ж ж ж ж ж ж ж ж ж ж ж ж
「ほんならどうやって首を切ったか聞こうかい。アンテナ基地に遺
体を放置していたHくんの遺体の首をどうして切ったんや」
「……」
「お前の動機は人を殺してみたい言うことやったやんか。首を切る
必要があったんか」
「あらへん。そんなもんありません」
「首を切り、遺体に傷つける理由など普通はあれへんよな。しかし、
お前にはあったんや。そうやろ。学校の正門前に首を放置するな
んて常人の行動ちゃうわな」
「僕はイカレてるんか。頭がおかしいんやね」
「まあおかしいわな。お前が首を切った動機はこうや。お前はHくん
が息をしなくなってから、つまり殺人の目的を果たしてから、急
激に不安になった。自分が殺人者になってから、急に冷静になっ
たんやな。自分の犯した罪に気づいたお前は、Hくんをよみがえら
せることができるんちゃうかと考えた。彼の首を切ることによっ
てやな」
平は深呼吸してから答えた。必死に自分をとり繕おうとしている
ようだった。
「そんなことできひん」
「そうやな。できひん。そんなことは大人は誰もがわかっとる。し
かし、お前は殺人を犯した興奮から、当たり前のことに気づかな
かった。死んだ者が生き返ることはありえへん。しかし、お前は
生き返ると思ったんやな」
「そんなことはありえへん」
三須は落ち着いた調子で続けた。
「いや逆や。殺人者が通常の心理状態でいることはありえへん。殺
人者は、極度の緊張状態から解放されると、異常行動に出る。警
察に捕まるんちゃうか、蘇って襲ってくるんちゃうか、俺を恨ん
でるんちゃうか、俺にとりついたりせえへんか、なんていう風に
な。妄想にとりつかれるんや。水の味も変わってくるいうからな。
お前も極めて異常な状態におちいったんや。ほいでやな。お前は
Hくんの首を切ろう思たんや」
少年は、首をブンブン横に振ると小さく呟いた。
「違う」
「違ういうたかて、現実に首は切れとるんや。ほんでお前はな、金
ノコを使って首を切ろう思て、5月26日に現場に舞い戻ったん
や。ホンマに大胆なやつやで。26日は、ちょうどタンク山に大
捜索隊がおって、警察の人間も大量に投入されとったんや。誰に
も見つからない思たんか。思てたんやろな」
三須は一本調子で有無を言わさず、たんたんと続ける。
「26日言うたら、天気も良うてお陽さんもさんさんと照りつけと
った。死体の腐敗も進んどった。お前には日限がなかったんや。
このまま放置しとっては、遺体が腐る。腐ったら、お前の儀式が
でけへん。復活の儀式やで。Hくんを復活させたいお前は、首を切
ってある処理を施すことで息を吹き返すって信じとったんや」
平は微動だにしないで、三須を見つめている。大人のつくウソを
初めて見た子どものように。
「まったくホラービデオかゲームのやりすぎやで。そんなことで人
間は復活せえへん。運命のイタズラやな。タンク山の地理に精通
しとったお前は偶然、誰にも見つからんで、Hくんの遺体の遺棄現
場にやってきた。遺棄現場には、お前が殺したときと同じ状態で
Hくんの遺体がころがっとった。Hくんはどんな表情やった。苦し
かったやろうな。痛かったやろうな。5月の太陽に照りつけられ
て暑かったやろうな。でもな、Hくんは生き返らない。お前が殺し
たからや。お前はこれからHくんの分まで苦しまないとあかんのや
で」
平は力なく返事をした。
「はい」
「お前はアンテナ基地の南京錠を壊したときと同じ金ノコを使って
やな、Hくんの首を切ろうと思たんや。思うようにスパッと切れ
なかったやろ。骨が邪魔しとったからな」
「いえ。切れました。最初にノコギリを引いたときに、きれいに切
れて肉が見えたのでこりゃイケるでって。だいたい20分くらい
で切れました」
「お母さんの話では、お前は非力やっちゅうことだが、そんなに簡
単に切れたんか」
「切れました。簡単やった。ノコギリの歯が細かったせいか意外と
簡単に切れたんや」
「料理で肉を切ったこともないお前が、簡単に切れたちゅうんやな。
間違いないな」
「間違いあれへん」
一転、捨て鉢になった様子で、平は投げやりな返事をした。
「お前はHくんの頭を押さえながら、金ノコで首を切り落とした。そ
んなことをしたら血が出るな。死んだとは言え、血は流れるから
な」
「ホンマに?」
中学生らしい自然の驚きを隠せない様子で、平は反応した。
「ホンマや。警察が調べた結果、アンテナ基地には見えるような形
で血痕はなかったんや。これは、タンク山付近は何度も警察の機
動隊の、これは初動捜査などを担当する機関や、機動隊の捜索が
入っとるが、血痕らしきものは発見できなかったんや。当たり前
やな。発見しとったら、遺体も発見しとる。どうやって血液を流
