表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

ж ж


 平幸四郎(たいらこうしろう)は、大あくびをした。神戸では5月

の陽気が辺りに立ちこめ、街全体に潮風が届いて、緑の匂いが充満

していた。平は、春の気だるさに舌打ちした。

「クソおもんないのう」

 平はひとりごちたが、聞いてくれる人もいなく、独り言は寂しい

公園を通り抜けて行った。塾をサボり、公園に来てみたものの、何

もやることがない。せめて友達がいればよかったのだが、数少ない

友人にも見はなされて、最近は一人で行動することが多くなった。

 自分の言動が周りと違うのは自覚していた。思春期の少年にあり

がちな、粗暴で、空想的で、社会に対する反抗心があるというのも

あった。が、自分は他の子と違う。友人たちとつるんで、悪さをや

ってもつまらなかった。彼らの欲求不満のはけ口は、平のストレス

の解消には至らなかった。

 中学校に上がってから、学校の勉強にもついていけないことが多

くなった。国語の成績は「2」まで下がり、誰が見ても劣等生の部

類まで落ちてしまった。家に帰ると母親が勉強しろとうるさい。わ

かっている。わかっているんだ。平は頭をゴツンゴツンと叩くと、

ベンチに再び横になった。

 友人が離れていったのものわかる。近年の平は明らかにおかしい。

ストレスから奇妙な妄想を口走るようになり、その妄想が一人走り

するようになって、

「平って猫を殺してるんやって」

「マジ?きっしょ」

「笑いながら殺してるらしいねん」

「ホンマ……?」

このような噂が平の耳に入るようにすらなってきた。最初は、噂に

抵抗し、それを言っていた人間を殴ったりしていたのだが、それが

裏目に出てしまった。平の暴力が噂の真実性を強調し、本当に動物

を虐待しかねない人間だと思われてしまった。

 抵抗も空しい、抵抗しないのも空しい、俺はどうやって生きてい

けばええんや。思春期の少年の視界は狭い。この先には自殺、とい

う言葉もちらついていた。


 平が一人ふつふつとフラストレーションをため込んでいるときに、

ある男子児童が公園に遊びに来た。近所のH少年だった。H少年は、

見た目には体が大きめの普通の子どもだったが、知的障害を抱えて

いた。平に気づくと、

「コウちゃんやん。一人で何してるん?」

屈託のない笑顔で、Hは話しかけてきた。

「おう。お前こそ一人で何しよるん?」

「墓作るんや。猫の墓やで」

「猫飼うとったん?」

Hは首をブンブンふると、にこやかに返答した。

「近所の猫やん。最近死んどったんやで。コウちゃん知らんの」

平はHの手元を見て、ギョッとした。確かに猫の死体が両の手に抱え

られている。

「知らんのう。俺、塾行ったり忙しいんや」


 しばらく黙って見ていたが、Hは無邪気な様子で砂場に穴を掘り

だした。

「ちょう待てや。ほんなもんそこに埋めたら、みんなビックリする

 やろ」

「ボク、埋められるところ知らんねん」

 急に強い調子で言ったのにビックリしたのか、Hは涙声で言った。

今にも泣きだしそうだ。

「ち、しゃーないのう。泣くな。ほら、男だったら泣くな。山いく

 で、タンク山。あそこなら墓作るところくらいあるやろ」

 平はH少年を誘って、公園に程近くあるタンク山に連れて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