すべて彼の造り出

したキャラクターに、捜査の目を向かわせるミスリードであり、事実

上、捜査を混乱させるだけの効力を持っていたのである。警察は未だ

に指紋や凶器などの物的証拠を特定できず、黒いビニール袋の出どこ

ろもまったくわかっていないのである。唯一の物証であるこの奇怪な

文章の筆跡の鑑定が待たれるところである。

 (97/06/18[週刊蝶々]P24より引用)


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