さないで首を切ったんや」
「わからん。わかれへん」
「わかれへん、やあれへん。お前は、ビニールシート、そうやなビ
ニール袋みたいなもんを下に敷いて首を切ったんや。そうとしか
考えられへん。黒いビニール袋やな」
「そんなもんどこから持ってきたんや」
「こっちのセリフやがな。大方ウチの人の目を盗んで、台所辺りか
らパクッてきたんやろ。台所からビニール袋をパクッてきたお前
は、ビニール袋を遺体の下に敷いて首を切ったんや。間違いない
な」
「……」
「そんな顔をするな。お前がやったことは取り返しがつかないんや。
罪を償うまで、お前は人を殺したいう呪縛から逃れられないんや
で。もしかしたら、死ぬまでかもわからん。お前はそれだけのこ
とをしたんや」
「間違いありません」
平の返事を聞いて、一呼吸を置くと、三須は続けた。
「首を切った、血を一滴も逃さず、うまいことやったお前は、今度
は頭部の持ち帰りを考えて、ビニール袋にそれをいれて、遺体を
物陰に隠したんや。ここなら見つからへん思てな。問題は血や。
100mlくらいは出たやろ。それをどうしたんや。血までは持っ
てけへんで。何しろ液体やねんからな」
「飲んだ」
三須は少し狼狽した。
「飲んだて。お前……」
無表情で平は繰り返した。
「飲んだ。血の行きどころが分からんのやろ。飲んだんや」
「そうか。飲んだか。腐敗の進んだ血ぃや。不味かったやろ」
「そんなことあれへん。味は覚えてへん。こいつの血を飲んだら、
真人間になれるんちゃうかって飲んだんや」
「そんな理屈ありえへんやろ」
「刑事さんはさっきからいっとるやろ。僕はまともちゃうって。普
通ちゃうって。普通の人間ちゃうから、普通の人間になるために
飲んだんや」
三須は頭を抱えた。無表情で振りきれた発言をする彼は、本当に
悪魔の申し子なのだろうか。ぶすっとふてくされたように見える彼
の表情からは、この発言が本当かどうか読み取れなかった。三須の
顔面は青白く変わっていた。後ろに控えていた田中は、タイミング
を見計らったようにいった。
「三須、動揺するな。続けろ。供述をとれ」
「ほんなら、血を飲んだお前は、味も覚えてへんくらい興奮しとっ
たお前は、吐いたりもせず、その後、首をビニール袋に入れて、
持ち帰ろうとしたんやな。ビニール袋だけでは見つかるかもしれ
へんから、バッグに入れて金ノコと一緒に持ち帰ったんや」
「そうやで」
「それで首を持ちかえって儀式をしようと思たんやな。復活の儀式
を。首を持ったお前は、入角ノ池に向かって歩き出した。その際、
機動隊員にあって、『こんなところで、何しとんや。はよ帰れ』
と声をかけられた。間違いないな」
「誰にも会っとらんで。僕は誰にも見つからんかったんや」
三須はじろりと平を睨みつけた。田中のようにうまくはいかない。
脅しが効かないように少年はぶすっとした表情を崩さなかった。田
中はイライラしたように、大きなため息を吐いた。
「見られとったんや。機動隊員の目撃証言がある」
「ほんなら何でもっとはよう言わんねん」
「そら、捜査上の極秘情報やからな。切り札は最後までとっておく
もんや」
フンっと鼻息を吹いて、平はそっぽを向いた。ダメや。完全にナ
メられとる。三須はどうやって彼を手なずけようか考えていた。
「なあ、兄ちゃんと取引せんか。お前が素直にしゃべるんなら、こ
っちも素直に聞いてやるで。どや?いい提案やろ?」
田中はあかんと呟き、大きく頭を横に振った。心底あきれ顔だっ
た。
「ほんなら、オトンとオカンに会わせてくれや。そんならしゃべる
で」
「あかんわ。そんなもんあかん。わしが代わる。三須、交代や」
右手で三須を押しのけると、田中は事務机の前に出てきた。三須
が軽く抗議しようとすると、田中は鋭い目を向けて、黙っとけと一
喝した。
「お前は重罪人や。認められるわけあれへんで。人を殺しといて何
や。オトンに会いたいやて。会わせてやるで。裁判でな」
あいさつがわりにまくし立てると、田中の独壇場が始まった。平
は明らかに動揺し、顔を強ばらせた。
「おっちゃん嫌いや」
「嫌いやあれへん。それに目上のもんと話すときは敬語を使え」
「……はい」
「そや」
満足そうに作り笑顔を見せると、田中は矢継ぎ早に続けた。
「お前は入角ノ池に行ったときに、途中で警察のおっちゃんにあった
な。よーく思い出せ。これは重要なことや」
平はこくっとうなずいた。
「そうや。警察に見とがめられたお前は、山を降りることをせずに、
大胆にも入角ノ池に向かったんや。そこでお前はHくんの首を、木
のうろの中に入れて保存しておけば復活するちゅうて、アホな考
えを抱いたんや。そんで隣の向畑ノ池に金ノコを捨てたんやな?
どうや?」
「はい。捨てました」
「ほんで、池から山を降りるときに担任のS先生にもあっとったんや。
S先生の証言もあるで」
「ホンマか?ホンマですか?」
少年は、血相をかえて取り乱した。田中はニヤリと薄笑いを浮か
べた。
「ほんなら、何で会ったときに言ってくれなかったんや」
5月26日、担任の先生が平の様子を見に、家庭まで訪問した。
これは、少年が被害児童の遺体を切断した日と同じだった。不登校
を続ける平の様子を心配してのことだった。寝起きの平は、パジャ
マ姿で先生に会う形となった。
「そんなもんは知らんわ。お前がよほど急ぐ様子だったので、声は
かけられへんかった、言うとるわ」
「デタラメや。S先生とは会うてへん」
「うっかり敬語を忘れておるのう」
田中はニヤニヤ笑いを止めない。動揺は犯人の証拠だと思ってい
るのだろう。
「まあええわい。その後、お前は自宅に帰り、眠れない一日を過ご
した。そやろ。復活するHくんのことを思うと、夜も寝られんかっ
たやろうな。ワクワクドキドキして興奮冷めやらぬ中、お前は2
7日の昼間、Hくんの首のところに飛ぶように駆けて行ったんや」
少年はピクリとも動かなかった。三須の目には、彼の無表情が肯
定なのか、否定なのかまったくわからなかった。田中はかまわず続
ける。
「Hくんのところに飛んできたお前はビックリした。何や復活しとら
んやないか。人間ってのは一度死んだら、生き返らんのやな。そ
う思て興醒めしたお前は、首を自宅まで持ち帰って、一番派手な
方法で自分の人殺しを発表したろ思たんや。警察への挑戦状なん
て書いてるけど、ホンマは見つかりたかったんや。そやろ?」
「はい」
「ほんで家人の留守を見計らって、風呂場で土やら木の葉で汚れた
Hくんの首を洗たんや。血やらはなかなか落ちひんかったやろ?お
前の苦労はそこで終わらんかった。首を洗うて、ビニールに入れ、
どうしようかと。お前のウチには天井裏があるか?」
「はい」
「ほんならそこや。そこに首を入れて、時を待っとったんや。学校
の正門前にHくんの首を置くタイミングをな。その間に例の挑戦状
を書いた。挑戦状はマンガか何かの引用やな。瑪羅門の家族やっ
たかいな。あれからの丸パクリやったな。それから、家人が寝静
まるのを待って、お前は二階の自室の窓から鉄棚を伝って下へ降
りたんや。鉄棚があったわいな。ほれ」
「ありません」
「弟と小さいころに遊んどったアレや。ほれ。弟の証言にあったで。
小さいころに二階から伝って庭に降りたいうて」
「あー。それならありました」
「そうや。それや。それを伝って地面に降りて、深夜の1時ごろか
いな、首を自転車のかごに載せて、学校の前まで突っ走ったんや。
爽快やったろうな。お前は一つの仕事を成し遂げ、チャリをすっ
飛ばしたんや。正門の前に首を置いて、逃げ帰ってきたんや。興
奮しとったんやろ」
田中はためすように少年の瞳をのぞきこんだ。相変わらず何も写
さない無感動な目は、田中のおどけた表情にも微動だにしなかった。
「警察をバカにしとったお前が警察にバカにされる気持ちはどんな
もんや。散々バカにしくさったんや。逃げたいやろ。逃げられへ
んで。お前が罪を認めるまでな」
地獄は続く。少年はいつしか貝のように固く口を閉じていた。




